Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~   作:空雲時雨

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開戦前
−6日目/黒幕の館にて


――『聖杯戦争』。

 

 

 

 それは、あらゆる願いを叶える願望器『聖杯』を巡って繰り広げられる一大儀式だ。

 

 七人と七騎。

 総勢七組の魔術師(マスター)英霊(サーヴァント)が最後の一組になるまで相争う。言い方を選ばずに言えば、殺し合う。

 

 それが、聖杯戦争である。

 

 

 

 元々は、極東の地方都市、冬木を舞台として行われていた儀式で、かつては六十年に一度、計三回にわたって執り行われた。

 

 しかし、それは既にかつての話。

 

 第三次聖杯戦争。

 ちょうど、第二次世界大戦開戦前夜に行われた三回目の儀式の折、予想だにしない事態が起きた。なんと、参加者のひとりであった外様のマスターがナチス・ドイツ軍と組んで物理的に儀式の核たる大聖杯を略奪したのだ。

 しかもその後、ルール違反をやってのけた魔術師は協力関係にあったナチス軍すら裏切り、大聖杯を持ち逃げしてしまった。そのせいで長らく聖杯は行方不明となり、聖杯戦争の歴史は一度幕を閉じた。

 

 事態が動いたのは、その六十年後。

 今度は件のナチス軍と組んでいた魔術師、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの手によってルーマニア、トゥリファスの地で聖杯戦争が開催された。

 

 もっとも、この第四次聖杯戦争ないしトゥリファスの聖杯戦争と呼ばれる儀式でも、その本懐が達成されることはなかったらしい。

 その理由は、英霊の暴走とも、魔術師殺しなる悪名高い傭兵の仕業とも囁かれる。しかし、その後に起きた大火災による証拠の焼失と魔術協会・聖堂教会の両勢力による隠蔽工作によって、当時の資料の多くが闇に葬られてしまったため、実際の事情は杳として知れない。

 確実なのは、儀式が失敗したことと、街全体に及ぶ悲劇が起きたこと、そして大聖杯が再び行方不明になったことの三つだけである。

 

 

 

 さて、聖杯戦争とはそんな曰くつきの儀式であるわけだが。

 

 

 

 聖杯、と名の付くものが現れれば無視できないのが魔術師というものである。

 

 

 

 かくして、次なる聖杯戦争は開催される。

 

 

 

 

 

 場所は奇しくも、聖杯戦争の源流が残る地、日本。

 

 舞台となる街の名前は————芥ヶ原市。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【2017年 1月15日 日曜日】

【芥ヶ原市 緑川町 空木邸】

【PM 0:02】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで? 私にその聖杯戦争に参加しろと言うのか?』

「応ともさ! どうだい、興味あるだろう?」

 

 

 

 

 

 次なる聖杯戦争の地である日本の地方の中興都市、芥ケ原市にある昔ながらの高級住宅街、緑川町。その北端、ひときわ豪奢な洋館の一室でその会話は行われていた。

 書斎と思しき部屋では、大きな窓を背にして革張りの椅子に腰かけ、机上の古式ゆかしい、否、骨董品と言われても反論できないような電話の本体と、その受話器とを繋ぐ配線を弄びながら楽し気に電話をかける青年の姿があった。

 

 電話相手の訝し気な反応に応えるその口調からは、母国語ではない英語をしゃべっていても滲みだすような軽薄さが宿っている。

 

 

 

 青年——芥ヶ原に生きる魔術師の家系の現当主である魔術師、空木(うつぎ)浩平(こうへい)はなおも続ける。

 

 

 

 

 

「聖杯戦争! 七騎の英霊同士の殺し合い! 魔術師たちの腕比べ! ありとあらゆる願いが叶うという願望器! どれも魔術師からすれば垂涎ものだろう? ま~、ボクとしてはその中で起こる14人の葛藤や血で血を洗うドラマをこそ押したいんだけどねぇ。その辺、つまらんことに君らは興味ないだろう。ともあれ、だ。どうだい? 一口のらないか?」

『断る』

「Wow……ほわぁい?」

 

 

 

 

 

 熱弁に対する返答は冷めたものだった。

 

