機動戦士ガンダム WEREWOLF WARS 作:ゼビル将軍
「やっばいって、洒落になんないって……っ!!」
迫るセイバーフィッシュの攻撃をどうにか回避する。
直線的に動くのではなく、宇宙空間であることを活かして上下左右に動き回るフィオナは、警告音が鳴り止まないコックピットの中で冷や汗を流し続けていた。
彼女が所属しているF小隊は、散開の命令を受けてすぐにバラバラになった。
小隊長も隊員も、手柄を立てようと我先にとばかりに前線へと突っ込んでいったからだ。
連携を取るつもりもなく、自分一人が戦果を挙げられればいいという思いのままに行動する小隊員たちの間にポジションを取っていたフィオナであったが、艦隊の一斉砲撃を受けて仲間たちは完全に散り散りになってしまった。
運の悪いことに、その状態でセイバーフィッシュの編隊と遭遇して……ご覧の有様、というわけだ。
「ホント、あたしって運が悪過ぎない!?」
上位30名にギリギリ入れたところまでは良かった。だが、出撃前の賭けではこの中のメンバーの中で最下位の人間であるせいでヤリ目の仲間たちに目を付けられてしまったし、そんな仲間たちをフォローしようとしたら、敵に真っ先に狙われるだなんていう憂き目に遭っている。
これがもし「このまま死ねば、誰にも抱かれる必要はないぞ」……という神の救いだとしたら、そんなのは絶対に御免だ。
ただ、仲間たちから軽んじられてることだけが嫌だっただけで、別に抱かれること自体は構わない。余計なお世話だから、とっととこのピンチをどっかにやってほしい。
そう思いながら躱す、躱す、躱し続ける。反撃をしようとしてもその隙にミサイルを撃ち込まれることはわかっているから、もう必死に躱し続けるしかない。
これで死んだら、自分を討ち取った連邦軍の兵士より前に勝手な行動をしたF小隊のメンバーたちの前に化けて出てやる……と、若干投げやりなことを考えるフィオナであったが、その背後で爆発が起き、レーダーに映るセイバーフィッシュの反応が1つ消えた。
「こちらケーン・フォレスト! レイク機、無事か!?」
「ああ、もうっ! 最高のタイミングで助けに来てくれるじゃんっ!!」
レーダーに映る友軍の反応が、超高速で近付いてくる。
マシンガンを放ち、セイバーフィッシュを撃墜しながらこちらへと向かってくれるケーンのお陰で、相手の陣形も崩れたようだ。
「このっ! さっきまでの、お返しぃっ!!」
反転、即座にマシンガンを構える。
今までの恨みを晴らすように1機だけ別方向へと回避運動を取ったセイバーフィッシュへと弾丸をばら撒けば、どてっぱらに銃撃を受けた戦闘機は小さな爆発を起こして宇宙に漂うデブリの仲間入りを果たした。
「よし! 残りは――!」
先ほどケーンが撃墜した機体と合わせて、これで2機。残りは3機いる。
そいつらも落としてやると敵影を探そうとしたフィオナは、さっきまで周囲を飛び回っていたセイバーフィッシュの反応が消えていることに気付いた。
「ふぅ……敵戦闘機、撃墜完了。機体の損傷は?」
「えっ? あっ、だ、大丈夫。推進剤を結構使っちゃったくらい……かな?」
自分が1機落とす間に、ケーンが残りの3機を撃墜していたことを悟ったフィオナが驚きにしどろもどろになりながら返事をする。
少し落ち着いたこともあってか、彼女は自分の窮地を救ってくれた彼へと感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、助かったよ! 本当、危ないところだった~……!」
「そんなに感謝しくていいよ。できる限りのことはするって、そう言ったでしょ?」
「あはっ! もしかして、あたしとヤりたかったから助けにきてくれたの?」
「そうじゃないよ。仲間なんだから、助けるのは当たり前じゃないか」
「ふふっ……!」
F小隊のメンバーたちと違って、お互いに助け合うことをよしとするケーンの返事を聞いたフィオナが嬉しそうに笑う。
