「新しい魔法を手に入れたよ。」
フリーレン様がドヤ顔をしている。
魔法のこととなるといつもこうで、むふーと胸を張りながら自慢してくる。ちょっと可愛い。
しかし肝心の魔法自体は役に立たないことがほとんどだ。
今回はどんな魔法なんだろう。ここは安全な街中じゃなくて森の中だから、あまり変なものだと困るんだけど……。
「今回はどんな魔法なんだ?」
あ、シュタルク様が聞きに行った。
「『手が離れなくなる魔法』だよ。崖から人を引っ張り上げる時に使う民間魔法なんだって。」
「……それいる?」
「だいぶ限定的な魔法ですね。」
今回もあまり有用な魔法じゃなさそう。私たちの反応がイマイチだったからか、フリーレン様は少ししょんぼりしてしまった。
「そっか……。でもまあとりあえず試してみよう。使ってみないとどんな感じかわからないからね。」
けれど魔法を試すことにした途端、すぐに機嫌を直した。
本当に魔法が好きなんだなこの人。まあ本人はそこそこって言うんだろうけど。
「それじゃあ――えいっ」
フリーレン様が魔法を発動する。
杖の先端が輝き、魔力を帯びる。そしてその魔力は近くにいた私とシュタルク様の元に向かい――
「「えっ?」」
「あ。」
私たちの手は離れなくなった。
「……フリーレン様?」
「……ごめんなさい。」
「うわっ、本当に取れない!」
シュタルク様が手を解こうとし、上下に振るう。もちろんそんなことをすると、私の手も一緒に上下するわけで。
「シュタルク様、痛いです。」
「あ、ごめん。」
シュタルク様はただでさえ力が強いのだから、少しは加減を覚えてほしい。
「二人ともごめん。てっきり私が最初に触れた人とくっつくものだと思って……」
「だからっていきなり魔法を使わないでください。」
「……はい。」
フリーレン様も魔法使いなら魔法の取り扱いにはもっと注意してほしい。
「まったく……。ちなみに
「
別にシュタルク様に触れるのが嫌なわけではないが、普通に不便だしさすがに四六時中一緒なのは嫌だ。
「一晩くらいで効果は切れると思うよ。……たぶん。」
たぶんって。そんな曖昧だと困るんだけど……。
「はぁ……。わかりました。とりあえず罰として、野営の準備はフリーレン様一人でやってください。どちらにしろこの状態じゃやれることも限られますし。」
「はい……」
こうしてフリーレン様は、一人でトボトボ野営の準備を始めた。
*
「ちょっと薪を拾ってくるね。」
「むっすー」
「……ごめんって。」
あれからしばらく経ちだいぶ陽も沈んできたけど、フェルンの機嫌は直らなかった。
このむすーってしてる時のフェルン、めちゃくちゃ怖いんだよなぁ。早く機嫌直してくれないかなぁ。
一晩明かすにはまだだいぶ時間があるし、このままだと俺の心臓が持たない。正直つらい。
「シュタルク〜、なんとかしてよぉ。」
フリーレンもこんな感じだし、正直どうしていいかわからない。むしろ俺が助けてほしい。助けてザイン。
「いや今回は俺も被害者だし、さすがに擁護しづらいぜ。」
今のうちに予防線を張ってフリーレンに押し付けよう。ここでフリーレンの肩を持ったらフェルンに何言われるかわからないし。
「そんなぁ」
そんな悲しそうな顔して言われても……。
……けどフリーレンにも悪気があったわけじゃないし、なんか可哀想だし……。フェルンの機嫌を直すくらいなら手伝っても怒られない、よな?