 いや、それ以前から電話の相手、フリーランスの魔術師、ゲナウ・バルザンクの声は冷めていた。

 

 ゲナウからすれば何をバカな話を、といったところだ。確かに、日本の芥ヶ原市に聖杯に聖杯顕現の兆しあり、という話は協会の筋から聞こえてきていた。どうやらそれが本当で、ふざけたことにメールなどという近代技術で聖杯戦争の開幕が宣言されたという話も。

 しかし、冬木の大聖杯が消えて以降、ほんの数回だけ亜種聖杯戦争とでも言うべき儀式が開催されようとしたが、そのどれもが英霊未満のものしか呼べない出来損ないだったのは有名な話だ。今回がそうでないとなぜ言えるのか。

 また、聖杯戦争への参加は時計塔が厳密に管理をしており、今回の参加枠もすでに埋まっていると聞く。そこに割り込むような真似をすれば、協会から睨まれることとなり、グレーな行いが日常茶飯事なフリーランスとしては好ましくない。あまりにデメリットが勝ちすぎている。

 

 そのうえ、だ。

 

 仮に聖杯戦争が出来損ないではないとして、こうして誘いをかけてきた知己は、今回の舞台となる芥ケ原に住む魔術師の家系である。今度の聖杯戦争の根幹に近い場所にいる可能性が限りなく高いし、マスターのひとりと見てまず間違いはない。

 

 そんな相手から、「参加しないか?」などと持ちかけられても悪い冗談にしか思えなかった。

 

 

 そのことを電話越しに伝えると、空木はこらえきれずに大笑いした。

 

 

 

 

 

「あっはっは! そんなことを気にしていたのか? ボクが黒幕? ボクがマスター? 当たり前だろう!! その通りだよ!!」

『切るぞ?』

「待て待て待て。早まるなよぉ」

『目的はなんだ。さっきも言った通り、悪い冗談にしか思えんぞ?』

「目的ぃ? そんなの英雄たちの面白おかしい戦いが見たいからに決まってるじゃないか。そして、君ならそのマッチアップやら戦況やら引っ掻き回してくれるだろう? そうなれば、世界中にこれより楽しいことはないと思わないかい?」

『――――』

 

 

 

 

 

 ゲナウはしばし絶句した。

 

 よもやそんな理由とは思わなかった。そう思うのと同時に、そういえばコイツは悪い冗談に血肉がついて脊髄が生えたような存在だったということを思い出す。

 

 結局のところ、こんな与太話に付き合う気にはなれなかったが。

 

 

 そんな心の声を読んだかのような言葉が聞こえたのは丁度そのときだ。

 

 

 

 

 

「ああ、そうそう。一番初めの疑問に答えていなかったね。聖杯戦争は間違いなく本物だよ?」

 

 

 

 

 

 その一言で、枯れかけていた興味の種が急速に芽吹いた。

 

 

 

 

 

『なぜそう断言できる?』

「まずひとつ。聖杯がこの地に運び込まれたのは二十年前だ」

『二十年前……まさか冬木の大聖杯か』

 

 

 

 

 

 先ほどは今回も出来損ないだろうと切り捨てたが、冬木の大聖杯というアイテム自体には前言を覆すだけの力があった。

 

 冬木の大聖杯を作成したのが、アインツベルンであるというのは有名な話だ。

 

 西暦に等しい歴史を持ち、かつて第三魔法に至ったと言われる錬金術の大家。それがアインツベルンだ。かの家が鋳造した聖杯というのならば、本物である可能性は限りなく高いと言える。

 儀式のシステム構築に協力したというマキリ、遠坂についても、それぞれ長い歴史を持つ魔術師の家系である。特に、遠坂については、近年、まだ年若い当主が有名なエルメロイ教室を出て時計塔で注目を集めており、今なお隆盛を誇っている。

 

 これらのことから考えて、冬木の大聖杯を用いた聖杯戦争ならば万能の願望器という触れ込みにも違和感がなく、先に挙げたデメリットを圧してでも参加する価値があるだろう。

 

 

 そう、頭の中で算盤をはじくゲナウに、空木はさらに言葉を投げかける。

 

 

 

 

 

「二つ目。芥ケ原に聖杯を設置したのはボクの父、空木零弥だ」

『ほう……』

 

