Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~ 作:空雲時雨
【2017年 1月20日 金曜日】
【芥ヶ原市 緑川町 黒川邸】
【AM 7:40】
『昨夜ランサーのサーヴァントが召喚されました。残るはセイバーとライダーです』
「了解。情報提供ありがとう」
スマートフォンの画面をタップし、通話を切ると、隣に控えていたアサシンが話しかけてきた。
「マスター、今の連絡は」
「監督役からだ。新しくサーヴァントが召喚されたらしい。通学がてら、情報を共有しようか」
和未はそう言って家を出ると、いつも通り家に施錠を施して歩き始める。通学のバスの時間が迫っていたためだ。
外へ出たので、アサシンには念話で話しかける。
『まず、召喚されたクラスはランサーだそうだよ。セイバーとライダーはまだ現れていない』
『情報の正確性は?』
『監督役からの情報だからね。立場的にも人柄的にも嘘をつくことはないし、間違いもないはずだ』
さて、以前に聖杯戦争における監督役の役割は話したことがあったと思う。
簡単に言えば、儀式の補助役なわけだが、それを実行するにあたって監督役にはいくつかの権限とアイテムが与えられており、その中のひとつに、“霊器盤”というものがある。
その役目は、サーヴァントの召喚状況を把握すること。これにより、召喚されたサーヴァントのクラスと数を把握し、聖杯戦争の開幕を宣言したり、脱落者が保護を求めてきたときに事実確認を行ったりするのだ。生憎と、サーヴァントの真名やマスターについては知ることができないが。
『では、ランサーについてマスターを含めて調査を行う必要がありそうですね』
『いや、マスターについては見当がついてる』
『本当ですか?』
『ああ。コイツだ』
そう言って、和未は頭の中に記憶した人物の顔を思い浮かべる。
マスターとサーヴァントは念話だけでなく、こうした形でも情報をやり取りできるのは本当に便利だ。二人の頭の中には、茶褐色の癖っ毛をショートの髪型にし、眼鏡をかけたトパーズ色の瞳を持つ青年の顔が浮かんでいた。
『この人物が?』
『ああ。昨日、黒川の関連の企業の人から連絡があってね。こんな町じゃ、この時代でも外国人は目につくからさ。照会してみたらビンゴ。マゼル・Y・バルジャー、最近売り出し中の時計塔所属の錬金術師だね。今は臨海ホテルに泊まってるみたい』
『殺しますか?』
『いや、本当にランサーを呼び出しているなら、サーヴァントが警戒しているはずだ。アサシンの腕は信頼してるけど、できればその警戒の外れる他の英霊との戦闘中を狙いたい。今は情報の確定を優先して待機』
『わかりました』
和未は通学のバスに乗り込んだところで、会話を打ち切ると、そのまま思考の海へと意識を潜らせてゆく。
自分が聖杯戦争の相棒として選んだのはアサシンのクラスの英霊。
つまり、基本戦略は敵マスターの暗殺となる。
この戦略を選んだ理由は、土地の管理者という立場を活用し、霊脈の乱れや人々の情報からマスターの所在を割り出し、攻撃することができると考えたからだ。
今のところ、目論見は概ね当たっていると見ていいだろう。現に、今回はランサーのマスターの所在を掴めているし、昨夜遅くに森林公園で何らかの霊的儀式がされたこともわかっていた。
また、アサシンを召喚する前の出来事であるが、同じ日に召喚が確認されたアーチャーとキャスター、いずれかの召喚の際の反応もキャッチしている。残念ながら、使い魔が間に合わなかったため、その姿を直接確認できていないが、相手の動きが察知できるという裏付けにはなった。ひとつしか反応をキャッチできていないことに関しては、どちらかが遠方で召喚されたのならばあり得る事態なので、頭の中には置きつつも、さして問題視はしていない。
現状、把握しているマスターは自分を除くと二人。
一人は、先ほど話に挙げたマゼル。もう一人は、この土地のもう一人の魔術師である空木浩平。
過小評価するわけではないが、二人とも、個人として見ればそれほど問題にならないだろう。
マゼルの方は優秀な魔術師の様だが、宿泊先の選定など、その振る舞いから戦闘に関しては素人であることがうかがえる。空木に関しては、魔術師としては下手をすればセンスのある素人の方がマシ、といったレベルだ。
ただ、マゼルは魔術師として優秀な分、サーヴァントのバックアップとして考えれば強力だ。
一方の空木も先代の残した結界や仕掛けのせいで本拠地への攻撃が難しい。最終局面で一対一になるよりも前に、どこかの場面で外へ引きずり出して始末しなくてはならない。また、奴に関してはその人間性が一番厄介なことをよく知っている。
戦略と敵に関する分析としてはこんなものだろう。
次はこちらの戦力、特にアサシンについて。
