Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~ 作:空雲時雨
かつて、三度にわたって行われた冬木の聖杯戦争。
冬木では、アインツベルンが聖杯を、マキリが令呪を、そして、冬木の地に根付いていた遠坂が儀式に必要な霊地を提供した。
そして、二十年前のトゥリファスの聖杯戦争。
ここでは、聖杯はアインツベルンの作成したものを冬木から強奪、それを成した魔術師、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが一族の所有する霊地たるトゥリファスで執り行った。
何が言いたいのかと言うと、だ。
聖杯戦争とそれが行われる霊地の所有者は切っても切れない関係にある、ということだ。
芥ヶ原において、聖杯を持ち込んだのは空木の一族だが、霊地の
したがって、彼――――
◆◆◆
【2017年 1月15日 日曜日】
【芥ヶ原市 緑川町 黒川邸】
【PM 11:34】
『先輩、新たにアーチャーとキャスターのクラスのサーヴァントが召喚されたことが判明しました。残る席はあと四席です。もう、あまり時間がないかもしれません』
「了解した。俺も決心がついたよ。これからサーヴァントの召喚の準備に入る」
『はい。それでは、お気をつけて』
スマートフォンを耳から離し、通話を切断する。その際、思わず和未の口からため息が漏れた。
通話の内容は、サーヴァントの召喚状況を知らせるものだった。重要な情報だが、感想としては吉報とは言い難い。
「そうか、キャスターの席が埋まったか……」
聖杯戦争によって呼び出される英霊は、過去の偉人そのものではない。
彼らはサーヴァントという呼び名の通り、使い魔の一種に当たる存在だ。
しかし、魔術世界ではその正式名称を
その存在は強大で、英霊の本体とでもいうべきものは人では制御するどころか呼び出すことすら不可能。
では、聖杯戦争ではどのようにして英霊を召喚するのか。
その絡繰りが、先ほど話題に挙がった「クラス」である。
剣士のサーヴァント————セイバー。
弓兵のサーヴァント————アーチャー。
槍兵のサーヴァント————ランサー。
騎兵のサーヴァント————ライダー。
魔術師のサーヴァント————キャスター。
暗殺者のサーヴァント————アサシン。
狂戦士のサーヴァント————バーサーカー。
この七つのクラスに該当する英霊の一側面を切り出し、魔力によってつくられた仮初めの存在として現界させたもの、つまり過去の英雄のダウングレード版がサーヴァントなのである。
そして、サーヴァントは一度の聖杯戦争で各クラス一騎の総勢七騎。
さらに、各クラスにはそれぞれ得意分野と苦手分野が存在し、魔術師は自分の力量と戦略を鑑みたうえでどのクラスを選ぶのかを選択しなければならない。
ここで、明確な見通しを持って自分に合うクラスを選択することができれば、陣営としての安定性が格段に増す一方で、見誤れば歯車に歪みをかかえたまま戦局へと突入する羽目になる。
いわば、聖杯戦争全体を見た時の運命の分水嶺と言えるだろう。
和未はつらつらと聖杯戦争に臨むにあたって収集したそんな情報と考察を思い出しつつ、家の地下室にある魔術工房へと向かう。
扉を開けた向こう側の工房は、岩肌や土壁がむき出しになっており、明かりは天井に簡素なランプが区画ごとに設置されているだけのカタコンペのような様相だ。
スペースはかなり広めだが、形状としては入口に対して左右に長く伸びている。入口正面の部屋の中央部には石造りの大きな作業台。右手側には棚が所狭しと並び、怪しげな瓶やホルマリン漬けの動物が保管されている。
今日向かったのは左側だった。こちら側は中央部から階段三段ほど高さを下げたところに実験を行うスペースが設けられており、今は石造りの床の上にサーヴァントの召喚陣が描かれている。
和未はその陣の正面に陣取ると、おもむろに階段に腰かけた。