その声に気付いていないケーンは、ザクⅠよりも高性能な自機のレーダーを確認してから彼女へと言った。
「あそこ、見える? 敵の戦艦が並んでるだろ?」
「うん、見える! サラミス級が2隻とマゼランが1隻だね!」
ケーンが指し示した先には、連邦軍の主力戦艦であるマゼラン級とその随伴艦であるサラミス級が合わせて3隻並んでいる。
地球連邦軍の大艦巨砲主義を象徴するような強力な主砲と数々の火器を持つその戦艦たちを見つめるフィオナに対して、ケーンが言う。
「あれを落とす。そうすれば、このブロックの形勢は完全にこちらに傾くはずだ。散り散りになったワーウルフ隊のみんなも、それで落ち着いて合流できる」
「ええっ!? ほ、本気で言ってる? MS2機で戦艦3機を落とすつもりなの!?」
「奴らは遠距離からの砲撃が最大の武器だ。肉薄しての近距離戦なら、MSの方が圧倒的に有利だよ」
ケーンの言う通り、遠距離での戦いではMSは戦艦に有効打を与えられず、相手の攻撃を躱し続けるしかないが……近距離戦なら話は別だ。
主砲の死角に入り、接近してきた相手を迎撃する火器を破壊すれば、戦艦にトドメを刺すこともできる。護衛のためのセイバーフィッシュたちも出払っている今が、最大のチャンスだ。
「僕が仕掛ける! マシンガンで援護をお願い!!」
「いいけど、あたしに予備マガジンを渡しちゃって大丈夫なの!?」
「平気さ。僕には……これがある!」
元々、セイバーフィッシュたちとの連戦でマシンガンの弾薬は少なくなっていた。
なら、これはない物として扱った方がいい。武器を持ち変える隙をなくせるし、援護のためにフィオナに使ってもらった方が有意義だ。
それに……自分には彼女のザクⅠにはない、バズーカがある。
デカい戦艦が相手なら、こいつの火力が必要になるだろうと、ザクの肩にバズーカを構えたケーンは、深呼吸をしてから目の前の戦艦たちへと突っ込んでいった。
「まだ、気付かれてないのなら……っ!!」
スラスターを思い切り吹かしてサラミスへと急接近しながら、スコープを覗き込む。
まだ相手は近付くこちらに気付いていない。ならば、奇襲で仕留めることができるはずだ。
「そこっ!」
やや上方からサラミスの主砲を狙い、バズーカを発射。一直線に進んだ砲弾は狙い通りの位置に着弾し、派手な爆発を起こす。
その爆発に紛れ、相手の動揺を利用するようにサラミスへと肉薄したケーンは、そのまま左手に持ったヒートホークで巡洋艦の側面を切り裂きながら吼えた。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
致命傷になるダメージは与えられなくていい。攻めの手を緩めず、相手に傷を与え続けろ。
そう、自分自身に言い聞かせながら側面に配置されたバルカン砲ごとサラミスの装甲を切り裂いたケーンは、艦の背後に回り込むと共にフィオナへと叫ぶ。
「今だっ! 攻撃をっ!!」
「了解っ!!」
ケーンが作った隙を突いて接近したフィオナのザクⅠが、構えたマシンガンを斉射する。
狙いは今、ケーンが切り裂いた側面の装甲。迎撃用の火器も破壊され、最も脆弱になっている部分だ。
同時に、ケーンもまたサラミスのブースター目掛けてバズーカ砲を撃ち込む。
エンジンにも近いそこに叩き込まれた砲弾が炸裂し、爆発を起こせば、傷だらけサラミスは次々と誘爆を起こし、やがて大爆発を起こして粉々に砕け散った。
「やった……! 落とせたよ、ケーン!!」
「まだだっ! この次は――ッ!!」
サラミスを落とせたとしても、まだ終わりじゃない。さらに恐ろしい敵が残っている。
喜ぶフィオナを置き去りにしてスラスターを吹かしたケーンは、3隻の艦隊の中心を成しているマゼラン級へと突っ込んでいく。
巡洋艦であるサラミスと違い、マゼランは戦艦。攻撃力も防御力も、段違いに上だ。
生半可な攻撃は通じない。それに、バズーカの弾にも余裕はない。
(バズーカの弾は合計6発。ここまでで3発使ったから、残りは3!)
