イベスト後時空でセオドリクの株をなんとか上げられないかとこねくり回した話   作:秋雨涼雷

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注意書き

★この小説は、10周年イベントストーリーのネタバレがあります。
★イベントストーリーを読んで衝動的に書いたため、いろいろと雑なところがあると思います。
★セオドリクとサブリナに焦点を当てたため、その二人がガッツリ出てきます。アブラメリンはでてきません。
★筆者自身はアブラメリン一家は好きです。
★サブリナを引けてないのでフェイトエピソードを読めてません。
★オリジナル星晶獣が出ます。
★独自解釈や、独自設定が含まれます。
★話の都合上、厳しい描写をされているキャラクターがいますが、筆者は彼女も好きです。また、アンチやヘイトといった意図はありませんが、そうとられかねないため念の為タグをつけております。
★途中で嫌だな、と思ったらブラウザバック推奨です。


以上のことがよろしければ、そのままスクロールをどうぞ!




 とある空域、騎空艇グランサイファーの甲板にて。

 

 物資の補充のため、近くにある島に寄港することになったグランたちの騎空団は、ある人物が珍しい表情をしているのに出くわしていた。

 件の人物、いつも頼りになるグラン達の大先輩である男。その名をイングヴェイ。その昔は自分の騎空団を率いあらゆる空域を旅した歴戦の猛者ともいうべき騎空士である。

 実力は超一級。人生の先達としてグランや他の団員たちに助言することも多く、オイゲンと並んで頼りになる人物だ。女癖を除けば。

 

 そんな男が今、島への寄港を決めたグランたちの前で、珍しく何かを言い淀んでいる。その様子に、グランだけでなく、近くにいたラカムまでもが気を取られている。

 

「何といったもんかねぇ……」

「どうしたの?」

「いや。これから向かう島のことだ」

 

 尋ねれば、そんな返答が返ってくる。島のこと、というからには、イングヴェイは寄港したことがあるのだろう。

 さては厄介事でもあるのか。自慢ではないが、寄る先々で様々な事件に関わる一行である。ましてやあのイングヴェイが言い淀むほどだ。どんな厄介事が待っているのかと身を固くすれば、それを察したのか、イングヴェイは片手をあげてそれを制してくる。

 

「なに、島自体はいたって平和な島だ。あんまり繁栄しちゃあいないが、島民は穏やかで気候も安定してる。ここ最近何か問題が起こったって話も聞かない」

「なんだぁ? だったら何だってそんな変な顔してるんだよ?」

「何か心配事でもあるんですか?」

 

 赤き竜や蒼の少女が続けざまに尋ねれば。このままこうしても仕方がないと思い至ったか、イングヴェイはその口を開いた。

 

「本来ならお前たちの冒険に口をはさむのは趣味じゃないんだが、これは心構えの話だ。あの島に立ち寄るなら、覚悟だけはしておけ」

「覚悟って?」

「さぁな。そこまで語るのは野暮ってもんだ」

 

 そういって、イングヴェイはそのまま騎空艇の中へと入っていってしまった。後に残されたのは何が何やら分からない者たちばかり。

 

「結局何だったんだ……?」

「さぁなぁ。いろいろあんだろうよ」

 

 ラカムが思わずこぼした言葉に、オイゲンが返す。だが、何か心当たりがあるのか、その瞳はイングヴェイが去っていった先をずっと見つめ続けていた。

 

 そんな時だ。

 

「悪い、ちょっといいか?」

 

 話しかけられた先を見れば、そこには最近騎空団に入った姿があった。燃えるような赤い髪を靡かせた女性は、その周囲で嬉しそうに走り回っている少女を見ながら、笑顔のままこちらへ話しかけてくる。

 

「物資の補充をするなら、オレにも何か手伝わせてくれないか」

「うん? そりゃ構わねぇけどよ、良いのか?」

 

 ビィの言葉には、言外に目の前の女性への気遣いが含まれている。ポート・ブリーズで起こった先の騒動の際、その渦中に居たのは間違いなく彼女なのだ。紆余曲折あって騎空団に入ることになったが、経緯が経緯だけに彼女を気遣うものも少なくない。

 

「あぁ。いつまでも船の中にいるわけにもいかないからな。それに……」

 

 そういって、サブリナは甲板を走り回る少女、フェニーを見つめる。その瞳には、少女に対する親愛の情が見て取れた。

 

「フェニーと散歩がてら、街の見物でもしてこようかと思ってるんだ」

「そういうことなら」

「ありがとな、団長」

 

 グランが許可を出せば、サブリナはフェニーの名を呼ぶ。駆け寄ってきた少女に外出の件を告げれば、少女は歓喜の声をあげるだろう。

 

「やったぁ! サブリナと一緒にお散歩なんだよ!」

「こら、優先するのは物資の補充だからな」

「うん! 一緒に物資の補充をするんだよ!」

 

 にこやかに笑う少女に対し、サブリナもまた、笑顔で返す。フェニーはそのまま嬉しそうに甲板を走り回り、サブリナはそんな少女に注意しながらゆっくり追いかけていく。

 新しい団員たちのそんな様子に、グランたちは誰からともなく笑みをこぼすのであった。

 

 

                  ★

 

 三日後。

 

 予定通り、グランサイファーは島へと寄港する。こじんまりとした港には他に船はなく、初老の男性が一人、寄港した騎空団を出迎えてくれた。

 聞けば、この島に唯一ある街の長だという。彼に物資の補充の件を伝えれば、快く了承され、街まで案内もしてくれるという。

 

「何もない島ですが、気のすむまでどうぞ」

「ん? お前……」

 

 そんな話をしていれば、後ろから声がかかる。振り返れば、そこにはイングヴェイの姿があった。

 イングヴェイは男性を見つめているようで、男性の方もイングヴェイを見つめていささか目を瞠ったようだ。

 

