とりあえず人権を得られるように努力をしていったら成りあがって王様になる話。
「先輩、早く動いてください」
「そうは言われても全力なんだよ!」
「おっそいです」
「ちょっとまっ」
大した取り柄の無い俺が、アニマ部隊という特殊戦闘部隊へと入った理由は、シンプルに戸籍が無いからだった。この部隊に入れば一応は戸籍と人権の保障をしてくれるとのことで入ったのだが、そううまい話はない訳で。
「相変わらずすっとろいですね。戦闘訓練にもなりませんよ」
「はいはい、どうせ俺は実験の搾りかすですよ。はぁ・・・こんな足でどうすればいいんだか」
マジマジと自分の足を見つめると、そこには黒く光る昆虫のような足があった。
アニマ実験。人間と獣を合わせる禁忌の実験を当たり前のように行うここは、改造の完了と共に部隊に配属されるようになっていた。その中で本来動物と掛け合わされるようになっていたはずなのだが、俺だけはもう動物のストックがなかったそうで、その場にいたゴキブリを合わせられていた。
最初の方はまだ気持ち悪いだけで済んだが、後々に「適合率」というものが性能を引き出す大事な要素と分かり、当然虫との適合率が高い訳もなく。第三部隊のドベである。形式上同じ階級の歩兵ではあるが、こうして構ってくる後輩の森君は昇進が決まっている。
「それを考えるのがひとつの仕事でしょうが」
「そうは言ってもなぁ・・・俺ここに戸籍の為に入ったし」
「だいたいそんなもんですよ。一刻も早く通常の身分と同じレベルまで上げたいからこうして足掻いてるんじゃないですか。ほら、もう一回」
急かされて立つと、3年経っても未だに慣れない足がグキッという悲鳴を上げる。
「やっば、捻ったかも!?」
「あーもう・・・黒田先輩が足を捻ったので訓練をここで中止致します。上官へと伝えてください」
森君が空に向かってそう言うと、上から連絡用のドローンが降りてくる。100年ほど前は液晶端末が一般だったらしいが、今は専らこういう軍用のドローンでやり取りをする。と言っても個々人の端末は兵士に渡されてないと言うだけだが。
『声紋照合・・・了解しました。現在柴田中尉は会議中の為、メッセージを残しておきます』
「よろしくお願いいたします。ほら先輩行きますよ」
「悪いないつも・・・」
「そう思うなら早く昇進して安心させてください」
森君は悪態を付きながらもいつものように俺のことを医務室へと運んでくれる。
「次の作戦ではこういうへまはしないでくださいよ?」
「俺ら二人とも感知班に駆り出されるんだろ?大丈夫大丈夫。戦闘が無いなら俺は役に立てるよ。まぁ俺と言うよりも俺の触角だけどな」
ニット帽を外してまざまざと自分の触角をみて自嘲する。そう言うと、また森君はため息を付いて「いいですか?」と言葉を投げかけてきた。
「我々アニマ部隊がそれぞれの生物特性を使うのは普通の事なんです。それが能力の一つとして買われてるんですから、もっと胸張ってくださいよ。俺は耳とエコーロケーション。先輩は嗅覚。これまでもこれからもそれで頑張りましょうって」
「分かってはいるんだけどなぁ~。エコーロケーションが強すぎて俺要らないんだよな~。ぶっちゃけちゃうと」
「それは柴田中尉が違うっておっしゃったじゃないですか」
「あの人は現ほぼ最強だから体の使い方のレベルが違うんだよ」
「またそれですか・・・そろそろ着きますよ」
森君はコウモリのアニマ持ちの上に、戦闘面も優秀。適合率は75%と一般兵の適合率の1.5倍を叩き出す超優秀な兵士である。ちなみに俺は10%しかない。今回俺も呼ばれている理由に関しては【ついで】であるのが現状だ。
「ほらあとは、テーピング自分でやってくださいね」
