「人魔間共存実験についての記録」   作:しゅう@ハーメルン

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番外編です。
別に読まなくてもいいです。作品の色も違いますし、本筋全然関係ないので。


「Mensch」

 

 菜の花はきれいらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 家族とは大切なものらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 愛とは尊いらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 赤ちゃんは可愛いらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 人を傷つけてはいけないらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 ルールは守らなければならないらしい。

 また一つ、僕は賢くなった。

 

 

 僕は、また一つ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、僕はいろいろなことを覚えてきた。

 おじさんの言うとおりに、一生懸命に努力した。

 

 そうあれと願われれば、僕はその全てをその通りにしてきたつもりだ。

 

 

 だけど。

 

 

 だけど……

 

 

 

 本当は、言ってはいけないことだけど。

 

 

 

 

 僕には、そのどれもが、理解できなかった。

 

 

 

 

 

 全部当たり前のことだと、みんなは言う。

 パパもママも、おじさんさえも、みんなそうだと知っている。

 

 

 でも、僕はだめだ。

 何一つ、理解できない。共感できない。肯定できない。

 

 いくら勉強しても。

 いくらみんなとかかわっても。

 

 僕は、普通のことを、普通にはできない。

 

 

 

 

 ─────なんで?

 

 

 

 

 僕は、変なんだろうか。

 

 みんなと同じ人間なはずなのに、この疎外感は何だろう。

 

 

 みんな、僕に優しくしてくれるのに。

 みんな、僕に温かく接してくれるのに。

 

 

 何が、こんなに冷たいのだろう。

 

 まるで、僕一人だけ、みんなの世界から拒絶されているみたい。

 

 

 おじさんなら、何か知っているのかな。

 

 物知りで、一番頼りになる、ノイーギリヒおじさんなら。

 

 

 

 僕も、みんなみたいになりたかった。

 

 

 形だけじゃない。

 上辺だけじゃない。

 

 

 みんなと一緒に、笑いたかった。

 

 

 

 

 ねえ、おじさん。

 本当はあの日、僕はすごくうれしかったんだよ。

 

 初めて僕が魔法を使えたあの日。

 おじさんは、あまり人前で使わないようにと言ったけど。

 魔法が、その人にとって大切なものを表しているって、ママが言ってくれたから。

 

 

 

 僕も、「光」を大切なものだと思ってるんだって。

 

 

 

 みんなが尊いと思っているものを、僕も同じように好きになれるんだって。

 

 

 そんな風に、思えたから。

 

 

 

 でも、その魔法も、結局僕ら以外の人間にとっては「異常」なものだった。

 

 僕が「普通」であることを証明するものなんかじゃなかったんだ。

 

 

 

 ねえ、おじさん。

 

 僕って、悪い子なのかなぁ。

 

 一生懸命みんなの真似をして。

 わからないから、明確な定義のある法律にこだわって。

 そのせいで、結局みんなから拒絶されて。

 

 悪い子だから、こんなことになっちゃうのかな。

 

 僕が変な奴だから、こんなことになっちゃうのかな。

 

 

 でも、悪い子なんだとしたら、なんでみんなは僕のことを受け入れてくれてるんだろう。

 

 みんなはいい人なんだから、悪い子を許容なんてするはずないのにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて。

 

 そんなことを、ずっと考えていたけれど。

 

 実際のところ、僕はやっぱり悪い子でした。

 

 

 悪くて、異常で、やっぱり、人間じゃないのでした。

 

 

 あはは。

 

 最悪だ。

 

 結局、僕がみんなと一緒になれるだなんて、無理な話だったわけだ。

 

 

 

 ……ああ、でも。

 

 

 僕が魔族だってわかって、やっぱり少し、ほっとしたかも。

 

 

 だって。

 

 

 

 

 僕が変なこと自体が、みんなにとっての「普通」だったんだから。

 

 

 僕が唯一できた、本当の「普通」だったんだから──────

 

 

 

 

 

 ねえ、おじさん。

 最後に一つだけ、言わせてください。

 

 

 結局、僕は最期まで、全然おじさんの役に立てませんでした。

 

 

 おじさんが、僕に何かを期待していたのは知っていたけど。

 それがなんだったのかも、結局はわからずに死んでしまう。

 

 それで、最後に死ぬところまでおじさんの手を煩わせて。

 僕は、ずっとみんなに迷惑をかけてばかりでした。

 

 

 本当に、ごめんなさい。

 

 生まれてきて、ごめんなさい。

 

 ……結局、この言葉も。

 勉強の成果として言ってるだけで、本当に思ってるわけじゃないんだけど。

 

 

 こんな、どうしようもない僕なんかを育ててくれて、本当に、本当に。

 ありがとうございました。

 

 







 ちなみに、Mensch(メンシュ)はドイツ語で「人間」って意味だったりします。草。

 次回からはいつものに戻ります。
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