「もしかして、イングヴェイか……?」

「あぁ、俺だ。イングヴェイだ。久しぶりだな」

「知り合い?」

「あぁ、昔な」

 

 旧友なのだろう。イングヴェイはその男性からの誘いで街へと同行することになった。サブリナやフェニーの他、何人か物資の補充のための人員を連れて、グランたちは島唯一の街へと向かう。

 

 未だに、必要な覚悟とは何なのか、グランたちには分からなかった。

 

 

                    ★

 

 

 イングヴェイのいう通り、あまり発展している街ではなかった。物資の補充も行える店舗自体が少ないためか、容易に終わることだろう。いろんな店を探して右往左往することもないのだ。

 グラン達と早々に分かれ、サブリナとフェニーは自分たちに任された物資を探している。渡されたメモ書きに記されている品数は、そこまで多くはない。気を遣われていることを察して、サブリナは苦笑した。

 

「サブリナ! こっちの方すごいんだよ!」

「あ、フェニー! あんまり走らないで!」

 

 人込み、といえるほど多くはない人の波をかき分け、フェニーはかけていく。サブリナもまた、そんな彼女を追いかけてついていくことだろう。

 とはいえ、だ。少女であるフェニーと大人の女性であるサブリナでは、体の大きさが違う。そこまで人が多くない街とはいえ、神出鬼没とばかりにいろんな場所へ行きたがるフェニーを追いかけていれば、サブリナの体格ではどうしても人にぶつかりそうになることも多かった。

 

 すでに何度か人にぶつかりかけては謝って、フェニーを必死に追いかける。が、いつの間にか彼女の姿を見失ってしまったことに気づいたのは、どれくらい経った時だったか。

 遥か昔の記憶。6000年前の記憶が、『ファルハナ』の記憶が叫ぶ。昔もこうやってフェニーを探したことを思い返して、少女が自分のもとに帰ってくることを知っていて、それでも心配なのだと叫んでいる。

 

「フェニー! フェニー!!」

 

 名前を読んでも、返答はない。帰ってくる、帰ってこれるといっても、それはフェニーが自分で動ける場合だ。

 万が一、何か不測の事態に巻き込まれて動けなくなっていたら。そんな嫌な想像をしながら、少女の無事を信じて叫ぶ。

 

 だが、どれだけ探しても見つからない。もしかしたら先に騎空艇に戻ってしまったのか。そんな事を思ってしまうが、記憶が否と告げてくる。少女が戻ってくるならば、間違いなく自分のもとなのだと、だから探せと告げてくる。

 

 街中を探し回って、どれくらい経っただろうか。このまま闇雲に探してもどうしようもない。ここは団長たちと合流した方が良いだろう、と頭の中の冷静な部分がささやく。

 幸い、街には他の団員も多くいるのだ。彼らを探して協力してもらえば、すぐに見つけることができるだろう。

 

 そう思いたち、踵を返す。だが、その突然の方向転換の所為か、後ろから歩み寄っていたその人物に気づかなかったサブリナは、そのままその人物とぶつかってしまった。

 

「っと、悪い、大丈夫か」

 

 反射的に声をかける。

 

「あぁ、問題ないよ。君の方こそ大丈夫かい? だいぶ顔色が悪いみたいだ」

 

 次いで返されたその言葉に、いや、その声に、息が詰まる。

 

「は……?」

「うん? 僕の顔に何かついてるのかい?」

「なん、で……」

 

 目を瞠る。何故、どうして。頭の中がぐちゃぐちゃとうるさい。だって、ここにいるわけがない。

 目の前の彼が、ここにいるわけがない。目の前の彼が、自分にこうして声をかけてくるわけがない。

 

 だって、なぜならば、彼は――

 

「そんなに見つめられても、困るのだけどね。久しぶり、というほどでもないのかな」

「セオ、ドリク……?」

「また会えたね、サブリナ」

 

 ――ラドリス王国第一王子、セオドリクは、先のポート・ブリーズで起こった騒動の際、サブリナが自身の手で切り殺してしまった相手だからだ。

 

 

                    ★

 

 

 それから。腰を落ち着けて話をしたいというセオドリクの言に従い、サブリナは彼の案内でこじんまりとした喫茶店へと訪れていた。

 慣れた様子で注文を済ませた彼の姿を見ながら、サブリナも注文を終わらせる。あまり時を待たず注文された品が届き、それを一口含んでから、セオドリクは口を開いた。

 

「さて、何から話したものかな」

「何からって、それは……」

 

 言われて、サブリナもどうしたらいいものか分からない。目の前の人物は、間違いなく自分が殺してしまった相手だ。あの騒動の中、激情のままに剣を振るってしまい、その命を奪ってしまった相手だ。

 そして、自分の婚約者でもあった。騎士団長として仕えた国で、幼馴染として過ごし、結婚の約束をした相手だ。フェニックスの策略による婚約だと知ったが、それでも、サブリナが惹かれていた相手である。

 

「……そうだね。僕も、死んでまで君を困らせるつもりはなかったのだけど」

 

 そういって、セオドリクはサブリナを見つめる。何かを見透かされたようなその瞳に、知らず、サブリナは息をのむ。

 

「うん。まずは僕のことを話した方が良いかな」

「そ、そうだよ! なんでこんなところに……」

 

 その言葉は、いろんな意味が内包されたものであった。どうして生きているのか。確かに死んだはず。生きていたとして、どうしてラドリス王国にいないのか。そして、どうしてサブリナの前に姿を現したのか。

 その意味を正確にくみ取ったのか、セオドリクはゆっくりと口を開く。

 

「僕がここにいるのは、サブリナが助けを求めたからだよ」

 

 そう話す彼の瞳は、まっすぐにサブリナを見つめている。それは、どこか懐かしさを感じる瞳であった。

 だが、それ以上に分からない。助けを求めたから来た、と彼は言った。

 

 いったい、いつ?

