Fate/Sinfonia Sagas【芥ヶ原聖杯戦争】~誰かの決意と選択の物語~   作:空雲時雨

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「今宵、あなた方を討ち取らせて戴きます」

 

 

 

 

 

 闇に包まれた森に、まだ若い魔術師の鮮烈な宣戦布告は深く響き渡った。

 

 

 

 

 

「へぇ?」

 

 

 

 

 

 その言葉に反応したのはセイバーだった。

 

 セイバーは相手がそう言い切ることができるだけの力量を持つことを正確に見抜いていた。

 気配からして、武人の質の英霊ではないように思われる。しかし、その肉体と身に纏う風格からは自身が生前に収集した名刀と同じ、否、それらをも遥かに上回る妖しさが感じられる。

 そのような、異質な気配の相手ではあるが、サーヴァントとは、時に武器にも例えられるもの。ひとつの武器として見たならば、目の前の槍兵は超抜級のモノであることは疑う余地が無かった。

 

 そんな猛者と、これから腕を競うことができる。

 そのことにセイバーの心は高揚し、好戦的な歓喜の声を漏らして口角を上げた。

 

 一方で、ゲナウは苦い表情を浮かべていた。

 セイバーとはまだ主従関係を明らかにしただけで、性能の確認すら行っていない。戦闘に及ぶには時期尚早と言えたからだ。いきなり攻撃を受けなかっただけマシだとも言えるが、退却するにせよこの間合いでは戦闘は避けられまい。

 

 数瞬の間葛藤し、出た答えはやはり既定路線だった。

 

 

 

 

 

「やれ、セイバー」

「言われずとも」

 

 

 

 

 

 言葉とは裏腹に、律儀に主の決断を待っていたセイバーの纏う雰囲気が変わる。

 

 それは正しく、セイバーという英霊からセイバーの名を冠する剣士へと切り替わったが故のことだ。余分が消え去り、戦闘用の思考、戦闘用の意識、戦闘用の身体へと新生する。そして、ごく自然体のまま腰に佩いた刀を抜き放った。

 

 その様子に、ランサーも思わず高揚交じりの声を漏らした。

 

 

 

 

 

「いいね。存分に性能を競い合えそうだ」

 

 

 

 

 

 闇の中に静かに闘気が満ちてゆく。

 

 戦う、斬る、破壊する、殺す。何処までも研ぎ澄まされた、荒々しくも静謐な思念が視線となってぶつかり、空間に溶けて塗り替えてゆく。剣士と槍兵、それぞれの主はその重圧を感じ取ってそれぞれ静かに後退した。

 

 やがて、互いの主が安全だと思える位置まで下がったのを確認し————

 

 

 

————裂帛の一太刀が火蓋を斬る

 

 

 

 

 

「ふッ!!」

 

 

 

 

 

 生中な戦士なら技の起こりすら見えないであろう、無拍子に繰り出されたとも思えるその剣戟をランサーは光り輝く手刀で以って打ち払う。

 続く、数度の打ち合いによって生まれた金属音は闇を連続して引き裂き、セイバーの耳朶を打つ。なるほど、容易くは斬れないらしい。戦いのために研ぎ澄まされた五感が受け取った情報をもとに、次の攻撃が構築されてゆく。

 

 繰り出されたのは突きだ。

 

 ランサーの柔らかな瞳を目掛けて鋒が疾走する。しかし、その一撃はしなやかな身体を大きく逸らすことで躱された。

 

 

 

 ——衝撃。

 

 

 

 突きを繰り出し、前方へ崩れたセイバーの脇腹にランサーは素足のまま蹴りを叩きこんでいた。完璧に近い形のカウンター。だが、その手ごたえは、無いに等しかった。

 セイバーは突きを繰り出した瞬間には、その鋒が躱されることがわかっていた。開かれた瞳孔から捉えたランサーの動作の起こりが、回避と反撃の双方の意味合いを持つことを正しく理解していたのだ。ならば、後は対処するだけ。

 全身の力が抜かれた身体は急速に弛緩し、重心が後方へズレる。脇腹に打ち込まれたエネルギーはセイバーのわずかな動作によって、破壊から移動へとその性質を変換され、両者の間に遠大な距離を生む。