そして、懐から煙草とマッチを取り出し、何回か失敗して苦労しながら火を点すと、ゆっくりと煙を吐き出しながら、さらに収集した知識を振り返ってゆく。
サーヴァントには、ゲームのキャラクターのような面が存在する。
まず、先ほども触れたクラス。
ゲームで言えば職業や兵種に当たるものだ。何を武器とし、どのようなレンジでの戦闘が得意なのか。
次に、ステータス。
攻撃力に当たる「筋力」、HPと防御力の総合値の「耐久」、素早さや反射速度を指す「敏捷」、魔術系の総合スペック「魔力」、運の高低「幸運」、そして切り札の強さ「宝具」。
三つ目、スキル。
クラスに紐づいた特性である「クラススキル」と、個人に紐づく「固有スキル」があり、それぞれ特殊な効果を持つ。
最後に、宝具。
その英雄の切り札。その効果は攻撃、防御、回復などの種類も規模も千差万別の様だが、何れも等しく戦況を覆し得る伝家の宝刀。
これを踏まえて、各クラスについて考えてゆく。
セイバーは、今挙げた要素のすべてがバランスよくまとまったクラスだ。それゆえ、最優のクラスとも目される。弱点は、高いスペックが仇となった魔力消費の重さだろう。あとは、騎士などの高潔な人物が多いので、一般的な魔術師とは性格的な相性が悪いかもしれない。
アーチャーは、なによりその遠距離攻撃能力だろう。反面、近接は英霊によってはやや気がかりか。ただ、不意打ちのようなやり口が主になることが予想されるので、運用は慎重に行わなければならない。
ランサーは、近接戦闘の強さと燃費が売りの様だ。逆にスキルを含めた器用さには劣る印象。
ライダーは、基礎スペックが低めな分、宝具の数と強力さが強み。宝具が主力な以上、魔力の消費の重さと真名バレのリスクが付きまといそうだ。
キャスターは、戦闘では非力だろう。だが、こと地脈を押さえた魔術師と組むならこれ以上に強力なサーヴァントもいないだろう。戦闘の不利を戦略でいくらでもひっくり返すことができたはずだ。
アサシンは、こちらも戦闘では非力。しかし、マスター殺しという一点では非常に強力。相手の弱点を常に狙うことのできる鬼札である。また、触媒なしでも召喚が行えるのも大きい。
バーサーカーは、完全なる暴走機関車だ。爆発力こそあれど、取り回しが悪すぎる。
サーヴァントに関してはこんなところだろう。これ以上のことは英霊個人の話になってくる。
では、この中から一騎選ぶとして、自分に合うのはどのクラスか。
自分の強みは、まず何といってもこの土地の管理者だということだ。
霊脈を抑えているので魔力のバックアップは十全。さらに、地脈の流れを見ることで他の陣営を察知することができる。
もう一つ、魔術師としての力量もそう低くない自負がある。特に、実戦の経験は扱う魔術もあって豊富な方だ。もっとも、この辺はサーヴァントではなく他のマスターと比べるべき項目か。
(やっぱ、本当ならキャスターを召喚したかったな……)
おそらく、自分のアドバンテージを一番活かせるクラスだろう。
反面、戦闘力やその経験に不安があるのも確かだったので、そちらの方面にも厚そうな英霊、アイルランドの光の神子やギリシャの半人半馬の賢者を候補にして触媒を探していたのだが、覚悟はしていたものの、そう簡単には見つけられなかった。
そして、時間を浪費しているうちについにキャスターの席が埋まってしまった。
ほかにもすでに埋まったクラスはあり、残るはセイバー、ランサー、ライダー、アサシンの四クラス。
この中から選ぶべきは――――。
そこまで思考が巡ったところで、吸っていた煙草が尽きかけているのに気が付いた。折よく結論も出たところだ。後は実行あるのみ。
フィルターのすぐ近くまで燃え尽きた灰が、ポトリ、と地面に落ちてゆく。
その様子をじっと見つめる。
それと同時に、自分の身もまた、その肉が腐り、落ち、朽ちてゆく。
最後に残るのは骨だけだ。
人のカタチを保った骨格。その骨に、再び肉が付いてゆく。
血管が張り巡らされ、肉に血が通い、神経が肉を貫いて繋がり、それを通る信号が鼓動を奏で始める。