 

「心当たりは、ないようだね」

「当たり前だろっ、だって、オレは……」

 

 その先の言葉が、出てこない。いうべきことは分かっているのだ。だが、どうしても、口をついて出てこない。

 思い返せば、何度も何度も、その鮮明な記憶がよみがえるのだ。サブリナは、叫びだしそうな声を抑え、頭を抱える。

 あぁ、嫌だ。ここはダメだ。これ以上ここに居てはいけない。早く立ち去らないと。フェニーを探さなければ。でなければ、自分は――

 

「『サブリナ』、僕と話をしよう」

「っ!」

 

 ぐちゃぐちゃな頭の中に、スッとセオドリクの言葉が降ってくる。思わず彼を見れば、穏やかな笑みを浮かべた彼が、ジッとサブリナを見つめている。

 何故だか気恥ずかしくて、まだ一口も口をつけていない珈琲を見る。暗い鏡に映った自分は、とてもひどい表情だ。こんな顔で外に出ては、心配させてしまうかもしれない。

 

「大丈夫。ここにいるのは僕と『サブリナ』だけだから」

「え……?」

 

 言われて周りを見渡せば、店主や他の客の姿がない。いつの間に人払いを済ませたのだろうか。

 

「話したいことがあるのだろう? 言いたいことがあるはずだ。大丈夫、僕は他の誰でもない、『サブリナ』の話をきちんと聞くから」

「セオ、ドリク……」

 

 ストン、と。セオドリクの言葉が、思っていたよりも素直に鼓膜をたたく。頭の中でガンガンと鳴り響く叫びが遠のくのが分かる。

 

「……オレは、お前に助けて欲しいなんて、言ってない」

「いいや、サブリナは助けを求めた。僕がここにいるのがその証拠だ」

「オレがお前に助けてほしいなんて言えるわけがないだろ!!」

 

 叫ぶ。先ほど口から出なかった言葉が、堰を切ったように出てくる。

 

「オレは、お前を殺したんだぞ! 生まれた国の王子で、幼馴染で、婚約までしてたんだ! そんなお前を、オレは殺したんだよ! あの時は頭の中ぐちゃぐちゃで、知らない記憶が流れ込んできて、メリンやフェニーがいて、でも、お前が、フェニーを斬って……」

「……」

「怒りで頭の中が真っ赤になって、それで、気づいたら、オレはお前を斬ってたんだ……」

 

 うなだれる。自らの罪を、業を、目の前の人物に懺悔するように、サブリナは首をたれる。

 

「それで、死にかけのお前に近寄りもしないで、フェニーのことばっかりで……そのあとは、メリンが死にそうになって、やっぱりそっちのことばっかりで……お前のことは、結局最後だった……」

「……」

「騎士団長だぞ、幼馴染だぞ、婚約者だぞっ!! オレが、好きな相手だったんだぞ……」

 

 目頭が熱くなる。テーブルクロスにぽつぽつと浮かび上がるシミは、勢いを増すことはなく、静かにその数を増していく。

 

「自分で斬っておいて、看取りもせずに、オレはお前を放っておいたんだ……そんなオレが、お前に助けを求められるわけ、ないだろ……っ!」

 

 最後は、絞り出すように。サブリナは心の内を吐露する。

 

 

「良いじゃないか、助けを求めたって」

「え」

 

 だから、聞こえてきたそんな言葉に、思わず顔を上げたのだ。セオドリクは、変わらずサブリナを見つめている。

 

「助けを求めるのは、誰にだってできる権利だ。それは強者も弱者も関係ない。もちろんその助けを求める声に応じるかどうかは相手次第だけれど、でも、逆に言えば応じるか否かの権利は応じる側にある」

「そ、れは、そうだろうけど……」

「死んでしまったからかな、どこかすっきりしてるんだ。思えば、生前の僕は考えすぎていたのかもしれないね」

 

 自嘲気味に笑う。そんな彼の言葉に、思わず笑みがこぼれる。

 

「なに言ってんだよ、考えすぎてあんなことしでかしといて」

「確かに、どの口が言ってるんだろうね」

 

 あの騒動を経た今。セオドリクとこのように穏やかに話せるとは、微塵も思っていなかった。そもそも相手は死人だ。話す機会さえ与えられないと、墓前にさえ行かせてもらえないと、それこそが自分への罰なのだと、そう思っていたのだ。

 なのに。今、何の因果か二人っきりで話している。それも、思っていたよりも、心が穏やかだ。

 

「落ち着いたようだね、サブリナ」

「あぁ、おかげさまでな」

 

 心が安らぐ。国を追い出されて以降、サブリナにとって心が安らぐ時間は少なかった。あの少女が傍にいる間はともかく、一人でいるときは、いろんなことを考えすぎてしまう。

 だが、今この時間は、どこか懐かしい彼との語らいは、少女とともにいる時とは違う穏やかさを抱かせる。

 

「さて、落ち着いたところで話をしようか」

「うん? あぁそうか。オレが助けを求めたから来た、って話だったよな」

「そうだね。だから僕はここに来たんだから」

 

 そういって、彼はまた、懐かしい顔で笑うのだ。

 

 

 

 

                    ★

 

 

 

「サブリナ! サブリナ!!」

 

 一方で。

 

 フェニーはサブリナの外套を掴み、必死に呼びかけていた。だが、サブリナは心ここにあらずといった表情で対面の虚空を見つめており、フェニーへ返事を返すことはない。

 こうなったのは、フェニーがサブリナとはぐれている時だった。彼女のもとに戻ってきたときには、すでにサブリナはこの状態だったのだ。

 

