Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~ 作:空雲時雨
最初の一手(上)
【2017年 1月21日 土曜日】
【芥ヶ原市 緑川町 黒川邸】
【PM 7:53】
アサシンを召喚して一週間、黒川邸ではマスターが朝食と夕食に手料理を用意し、それを主従でテーブルを囲んで食べるのがすっかり日常となっている。
和食、洋食、イタリアン、中華と、様々な料理を提供したが、アサシンは中でも和食が気に入ったようで、今晩もごはんを3杯はおかわりして堪能していた。
和未がその話を切り出したのは、ちょうど夕食を終え、食休みが終わったところだった。
「アサシン、昨日見に行ってもらった魔術師の調べがついた」
「空木邸の来客ですね」
「ああ」
和未は調べ上げた資料をアサシンに手渡しつつ、説明を続ける。
「ゲナウ・バルザンク、フリーランスの魔術師だ。案の定、碌な奴じゃなさそうだな」
資料には調べられた限りの素性、扱う魔術体系や業績のほかに、周囲からの評判や関係した出来事などが記されている。
受ける印象としては、典型的な魔術師。しかし、少々タガが外れている。
かの高名なロード・エルメロイⅡ世いわく、魔術師とは予測もつかない超常現象を引き起こす存在であり、ハウダニット、即ち“どのようにしたか”は推測の余地がない。ましてや、明確な証拠など出ようはずもないため、集まった情報から見た私見となるが、このゲナウという魔術師は魔術の研究および実験のために百人規模の一般人を複数回にわたって巻き込んだ可能性が非常に高かった。
一般人を生贄として儀式に巻き込む、そういったことは道徳観のかけた魔術師という生物としては典型的だろう。しかし、少々動きが派手すぎる。神秘の隠匿こそ守っているようだが、それでもかない危ういラインだ。
集められた評判や賞賛、それらを上回る数の悪口の類。そうしたものを総合するに、時計塔を出てフリーランスとなっている現状も、どうやら、おイタが過ぎたというあたりが真相か。
アサシンも資料に目を通して同じ結論に達したのだろう。顔を上げると仮面の奥からジッと主の目を見つめ、短く問う。
「では、殺しますか」
「ああ。殺そう」
和未は間髪入れずに答えた。
集まった情報が正しいとは限らない。仮に情報が正しくとも、そこから推察した内容が正しいとは限らない。しかし、出した結論が正解ならば、おそらくこの芥ヶ原の人々がこのタガの外れた魔術師の餌食になるだろう。
そして、それは和未が隣で笑いあった友人の誰かかもしれない。
動機としては、おおよそ魔術師らしくない。
しかし、このリスクのためにヒトを一人殺す決断ができるほどには、和未も魔術師だった。
「では、決行はこの人物がサーヴァントを召喚してから」
「そうだな。その直後、まだサーヴァントとの関係を明確にする前が狙い目だろう」
言葉は少なく。されど意志は固く。
魔術師の動向は、昨日アサシンが追跡し拠点を確認して以降、常に使い魔を通じて把握している。
主従は半刻前まで和気藹々としていた食卓で、どこまでも血に濡れた算段を綿密に詰めていった。
この作戦が実行されるまであと————
【2017年 1月21日 土曜日】
【芥ヶ原市 東部 外れの森】
【PM 11:13】
木々の影に覆われた森に、梟の鳴き声が響く。
夜の森、時代によっては異界とも定義されるその場所に男は座り込んでいた。
男——魔術師、ゲナウ・バルザンクは既に地面に召喚陣を書き上げ、今は手に持った触媒となる聖遺物に目を落としていた。
この聖杯戦争の主催者であり、自分に儀式への参加を打診してきた依頼者。自分こそ黒幕と嘯いて憚らない、明確な敵対者。そして、自分に聖遺物を都合した協力者。そんないくつもの矛盾を起こし得る要素を内包する知己、空木浩平がゲナウに渡したソレは刀の鍔だった。
聖遺物としては、そこまで古いものではない。約五百年前のもの、といったところだ。
しかし、それによって召喚が見込めるサーヴァントは、確かにこの極東の地に置いて最強たり得る英霊であろう。知名度は言うに及ばず、伝承から考えて神秘や神性への強力な対抗力を備えていることすら考え得る。
こんな触媒を他人、それも敵対者となる者に渡すなどゲナウからすればあり得ない。それを指摘すると、知己は「勝ちが確定した勝負なんてつまらないじゃないか」と一笑に付した。罠かとも考えたが、アレはそんなことは考えないだろう。
