Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~ 作:空雲時雨
「やあッ!」
「ふッ!」
少し離れた物置小屋でセイバーたちが主従の契りを交わしていた頃、森の中ではランサーとアサシンの激闘が続いていた。
もう何度目かもわからない交錯。
飾り気のない、質素で実用的なアサシンの剣とランサーの肢体がぶつかり、火花を散らす。
当然の事実として、毎回弾き飛ばされるのはアサシンの方だ。霊格も、神秘も、存在も、純然たる性能も、そのすべてにおいてランサーに遥かに劣っている。
そんな彼女が今なお五体満足なまま戦闘を続行しているのは、その技量によるところが大きい。
空中へと舞ったアサシンへ、黄金の剣刃の嵐が殺到する。
身動きの取れないアサシンに回避の術はなく、直撃によって命を散らすかに思えたその時、物理法則を無視して、まるで糸に引かれるかのようにしてその身体が上方へズレた。
否、糸に引かれるかのように、ではなく実際に引かれているのだ。アサシンは頭上の枝にワイヤーを結わえ付けた暗剣を投擲し、それを急速に手繰ることでこのありえない軌道を実現している。
しかし、それはすでに何度も使った手。ランサーも織り込み済みだ。
「あまり、森の木々を傷つけないで欲しいんだけどな」
たおやかな言葉とは裏腹に、即座に放たれた鋭い光弾がワイヤーを断ち切り、追撃の鎖が連続して幾本も投げつけられる。
アサシンはそのうちの数本を身体をひねって躱し、剣で打ち据えて移動方向を変え、鎖の上を短く蹴って再び空中へ。一帯に張り巡らせたワイヤーを足場に跳躍すると、木々の影に入ったところで闇に紛れる。
無論、その後も足を止めることはない。戦っていて確信したが、この敵はマスターの予想通り非常に鋭敏な感知能力を有している。ひとたび足を止めれば、即ち命とり。
そう肝に銘じつつ、気休め程度とはいえ目くらましの暗剣を数本投じ、再び攻勢をかけようと脚に力を込めたその時、足底に感じる感覚に微かな違和感を覚えた。
背筋が撫で上げられたような、ゾッとする感覚が足から一直線に脳に届き、アサシンは咄嗟の直感で身体を捻る。
次の瞬間、地面から猛烈な勢いで鎖が生えた。僅かにかすめた髑髏の仮面がその勢いに巻き込まれて弾き飛ばされ、数本の頭髪と共に宙を舞う。
「くッ!!」
鎖に捕まる前に前に距離を。
そう思って後ろへ跳んだアサシンはその背筋に再び悪寒を覚え、反射的に後背へ向けて剣を振るった。
直後、硬質なもの同士がぶつかり合う感触と耳障りな音がアサシンの五感に伝わり、冷汗が流れる。目の端に映るのは、危うく自分の心臓に突き刺さるところだったランサーの輝く腕。それを認識すると同時に地面に足が付くが、息をつく間もない。
すぐさま体勢を低くして大地からの砲撃を躱すと、返す刀で立ち上がりのバネを活かした足刀。それを腕で受けられることを見越してフワリ通し当てると、ランサーの腕に引っ掛けた足関節を支点に弧を描いて宙に舞い、空中で逆さまになったまま剣を一閃、打ち合いの衝撃で距離を取る。
「はぁ——はッ——ッ————!」
「悪いね。追いかけっこも、かくれんぼも。大して好きではないけど苦手じゃないんだ。ただ、そろそろ飽きてきたかな」
見れば、周囲に張り巡らせたワイヤーは全て切られ、黄金の鎖がリングのように一帯を囲んでいる。逃げ場はなく、剣は摩耗し、暗剣も手元に残るのは僅か。
絶体絶命、聖杯によってインストールされた、そんなこの国の言葉が脳裏をよぎるが、そんな心に浮かんだ悲観的な言葉を封じつつ、アサシンは冷静に分析する。
この状況を離脱するには、もはや令呪による転移に縋るほかないだろう。
規格外と言える強さを誇るランサーを前にして、マスターに助けを乞う念話を行う隙は残念ながらない。しかし、己のマスターはこの局面で令呪の使用の必要性がわからない愚鈍でも、それをためらう小心者でもない。
ならば、時を稼げば活路は開ける。諦めるにはまだ早い。