 さらに、フェニーを慌てさせるのはそれだけではない。

 

「サブリナも、島の人たちも、どうしちゃったんだよ……!」

 

 喫茶店には、島民と思しき人々が訪れていた。それぞれ椅子に座り、虚空をずっと見つめている。フェニーがここでサブリナを見つけた後、続々と訪れた彼らは、一様に同じ行動をとっているのだ。

 

 そもそもの話。

 

 そこは喫茶店というには殺風景であった。一つの机に二つの椅子が置かれ、カウンター席のような物はない。というより、あるのは机と椅子だけだ。店の外には喫茶店の看板が掛けられていたが、内装だけではそうと思えないだろう。

 

「サブリナ! サブリナ!! ……ファルハナ!!!!」

 

 そんな状況で、フェニーは必死に呼びかける。だが、いつだって優しくフェニーを見つめ、その名を呼んでくる彼女は、ピクリとも動かない。

 

「やめろ、無駄だ」

 

 そんな折、喫茶店に入ってきたのは、グランたちをつれたイングヴェイだった。物資調達にきていた他の団員も何人かいるようで、異様な光景に驚いている。

 

「おじさん、なにか知ってるの!? ファルハナが、サブリナが動かないんだよ!」

「知っている」

「なら、助けてほしいんだよ!!」

 

 フェニーの言葉に、イングヴェイは何も返さない。その視線は、店の奥で、他と同じように虚空を見つめる旧友に向けられている。

 

「団長、覚悟をしておけと、俺は言ったな」

「……」

「お前はどうする。団員が、艇を降りると言ったなら」

 

 旧友を、かつての己の部下を見つめながら、イングヴェイはグランを見つめた。

 

 

                   ★

 

 

「この島には、古い言い伝えがある。話したい奴と話せるという言い伝えだ」

「なんだそりゃ? それがこの状況とどう関係があるんだよ」

「まぁ落ち着いて聞こうや」

 

 ラカムのボヤキを、オイゲンが諫める。その後、イングヴェイが語ったのはこんな内容であった。

 

 曰く、この島では、毎日決まった時間に島民たちがこの喫茶店に集まり、こうして虚空を見つめるのだそうだ。それ以外の時間は普通に過ごしており、何の問題もない。

 だが、話したい相手、というのが死者も含むとなると、かってが違う。それはつまり、もう会えるはずのない相手と会うことができる、という事である。

 もう二度と会えないと思っていた相手と出会う。そして会話ができる。

 それは、失ったものが大きいものほど、そして、心に大きな傷を負っているものほど、縋り付きたくなるものだ。

 

 つまり、この島は。

 

「ここの島民は、みんな死人と会話してるってのか……?」

 

 呆然と、ラカムが呟く。他の団員たちも、各々の感情を抱きながら、喫茶店に集まる島民たちを見つめる。

 

「でもよう、ならなんでフェニーは大丈夫なんだ?」

 

 ビィの疑問は、事情を知る団員達からすれば当然の物であった。サブリナが傷ついている、というのは分かる。あの騒動では、一度フェニーが息絶え、そしてアブラメリンまで亡くなってしまった。騎空団の中では気丈にふるまっているが、傷ついていないわけがないのだ。

 だが、であるならば、同じように傷ついているはずのフェニーがこうして意識を保っているのは何故なのか。彼女もまた、アブラメリンと会いたいはずなのだ。

 

「詳しくは知らん。だが、誰も彼もが無条件で死者にあえるわけではないらしい」

「……」

「俺の艇に乗っていたアイツも、深く傷ついた奴だった。一緒の艇に乗っていた一人娘を亡くしてな」

 

 イングヴェイがそんなことを語るが、どこか落ち着かない様子を見せている。普段の泰然自若とした彼とは違うそんな様子に、グランは思わず問いかけた。

 

「どうかした?」

「いや。以前の時より、長いと思ってな」

 

 空の彼方に日が沈みゆく中、イングヴェイはそう呟いた。

 

 

                   ★

 

 

 他愛のない話をした。子供のころの話をした。初めて会った時の話をした。

 

 セオドリクとの会話は、思っていた以上に穏やかなものだった。正直なことを言えば、恨み言の一つや二つは言われると思っていたのだ。

 だが、目の前の彼は恨み言一つ言わず、それどころか、穏やかな笑みを崩さずにサブリナと会話する。

 

 だから、その言葉は、思っていたよりもすんなりと口から飛び出した。

 

「ごめん」

 

 会話の中の、ふとした拍子。一瞬の間。

 そこに差し込むようにして、サブリナはその言葉を告げる。

 

「ごめん、ごめん、ごめんなさい」

 

 告げてしまった言葉は、飲み込めない。それどころか、さらなる奔流となって、次から次へと紡がれていく。

 

「どうして謝るんだい?」

「だって、お前が死んだのは、オレのせいじゃないか」

 

 あの騒動が起きた原因は、6000年前の再会の約束。サブリナの前世であるという女性と、6000年を生きたその夫、そして900年飛び続けた娘が紡いだ、恋物語。

 それだけが目的だったのかはわからない。だが、少なくとも、その約束を果たすために、アブラメリンとフェニー、そしてサブリナはあの場所へ集められた。

 

 であるならば。

 

 セオドリクが死んだのは、その約束のためで。つまりはサブリナにファルハナの記憶を取り戻させるためで。

 そんな約束がなければ、セオドリクが死ぬことは、なかったのではないか。

 

「オレが、オレさえ居なければ、お前は死ななかったじゃないか」

「……」

「オレが『ファルハナ』じゃなければ……!」

「君は『ファルハナ』じゃない」

 

