Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~   作:空雲時雨

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運命の夜(上)

 

 

 

 

 

 冬だというのに、妙に熱のこもった夜だった。

 

 

 

 まるで、何か強烈な力を発する渦に無理やり蓋をしているかのような。

 

 行き場を求めたエネルギーが僅かな隙間からあふれ、まさに破裂しようとしているかのような。

 

 街全体が、そんな狂奔する寸前を思わせる膨大な熱を孕んでいた。

 

 

 

 

 

 その熱に誘われて、

 

 何かが起こりそうな予感と高揚に脚を引かれて————

 

 

 

 

 

————水原(みずはら)結理(ゆいり)は夜の街へと繰り出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【2017年 1月21日 土曜日】

【芥ヶ原市 東部 住宅街】

【PM 11:01】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水原結理という少女は、周りから浮いた存在である。

 

 

 

 その原因は、ある程度は浮世離れして整った容貌のせいであったかもしれない。

 

 艶やかな長い黒髪はどこか神秘的で、伏し目がちな翡翠色の瞳には美しさ以上に空虚さとそれに付随する妖しさが混在している。スタイルもすらりと整っており、総合的に見て、確かに周囲の人間に近寄りがたいと思わせるだけの完成度を誇っていた。

 

 しかし、それ以上に、彼女には周りから浮く要素があった。

 

 曰く、会話のテンポが読みづらい。表情の変化がわかりずらい。こっちの話を聞いているのかわからない。変なタイミングで変な反応をする。すぐにどこかへフラフラといなくなる。授業をいきなりサボタージュする。補導されて先生が呼び出された。etc……。

 

 要するに、周りから色々とズレたところがある訳だ。

 

 

 

 そんな彼女にはひとつの悪癖があった。

 

 それは、例えば、何か気が向いた時であったり、自己嫌悪を感じた時であったり、興味の沸きそうなことを見つけた時であったり。

 そうした時に、夜遅く、あてもなく、ふらりと外へ繰り出すのだ。

 

 

 

 この夜も、なんとなく街を覆う熱と予感に惹かれ、以前のように警察に見つかって補導されないことだけは気を付けながら、気の赴くままに夜の街を彷徨っていた。

 

 

 

 

 

 そんな彼女が異変を捉えたきっかけは、一筋の流星だ。

 

 

 

 

 

 町はずれの森の近くを歩いていたときに、頭上をいきなり何かが凄まじいスピードで光と共に駆けていった。

 一瞬、隕石か何かではないかと思った。しかし、彼女の感覚は同時にそれを否定していた。

 

 

 

 あれは、隕石なんかより、もっとおかしい何かだ。

 

 きっと、今、この街が孕んでいる膨大な熱に関係するものだ。

 

 

 

 そう直感したとき、既に彼女は森の中に足を踏み入れていた。

 熱に浮かされるまま、森の奥へ奥へと。服が汚れることもいとわず、さっき見た流星の行った先へと進み、やがて、周囲よりも少しだけ土の盛り上がった所に生えている木の下へとたどり着く。

 そして、その光景を目にした。

 

 

 

 それは、闘いだった。

 

 

 

 片や、日本風の戦装束に身を包み、刀を振るう剣士。

 

 片や、完成された美を纏った、美しい——緑のヒト。

 

 

 

 その二人が、戦っていた。

 動きは到底、目で追えるようなものではない。お互いの位置も斬り結ぶ場所も、瞬く間に幾度となく変わっている。

 ただ、その場の空気から、彼らが心を歓喜に震わせながら鎬を削っていることだけは伝わってきた。

 

 コスプレ、撮影、ドッキリ。

 この光景を見て咄嗟に浮かんだ言葉はすぐさま駆逐され、今、目の前にあるのが本物の戦いであることを理解する。

 結理はその凄絶さに魅入られ、静かに、されど食い入るようにこの闘争を見つめていた。

 

 

 

 やがて、その戦いにも小休止が訪れる。

 

 

 