ヒトではなく、魔術師としての黒川和未が形作られ、完成してゆく。
やがて、和未は煙草を携帯用の灰皿に入れて片づけると、召喚陣の前に立った。
丁度、工房に設置している時計の鐘が鳴る。午前零時。和未の魔力が最も高まる時間だ。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
陣へ向けて、令呪の兆しが浮かぶ右手を伸ばし、詠唱する。
同時に魔術回路が活性化。大気の魔力の変換が開始され、魔術刻印の補助を受けて加速してゆく。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
動物の骨から創り出したチョークで描いただけの白く鈍い色の召喚陣が魔力を得て燐光を得て輝く。
輝きは加速度的に増していき、吹き荒れる魔力が大きな風となって閉鎖した空間に木霊する。その影響を受けて奥の棚に収められた無数の瓶が揺れ、耳障りな協奏曲を奏でた。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
そんな工房中を圧っする力の奔流に、和未は腹に力を込めて真正面から立ち向かう。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
一拍。本来はこの直後に最後に一節が来る。
しかし、今回はさらに一節、付け加える詠唱があった。
それを口に出せば、もう後には引けない。分水嶺を越え、おそらく、自分の命運もあらかた決まる。
揺るぎはしない。
そう、覚悟はとうに決まっているのだから。
「されど汝はその腕を血に濡らし侍るべし。汝、常夜の影に生きる者。我はその刃を握る者――」
賽は投げられた。
あとは、————掴むのみ。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
光が爆ぜる。
魔力の奔流はこれまでのそれとは比にもならないほどに吹き荒び、巨大な圧力となって和未の身体を打ち付けた。
それらが落ち着き、光と風から眼を守るために閉じられていた瞼を開くと、召喚陣の中にはひとりの人影があった。
その人影は、こちらを向いて俯きがちに立っている。
手足には褐色の肌がのぞき、腕や脚には肌に張り付くような黒衣。要所に皮鎧を身に着け、その上にはポンチョ状の黒い外套。腰からは飾り気のない長剣を提げている。シニヨン状にまとめられた髪型と全体的な体型のシルエットからして、どうやら女性の様だ。
そして、顔にはその全体を覆い隠すような特徴的な白い髑髏の仮面が付けられている。
どうやら、しっかりと狙い通りのクラスの存在を呼べたらしい。
その安心感から、和未は詰めていた息をかすかに吐き出した。
「サーヴァント、アサシン。召喚に応じ参上しました」
その時、アサシンの視線がこちらを射貫いた。
響いた声はやはり女性のものだが、甘さはなく、凛と張り詰めた緊張感がその場を支配する。
「まず初めに、ひとつ確認を」
仮面の奥の瞳が力を増す。
「――貴方が私のマスターですか?」
【Chapter この手に取るのは Fin.】
お読みいただき、ありがとうございます。
プロローグ含め、3ページ目でようやく主人公が登場しました。
正直、書いていて、説明ばかりになってしまっているな、と思っている話です。このノリは次回にも続きますが、舞台説明と思ってお付き合いいただければと思います。
評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。
特に、文章量は多くなってしまっている自覚があるので、ご意見いただきたいです。
【プロフィール】
名前:黒川和未
性別:男性
年齢:17歳
身長:169㎝
体重:61kg
誕生日:12月31日
血液型:A型
イメージカラー:藍色
特技:工作系全般、パズル
好きなもの:猫
嫌いなもの:魔術
魔術系統:????
魔術回路・質:A
魔術回路・量:A
主人公。
人間らしいが、ちゃんと魔術師。