「やるって言っても、そこのアンドロイドに頼むだけだろ?いくらなんでもそれぐらいなら出来るって」
「そう言ってやり方忘れてたの誰でしたかね!もう俺先に帰ってますからね!」
怒りながら速足でこの場から森君は去っていく。そんなことあるはずが・・・
「あっ、そういやそうだったわ。えーっと、オートモードテーピング。患部は左足首でお願い」
『了解いたしました。・・・?すいません。患部が見つかりません』
「これだ!忘れてたところ!えっと、番号指定で、503096番でお願い」
『はい、アニマ部隊番号3番の096番の方ですね。了解いたしました』
俺だけに限らず、改造によって足が変形したものは割り当てられた番号を言わねばそもそもこう言った治療などのことを受けられないのであった。
「にしても本当に口とかは人で良かったわ~。足と触角だけだから、味覚の異常とかないからなぁ~」
足のテーピングが終わりそろそろ部屋に戻ろうとすると、そこには見慣れた灰色の肌。顔にある角。そして強そうな体。それらを兼ね揃え持った人物・・・柴田中尉がいた。
「大丈夫か?黒田。足を捻ったと聞いたが、前と同じか?」
「しっ、柴田中尉!大丈夫です!」
「そうか、ならばよかった。明日の作戦に支障はなさそうだな。お前の回復力は我が部隊1だからな」
「足に限ってですけどね?」
「む?そうであったか?お前がもっと強くなれば我が部隊は盤石になる。励めよ」
「はっ!」
体だけではなく器もデカい。しかもタメ口で前間違って話しかけても怒らなかったし・・・
「やっぱ理想の上司だよな、柴田中尉」
「それ作戦始まる直前にまたする話ですかね?それ前も、なんなら昨日も聴きましたよ」
「良い話って何度でもしたくなるじゃん」
やっぱり理想の上司の話は何度でもしたくなるものだ。そんなこと無い人はきっと理想の上司に出会っていないだけなのだろうと思う。
「アホみたいなこと考えてないで配置ついてください・・・今回の作戦の復唱をどうぞ」
「えっと、狂暴化したアンドロイドの回収作業。今回は狂暴化アンドロイド集団の【マテリアルズ】が参加してくる可能性があるから、それらが居るかどうかの索敵。そしていた場合は速やかな通達と撤退。だよな?」
「抜けてますよ。退路がふさがれた場合はアンドロイド部隊2と協力してMATERIALSと応戦。その際にアンドロイドを極力接触させないことですよ」
「あ、マテどもには機械のジャックできるやついるんだったよな。忘れてた」
「そういうことです。最悪、元凶暴化アンドロイド以外全員が敵になりますよ」
「そうなったら最悪が過ぎるが・・・無いって言えないよなぁ~」
「何でもありですからね。新しい仲間を引き込んでないことを願うしかできませんね」
狂暴化したアンドロイドは基本的に、特殊な能力に目覚める。機械に関する能力の派生だが、その中でも【ハイエナ】と【コズモ】の二体の能力は特に厄介だ。ハイエナの【生存感知】は、生き残るルートの演算が何よりも得意な能力であり、多対1の時にこそ真価を発揮する同士討ちを誘発する能力である。加えてコズモの【共感】は意思のない機械を自分の支配下に置けると言う、対機械最強の能力だ。
どうやっても俺みたいなちょっと早く動けるだけの奴には応戦できない相手である。せいぜい神がいるのであれば、来ないようにしてくれと願うことしかできない。まぁこんなビルの屋上にわざわざ来るなら、爆弾の一つ投げ込んでくる程度だと思うが。
「さてと、そろそろ一度目の索敵タイミングが来るな。夜も随分深くなった。お前が部隊の目であり、耳になる要だ頼むぞ。」
「ですね。全体へ通信、エコーロケーション入れます。3、2,1,チッチッチッチッ。
