やめて!殺さないでっ!   作:ハラシキア

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勢いで行動すると大体はロクなことにならない

愛する人に包まれている。それはとても幸せな事だ。間違いない。現時点での俺が物凄く実感している。

彼女からの愛も疑いようが無い。三百年近い付き合いだ。俺をこんなにも必死で探して、涙まで流した彼女の行為が愛で無いなら何と呼べばいいのだろう。

 

前置きは良い。現実逃避させてくれる。身体の震えが俺を現実に戻すが、少しは気が紛れる。

俺は未だ訪れないその瞬間を待っていた。過去の経験上、何時殺されるか分からない。長い付き合いの筈なのに、どういった心理で俺を殺すのか、どういった事情があるのか、俺は未だに理解しきれていない。

長い時間を彼女といるのに、なぜ俺は彼女の地雷を把握出来ないのだろう。本当に誰か教えてくれよ……。

 

正月と地獄が一緒に来るような感情だ。嬉しいのか、怖いのか、俺には分からない。

この感情の名前はなんて呼べばいいのだろう。千年以上生きてきたけど、こんな感覚を味わうのは彼女と一緒に居たときぐらいだ。

 

それにしても長いな。あれ?俺はまだ生きてるよね?凄く不安だけどまだ生きてるよね?

えっ、なんでまだ死んでないの?過去の経験が全くもってアテにならないんだけど!俺の千年全くもって意味が無いんですけど!どういうことだよ、オイ!!

えっ、怖い。本当に何を考えているのか理解できない。

 

「あのー、いつまで抱きしめてるんですかね」

 

「だめなの?もう二度と貴方を失いたくないの……」

 

上目遣いで俺を誘惑する彼女。かわいい。かわいい。

あれ、五十年逃げ続けたらヤンデレって緩和されんの?コイツ、なんかメインヒロインの顔してんだけど。またお前に恋に落ちそうなんだけど。おい、責任とれよ!おい!

こんなの頭バグるに決まってんだろ。えっ、こんなかわいい子が俺を好きでいてくれんの?なんで三百年経ってから本気出すの?だったらもっと早く結婚してたわ。

 

「結婚しよう!」

 

「えっ……」

 

思わず口走っていた。なんかもう彼女の全てが欲しくなった。彼女の全てを知った気でいたけれど、こんな一面があるのなら俺は逃げ続けなくて良いと思った。

彼女は静かにまた涙を流した。うつくしい、きれいな涙だった。

彼女は涙を拭い、かわいらしい少女のような笑みで返事をくれた。

 

「はいっ!ずっと一緒に過ごしましょう!」

 

「っ!」

 

思わずガッツポーズ。勝った!俺もこれで人生の超絶勝ち組か。

付き合って三百年か。長かったけど、もうこれ以上の選択肢は無いだろう。いい加減、年貢の納め時ってやつだろうな。

 

黙って彼女の手を掴む。所謂恋人つなぎだ。うっとりとした表情の彼女。彼女からあの日失った筈の聖気が僅かに漏れ出る。

俺を傷つける筈のソレは如何なる世の理か、俺の死臭を完全に封じ込めていた。うん?ナニコレ、バグ?世界の法則が乱れてるんだけど。誠に遺憾ながら俺は世界の敵なので、邪神が俺を自神の敵としている以上は、それを破る事が出来ない筈だ。

もしかして、あの(バカ)って消えたの?

 

 

心底疑問に思っていると唐突に拍手が聞こえた。

そして、俺はここが歓楽街の一角であったことを思い出した。めっちゃ恥ずかしい……!!

見られている事に気が付いた瞬間に顔が赤くなる。チラリと彼女を見れば、彼女も可愛らしく顔を朱く染めて俯いていた。

なんか良く分からないけれど、凄く盛大な拍手だった。皆が祝ってくれていた。なにこれ。

 

どう収集つけるんだコレ。どうしたものか、思案しつつ彼女の様子を探る。未だにトリップしていた。眼が光を取り戻していた。

嘘だろ!?ヤンデレって不治の病じゃなかったの!?

どうしよ。マジで何も出来ないんだけど!こんな状況でどうすれば良いんだ!!!

 

「いやはや、素晴らしいですな。美しい女性を射止めるとは本当に羨ましく感じましたが、その表情を見ると誰もが諦めるというもの」

 

突然拍手しながら野次馬を割って現れた貴族の男。貴方が神か。邪神より立派に信仰を捧げる価値があるわ。

言葉に聖気を乗せた牽制をした?この前の聖騎士と同レベルかそれ以上か。敵にならない事を願うわ。

男はただ歩いた。世界が彼を祝福しているのが分かった。

男が見渡しつつ、聖気を飛ばして邪な感情を抱いた奴を狙い撃ちしていた。

 

んー、コイツ多分聖者か?封じられている死臭が警戒を促しているのを抑えつつ、悩みの種が増えた事に頭を抱えたくなる。

聖者は確定ではあるけど、死臭の反応と俺を敵認定しない時点で教会関係者ではないのは確実。野良の聖者?抱えられていないのが分かんねぇ。年齢も四十代なら今まで捕捉されてないのはありえない。つか、なんで貴族が聖者になれんの?流れる血は顔立ちで判断出来るから断言出来るけど、二百年以上は続いてるだろうし、直系であるのも意味不明だぞ。

 

ちょっと確認してみたくなった。邪神を思い出すから使いたくなかった封印を外す。そして、俺も聖気を出してみた。

眼を若干細めたな。見えんのか。邪神は信仰してんのね。なんで教会に所属してねーの?

 

「本当に素晴らしい。出来れば、二人を知りたいので我が屋敷に招待したいのですが如何でしょう?」

 

本当に貴族か?全て本音で喋ってるぞコイツ。

教会の聖者と違って野良なら嘘ぐらいはつけるだろ。

 

まあ貴族様のお言葉だ。断れねぇな。

 

「はい、喜んで」

 

にっこりと笑って了承する。俺の嫁(確定)はまだ使い物にならない。……戻んなくていっか!

群衆の良く分からない表情を見つつ、俺は心からの笑顔で男とその護衛についていくことにした。

 

なんか良く分からないけど僕たち幸せです!




なんでコイツ、プロポーズしてるんだ……
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