機動戦士ガンダム WEREWOLF WARS   作:ゼビル将軍

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アンケートさせていただいた結果、無理にR18描写を入れる必要はないという意見が多かったので、全年齢版としてお話を書かせていただきます。

ご協力、ありがとうございました。


人にもなれず/狼にもなれず

(お湯、使い過ぎだって怒られるかな……)

 

 熱いシャワーを浴びながら、ぼんやりとそんなことを考えるケーン。

 今日、シャワーを使うのはこれで2度目だなと考えながら、小さく息を吐く。

 

 流れる湯を止め、体を拭いて、服を着て……そうやってベッドルームに戻った彼は、そこで本を読んでいるフィオナを見て、動きを止める。

 

「あっ、ごめんごめん。この本、勝手に読ませてもらってるよ!」

 

「いいよ、別に。それより、ちゃんと服を着た方がいいんじゃない?」

 

「え~? 彼シャツだよ、彼シャツ! こう、グッとくるものとかないの? あと、二回戦はない感じ?」

 

 自分が化した大きめのシャツ一枚だけを着ているフィオナが、いたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。

 彼女の言葉と、色々と危ういその姿を見て赤面したケーンは、反応に困りながら視線を泳がせた。

 

「……で、どう? 童貞を卒業した気分は?」

 

「あ、いや……なんかその、実感があまりないっていうか……」

 

「ふ~ん。それってなに? あんまり気持ち良くなかったとか?」

 

「ち、違うって! 気持ち良かったし、綺麗だと思ったし、それに……」

 

「……それに?」

 

「その……温かかった、です。上手く言えないけど、落ち着けた」

 

 目の前の少女と、そういうことをした。飛び切りの美少女と、体を重ねた。

 誰もが羨むであろうその行為の最中は緊張でいっぱいいっぱいだったが……フィオナが綺麗で、抱き締めていると温もりを感じたことだけは明確に覚えている。

 

 戦友の死に気持ちが沈んでいたケーンにとって、その温もりは強く心を支えてくれるものだった。

 色んな意味で()()()()()()()()フィオナに抱き締められて、安心できたと思う。

 

「ふっふ~……! まあ、満足してもらえたならいいよ。あたしも気持ち良かったし、恩返しもできたしね」

 

「上手くできた気がしないけどな……気を遣ってくれてありがとう」

 

「本当だって~! あたしも初めてだったけど、良かったでしょ?」

 

「えっ!? そうなの!? 僕はてっきり――」

 

 経験豊富なのかと思った、と言いかけてケーンは口を噤んだ。

 こういう話は事後の会話としては相応しくないと思うし、フィオナを尻軽のように言うのは彼女に失礼だろう。

 

 本当に……彼女には感謝している。だから、今はありがとうと言うだけでいい。

 感謝の気持ちが伝わったなら、それでいいだろうと思う彼に対して、読んでいた本を見せつけながら彼女が言う。

 

「これ、面白いね。お気に入りなの?」

 

「いや……家族が送ってくれるんだ。僕の趣味が読書だって知ってるから。読み終えたら手紙を書いて、一緒に送る。そうしたらまた新しい本が送られてくるんだよ」

 

「あはは! なにそれ、面白い! 愛されてるんだね、ケーンは!」

 

「……うん。家族にも、戦場に出ることは伝えてある。訓練中に命を落とす可能性があることもね。もしも、僕からの手紙が途絶えたら……その時は、僕が死んだと思ってくれって言ってあるんだ」

 

「……そっか、そうなんだね。じゃあ、ちゃんと読んで、感想を伝えてあげないとね」

 

 そう言ったフィオナが、本の表紙へと視線を落とす。

 そこに書かれている題名を読んだ彼女は、ケーンに視線を向けないまま、呟いた。

 

「人狼が主人公のお話……ワーウルフ隊に合わせてくれたの?」

 

「ああ、多分ね」

 