そう、己を 咤し、アサシンはただ剣を構えた。
ランサーと視線が絡み、否応なく緊張が高まっていく。数瞬の後、その緊張を緩めたのは意外にもランサーの方だった。
「キミのその瞳、どこかほかとは違うね」
「よせ。我らは本来、貌を持たぬ者。こうして晒していること自体、愉快なことではない」
「気を悪くさせたのならすまない。ただ、その瞳が映すものは僕にとって酷く良くないものな気がする」
だから、————まずはその瞳から潰そうか。
会話の間、僅かに感情を浮かべたかに見えたランサーの瞳は、続く言葉を発する頃には再び無機質なものに戻っていた。
宣言通りに瞳を目掛けて飛んできた攻撃を躱す。
その動作を終えた時には、既に四肢に鎖が巻き付いていた。振り解く間もなくそれがピンと張られ、身体が空中に固定される。
「お疲れ様。なかなかにいい切れ味だったよ、キミは。さぁ、いい声を聞かせておくれ」
ランサーの傍らの大地から、無数の鎖が伸びる。
それらは天へ天へと螺旋の軌道を描きながら伸びてゆき、絡まり合って黄金の巨槍を形成した。
やがて、巨槍は自然とその先端を大地へと向け、
アサシンを目掛けて降り落ちる————!!
「————なぁ」
「人との勝負の途中で、あまりよそ見をするなよ」
瞬間、降り落ちる巨槍に横合いから鋭い一閃がぶつけられた。
その外力により、巨槍は制御を失ってアサシンに掠ることもなくその脇へと墜落し、巨大な質量が爆ぜたかのような轟音と、濛々とした土煙を生じた。
セイバーは着地すると、そんなことには目もくれずにランサー目掛けて疾走し、二の太刀を叩きこむ。
「セイバー!」
「決着をつけよう、ランサー!」
刀と手刀で鍔迫り合いを演じる二人。
しかし、この場にいるサーヴァントは剣士と槍兵の二騎だけではないのだ。
暗殺者の刃は、————音もなく振るわれる。
煙の中から伸びた剣先がしたたかにランサーの胸元、霊核に当たる心臓がある位置を撃ち抜き、吹き飛ばした。
手ごたえは硬く、ダメージは与えども致命傷には程遠い。だが、この一撃は一連の戦闘でランサーに初めてまともに入った攻撃だった。
「私がいるのを忘れてもらっては困ります」
そう言い放ちつつ、アサシンはセイバーとも距離を測る。
先の局面では助けられたが、セイバーが味方とは限らない。
サーヴァントである以上、究極的には全員が敵であるし、彼が把握しているかは別として、マスターを殺したという、剣を向けられる確かな理由もある。
次善でも三つ巴、最悪なのはセイバーとランサーに組まれること。できればセイバーと共闘してランサーに立ち向かいたいところだが、どうしたものか。
そんなアサシンの心中は、セイバーの言葉で最高の形とは言い難いが、報われた。
「そこのサーヴァント。何者かは知らないが、さっきは戦いに水を差して悪かった。ただ、ランサーと先に戦っていたのはオレでね。キミの戦いの邪魔をするつもりはないが、オレはオレで勝手にやらせてもらう」
その言葉からは共闘は望めない。
しかし、少なくとも、セイバーの横やりを受ける確率は限りなく低くなったといっていいだろう。
「ならば、私も勝手にさせてもらいます」
ちょうどアサシンがそう答えた時、吹き飛ばされたランサーも再び姿を現した。
「マスターへの連絡も終わったし、さぁ、続きを始めようか」
戦いは続く————————
お読みいただき、ありがとうございます。
チャプタータイトルはSNのバーサーカー登場の章からいただきました。エルキドゥですもの、霊基的にはこの聖杯戦争でも一番強いです。ギルやらアヴェンジャーやら集ってるFakeって本当にヤバいと思います。
先日、最新刊も読んだのですが、全員揃って強いのなんの。一番ヤバさを感じたのは、某魔術師とその教え子たちでしたが……。
評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。
Fakeの感想もぜひ。身近に語れる人がいないので……。