クラスの特性上、やはりステータスはあまり高くない。
アサシンとしての立ち回りと切り札の使い方が鍵になるだろう。
現状、切り札として数えているものは三つある。
一つは、当然、宝具だ。
マスター戦で使う必要性は薄いので、使うとすればサーヴァントへの不意打ち、一撃必殺狙いだろう。
二つ、こちらは完全なる初見殺し。一度知られれば二度は通じない類の手。
三つ、これの使用は令呪の後押しが必要になる。つまり、最大限見積もっても三回きり。
はてさて、どう使ったものか。
【2017年 1月20日 金曜日】
【芥ヶ原市 藤咲台高等学校】
【PM 1:13】
すでに一日の半数以上の授業が消化され、現在は高校生にとって憩いの時間、昼休みの時間になっていた。
いつも通り、仲の良い三人の友人と共に昼食を食べながらとりとめもない話に興じていた和未の脳裏に、ふいに鋭い感覚が走った。
心地よい時間を邪魔されたことに些か気分を害しながらも、和未はすぐに頭を切り替え、友人たちに異変に気づかれないように注意しながら、念話でアサシンに呼びかける。
『アサシン、空木邸に動きがあった。何者か、おそらく魔術師が訪問している』
無論、アサシンには召喚を行って早々に、この地に空木という魔術師の家系があることと、そこの現当主である空木浩平が聖杯戦争の参加者であり、首謀者である可能性が高いこと、そのほか家の立地などの情報は共有してある。
そのため、念話を聞いたアサシンの反応も迅速だった。
『偵察に行ってきます』
『頼む。使い魔は屋敷の監視に残したい。来客が出てきたらその足取りを追って報告してくれ』
『承知』
アサシンは短くそう言い残すと、即座に空木邸へと向かった。
和未は傍らに控えていた気配が消えたことを確認して、周囲への警戒レベルを上げる。こんな真昼間、しかも学校という衆人環視の環境で何かしかけられるとは思えないが、アサシンという護衛を解いた以上当然の処置だ。
そんな必要な対処と、友人との会話に適度に相槌を打つという作業を並行で行いながら、和未はさらに意識の裏側で別の思考に耽ってゆく。
空木家系の現当主、空木浩平のことは家同士の付き合いもあったため、良く知っている。
彼の性格を一言で表すならば、「子ども大人」というのが最もふさわしいだろう。
ただ、楽しければそれでいい。ジャマをされるのは大嫌い。期待した結果が出ないのも大嫌い。楽しいことのためなら何でもするが、飽きればポイと捨てて見向きもしない。その癖、頭だけはやたらとキレる。
そして、魔術には向かない性格とは裏腹に、血筋と性格面の素質は無駄に高い。
そんなヤツだ。強引にでも儀式を始めるため、マスターとなる魔術師を外から招いた可能性がある。
さらに、この想像が当たっていた場合、呼び寄せられた魔術師はおおよそマトモな手合いではないだろう。彼にとって、一生を無為な研究に費やす一般的な姿勢の魔術師は等しくつまらない存在だ。
逆に、気に入るのは自分の趣味嗜好に走り、ともすれば破綻しているような落伍者。生憎と、その手の輩は魔術の世界には一定数おり、しかもたいていは外道の類だ。
(場合によっては真っ先に始末しないといけないか……)
そう、マスターとしての見通しを考えて昼から陰鬱な気分になった。
人間としての黒川和未の状態で、このような魔術師の思考が働くと、和未はいつだって最悪な気分になる。その自己嫌悪と言っていい感情を振り払うのに一瞬、瞑目した。
「黒川くん」
「わッ!」
ちょうどそんなタイミングだったので、いきなり話しかけられて和未は反射的に声を上げた。
声の方を向くと、クラスメイト——先日、展望台へ向かう橋で見かけた女子生徒、水原結理がジッとこちらを見つめていた。
「あ~っと、ゴメン。何か用だった?」
「次の授業で提出の課題ノート、あと黒川くんだけなんだけど」
その視線とぶっきらぼうな口調に加え、ローテンションな声音でなんとなく責められている気分になる。
まあ、ジト目がちなのはもとからだし、口調と声音も常日頃からこの通りなので、いつも通り。それなりに見知った性格からしても、おそらくそうした意図はないのだろうが。
「ゴメン。じゃあ、コレ。お願い」
「は~い。確かに受け取りました」
結理は相変わらずいまいち抑揚のない声でノートを受け取ると、和未の友人たちからも同様にノートを回収し、その束を抱えて踵を返した。
思いがけず陰鬱な気分が吹き飛んだな、と感じ痛つつ和未は友人たちとの会話に戻る。
その時、ふと思い出して疑問に思った。そういえば、彼女はこの前どうして橋のところにいたのだろうか。学校が終わってからでは、あの時間にあの橋にはいられないはずなのだが。
「―――そういえば、月曜はあんなところで何してたの?」