 悔恨を吐露するサブリナに告げられたのは、そんな言葉だった。

 

「……は? そんなわけないだろ、オレには『ファルハナ』の記憶があって、メリンやフェニーたちのことも覚えてて」

「僕はそんな人のことは知らない。僕の目の前にいるのは、僕の幼馴染で、騎士団長で、婚約者だった女性だ」

「で、でも、オレはファルハナだって、メリンやフェニーが」

 

 セオドリクの力強い言葉に、サブリナは弱弱しく反論する。だが、彼はそんな言葉など意に介さぬように、サブリナを見つめて口を開く。

 

「君は、君自身のことをサブリナだと思っていないのかい?」

「っ!?」

 

 思いもよらぬ言葉だった。

 だって、記憶がよみがえってからは、自分はファルハナなのだと思っていた。アブラメリンやフェニーに抱く愛情はホンモノで、だからこそあの場で自分はセオドリクを斬ったのだ。だからこそ、自分はこうしてアブラメリンの骨を――

 

「キミじゃない。『サブリナ』、僕は君に聞いている」

 

 目を見開く。いつの間にか、セオドリクは席を立ち、サブリナの横に立っている。

 

「ラドリス王国騎士団長、サブリナ」

 

 かつての肩書。国のために鍛えた力で上り詰めた、自分で勝ち取った地位。

 

「僕の知る君は、いつまでも泣きじゃくるような弱者ではないはずだ」

 

 ――ぴしりと、何かが割れるような音が聞こえた気がした。

 

 

                  ★

 

 

「それはおそらく、星晶獣ブラギです」

 

 そう語るのは、異変を察知した団員の一部が、グランサイファーから呼んできた一人の天司だ。名をラジエル。神秘を集める役目を帯びたもの。

 

「ブラギ?」

「はい。ブラギには、直接的な戦闘能力はありません。ブラギに与えられたのは、対話する、というただそのためだけの力です」

 

 彼女曰く。

 ブラギは、対話を求めるものと対話することそのものが能力なのだそうだ。だが、直接話せるわけではなく、対話相手の意識を一時的にブラギの操る別空間――単純だが、意識空間とでもいうべきか――に呼び寄せ、そこに呼び寄せられた人々が対話したい相手の姿を借りて対話するという。その際、呼び寄せられた人々の記憶を読み取っているため、会話の内容に違和感を覚えることはないらしい。

 

「でも、星晶獣の気配は、どこにも……」

「おそらくは、酷く弱っているのでしょう。もう自分で意識空間を閉じることもできないのかもしれませんね」

 

 だから、サブリナや島民たちは目覚めないのだと、ラジエルは語る。ブラギは本来、決まった時間に対話を開始し、決まった時間にその対話を終える星晶獣なのだそうだ。

 

 あれから、数時間が過ぎていた。日はとっくに沈み、このまま座らせておくわけにはいかないと、団員総出で人々を横にする作業もあった。

 

「それじゃあ、このまま放っておくしかねぇってのか!?」

 

 ビィが叫ぶ。サブリナの近くで彼女を見つめていたフェニーが、びくりと肩を震わせる。

 

「……方法は、あります」

 

 そういって、ラジエルは自らの書物を開いた。あの騒動において、エンジェリングガンというどう見ても本に収まりきらない質量の物が出てきたそれからは、一つの瓶が取り出される。瓶の中には、少量の液体が入っていた。

 

「それは?」

「ある島の集落に伝わる霊薬です。曰く、この霊薬を飲めば、望んだものと会話ができるのだと」

「!!」

 

 告げられた言葉は、今の状況と似通っていた。言葉を聞いた誰もが、その霊薬とブラギの関係を疑うだろう。

 

「お察しのとおり、これを使えばブラギの意識空間へと訪れることができます。とはいえ、肉体のままではなく、この霊薬を使った方の意識だけが、意識空間へと送られる形ですが」

「じゃあ、それをつかえば」

「えぇ。ブラギと話をすることができるでしょう」

 

 そこまで語り、ラジエルは目を伏せる。

 

「ですが、今、ブラギの意識空間を訪れることは推奨できません。訪れることは霊薬を使えばできますが、帰還する方法がわからないからです。ブラギが自分で意識空間を閉じることができるなら、帰還することもできますが……」

「だったら、私がブラギと契約すれば……!」

「可能性はあるかもしれませんが、確証もありません」

 

 沈黙。重苦しい雰囲気が流れる。

 事はサブリナだけではない、このままではこの場にいる島民が衰弱死してしまう。ブラギ本体をどうにかしようにも、意識空間は謎の多い場所だ。下手に外部から閉じようとすれば、どうなることか。

 

 なにより。

 

「ブラギの意識空間の中では、認識できるのは自分とブラギだけです」

「なんだそりゃ。じゃあ他の奴らはどこに行ったんだよ?」

「そこに居ます。ですが、認識できません」

 

 ブラギと対話するための空間なのだから、それ以外に意識がいかないようにされているとのことだ。故に、意識空間の中では、そこに他者がいると分かっていても認識ができないらしい。

 そんな状態では、サブリナを助けるために意識空間に訪れたとして、彼女を見つけることはできない。

 

「でも」

「!」

「なにもやらないわけには、いかない」

 

 ラジエルを、その手に握られた霊薬を見つめる。グランの意志は他の団員たちにも伝わったのか、各々がそれぞれにできることをしようと動き出す。

 

「そうですよね! 私、ブラギを探します!」

「よっしゃあ! じゃあオイラはグランと一緒に……」

 

「フェニーがいくんだよ!」

 

 ビィの言葉を遮るように、その声は響いた。視線を向ければ、いつの間にやら、グランの傍にフェニーが立っている。

 