 

 

 

 間髪入れずに放たれる二つの光弾。

 

 

 

 それを、セイバーは殺気と風を切る音で正確に捉えると、一呼吸のうちに刀を二閃ひらめかせて往なしてみせる。すると、すぐさま後方で凄まじい音が爆ぜた。

 

 それを確認している暇はない。

 ランサーは追撃の後に間を置かず、セイバーを目掛けて音速を超える速度で飛んできているのだ。先ほどとは真逆に、移動から破壊にエネルギーが変換されたその衝突を、今度は鋭い斬り上げで迎撃する。

 結果、あまりの衝撃に僅かに後退を強いられたものの、セイバーはその場に見事踏みとどまった。

 

 

 

 

 

「オォおッ!!」

 

 

 

 

 

 相手の攻撃を受け止めたことで生まれた拮抗は、即ち、己の一撃を通さんとする力比べである。

 額を突き合わせ、互いの凄絶な笑みを瞳に収めた両者はかすかに笑い合い、次の瞬間、気迫のこもった声と共にセイバーがランサーの腕を跳ね上げた。さらに、即座に腕を返し、深い入り身と共に斬り落としを放ったが、それは最初の一撃の焼き増しのように手刀で迎え撃たれてしまう。

 しかし、今度はセイバーが先ほどのお返しと言わんばかりに、今度はランサーを蹴り飛ばした。

 

 追撃。迎撃。

 

 時に円を描くように。時に直線的に。互いに位置を変え、動き回りながら幾度となく斬り結ぶ。

 そして何度目かの鍔迫り合いの折、二人は示し合わせたかのようなタイミングで後ろへ跳び、距離を取った。

 

 一度は場を改めたとはいえ、互いの闘志が交叉する戦場には変わらず強烈な熱が立ち込めている。その中で、ランサーは清風を思わせる涼やかな、されども決して熱を冷まさせない声音を響かせた。

 

 

 

 

 

「熱くなってきたね」

「ああ。キミほどの猛者と初戦で剣を交えることができたのは我ながら幸運だ」

 

 

 

 

 

 未だ、死合った時間はそう長いものではない。

 しかし、その密度は二人の心を焦がすには十分なものだった。

 

 セイバーとランサー。どちらも格付けなどという考えは持ち合わせていなかったが、先ほどまでの攻防で相手の力量の見極めはついたと言っていい。

 

 

 

————而して、戦いは次のフェーズへと移行する。

 

 

 

 

 

「少し、ギアを上げようか」

「————!」

 

 

 

 

 

 そう言って、ランサーは静かに膝を折り、地面に右手の掌をつけた。

 

 大地を慈しむかのようなその仕草は、戦闘にはあまりに似つかわしくない。

 されど、その構えは、その気組みは、こちらを確実に討ち取らんとする強い意志の表れである。そう、感じ取ったセイバーは反射的に後ろへ飛んで距離を取った。

 

 

 

 

 

「『民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)』」

 

 

 

 

 歌い上げられたその真名は、世界に静かに響いた。

 

 次の瞬間、黄金の光に包まれた大地から百を超える無数の剣が、槍が、矢が放たれる。生み出された刃の群れは、嵐となってセイバーへ容赦なく牙をむいた。

 

 対して、セイバーの持つ武器は手に握る刀が一振り。

 

 本来ならば、勝負になるはずもない。まして、セイバーの刀は宝具ですらないのだ。

 しかし、それは臆する理由にはなり得ず、他の何事と比べてなお、格段の誇りと自負を有する己の技を以って、剣士はその刃の雨に立ち向かった。

 

 

 

——見極める。

 

 

 

 迫りくる刃の群れはまさしく嵐だ。それ故に、己に狙いを定めているわけではない。ならば、まずは五感と剣士の心眼を以って、凌ぐべきモノとそうでないモノを見極める。

 

 

 

——打ち払う。往なす。躱す。払い落す。鎧で流す。迎え撃つ。

 

 

 

 刀で、時に体捌きで、さらには鎧で。

 持てる手段のすべてを尽くして、セイバーは無我夢中でランサーの宝具に立ち向かう。

 

 

 

 

 

(————重いッ!!)