全体へ通信。前衛部隊の500m先、C地点の先に5体の機体を確認、サイズはA型が2体にC型が2体。そして頭が箱型の機体を確認。危険度Sコズモの可能性あり。繰り返す。危険度Sコズモの可能性あり。」
『了解、こちら前衛班、感づかれた様子はあるか?どうぞ』
「こちら感知班、その様子は無し。どうぞ」
その時触角が、後ろからの音と異常な空気の乱れを感知した。それと同時に、機械油の匂いも感知する。咄嗟にトランシーバーを後輩から奪い取り、声を荒げる。
外れて欲しい程に嫌な想像。怒られる程度ならば幾らでも代償を払ってもいい。ただ、その嫌な予感が外れていること確かめるために、連絡を飛ばす。
「森君エコーロケーションを本隊に向けて!今すぐ!」
「ちょっ先輩!?どうし「こちら感知班!本隊に告ぐ!機械油の匂いを感知した!潜入されている可能性!」
「あぁもう分かりましたよ!チッチッ・・・!?チッチッチッチッ、まさか!?」
「そのまさかだよ」
『こちら本隊・・・聞こえているか?』
「こちら感知班!聞こえていますどうぞ!」
聞きなれない声。楽観的に想像できるのは俺の知らない新人。だが、そう楽観的にさせてくれる相手出ないことは知っている。
相手はマテリアルズ。普通に考えて軍VSテロリストならば、軍の方に武器が十分にあるのだ。負けるわけがない。ただし、その前提条件が、人数の差もあるならばであるが。今、最悪の場合人数差がひっくり返る。
『そちらの姿が目視できているどうぞ?』
「何を言ってるんだ?」「先輩後ろです!」
後ろを振り向くとそこには
あぁそうだよな。案外神様が居るならば――――
「聞こえるかい?黒田君」
「俺程度の名前をご存知なようで光栄ですよ・・・ハイエナぁ!!!」
――――俺のことが嫌いらしい。
赤い目をした凶暴化アンドロイド。ハイエナがそこにはいた。
特殊警棒を構え、いつでも後ろに跳べるように足を構える。
「ん?随分と逃げ腰だな。俺一人で本隊ぶっ壊してもいいって言うのに、わざわざこっちに来てやったんだぞ?」
「そういいながら本隊のトランシーバーを握ってるのは何でだ?」
悠長に話に付き合ってくれるならば、それでいい。一瞬でもいいからこいつが前衛班とぶつかることを遅らせられればそれほどいいことは無いからだ。それに、感知班でここにいるのは森君と俺のみ。数が少ないからハイエナの得意な土俵である多対1ではないから戦い辛いはずだ。
「ん?そりゃ奪ってきたからだよ。こう見えて変装とか得意でな~。それに俺としては無用な殺しもしたくないしな」
「それで今回の目的は?」
そう問われたハイエナは待ってましたと言わんばかりに笑顔になり、目を赤く爛爛と光らせた。
「端的に言えば、俺たちの仲間にならない?」
「え?」「は?」
「だって君ら、軍に全然忠誠心ないじゃん?」
その通りである。上司に対して感謝は有れども軍に対しては全くとしてない。だが、それが裏切りを助長する理由にならない。更に言えば、リスクとリターンが釣り合っていない。
「へぇ、ちなみになんで俺たちなんだ?他にもそういう奴らはいっぱいいるだろ?」
「そ、そうだ!俺も先輩も、戦力として見るにはお前らと比べて弱いぞ!わざわざ勧誘しにくる必要なんてないじゃないか!」
「あ~聞いちゃう?聞いちゃうルートの方だったか~。まぁ言うしかないよな。理由としてお前らが敵じゃ無くなれば0.1%勝率が上がるからだ。味方にならなくていい、今だけ敵にならないでくれればいいんだ」
「0.1%の為にわざわざ?」「先輩、こいつ騙そうとしてますよ。じゃなきゃおかしい!」
「認めたくないのは分かるんだけどさぁ・・・結構ガチだぜ?」
