「昨日はお愉しみでしたね!!」
「うるせぇばか」
もう夕方だよ。目の前にはアザゼルとシェムハザ。昨日の話の続きか。こっちは疲れてんだ。手短に頼むわ。
「で、話は纏まったの?」
「おう、俺ら二人に指輪作成見せてくれ。三個で良いぞ」
「要望はこれな。じゃあ適当に創るか」
スマホに送られてきたクライアントの指示が書かれた内容を再度確認。指輪って色々とあるからな。天体や自然だったり花をモチーフにしてるのも多い。
この世界ならではっていうのも創れそうだな。まだ思いつかないが、そういう方面で考えるのも面白そうだ。あれ、俺って指輪職人にジョブチェンジしたっけ?
俺が空間を作って、そこに二人を連れて入る。ちょっとだけ時間の流れを遅くしてる。リズとの夕飯までに終わらせるぜ!
「指輪をサクッと創るぞー」
魔法を使って要望通りの品を三点。決まってるからな。で、後は宝石か。
宝石はこの世界であまり重要視されて無いから安いのよね。基本的に魔法を籠めて使い捨ての道具にされてるイメージが強い。
権能を使って固定して、次々に着けていく。まあ、簡単だわな。
「ほいっ、完成」
「早い早い早い!」
「えっ、もう完成ですか?」
「後は朽ちないように権能を使って、と。これから権能なり、加護とか自由にして大丈夫だぞー。相性もあるからそこら辺は相談してくれよな」
二人は黙って顔を見合わせた。なに?不満?
問題は早めに言ってくれ。修正するなら直ぐに治すぞ。
「お前イカれてるよ……」
「因みになんですが、リズさんの指輪は一週間近い時間が掛かったんですよね。こんなに早く出来る理由って何ですか」
「は?そりゃあ全世界に言う台詞とか、渡す時の台詞とか、指輪の造形だとか、組み合わ「あ、もういいです」あらそう」
二人はヒソヒソ話を始めた。聞こえてるからな。本当に早くしてほしい。嫁が待ってるんです。
「アイツやっぱ頭おかしいよ……」
「アザゼル、良く一週間も耐えれましたね……」
「ほとんど寝てた。ぶっちゃけ完成の瞬間しか覚えてない」
「ブチ殺しますね」
「やだぁ、やめてよ!」
相変わらずコイツら仲良いな。
「コントは良いから。結局何が言いたいの?」
「あー、お前が何だかんだ嫁さんの事が大好きなのは分かったわ」
「お前と違って一度しかしないからな。そりゃあ慎重に、間違いが無いようにしてたわ」
「言われてますよ、アザゼル。私はルシファーさんの意見に同意します。私たちは一人の女性を幸せにする事を選びました。貴方みたいな屑の思考を持ち出さないでください」
「言い過ぎ言い過ぎ!」
シェムハザが静かにキレた。ヤバい。普段怒らない奴が怒ると怖い現象だ。静かに後退りした。
「何ですかその態度。分かっていますか?貴方の下半身のせいでグリゴリの財政はボロボロですよ。今までは大口の仕事があったので大目に見ていましたが、ハッキリ言ってそんな態度で居れるのが不思議で堪りません。この場もルシファーさんの仕事の速度の確認が目的の筈です。ルシファーさんが仕事早いのなら、色々と事前で話していたではないですか。それを早く進めるべきなんですよ。何、ふざけてるんですか。組織の長の自覚ありますか?」
言い過ぎ言い過ぎ!!!あ、やべ、アザゼルがガチ凹みしてる。うーん、でもこれ俺が口出せねーんだよな。下手に拗れても嫌だし。
そもそも、俺が昨日その場を去ったのは話が長くなりそうだったのも大きいが、他所の事情に首を突っ込むと大体が巻き込まれることが多く、それらの殆どが面倒ごとに発展する可能性が高いからこそ俺はさっさと逃げたのだ。下手に関わると火傷じゃあ済まない。この問題に関しては俺は完全に蚊帳の外に置くべき人間だ。
説教は未だ続いている。シェムハザの気持ちは凄く分かる。俺も長い事、邪神の右腕やってたからな。それはそうと、上には上の事情があることは事実。
しゃーない、またアザゼルに貸し作るか。