 そっと、フィオナの手から本を受け取ったケーンが、静かにそれを見つめる。

 ことりと音を立てながらデスクへと本を置いた彼は、小さく口を開いた。

 

「人でもない、獣でもない、人狼……ただの市民にもなれない、恐れ知らずの兵士にもなれない、そんな僕にぴったりだ」

 

「……怖いの? 戦うことが?」

 

「死ぬほど怖いよ。戦うことも、殺すことも。でも、死にたくないし、家族を養いたいからこうしてる。でも、やっぱり……戦争は嫌いだ」

 

 地球に向かうアイランド・イフッシュを見た時、ケーンの胸の内には恐怖が渦巻いていた。

 ワーウルフ隊のメンバーは勝利の栄光に酔っていたし、あそこから先の戦線を引き受ける部隊の兵たちはジオンの正義を信じ、地球連邦に正義の鉄槌を下すのだという使命感に燃えていたが……コロニー落としという行為がどれだけの犠牲を生むのかと考えると、とてもそんな気持ちにはなれない。

 

 これが戦争を早く終わらせるための作戦であることも、圧倒的に兵力で負けているジオンが打てる最善策であることも、わかってはいる。

 だが……自分が何億もの人の命を奪う手助けをしたことを正当化できないことも、その恐怖を拭えないことも、ケーンは理解していた。

 

「でも、戦争はもう終わるよ。ジオンは独立して、連邦の圧政から解放されて……それでおしまい。もうこれ以上、殺すことも殺されることもなくなるよ」

 

「そうだね……そう、信じようか」

 

 フィオナの慰めに頷いたケーンが、彼女を見やる。

 可愛らしく小首を傾げながら上目遣いでこちらを見つめる彼女に対して、ケーンは言った。

 

「……もう少し、一緒にいてもらってもいいかな?」

 

「ふふふ……っ! いいよ。なんだったら二回戦もお相手するけど、どうする?」

 

「それはいいかも。ただ、その……比喩表現じゃなく、君を抱いて寝たい、かな……?」

 

 おずおずとしながらも自分の要望を伝えれば、それを受け入れてくれたフィオナはベッドに寝転がり、ケーンを向かい入れるように両腕を伸ばしてくる。

 彼女に感謝しながら、その小さな体を抱き締めるケーンに対して、フィオナは優しい声で囁きかけた。

 

「あたしが傍にいるよ。おやすみ、ケーン」

 

「……ありがとう。おやすみ、フィオナ」

 

 戦闘とセックスの疲れが、一気に噴き出してきたような気がした。

 そこにフィオナが与えてくれる温もりと安心感が加わったことで、感じていなかった眠気がケーンを襲う。

 

 それに抗わずに目を閉じたケーンは、すぐに夢の世界へと旅立っていった。

 次に目を覚ました時には、全ての戦いが終わっていることを祈って――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが、その祈りは虚しく、戦いは続いていく。

 ブリティッシュ作戦は成功したが、コロニーは目標地点であるジャブローには落下しなかった。

 

 地球に大きなダメージを与え、そこに生きる多くの人々の命を奪ったこの1週間の戦いの犠牲者は、ゆうに20億人を超えるとも言われている。

 しかし、それだけの犠牲を出したとしても、まだ戦争は終わらない。むしろ、激しさを増していくばかりだ。

 

 ジオン軍と連邦軍の一大決戦……『ルウム戦役』。

 その戦いを経て、戦場は宇宙から地上へと移っていく。

 

 ケーンも、フィオナも、ワーウルフ隊の面々も皆、新たなる戦いに臨むべく、地球へと降り立つことになる。

 重力の底で待つ厳しい戦いを、自分たちの運命を……フィオナの胸の中で眠るケーンは、まだ知る由もなかった。

 

 【ブリティッシュ作戦編】完。【第2次降下作戦編】へ続く……

 

 

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