「はぁ、わかったよ。フェルンはなんとかしとくから、フリーレンは薪を頼むよ。」
そして出来るだけ早く帰って来てください。
「ありがとうシュタルク……。じゃあ行ってくるね。フェルンをよろしく。」
「あんま期待はするなよー」
「むっすー」
――さて。まずどうしよう。
*
「あの〜フェルン、さん?そろそろ機嫌を直してくれたりは……」
「むっすー。」
「ダメかぁ。」
シュタルク様が話しかけてきた。
さっきまでフリーレン様とコソコソ話していたが、こんなに近くにいるのだ。内容は全部聞こえていた。
私の機嫌を直そうと必死なのだろう。先ほどから色々な話題を振ってくるが、どれも要領を得ない。というかつまらない。
「……シュタルク様は怒っていないのですか?」
話題を提供してあげるため(ついでに気になったので)こちらから質問してみることにした。
シュタルク様も被害者なのだから、何かしら思うところはあるはずだ。
「まぁ何も思ってないって言ったら嘘になるけど、そんなすげー嫌なことされたわけじゃないからなぁ。」
「えっ?」
「いやだって、フェルンと手繋ぐの別に嫌じゃないし。」
「――そう、ですか。」
「……もしかして俺と手を繋ぐの嫌だった!?」
「いえ、そんなことは、ないですけど。」
さっきまで何とも思っていなかったシュタルク様の手に、少し意識が向く。
シュタルク様の手、大きくてゴツゴツしてる。
フリーレン様への怒りで全く気づかなかったが、今自分は
その事実に気がつくと連鎖的に他のことも気になってくる。
何か変なところはないだろうか、手汗は大丈夫だろうか、爪が刺さったりはしてないだろうか、臭いは気にならないだろうか、昨日ちゃんと汗流したよね、側から見たらどう見えるんだろう、絶対勘違いされるんじゃ、シュタルク様はどう思ってるんだろう、本当に嫌がってないのだろうか。
……なんだか顔が熱い。自分の顔は今リンゴみたいに真っ赤になっているのではないだろうか。よくわからないけど、今の私はシュタルク様には見られたくない。何か適当に理由をつけて早くここから離れないと。
「……少し、フリーレン様の様子を見てきますね。」
「えっちょっと……!」
そうだった、今私たちの手は……!
「あっ」
「危ない!」
シュタルク様が手を引く。
急に私が立ち上がったので、シュタルク様の体勢は崩れている。
その状態で無理矢理手を引くとなると、加減が難しかったのだろう。思った以上の力で手を引くことになってしまった。
私の体は勢い良く後ろへ引かれ、そのままシュタルク様にぶつかる。
私たちは盛大に倒れ込み、痛みを堪えながら顔を上げると――
シュタルク様の顔が目の前にあった。
(近っ……!?)
顔が近いだけではない、体も完全に密着している。片方の手は繋がれたまま、もう片方の手はシュタルク様の胸元に。脚はシュタルク様の脚の上にやや乗っかっており、シュタルク様を押し倒したような形になってしまっている。
……シュタルク様の体、見た目以上にがっしりしてるんだな。いつもの弱々しい態度や、服を透過した時に見た部分の小ささからは考えられなかった。
そもそも体をじっくり見る機会も触る機会もないのだからわかるわけがない。
そう、こんなシュタルク様の匂いがするほど近くにいることなんて――
「戻ったよ二人とも。……何してるの?」
「ふ、フリーレン様!?」
「いやなんもしてねぇよっ!?」
「? そう?まあいいや、ご飯も私が作っちゃうね。ちょっと待ってて。」
「……お願いします。」
びっくりした。フリーレン様、もう戻ってきていたなんて。
変に思われたりはしなかっただろうか。いや別に変なことややましいことをしていたわけじゃないけど。
……ああもう顔が熱い。なんなんだろうコレ。風邪でも引いてしまったのだろうか。
シュタルク様はどう思って――えっ?
シュタルク様も……顔が、赤い?
火で顔が照らされているだけかと思ったが、それにしても赤すぎる。まるで恥ずかしがってるみたいに――
さっきのことで?シュタルク様も意識している?
そのことに気がついた後はもうダメだった。常にシュタルク様の顔がフラッシュバックし、頬が熱を帯びる。忘れようとしても繋がれたシュタルク様の手がそれを許さない。
そのループが無限に続き、結局一睡もできないまま朝を迎えた。
日が昇ると魔法が解け私たちの手は離れたが、
それから一週間、シュタルク様の顔を見ることはできなかった。
pixivにもあげてるので是非。