 

 

 

 

 

 自分を目掛けて飛んでくる刃に触れる度、セイバーはその尋常でない重みに顔をしかめる。

 刀で対処すれば、一合ごとに握力どころか全身の力を持っていかれるような感覚に陥り、鎧で受ければ、正面から受けているわけでもないのに触れた箇所は砕け、衝撃が臓腑を乱打し頭を揺らす。

 

 まぎれもなく強力な攻撃。しかし、この重みは威力によるものではない。神秘によるものでもない。これは、人の重みだ。

 一瞬の隙が死を招く攻防の中、セイバーは確かにそれを感じ取っていた。

 

 そして、その感覚は正鵠を射ていた。

 これは、本来、ランサーの基本武装と言える代物。宝具ではあるが、真名開放の必要はなく、呼吸するのに等しく自然に行うことのできる攻撃。

 されど、宝具である以上はそこに確かな本質が存在し、真名が明かされた今はそれが最大限に発揮されている。その本質とは、「星の記憶を引き出し、その大地から様々なものを生み出すこと」。即ち、『人理の歴史の模倣』。その名の通り、民の叡智の結晶なのである。

 

 セイバーは一撃のごとに、その重さに立ち向かっている。

 そして、次なる叡智をも打ち払わんと刀を振りかぶり————

 

 

 

————その刀身に黄金の鎖が絡みついていることに気が付いた。

 

 

 

 この局面で、一瞬の遅れは命取りとなる。

 

 次の瞬間、セイバーに刃の雨が殺到し、轟煙を巻き上げた。

 

 

 

 その煙の中へ、ランサーが呆れたように、しかし確かな感嘆と敬意を込めて声を投げかける。

 

 

 

 

 

「すごいね、キミは。まさか、僕の投げつけた剣を掴み取って反撃してくるとは思わなかったよ」

 

 

 

 

 

 煙が晴れると、そこには所々細かなキズや戦装束の破損はあるものの、五体満足のまま、大きなけがのない姿のセイバーが不敵な表情を浮かべて立っていた。

 

 先ほどの窮地をどう乗り越えたかは、ランサーの言ったとおりだ。

 セイバーは刀を封じられたことに気が付くや否や、即刻武器を手放し、いの一番に飛んできた剣を掴み取ると、続く刃の群れをそれで打ち払って見せたのだ。

 

 

 

 

 

「昔、師匠から話だけ聞いた奥義の話を思い出してね。今のじゃ、猿真似どころか曲芸の類だろうけど、まあ、急場をしのぐには十分だったよ」

「へえ? 面白いことを考える人もいるんだね。とはいえ、やる相手は選んだ方がいいと思うよ? 僕だったから良かったけど、僕の親友相手に同じことをやっていたら逆鱗に触れただろうからね」

「その時はその時でどうにかする、さッ!!」

 

 

 

 

 

 セイバーが空中に身を躍らせる。

 

 鋭い跳躍はランサーの微かな隙を突き、瞬く間にその距離を詰めた。

 

 

 

 繰り出すのは必殺の一撃。

 

 刀を八双に構え、防御を捨て、振り下ろすは奥義————

 

 

 

 

 

「『————ッ?!」

 

 

 

 

 

 その時、セイバーの身体を鋭い痛みが撃ち抜いた。

 

 刀を取り落とし、地面に膝をついて苦悶の表情を浮かべ、急速にその存在が薄らぐ。

 

 

 

 

 

「これは……」

「マスター……か……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただき、ありがとうございます。

 個人的に、戦闘シーンは書いていて楽しいです。体感的に、会話より遥かに楽。
 今回は不発に終わりましたが、セイバーは対人魔剣持ちです。さらに、宝具はまた別にあります。完全オリジナルサーヴァントなので、誰だか予想してみてください。

 評価・ご意見・ご感想もぜひ、お願い致します。
 戦闘シーン、うまく書けていますでしょうか……。
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