堕天使の一幕
嫁に怒られている元同僚。それを尻目に俺とシェムハザは早々に撤退を決め込んだ。
俺らも怒られたが、一緒に居るアイツよりかは遥かにマシだ。先ほど助けてくれたとはいえ、もっと早く助けてくれと言いたい気持ちがあった。いい気味だぜ。
グリゴリへ帰還する。さっさと転移で移動したいが、セキュリティーが関係しているため、近場で拾って貰う必要がある。場所も冥界だしな。本部に帰るには多少手順を踏む必要がある。仕方の無いことだな。
特に何事も無くグリゴリへ戻った。幹部連中に出来た指輪を与えつつ、軽い事情話を説明してやった。
「あの子のとこに向かうか」
「良いのですか?私と妻で対応しようと思っていましたが」
「あー、それなんだが、俺も不安になって、だな。ルシファーとリゼちゃんの事を上手く伝える必要もあるし」
シェムハザは深い溜息をついた。情けない顔をして、隠す様に顔を手で覆った。
「なんでこんなことになってしまったんでしょうね……」
「お前ら二人の教育が悪かった、そう言いたい気持ちも確かにある。だが、これは
「教会か天界にバレて討滅されるよるかは遥かにマシです。ルシファーさんなら何があっても助けてくれるでしょう?ルシファーさんが傘になって欲しいんですよ、私は」
シェムハザの目は据わってた。ルシファーを核と同じ扱いにしてやるなよ……。ある意味では確かにそういう面もあることは否定はしないが、どちらかと言えばアイツは……なんだろうな。いや、でも核ではない。味方にも厄介で、敵に回したら恐れられる存在では……核じゃねーか!ごめん、否定しようと思ったけど駄目だった。核だわアイツ。
アイツとは長い付き合いだけど、普通に付き合う分には申し分ない。偶に男に声かけられるし、そこの反応とかは見ていて飽きんな。
「さて、どうするかね」
「やることは変わりませんよ。元々は二人でどうにか連れていくつもりでしたし」
不安だった。あの子に任せる云々は珍しくシェムハザの意見が強い。選択肢として有り得ないとしか言えない。
大丈夫か?本当に心配なんだが、いつもカバーして貰っている以上は俺からは何も言えない。本当にいつもありがとな。
部下にあの子の場所を聞く。ああ、なるほど。今日は治療室にいるのか。そういう事をしているのは耳にしたことはあったが、本当に治療しているんだな。
「意外と思われるかもしれませんが、妻譲りか色々と覚えるのも早くて。親の贔屓目もありますが多才ですね」
誇らしげに微笑を浮かべていた。そこら辺に関して言えば、教育を間違ったと一概に言えねーもんな。ウチの子達に比べれば、治療なんて行為をしているだけ褒め称えたくなる。そうやって甘やかし過ぎたせいで今があるわけだからな。難しいな子育ては。何度やっても全然上手くいかねーんだわ。
治療室で普通に真面目に働いていたあの子を見ることが出来た。堕天使でも上位である父と、元人間でありながら長い時を過ごす為に悪魔になった母との長年待ち望んだ優秀な子。
「おや、お父様と総督様ですか。二人が一緒に私を訪ねるなんて珍しいですね。どうかなさいましたか?」
普通に可愛い堕天使達のアイドルがそこにいた。患者の部下が物凄い目で俺を睨んできた。シェムハザも同罪だろ!と一瞬思ったが、彼女の父であるシェムハザを悪くはしたくないのだろう。それに人望はあちらの方が上だしな。えっ、嘘。俺の人望、低すぎ。
「アイ、私達は貴方に仕事を頼みに来たのですよ。これは貴方の成長に必要な事だと思ったから、私から提案させて頂きました」
「内容は分かりませんが、私に出来る事なら謹んで御受けしたいと思っております。精一杯頑張りますよっ!」
苦渋に満ちた表情でシェムハザは娘に告げた。そんな親の心を知らぬとばかりに、可愛らしくアイリーンは気合たっぷりに頑張ろうとしていた。そして、患者に凄い形相で睨まれる俺。なんか俺だけ貧乏くじ引かされてないか……?
「まっ、そういう事だ。俺は顔を見に来ただけ。後は家族でゆっくりと話し合ってくれや」
俺は逃げるようにその場を去った。面倒だったからな。ああいうのは、さっさと逃げるに限るぜ。
戻る際にシェムハザ以外の幹部連中に呼び出しをかけておく。ルシファーからの警告を共有しておく必要があるだろう。
特にコカビエル、アルマロス辺りは危険だな。バラキエル辺りはどうか。後はまあ興味が無いか、シェムハザの指示に従う奴らだろう。俺がなんで組織のトップなんだ。やっぱシェムハザで良いと思うんだがな。
会議所にて待っておく。足が速い連中と駄弁りながら、ある程度の時間を待つことにした。あまり集まらんかった。やっぱり俺には人望は無いのでは?トップおりてぇわ。
「あんま集まってねーじゃねーか!」
「お前の人望の問題だろ。大体察しはつくからさっさと始めようぜ」
グシオンが全てを知ったような口振りで話を急かしてくる。お前は分かっているから良いだろうが!
ってか、コカビエルとアルマロスいねーし!一番重要な奴らが来てないってどういうことだよ。後で個別でシェムハザと一緒に話そ。
「はー。まあいい。俺たちの今後についてだ」
そういって俺はざっくりと今までの事を話す。今ここに居るメンツだけでも把握はしといて損はねえ。幹部にまで隠す意味が無いし、むしろ共有しとくべき事柄だからな。
「ここまで簡単に説明したが、他神話に対するアクションはどうする?ルシファーとも話したが、俺らって嫌われもんだろ?ある程度でも対策はとって損は無いだろう?」
「その事だが、地球にあった神話ベースはあんま気にしなくて良いだろう。問題はこっちの世界発祥と異世界発祥の二種類だろう」
「そうなるだろうな。軽く占って見たがそういう方針で問題なさそうだ。地球発祥なら、まだ折り合いがつくだろう」
頼りになるグシオンとバラキエル。やはりこの二人が指針になるな。
他は考えているか?とりあえずは状況説明というか、そういう感じのイメージだったしな。こんなとこで、この話は仕舞いにするか。
「アイリちゃんをルシファーのとこで勉強させる感じと捉えていいのかしら?」
「アイリーンにはまだ早い気もするけどー、それは過保護なのかもねー。シェムハザがそう決めたのなら私たちが口を挟むことじゃないしねー」
エネプシゴシとウェパルの二人の女性の意見を聞いて考えた。うーん、二人が言ってる事もあるけどなー。
「アイリーンだけじゃねーぞ。他の若い連中も外に出していくつもりだ。俺たちは今後人数的にも、情勢的にも中途半端な立場になることは分かり切ってるんだ。俺らが何時までも現役で居れるかも怪しいしな。出来る限りは下も育てとかんな。手がとにかく足りねーんだよウチは」
吐き捨てる様にそう言った。追い払う仕草を見せて、俺は椅子に凭れ掛かる。
本当にどうしようもねーな。手を打ちたいが、打てる手も限られてる。
ホント、どうにかできねーかな。