「あー、シェムハザ。俺もこのハーレム野郎について言いたい事はあるが、そこら辺で勘弁してやってくれんか」
「……すいません。ですが、今後の為に必要な事です。巻き込む形になってしまったのは申し訳ないですが、流石に譲れない事情も考慮して欲しいです」
「一応、ソイツのフォローをさせて貰うけど、シェムハザが思っている以上に金を多く入れている筈だぞ。天界からの金額や臨時収入が多いとか思わなかったか?他にも幹部連中の金額が多い時とかあったと思うんだが」
「……そうでしたか。理解しました」
「ルシファー、あまり言ってほしく無かったんだがな……」
「良いだろ、別に」
アザゼルくん。君はね。シェムハザが後ろ向いてるからと言って、俺にそんな表情を見せんな。
顔で完全に分かるわ。口元が笑ってるぞ。俺のフォローを利用してどうにかしようと思ってんな。
逆にお前もシェムハザの表情は見えないのよね。幾ら、表情が見えなくてもシェムハザはそんな無能じゃないぞ。
俺とシェムハザはアイコンタクトを交わす。俺の口車に乗った形にするらしい。やっぱり有能だよ、お前。組織ないけどウチに来ないか?厚遇を約束するぜ。
「脱線したが、指輪に話を戻すぞ。結論から言って俺は量産自体は可能だ。時間も大して掛からん。この空間でやったのは権能とか加護の為と言えばお前らなら理解するだろ?要望があって、形が見えてるなら話は早いのよ。で、俺が言いたい事は分かるな」
「あちらだと権能がズレる可能性があるわけだな」
「量産も可能、ですか。ちょっと不味いですね……」
少しだけ面倒な問題だ。この場合は量産出来てしまう事が不味い。
俺の指輪を一部の人しか手に入れられないとか言ってんなら、遅くても高くても価値があるものという認識にしたかった訳だろうな。だが、生産速度が早すぎた。それが問題というよりも、それが可能だという事実がヤバい。俺だから可能という事もあるが、魔法を使えば短時間で創れてしまう。技術の独占が難しい。事業として見た場合、短期的に見れば良いだろうが長期的に見た場合は少々不安が残る。
俺は依頼を受けて金を貰うだけの立場、という訳にもいかない。長い付き合いだし、改善案ぐらいは出してやるか。
「まあ、ぶっちゃけこれはどうとでもなる」
「なるのか」
「魔法を生み出したからこそ出来る裏技ですか」
「そうだな。難しい話じゃないんだ」
魔法っていうのは、奇跡という一部しか使えない力を簡略化させたものだ。それを俺が広めた訳だが、創った人の特権というか抜け道が存在している。
「単純に奇跡と併用しないと出来ないとかでも良いんじゃないか。魔法と奇跡を同時使用出来るのは俺等ぐらいだろ」
「なるほど。そういう事なら私たちは異論はありません。おまけで指輪の作成難易度も下がりますし」
「察しが良いな。これで条件は設定しておくぞ」
「ああ、それで頼む。ったく、まさか指輪を創るだけでこんな大変だとはな……」
「しゃーねぇ。ぶっちゃけた話、これからこの世界がどうなるかは分からないんだ。他の神話が動く前に手を打って損はねぇぞ」
ちょっとだけ真面目な話になって神妙な顔になる二人。分かっているだろうが、俺たちはこの世界の嫌われ者だ。先に動いておかないと面倒な事になるのは分かりきってる。
「それは未来を見た警告ですか?」
「違う。その可能性があった事は否定しないが、俺らと邪神の関係が極端に悪い訳でも無いから最悪は避けれてる」
「その話は置いておこうぜ。で、結局他神話がどう動くんだ?」
「知らねぇよ。だが、妨害は確実だろ。邪神の言葉には逆らわなかったが、俺らの邪魔はしない訳ではねーからな。堕天使に悪魔だぞ。目の敵にされて当然なんだよな」
そんな感じで俺らは話し合った。随分と話し込み、結論は出なかったものの有意義な時間であったことは間違いないだろう。
因みにリズにその後、皆で怒られました。
俺、そんな悪くないと思うの……。