超巨大学園都市『ギヴォトス』。
数千を超える学園がそれぞれ運営する『自治区』とギヴォトスの行政を担う連邦生徒会が管理する地域『D.U.』により構成される連邦都市であり、一部では学生による銃撃戦が繰り広げられる一見危険な都市。
しかし大半の生徒は銃を所持しているだけで特に使うことはなく、普通の学生と変わらない生活を送っている。
ここ『ミレニアムサイエンススクール』の一角でも、何気ない日常が繰り広げられていた。
「クイズです!てーれん♪」
「……急にどうしたの、お姉ちゃん」
唐突に始まったクイズに、ミドリはセミナーから届いた予算通知から目を離さないまま適当に答える。
「クイズだよクイズ!ゲーム開発部たるもの常日頃からいろんなゲームに触れておかないとね♪」
「だからって唐突すぎじゃない?そんなことより、この前また部費の予算減らされちゃったんだからそのことについて話したほうが……」
「うっ……そのことはちょっと今は考えたくないっていうか、なんというか……。あ〜もう!無限にお金欲しい!って感じだよね!」
「気持ちはわかるけど雑すぎるでしょ……」
唐突に現実に戻されそうになったが、モモイはなんとか軌道修正を試みる。
「細かいことは気にしないの!じゃあ問題です、てーれん♪」
「はぁ……まあいいや」
持ち前の勢いでなんとか乗り切った(?)モモイ。
色々突っ込みたいところだったが、長引かせても面倒だし姉の適当さは今に始まった事ではないと諦め、ミドリは問題を聞くことにした。
「『この中で一番真面目なものは何でしょう。①オレンジジュース ②お茶 ③コーヒー』」
「んー何だろう……」
「へへ〜、結構難しいからねこの問題!なんたってシナリオライターであるこの私が考えt……」
「あっわかった。答えは③のコーヒーだ」
「えっ!?」
「この中で唯一豆を使っているから、『マメ』なものってことでしょ」
渾身の一問をあっさり解かれてしまい開いた口が塞がらないモモイ。
数秒後、悔しそうに地団駄を踏みながら喚き散らし始めた。
「ええ〜!?なんでそんなすぐにわかったの!?」
「なんでって言われても……ていうかそれクイズじゃなくてなぞなぞだし……」
「も〜!……まあいっか!まだ本気出してないし!じゃあ次ミドリね」
「えっ、私も出すの?」
「当たり前じゃん!ほらほら早く〜」
「えぇ……。うーん……あっ」
しばらく悩んでいたミドリだったが、そこで何かを思い出したのかニヤリと口元を歪めた。
「じゃあクイズです」
「てーれん♪」
「『終わりの始まり、宇宙の行き着く先、夢の中、愛の終わり、昨日なら見つかるけど今日には無く、羊には二つあるが山羊には与えられず、地球で最も最初のものであり聖書が最後に伝えるもの、世界のどこを探してもないが海の中にあるものはなーんだ』」
「ナニそれ!?」
いきなり出された長文問題に頭を抱え、苦悶の表情を浮かべるモモイ。
その表情を見たミドリは優越感に浸っているのか、ニヤニヤしながらモモイの回答を待っている。
「ほらどうしたのお姉ちゃん。早く答えてよ」
「わっかんないよ!もう一回っ、もう一回問題言って!メモするから!」
「ええ〜、しょうがないなぁ」
口元をニヤつかせながらもう一度問題を言い直す。
モモイは必死にメモをとるが、やはり問題が難しく答えが出てこない。
「え〜っとぉ……う〜ん……わかった!答えは『哲学』!」
「違います」
「じゃあ『純文学』!」
「ハズレ」
「だったら『考古学』だ!」
「不正解」
「も〜わかんないよぉ!」
床に倒れ降参のポーズをとるモモイ。
そんな姉の姿を見てご満悦なミドリは、嬉しそうに答え合わせを始めた。
「正解は『E』でした」
「え〜、なんで?」
「少しは自分で考えなよ……。英語にして考えるんだよ。終わりの始まりだったら『end』の始まりだから『e』っていう感じで」
「ん〜?…………ほんとだ!!」
「ふふーん♪」
姉にとの勝負に勝ちご機嫌なミドリ。そのドヤ顔はなかなか収まらなかった。
(まあ、たまたまネットで見つけた難しい問題をそのまま出しただけだけど……)
「あれれ〜?シナリオライターなのにこんな問題も解けないの、お姉ちゃん?」
「そ、それは関係ないじゃん!」
気分が良くなったミドリは、敗者であるモモイを容赦なく煽り散らかす。
そのまま二人はヒートアップしていき、ついにケンカに発展するかというところで新たな人物が現れた。
「アリス帰還しました。……? 二人とも何をしているんですか?」
「あ、アリス」
「聞いてよアリス〜!」
アリスにこれまでの経緯を話すモモイとミドリ。その話を聞いたアリスはキラキラと目を輝かせた。
「アリスもなぞなぞというのをやってみたいです!」
「お、いいね!じゃあ次はアリスが問題を出す番ね!」
「はい!うーん、どんな問題がいいのでしょうか……」
ウンウン唸りながら真剣に問題を考えるアリス。
しばらく考え込んでいたが、いい問題が思いついたのか「あっ!」と嬉しそうな声を上げ、自信満々に問題を披露し始めた。
それが回答者たちにとっての、地獄の始まりだとも知らずに――。
「それでは問題です」
「「てーれん♪」」
「『
「「えっ」」
アリスが出した問題を聞いた途端、才羽姉妹は固まった。
一見するとこの問題におかしなところは特に見当たらない。難易度もそこまで難しくないし、むしろ二人はすぐに回答を思いついた。
しかし、その思いついた回答にこそ問題があったのである。
((『札束』しか思いつかない……!))