その表情はとても嘘を付いているように見えず、アンドロイドだからと袖にするようなことではないと考えた。
「0.1%で何が変わるのか、教えてくれないか?」
「具体的には今回のミッションの成功の有無に関わってくる。それが最終的な勝率に0.1%ほど関わる」
「従わなかった場合、俺も森君も殺すからその程度の差になる・・・であってるか?」
「まぁ、そうなるね。と言っても黒田光、一人だけだけどな」
そこまで俺重要な役割的なのあるのかよ!?そう思わずにはいられなかった。が、そんなことで嘆いていても仕方がない。聞ける情報は一旦これぐらいだろうし、俺だけが殺されるって言うなら安心だ。森君は生きて居られる。俺が裏切ったとしても、今度は軍に追われることになるわけだ。勝算はない。ならば・・・
「なら交渉は決裂だ。森君、今すぐ逃げろ。俺はちょっと前衛班の方に用事ができた」
「先輩?何言ってるんですか?逃げましょうよ!一緒に逃げれば「森!」っ!?」
「分かってんだろ?俺一人の命で片付くんだ。安いんだよ。でも足掻けるだけは足掻いてみるさ。こう見えても俺・・・ゴキブリなんだぜ?」
「先輩!待って!」
「はぁ~このルートだと高確率でこうなるんだよな。森君だっけ?命拾いしたな。大事にしろよ」
「ため息つくならもうちょっと残念がれよ」
「え?だって、こっちの方が合法的に君を引き込めるからね。それじゃ、全力で追い回らせてもらおうか!」
「鬼ごっこかよ!」
ビルの屋上から瞬間で飛び出す。そして向かいのビルの壁を蹴り路地へと一気に駆け出した。
「ひゅう!やるねぇ~。俺も急ぐか!」
「同じ速度で来るなよ!仮にも直線なら時速120kmは出るんだぞ!」
腕部のワイヤーアンカーで壁伝いに追いかけてくる。しかも、入り組んだ路地を巡っているはずなのに、そこさえも上を使うことで振り切らせない。まるで思考が先読みされてるみたいだ!
「そんなにすっとろいと、こんなことも出来ちゃうぜ?」
「っっつ!?ちょっと待て!?銃かよ!」
音がした瞬間に、咄嗟に横にそれたが耳元を銃弾が掠り、血が噴き出る。振り返る暇もないまま、銃声が何度も響き渡り、近くを弾が通過する。
「そ~ら逃げろ逃げろ!」
「最悪だよ!」
だが、本隊の方と離れたほうへ行けているはず・・・っ!?
見えた光景に思わず立ち止まらずにはいられなかった。なぜならばそこは、離れていったはずのCだったからだ。
「黒田ぁ!何があった!なぜ、ハイエナがお前の後ろに立っている!」
「え・・・柴田・・・中尉!?どうしてここに・・・!?」
「ん?そんなこと決まってるだろ?黒田が裏切ったからだよ」
振り返ると、にんまりとした表情をして、赤黒い瞳の色を浮かべながらハイエナはそう言い放った。
「そうか、お前だったのか!!!」
「ちょっと待て!何を言って」
「じゃなきゃコズモがここに来ることも、俺がここに立っていることもおかしいだろ?」
「そんな、そんなことがあるはず」
「黒田!貴様ぁああああああ!!!」
柴田中尉が全身を獣化させて突進してくる。それに反応できずに、俺は、俺は、俺は!!!
「ありがとうな黒田君。君のお陰でこいつが殺せる」
大きな銃声が響いた――――音がしない。
後ろを見るとハイエナが笑って銃を返すように手を差し伸べた―――俺は何も持っていないはず。
右手がやたら重たい―――なにがあった?
赤い、手が、中尉の胸元が―――中尉がどんどん青ざめていく
胸元に弾痕が―――いったい誰が
俺だ。
「おめでとう。君はこれからマテリアルズの仲間入りだ。よろしくな?相棒」
「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”」
俺はそこで最高で最悪な相棒と出会ったのだった。