戦艦に有効打を与えられるバズーカは、残り3発しか撃てない。
マゼランを落とした後にもう1隻のサラミスを落とすことを考えると、ここで使えるのは2発までだ。
(いや、違う! こいつを1発で落とす! そのためには……!!)
ケーンは、余裕を持って2発で……などという甘い考えは捨てた。
このマゼランを一撃で落とすのだと、そのためにあの場所を狙えと、自分自身を奮い立たせながらペダルを踏みこむ。
随伴艦であるサラミスが撃沈されたのを見て、マゼランもケーンの接近に気付いたようだ。
こちらへと機銃やミサイルランチャーの銃口が向けられる中、ケーンはザクが左手に持っていたヒートホークを投擲し、同時に右方向へと回避運動を取る。
どうせ、あの武器ではマゼランに決定打を与えられない。
サラミスの装甲を叩き切ったせいで切れ味も落ちていたし、少しでも弾除けに使えることを信じて放り投げてしまえ。
機銃の連射とミサイルをその身で受けて爆散した近接武器の光を横目にしながら、ストップ&ゴーでザクを巧みに操りながら、マゼランへと接近していくケーン。
至近距離でミサイルが爆発し、その煙に巻かれた瞬間を好機と見た彼は一気にスラスターを吹かし、マゼランの正面上部へと躍り出る。
「もらったっ!!」
スコープは覗かなかった。十分に近い距離で、バズーカを構えることができたから。
真っ向に見えるのはマゼランの上部から飛び出したブリッジ。この艦の脳を司る、操舵と指揮を行う場所。
ぶわっ、と滲んできた何か不快な感情を僅かに感じながらも、ケーンはバズーカの引き金を引いた。
次の瞬間、ブリッジが大爆発を起こし、戦艦がゆっくりと崩壊を始める。
その光景を荒い呼吸を繰り返しながら見ていたケーンは、それを無理矢理に押し殺すと最後の1隻へと向かおうとしたのだが……?
「そこまでだ、ケーン。最後のサラミスは、俺たちが落とした」
「レックス、隊長……?」
隊長の声にハッとしたケーンがモニターを確認すれば、標的にするはずだったサラミスがワーウルフ隊の仲間たちの一斉射撃を受けて轟沈していく様が目に映った。
このエリアの趨勢は決まったと、一目でそれがわかる光景を見つめていた彼の耳に、再びガルドからの通信が届く。
「アイランド・イフッシュは予定ポイントに到達した。我々の任務はここまでだ。ここから先は後ろに控えている後続部隊に任せ、撤退する!」
「終わり? そうか、終わりか……」
見れば、戦いを繰り広げていたワーウルフ隊を追い越すように、後方からやってきたザクたちがアイランド・イフッシュと共に前線へと向かっていた。
連邦軍の艦隊も随分と後退していたんだなと、そこでようやく戦況が大きく変化していたことに気付いたケーンは、大きく息を吐くと共に傍を通過する巨大なスペースコロニーへと視線を向ける。
「ケーン、どうしたの? 隊長から帰投命令が出てるよ?」
「ああ、うん……ちょっと、ね……」
とん、とザクの肩に手を乗せ、
僅かに目を細めた彼は、アイランド・イフッシュを見つめながらこう呟いた。
「これが地球に落とされるんだなって……そう、思っただけだよ」
多くの人を殺める戦いに自分が参加したことを再認識したケーンは、心の底から滲んできた恐ろしさにそう呟くことしかできなかった。
この小説にエロ描写は……?
-
いる(R18にしてほしい)
-
いらない(ぼかして全年齢のままで)