姉妹揃って煩悩の塊だった。
先ほどお金が欲しいという話をしていたことも相まって、余計にその答えしか浮かばなかった。
(いやそんなはずはないってわかってるんだけど!)
(でもこれ以外に思いつかないし……。でもアリスがこんな問題を思いつくはずが……!?)
二人は危機感に駆られていた。アリスをいけない方向に成長させてしまったのではないかと。
汗が止まらない。暖房は付いておらず部屋の温度はそれほど高くない、また他の機械が熱を発しているわけでもないのにも関わらず、だ。
しかし冷や汗と動揺はおさまりそうにないが、それはそれとしてクイズには答えなければならない。
数回深呼吸を繰り返しできるだけ自分を落ち着かせ、意を決してアリスに回答を告げる決意を固めた。
「ア、アリス……その答えって……」
「はい?」
「……いやっ、やっぱりわっかんないな〜!アリス才能あるようん!」
「本当ですか!パンパカパーン!アリスはまた一つ、新しいスキルを手に入れました!」
決意、ブレブレだった。
盛大に日和り散らかしどうするべきか頭を悩ませていると、アリスが先にアクションを起こす。
「それでは答えを言いますね」
「「えっ!?」」
唐突に始まった答え合わせについ間抜けな声をあげてしまうモモイとミドリ。
最悪な現実を見ないようシュレディンガーの猫状態に持ち込むことに決め、慌ててアリスを止めにかかる。
「い、いや〜。それはいいんじゃないかな?」
「え?ですがモモイはさっき、答えがわからないと言いました」
「うっ、それは……」
「ミドリも答えていないですし、アリスが答えを言わないと二人ともわからないままなのではありませんか?」
「そ、そうなんだけど〜」
もし予想通りの答えが帰って来てしまったら、アリスを悪い方向に進化させてしまったことが確定してしまい、罪悪感が銃弾のように襲ってくる。
かと言って、今アリスを止める都合の良い言い訳は見つけられない。
二人はアリスを止めることを諦め全力で神に祈った。どうか違う答えでありますように、と。
「正解は――」
生唾を飲み込む音が部屋に響く。まるでこの空間だけ世界から隔絶されたかのような錯覚を覚えるほど、静寂が漂っていた。
そして訪れる、裁きの時。
アリスの答えは――。
「――『あい
「「……へっ?」」
「先ほど先生に会ったのですが、先生は会う度にアリスに「おはよう」と声をかけてくれます。ユウカやネルもよく挨拶をしてくれます。アリスも挨拶をすると、みんな笑顔で話しかけてくれるのです。そんな挨拶を貰うとアリスはとても嬉しいので、あいさつが正解です」
祈りは通じた。
アリスは無事、良い子に育ってくれていた。
一瞬呆けた後、モモイは内心ガッツポーズを決め、ミドリは泣いて神に感謝した。
これほど緊張したことは無かったと汗を拭いながら、盛大に安堵した。
「いやそうだったのか全然わからなかったしなーんにも思い付かなかったよ!」
「うん。すごくいい問題だったと思うよ、アリス」
「えへへ。あれ?ですが……」
何かに疑問を感じたのか、アリスはコテンと首を傾げる。
「この問題だと、『
「あ〜確かに!さつまいも美味しいもんね♪」
「それに『
「……う、うん。そう、だね」
((こんなにいっぱい答えあったのに、『
次々挙げられた異なる回答に、姉妹は己の煩悩を恥じた。
「……ふふっ。今日も、みんな仲良し、だね」
そんな平和な日常を一部始終をロッカーから見ていたユズは、楽しそうにその光景を見つめるのだった。
作者は"札束"、友は"諭吉"と答えた。金欲しい。