「フェニーなら、サブリナの場所が分かるんだよ!」

「! 魂を見分ける瞳、ですか」

 

 確かに、それならば。何せその瞳は元はフェニックスのものと言っても過言ではない。欠片程度の力とはいえ、弱ったブラギの意識空間内ならば、容易にその力を使えるだろう。

 

「……分かりました。では、こちらを」

 

 ラジエルから、霊薬を手渡される。使用方法は単純。規定量を飲むこと。

 

「確認です。戻ってこられる保証はありません。それでも、行きますか?」

「もちろん」

 

 力強くうなずけば、止めることはできないと悟ったのだろう。ラジエルは、呆れたようにため息をつく。

 

「短い付き合いですが、なんとなく、貴方という人が分かってきた気がします、特異点」

「ありがとう」

「褒めてませんよ」

 

 苦笑し、手渡された霊薬をあおる。隣りでは、同じように霊薬を飲むフェニーの姿。

 すぐに訪れた眠気に身を任せ、グランは意識を落とした。

 

 

                    ★

 

 

「……やれやれ」

 

 セオドリクは、ゆっくりと立ち上がる。彼の座っていた席の向かいでは、サブリナが静かに寝息をたてていた。セオドリクの物であろう白い外套が彼女にかけられ、その体を冷やさないようにされている。

 

「何か御用かな、お客人」

 

 サブリナを背に、セオドリクは虚空をにらみつけた。途端、その虚空からにじみ出るように、人影が現れる。

 それは、あのポート・ブリーズで出会った二人。創世神の力を得るという騎空団の団長と、ナナシと名乗った少女。

 

「セオドリク王子……!?」

「サブリナ!!」

 

 グランは驚きに目を瞠り、フェニーはセオドリクの後方に控えるサブリナへと一目散だ。だが。

 

「おっと、それ以上我が伴侶に近づくのはやめてくれないかな」

 

 一閃。剣を抜いたセオドリクが、フェニーへと振るう。その攻撃はわざと当てないようにされたようだが、フェニーの足を止めるには十分だった。

 グランも武器を構え、セオドリクに対峙する。だが、セオドリクは攻撃を仕掛けてくる様子がない。あくまでグラン達を足止めしたいらしい。同時に、一瞬顔をしかめていた。

 

「……ここに来たということは、僕のことも分かっているんだろう。君たちには僕の対話は必要ない。帰ってくれないか」

「嫌なんだよ! 帰るなら、みんな一緒なんだよ!!」

 

 セオドリク、いや、ブラギの言葉に、フェニーが反発する。当然だ。フェニーはサブリナを迎えに来たのだから。

 グランとて、このままではサブリナや島民たちが大変なことになる。それを解決しないことには、たとえ帰ることができたとしても、帰るつもりはなかった。

 

「みんな、か」

 

 彼はまたも顔をしかめる。が、それも一瞬のことで、すぐさま温和な笑みを浮かべるだろう。

 

「申し訳ないのだけど、彼女は大事な対話の途中なんだ。邪魔をさせるわけにはいかない」

「!」

 

 相手の動きに反応して、グランが構える。フェニーもまた、サブリナにたどり着くためには無視ができないと悟ったらしい。彼を注意深く見つめつつ、どうにかサブリナへたどり着けないか探っている。

 

「ここは通さない。部外者は、即刻お引き取り願おう」

 

 

                   ★

 

 

 

 暗い、暗い、暗い、暗い。ここはどこなのか、わからない。周囲を見渡しても、何もない。ただひたすらに、暗い暗い何かが広がっている。

 そんな場所で、向き合う影が二人。

 

「はじめまして、っていうのもおかしいかな」

「そうだな、変な気分だ」

 

 片方は、燃え上がるような赤い髪の女性、サブリナ。元ラドリス王国騎士団長にして、その国母となるはずだった女性である。

 

 そんな彼女は、目の前の女性と苦笑しながら言葉をかわす。まるで十年来の親友同士かのように、彼女らは言葉を交わし合う。

 だが、彼女たちは親友などではない。どころか、そもそも他人というのもおかしな話かもしれない。

 

「まぁ一応顔を合わせるのは初めてか。じゃあやっぱりはじめましてかもな」

「えぇ、そうかもね」

「はじめまして、『ファルハナ』」

 

 白銀の髪、金色の瞳。そして、額に生えた特徴的な一本角。

 アブラメリンの妻にして、フェニーの母親。そして、サブリナの前世である古代人類、ファルハナの姿がそこに在った。

 

「いやぁ、吃驚しちゃった。まさか自分と会話できるなんて思いもよらなかったからさ」

「それはオレもだよ。でも、話はしてみたかった」

「ふふ、実はわたしも」

 

 互いに言葉を交わし、笑みを浮かべる。前世と現世とはいえ、同じ魂同士が話をできるなど、思いもよらなかった。

 だが、これは、必要なことなのだ。

 

「オレは『サブリナ』だ」

「わたしは『ファルハナ』だよ」

 

「オレは、ラドリス王国で生まれた」

「わたしは、今でいうポート・ブリーズのある場所で暮らしてたんだ」

 

 違う。

 

「オレは剣の腕を見込まれて、騎士団長に抜擢された」

「わたしは仲間たちとこの広い空を冒険していた」

 

 違う。

 

「オレの髪は生まれつき赤いんだ」

「わたしの髪は生まれつき白いんだよ」

 

 違う。違う。

 

「オレは、セオドリクと幼馴染だった」

「わたしは、アブラメリンと一緒の船に乗っていた」

 

 違う。違う。違う。

 

 こんなにも違う。同じ魂でも、こんなにも、サブリナとファルハナは違う。

 

「わたしは、アブラメリンを愛していた」

 