空木浩平という男は平然と破綻していて、策謀などという次元でなく始末に負えない魔性である。そのことを知っているゲナウは、渡された触媒が本物であろうと結論付けた。
そして、今。
時は満ち、召喚は成される。
「素に銀と鉄————」
闇の中、滔々と詠唱は紡がれ、光り輝く陣の紋様が木々を照らし、その像を浮き彫りにする。
ひときわ大きな輝きの後、召喚陣の中央にはひとりの青年の姿があった。
「問おう。キミがオレのマスターか?」
和風の戦装束の上に陣羽織を纏い、腰には誂えのいい刀を佩いている。
ただ立っているだけだというのに、その姿からは抜き身の刀のような切れ味と、大人数の上に立つ者特有の風格が放たれており、一見して只人ではないと納得させる雰囲気があった。
しかし、その風貌にはまだ微かに幼さの欠片が残っているようにもうかがえる。年ごろとしては二十歳前後の青年といったところか。総合して、新進気鋭の若き君主、といったところか。
しかし、その青年はゲナウを見下すでもなく、まるで隣人に話しかけるかのようにその問いを発した。
それゆえに、ゲナウは取るべき態度を違えたと言えるかもしれない。魔術師然とした不遜な口調で青年の問いに応じる。
「ああ、そうだ。私が貴様のマスターだ。お前はセイバーのサーヴァントで合っているか」
「いかにも。オレは他でもないセイバーの英霊だ」
幸いだったのは、青年は誰かの上に立つ、ということへ固執していなかったことだろう。
もし、呼び出されていたのが苛烈な覇者や王者の類であったならば、ゲナウは今の一言で落命していた可能性もあり得る。
「では、セイバー。貴様にもうひとつ聞こう」
「その前に、だ。マスター」
セイバーがそう言って主の質問を遮ったのと時を同じくして、空から光が降った。
「どうやら、来客の様だ」
衝撃が大地を巻き上げ、轟音が木々を打つ。
その光が起こした力の奔流は風のようだった。
いかなるものをも吹き飛ばして無に帰し得るだけのエネルギー。しかし、決して無軌道な暴風のような荒々しさはなく、自然とそこに息づくすべての生命を包み込むような優しさすら感じる息吹。
事実、ソレが起こした衝撃は大地に響きこそすれ、森にも、動物にも、木の葉に隠れ春を待つ虫にすら危害を加えていなかった。
しかし、一度対象を定め、牙を剥けば何物をも打ち砕くであろうと確信できる。
そんな、規格外の存在。
土煙が晴れ、セイバーとゲナウはその姿をようやく目視で捉えた。
その姿は、英霊と呼ぶにはあまりに質素なもの。
身に着けているのは純白の貫頭衣のみ。
サーヴァントの象徴たる武具はなく、戦車を牽いているわけでもない。
その佇まいからは狂気は感じ取れず、かといって魔術師というには違和感があった。特に、セイバーはその英霊から似て非なるものと理解しつつも、どこか武に通じる気配を感じとっている。
顔立ちの柔らかさは女性のように感じる一方で、僅かにのぞく手足の引き締まり方は弾性のようにも受け取れる中性的な印象。
あえて言うならば、ヒトを超越した美しいモノ。
その英霊の後ろから一人の男が現れ、告げた。
「セイバーと、そのマスターとお見受けします。僕の名前はマゼル・Y・バルジャー。そして、こちらは僕のサーヴァント、ランサー」
癖っ毛の頭髪とセルフレームのメガネが印象的な、格式の高さを感じる白い衣装を身にまとった魔術師はそこで一旦言葉を区切る。
そして、これは宣戦布告なのだ、という強い意思を載せて続く言葉を発した。
「今宵、あなた方を討ち取らせて戴きます」
お読みいただき、ありがとうございます。
ようやっと緒戦が開始。なお、まだ七騎揃ってません。
ランサーの真名は、プロローグ時点でばらしているようなものですが、いったい何キドゥウなんだ!?
評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。
【プロフィール】
名前:マゼル・Y・バルジャー
性別:男性
年齢:20歳
身長:178㎝
体重:70kg
誕生日:7月11日
血液型:A型
イメージカラー:トパーズ
特技:ルービックキューブ
好きなもの:魔術
嫌いなもの:話の通じない相手
魔術系統:錬金術
魔術回路・質:B
魔術回路・量:B
時計塔参加枠。
ザッツ、正当で真っ当な魔術師。
見た目のイメージは、某優性思想のメガネの方です。