見計らったようなタイミングで投げかけられた問いに、再び心臓の鼓動が跳ねた。
ガバッと音が立つような勢いで声の方へ視線を向けると、結理がノートを抱えたままこちらを振り返り、じっとこちらの方を向いている。
和未は動揺を無理やり押さえつけると、平静を装って聞き返した。
「あんなところって?」
「町はずれの橋のとこ」
その返答で確信した。やはり、彼女が言っているのはアサシンに街を案内していた時のことだ。
見かけたときはまだ距離があり、気がつかれる前に迂回したつもりだったのだが、どうやらばっちりと見られてしまっていた様子だった。
とはいえ、事情を素直に説明できるわけもない。ここはごまかすしかないだろう。
「……ああ、あれね。あの日はちょっとそういう気分でさ」
「ふぅん? そうなんだ」
我ながら苦しい言い訳だと思う。
実際、結理も怪訝そうにしている。はっきりと追求してはこないが、その視線が身体にグサグサと突き刺さっていた。
和未は何とか話題を逸らそうと視線を動かし、結理の右手に目を止めた。
「あれ? 水原、その手どうかしたのか?」
見れば、そこには昨日まではしていなかった包帯が、手の甲全体を覆うようにグルグルと厳重に巻き付けられている。
「これ? なんか朝起きたら、昨日、何処かでぶつけたのか痣ができててさ。しかも結構ひど目なやつ。念のため包帯してんの」
「へぇ」
「………………」
「………………」
会話が途切れ、ジッと二人の視線が絡み合う。
どうやら、これ以上話す気がないのを察してくれたらしい。先に視線を逸らしたのは結理の方だった。
「そろそろコレ、置いてこなきゃ」
「おう。お疲れ様」
最後に短く会話を交わし、話が終わる。
何とかごまかせたかな、と思いながら体勢をもとに戻すと、友人三人衆が面白いものでも見つけたような爛々とした目で自分のことを見ている。
「な、何?」
「いやぁ?」「別にぃ?」
三人の内、二人はニヤニヤとした表情を浮かべ、意味ありげな返答を返してきた。おそらく、脳内でどう和未を料理してからかってやろうかと算段を付けていることだろう。
もう一人もそれに続こうとして、ふと真顔に戻った。
「あれ? 月曜出歩いてたってことは、もしかしてズル休みか?」
「うっ」
「和未、お前ダメだろそれは」
「「ブフッ」」
肩に手を置き、いやに真剣な眼差しで語られた言葉に、先の二人がたまらず噴き出した。
「なんだよ~~~!」
「いや、メッチャ優等生ぶるじゃん」
「だってイケナイことだろ~~」
「遅刻常習犯の言えるセリフじゃないけどね」
「はじめウッサイ!」
「アハハ! まぁ、とりあえず事情吐いてくれるよね、和未くん」
「綾仁ブレないね~。ま、せいぜいキリキリ吐けよ? 和未」
その後の事情聴取で、和未は月曜のことを白状させられることになった。
もちろん本当のことは言えないので、なんとなく気分が乗らなくて学校を休み、何の気なしに彷徨い歩いていた、という虚偽証言を通したが。
「「「………………」」」
「まだ、何か?」
「いや、そういうことにしとこうか」
「にしても、水原な~~。そういや、あの日、昼休みの間にいなくなってたっけ?」
「弓月さん、学校中を探し回ってたね」
「和未くんと同じく変わり者だよね、彼女」
「ストップ、聞き捨てならないんだけど」
「え~、友達に何も言わずに学校バックレてふらつくヤツは変人確定だろ?」
「祥
そんなバカ話を仲間内しているうちに時間は過ぎ、やがて5限の予鈴が鳴って友人たちは慌てて自分の席へと戻っていった。
そんな、ありふれた日常風景。
しかし、和未は後にこの時の会話を後悔することになる。
結理の手の痣について、もっと詳しく話を聞いておけば良かった、と。
【Chapter 開戦前日 Fin.】
お読みいただき、ありがとうございます。
日常パートを書くのも難しい。正直、男友達三人衆は、自分が好きな漫画の主人公の友達三人のノリをイメージして書きました。このやり方楽だわ。でも自分のためにならない気もする。
そんなこんなで導入篇は終わり、次回から本格的に聖杯戦争を始めます。
次回投稿は、明日の13時に3話まとめての予定です。ここから先はタグ通り、チャプターごとで投稿していきます。
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【プロフィール(友達三人衆)】
・遊佐 祥太
語尾を伸ばしがちな口調が特徴。アホの子だが友達思い。
・伊田 綾人
落ち着いた口調が特徴。イツメンの中のしっかり者でありまとめ役。
・夏木 はじめ
若干皮肉っぽい口調が特徴。人間関係がわりかし不器用。
元ネタわかった人はぜひ感想ください。すごく仲良くなれる気がします。
名前にも元ネタキャラの名残(すこし捻ってますが)があるのでぜひ……。