 だから、これは必要なのだ。

 サブリナがサブリナであるために。ファルハナがファルハナであるために。

 

「オレは、セオドリクに求婚されたとき、嬉しかった……嬉しかったんだ」

 

 同じ魂であるからこそ。彼女たちは対話しなければならなかった。

 

「オレは、オレは……好き、だったんだ、セオドリクのことが」

 

 ファルハナが手を伸ばす。サブリナもまた、彼女に手を伸ばす。

 

 それぞれの体に手を回し、彼女らは、きつく抱きしめ合った。

 

 

 

                   ★

 

 

 妙だ。グランは、ずっと違和感を覚えている。

 

 何度も攻撃をしかけ、同時に、何度も反撃にあった。グランの攻撃は時折鋭い一撃を与えるが、しかし、彼――便宜上ブラギ・セオドリクとするが――の一撃はグランは愚かフェニーを捉えることすらない。

 

「あの時より、弱い……?」

「当然だとも」

 

 息も絶え絶え、といった様子のブラギ・セオドリクは、そんなことを言って笑う。

 ブラギのこの姿は、サブリナから読み取ったものだ。サブリナがよく知る彼の物だ。

 

 サブリナの知る彼は、超常的な力など持ち合わせてはいない、普通の人間だ。

 

「だから、僕の力は君たちに届くことはない。君たち強者に、僕は敵わない」

 

 それでも、とブラギ・セオドリクは立ち上がる。そうして、荒く息を吐きながら、誰も通すまいと自らの敵を見据えるのだ。

 

「……」

 

 弱い。確かに弱い。ポート・ブリーズで見たあの姿の時よりも、遥かに弱いといえる。

 だが、それだけではない。確かにセオドリクはサブリナには及ばず、シエテからも才能があるわけではないと聞いている。しかし、シエテから指南を受けたのは確かで、そして、そのあたりのゴロツキに負けるほど弱くはないのだ。

 

 そんな彼が、果たして、ただの一度もこちらに攻撃を当てることができないなど、ありうるのだろうか。

 

 これではまるで、こちらに攻撃する意志が元からないような――

 

「呆けているのかい?」

「!」

 

 呼びかけられ、ハッとする。反射的に武器を構えるが、しかし、ブラギ・セオドリクは呼びかけただけのようで、動く気配がない。

 

「攻撃する気が、ない?」

「……」

 

 グランの言葉に、彼は答えない。今もまた、サブリナの元へ向かおうとするフェニーを牽制し、彼女に近づけさせないようにしている。

 

「それ以上近寄らないでくれ。我が伴侶は対話の途中だ」

 

 肩で息をしながら、ブラギ・セオドリクはそれでも立っている。背後のサブリナに敵を近づけさせまいとするその姿は、何も知らないものが見れば、妻を守る夫の姿に見えることだろう。

 

「王子さまは、サブリナと結婚してないんだよ!」

 

 我慢ならなかったのだろうか。フェニーは、何度も繰り返されるブラギ・セオドリクの言葉に、大きな声で反論する。なるほど確かに、結局結婚式は行われず、セオドリクとサブリナは結婚していないのだから、伴侶というのは間違っているかもしれない。

 ブラギ・セオドリクからこちらへの害意が感じられないためか、グランはそんなことを考えてしまう。

 

「だが、サブリナは僕の婚約者だ。なら、伴侶といっても差し支えないだろう?」

「でも、結婚は好きな人同士がするものなんだよ! 王子さまは、あの時、サブリナのこと……」

「あぁ、確かに愛していないといったね」

 

 フェニーの言葉を、ブラギ・セオドリクは肯定する。

 

「だったら!」

「だが、僕は王族だ。王族の結婚には、必ずしも愛は必要ではないんだ」

「え……」

 

 たたみかけようとしたフェニーはしかし、彼のそんな言葉にその機先を制されてしまった。

 

「国を守るためには、たとえ好きな相手じゃなくとも結婚する。それが王族だ。その相手は、国王の妻として相応しい人間を選ばなければならない。もちろん、愛があるに越したことはないだろうね。僕の両親である国王夫妻も、恋愛結婚だったそうだよ。いつまでも仲睦まじい様子だった」

 

 彼は語る。

 

「彼女を愛していなかったのも、力を欲したのも間違いではない。だが、だからといって僕は王族の務めを放棄したつもりもない」

 

 その瞳は、力強い。体はボロボロなのに、意志が、瞳の奥で輝く。

 

「サブリナは王族の妻として相応しかった。フェニックスに唆されたのは確かだが、それだけで決めたわけじゃない。サブリナならば、王妃として相応しいと、僕が判断した。だから求婚し、そして、承諾されたんだ」

「で、でも。でも!!」

 

 嫌な予感がする。グランは、フェニーが吐き出そうとするその言葉を、言わせてはならないと、直感する。

 

 だが、制止の言葉が出るよりも早く、フェニーは叫んだ。

 

「サブリナはファルハナなんだよ! ファルハナは、メリンの奥さんで、フェニーのお母さんなんだよ!!」

「ふざけるなっ!!!」

 

 子供の癇癪。そういわれても仕方のないフェニーの言葉に、ブラギ・セオドリクは激昂した。

 常に浮かべていた温和な笑みは消え失せ、ともすれば親の仇を見るかのような瞳で、フェニーをにらみつけている。先ほどまで感じなかった害意、いや、殺意すら感じるそれに、グランは思わずフェニーを庇う位置に移動した。

 

「僕の伴侶は、ラドリス王国騎士団長、サブリナだ! 幼い頃から共に過ごした幼馴染だ! それを、6000年前の亡霊が、前世だなんだと嘯いてサブリナを否定するんじゃない!」

 

