・実験目的
前回の実験の結果、前提として魔族が殺人衝動を抑えられない可能性が出てきた。たとえそれが本能だとしても、個人的には彼らに理性がある以上抑制は可能であると考えたいが、とにかくここの証明をしなければ私の研究は無意味であるため、早急な検証が望まれる。
実験内容:「絶対に人間を生かせ、さもないと殺す」と命令した魔族と一般的魔力量の人間を半径30mの結界内に放置する。その際、人間にはこの実験の内容を伝えず、また脅し方を①言葉のみ、②事前に身体の一部を欠損させる、③首に〈
実施回数:各10回
記録者:ノイーギリヒ(以下略)
【結果】
①の場合:実験開始1ヶ月時点で9/10が失敗。以下はその内訳。
1.実験開始直後、衝動的に殺害……1件
2.実験開始から暫くして、突然魔族が殺害……1件
3.人間にコミュニケーションを拒否され殺害……7件
備考として、結界を抜け出そうとする魔族が8体存在した。そのうちの一体は成功個体であり、他7体も失敗例3の個体である。
また、失敗例1,2は殺害に及ぶ直前、実験の影響により極度の興奮状態にあった。どちらも魔族の本能的衝動による殺人ではない可能性があることに留意。
・メモ
言葉だけだとやはり抑止としての力が薄いようだ。或いは、「言葉だけの制止を無視すること」は魔族の基本的性質であるため、そこに引っ張られたか。
②の場合:実験開始1ヶ月時点で6/10が失敗。以下はその内訳。
1.……0件
2.……4件
3.……2件
備考として、全ての魔族が結界を抜け出そうとしている。
さらに、①以上に恐慌状態にある魔族が多く、失敗例2の全ての魔族が極度の恐慌による突発的な殺害であった。これは①同様魔族の本能による物ではない可能性がある。
・メモ
恐怖からか命令の無視は減ったが、そのせいで本能の部分を制御しきれなくなったものが多かった。とくに、四肢を潰された個体はその特徴が強い。身体の欠損は流石に抑止としてやりすぎなようだ。理性を上回る殺人とは別の本能が顔をのぞかせてしまう。
③の場合:実験開始1ヶ月時点で2/10が失敗。以下はその内訳。
1.……0件
2.……0件
3.……1件
4.人間に襲われ反撃した結果の過失致死……1件
備考として、全ての魔族が首輪を外す、または結界からの脱出を試みている。また、②よりも恐慌の様子が薄い魔族が多かった。
・メモ
目に見える抑止装置があると、やはり感情的に動くことはないようだ。また、恐怖も適度な分突発的反抗に及んだものもおらず、甲斐甲斐しく人間の世話を焼く魔族はどこか滑稽である。実験は成功と言っていいだろう。彼らは本能に理性で打ち克ったのだ。
ただ、首輪のせいで人間に実験内容を気づかれ、魔族側が反逆されるとは思ってもいなかった。人間も存外賢い。結局殺されたが、同じような実験結果ばかりでつまらなかったので割といい余興になった。
・失敗した魔族に尋ねた、殺害した理由
もうダメだと思ったから……10件
怖かったから……4件
うるさかったから……3件
当該魔族は約束通り、全て殺処分とした。
・総合メモ
やはり適切な恐怖────目に見えて、かつ暴力的すぎない脅威────などを用いることで魔族も人間を殺させないようにすることができるらしい。(①②の失敗は本能による殺人ではなく、人間にもよくみられる感情的犯行であるとして無視する)
ただ、全実験に共通して
なお、今後の展開を見るため当該の人間が死ぬまで
どうもここまで書いといてなんだが、これは結局「人を殺す本能」を「死にたくない本能」で上書きしてるだけな気がしてきた。それでは理性による制御とは言えないので、もしや実験そのものが不成立なのでは………?
……全部無駄とするのは勿体無いので、あんまり気にしないようにする。恐怖政治は人間もよくやってるから問題ないだろう。わはは。
まあ別に殺人衝動を抑えることは可能と示しただけでこの実験に価値はあるから……実験失敗だと思わなければ失敗じゃないんだよ!
なお、この数年後全ての実験場において人間の死亡(主に病死)が確認され魔族は全て殺処分されてます。よかったねぇ。