 互いに距離を取り、声は聞こえないが何か会話をしているようだった。

 

 数度のやり取りの後、緑のヒトの方がおもむろに地面に手を付ける。

 

 

 

 次の瞬間、剣士を黄金の嵐が襲った。

 

 

 

 

 

「————!!」

 

 

 

 

 

 結理は思わず声にならない悲鳴を漏らした。その嵐は彼女の目から見ても、何人たりとも耐えられるようなものではないと思えたからだ。

 

 しかし、予想に反して剣士はその暴虐を凌いでいた。

 

 何が行われているのかはわからない。ただ、黄金の嵐は剣士の存在ひとつで、確かにその勢いを途中で二つに分岐させられていた。

 けれど、それもそう長くは続かなかった。一瞬、何かに掴まれたかのように剣士の動きが止まると、その姿が轟煙に包まれた。

 

 徐々に煙が晴れていく様子を、彼女は思わず木陰から身を乗り出して見守る。

 

 

 

 そうして、視界が晴れたそこには、変わらず剣士の姿があった。

 

 

 

 結理はホッとして息を吐き出した。

 どうやら無事だったようだ。そう思って顔を上げたその時、剣士が急に弾かれたように飛び出した。

 

 その様子からは、ただならぬ気迫が感じられる。

 どうやら、緑のヒトも不意を突かれたようだ。遠くからでも驚いた気配が伝わった。

 

 そして、振り上げられた刀が相手を斬り裂こうとした、まさにその瞬間————

 

 

 

 

 

————剣士が急に胸を押さえて墜落した。

 

 

 

 

 

 何かあったのか。

 

 そう思ってさらに身を乗り出す。その結理の足が、一枚の落ち葉によって滑った。

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

 

 ステンッ、と。いっそお手本のように転び、お尻をしたたかに地面で強打する。

 

 その痛みに顔をしかめ、同時に、自分に突き刺さる二対の視線に気が付いた。

 

 

 

 

 

「ぁ————————————————」

 

 

 

「おや?」

「これは————————」

 

 

 

 

 

 さっきまで、遠い世界のように感じていて、判然としなかった声が聞こえた。

 

 

 この日、水原結理の運命の時計の針は、動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーとランサー、そしてアサシン。

 

 今宵、この場に集った三勢力がそのイレギュラーに気が付いたのは全く同時だった。

 

 

 

 

 

「おや?」

「これは————————」

 

 

 

 

 

 セイバーとランサーは純粋な驚きを漏らし、

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 ランサーのマスターは、魔術師として冷静にその事実を認識し、

 

 

 

 

 

『なっ————!!』

 

 

 

 

 

 アサシンのマスターは驚愕に身を包み、焦りを覚えた。

 

 

 

 

 三騎と二人。

 

 この場に集う勢力に属する者の内、即座に判断を下したのは魔術師たちだった。

 

 

 

 そして、己のサーヴァントに命令を下したタイミングは奇しくも重なった。

 

 

 

 

 

『アサシン! 今すぐセイバーとランサーの所へ向かってくれ!!』

「ランサー」

 

 

 

 

 

 命令した内容は————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『知り合いが巻き込まれた!! 彼女を保護するんだ!』

「目撃者を殺してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————正反対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただき、ありがとうございます。

 という訳で、プロローグで描いたのは、本作のヒロイン・水原結理さんでした。かなりあからさまに伏線を敷いていたので、バレバレだったと思います。
 一言で言うと、起源に影響されちゃってる系のヤバい人です。頑張って型月的ヤバいキャラとして書いていきたいと思います。

 評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。



【プロフィール】

名前:水原結理
性別:女性
年齢:17歳

身長:159㎝
体重:48kg
誕生日:4月1日
血液型:O型
イメージカラー:翡翠
特技:ミステリーの犯人当て
好きなもの:料理
嫌いなもの:人

魔術系統:????
魔術回路・質:C-
魔術回路・量:C



 本作のヒロイン。
 巻き込まれ逸般人枠。
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