 ブラギ・セオドリクが剣を構える。本気だ。先ほどまでの害意のない攻撃とは違う。

 

 グランが構える。フェニーは、彼からぶつけられた殺意に足がすくんでいる。

 

「これ以上、君たち強者と価値観の違いを話しても仕方がない。自分から帰らないというのなら……」

 

 来る。ブラギ・セオドリクの、強力な一撃が。

 いなすべきか、避けるべきか。ここにいる自分は意識だというが、ここで死んだらどうなるのか。

 ここにきて、様々な思考が頭をめぐる。だが、彼は待ってくれはしない。

 

 そして、ブラギ・セオドリクの剣から、輝く奔流が生まれ――

 

 

「そこまでにしてくれ、セオドリク」

 

 

 ――その輝きは、かけられた言葉によって鎮められた。

 

 ブラギ・セオドリクの後ろから、一人の女性が歩み寄ってくる。彼女は、武器を構える彼に対し、元々は彼の物であろう外套を羽織らせる。

 

「……もう良いのかい?」

「あぁ。もう大丈夫だ」

 

 何が起こっているのか。グランにもフェニーにも分からない。だが、彼らは短いながらも、言葉を交わしていく。

 

「そうか。なら僕はお役御免かな」

「悪いな、セオドリク。手間かけさせた」

「我が伴侶のためだ、これくらいはしてみせるよ」

「なっ、お前、またそんなこっぱずかしいことを……!」

 

 赤面した彼女の様子を見て、彼は笑みを浮かべる。先ほどまでとは違う、彼女にしか向けないのであろうその笑みを見て、フェニーは、どこかなつかしさを感じてしまった。

 彼との会話が終わったのか、彼女は、グランたちに近づいてくる。いつも通りの笑顔を浮かべて、いつものように。

 

「団長、フェニー。ありがとな。こんなとこまできてくれて」

「大丈夫」

「ふぇ、フェニーも、大丈夫なんだよ!」

 

 そっか、と笑い、サブリナはフェニーの頭をなでる。その様子は、いつもと同じようで、だが、何故だろう。どこか違うような……。

 

「さて、少し話しすぎたみたいだ」

 

 聞こえてきた彼の声に、ブラギ・セオドリクを見やれば。その体は、徐々に薄くなっていた。

 彼はどこか満足した様子で、グランたちを見やると、パン、と手をたたく。

 

「お茶会は終わりだよ。君たちが二度とここを訪れないことを、僕は願う」

 

 そうして、グランたちの意識は落とされた。

 

 

                   ★

 

 

 二日後。騎空艇、グランサイファーの甲板にて。

 

 あの後、島民たちも含めて全員が無事に目覚め、そして、物資の補充も終わった。念のため一日滞在しておかしなところがないか確認したが、島民たちもサブリナも異常はないようだ。

 ただ、島民たちは例の喫茶店でブラギとの対話を行っているのが確認されている。これはもはや、彼らにとって欠かせないものなのだろう。

 

 一方で、サブリナはブラギとの対話に呼ばれた様子はない。島民たちが対話している最中も、心配でそばを離れないフェニーの面倒を見ていた。

 

 そういうこともあって、グランサイファーは出港することになった。港には、またしても初老の男性のみが見送りに来ている。イングヴェイは彼と言葉を交わした後、早々に自室へとこもってしまった。

 

 次の行き先をラカムたちと話し合いながら、グランたちが船内へと入っていく。その様子を見ていたサブリナは、甲板を走り回ることなく自分について回り、だが、どこかよそよそしいフェニーへと目を向けた。

 

「フェニー、どうかしたか?」

「えっ、えっと、あの」

 

 言いにくいことだろうか。だが、何となく、察しはついている。だから、こちらから言い当てることはせず、サブリナはフェニーの言葉を待った。

 

「ねぇ、サブリナは、ファルハナだって言われるの、嫌だった……?」

 

 突き詰めれば、ファルハナの記憶を取り戻させたのは、嫌だったのではないか。

 そう問いかけてくるフェニー。

 

「なんだ、そんなことか」

 

 だから、サブリナは笑い飛ばした。フェニーの不安を、そんなことかと。そんな問題は小さな問題なのだと言わんばかりに。

 

「そ、そんなことって、でも、王子さまはあんなに怒ってたんだよ」

「良いんだよ、怒りたい奴には怒らせておけば。大事なのは、オレが気にしてないってことだ」

 

 言って、サブリナはフェニーと視線を合わせる。

 

「フェニー」

「!」

 

 呼びかけられたその声色は、遠き日を思わせるものだった。サブリナが、サブリナの声で、だが、その優しい声色は、ファルハナのものだ。

 

「オレは、サブリナで、ファルハナだ。そうだろ?」

「……うん。うんっ!」

 

 少女が抱き着く。受け止めた女性は、昔そうしていたように、少女を抱きしめてその背を撫でる。

 

 

 グランサイファーは空を征く。

 次なる島へ、新たな出会いと冒険を求めて。





いかがでしたでしょうか。
衝動的に書いたので、いろんなところが雑で申し訳ない。ですが、書きたいところは書けたと思っております。

ただ、このままだといろんなフラグをまき散らしたままなので、フラグを回収するための内容をそのうち書くつもりです。そっちではアブラメリンも出るかもしれない。

具体的には

・なぜサブリナとファルハナの対話が必要だったのか
・ブラギが騒動を起こした意図は?
・どうしてフェニーはセオドリクの笑顔になつかしさを覚えたのか
・覚悟って何だったんだよ

とかですかね。他に書かなきゃならないところは、ない、はず……。

今しばらくお待ちください。

最後に一言。


僕は!!!力にとらわれたセオドリクに活を入れるサブリナとそれで正気を取り戻すセオドリクが見たかった!!!!!!
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