 

 

 

 

 こちらもまた、力のあるカードだった。

 

 空木零弥、こちらも魔術の世界では有名な存在だ。

 なにせ、封印指定を受けたほどの魔術師である。彼が昨年急病でこの世を去った時は、時計塔でも悔やむ声が多数挙がったものだ。無論、死を悼むのではなく、標本にできなかったことを嘆いていた訳であるが。

 

 閑話休題。

 

 その封印指定の魔術師が強奪し設置したというのだ。能力、審美眼の双方に疑う余地はなく、聖杯とそのシステムが正真正銘、本物だということが保証されたと言い換えても良い。

 

 

 では、聖杯戦争に参加するか。

 

 

 

 検討して――――やはり、答えは否であった。

 

 なぜなら……

 

 

 

 

 

 『魅力的な話だったが、生憎と時期が悪いな。公表の時期から考えて開戦までもう時間がないだろう。今からでは聖遺物を探す時間がない』

 

 

 

 

 

 聖遺物。

 

 それは、英霊召喚において最も重要と言っても過言ではないアイテムだ。

 

 一言で言ってしまえば、召喚の触媒。しかし、その縁を手繰って英霊を召喚を行う以上、聖遺物はどの英霊を引き当てるかの鍵となる。

 

 聖杯戦争に参加するならば、強い英霊を求めるのが当然だ。単純に考えれば、神代かそれに近い神秘の色濃いものが必要となるだろう。

 さらに、触媒がどれだけの英霊と縁があるかも大きなファクターだ。仮に、円卓の欠片やアルゴー号の破片、といったものが手に入ったとして、これらでは呼び出す可能性のある英霊が絞れず、戦略の立てようがなくなってしまう。 無論、今例に挙げたような触媒なら誰を引こうと当たりといって良いが、そんなものが簡単に手に入るわけもない。

 

 つまり、聖遺物の条件としては、古いものかつ、強力な単一の英霊と縁のあるものが求められる訳だが、そんな希少なものはおいそれと手に入らない。

 

 もっと程度の低い、無いよりはまし、というレベルの触媒を辛うじて手に入れるのがやっとだろう。

 

 一応、聖遺物なしでも召喚はできるらしいが、これは博打が過ぎる。

 

 

 

 

 

「そういう話なら問題ない。ボクから聖遺物を提供しようじゃないか。千代紙付きの一品があるよ?」

『……正気か? お前もマスターだというなら、争う立場になるのだぞ?』

「キミなら恩義に感じて攻撃を控えるとか、そういうつまらないことはしないだろう?」

『フン。面白い。今浮かべているであろうにやけ面を存分に歪ませて、殺してくれと懇願させてくれる』

「いいね。交渉成立だ。それじゃあ、屋敷で君の到着を待っているよ」

 

 

 

 

 

 空木はそう言うと、受話器を戻し通話を切った。

 

 

 

 

 

「さて、これで五席は埋まったと見ていいかな。これ以上、舞台に手を入れてしまうのは面白くない。さあ、いったいどうなるものか」

 

 

 

 

 

 そう言ってから、くるりと椅子を回転させて窓辺に立ち、芥ヶ原の街並みを一望する。

 

 

 

 

 

「次に動きがあるとすれば、彼か。大概つまらない男だけど、少しはこの壮大なドラマを盛り上げてほしいもんだね」

 

 

 

 

 

 そう言って視線をやるのは、同じ街の北端部。我が家と東西の反対にある屋敷。

 

 芥ヶ原に空木より遥か昔から息づく魔術師の家の方角だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Chapter 黒幕の館にて Fin.】




 以上、第一話でした。お読みいただき、ありがとうございます。

 主人公の登場は次回からです。

 評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。



【プロフィール】

名前:空木浩平
性別:男性
年齢:18歳

身長:184㎝
体重:74kg
誕生日:1月3日
血液型:B型
イメージカラー:水色
特技:ひらめき
好きなもの:面白いこと
嫌いなもの:退屈なこと

魔術系統:まともな魔術を習得していない
魔術回路・質:A
魔術回路・量:B



 今回の聖杯戦争の黒幕。
 刹那的な享楽主義者で、子供のような人物。
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