後半三人称です
「私が神父務めるから結婚式をしないかい?」
悪魔かコイツ。やっぱ、あの女神信仰してるとロクな事にならんね。
おいリズ!お前もいい加減正気に戻れや!!!
俺もやべーけど、お前の方がもっとやべーだろうが!!
結構必死になって彼女をゆすった。キョトンとしてた。かわいい。じゃねーよ馬鹿!
お前が教会の汚点になってる事実は消えねーだろうが!
リズはなんか良く分からないが一人頷くと、俺に可愛らしい純粋無垢な少女の様な有り得ない微笑を俺に向ける。
おかしい。魔女と呼ばれてるコイツがしていい顔じゃない。俺への執着は以前より悪化してるのに、何故そんな顔が出来るのか。
と思ったら現状に気が付いた様で聖気の放出を辞めた、辞めちまった。ヤバい。
爆速でリズを連れて逃げた。後ろからとんでもない量の聖気を感じる。俺の死臭が僅かだが戻ったので、それだけで敵認定されたようだった。イカれてる……。
「この悪魔がぁ!四肢をもいで磔にしてくれるわ!」
おいおい聖者が言っていいセリフじゃねーだろ。本当に邪神関係者もロクなのおらんわ。
「それで?どうするの?」
眼は闇を取り戻していた。早いわ。一時間だけだったけど良い夢だったよ……。また、戻って来い。何時までも待ってるからな。
それはそうとして、もうちょっとだけでも聖女時代を味わいたかったです。聖女時代は問答無用で殺されてばっかだったから、俺にもそれを知ることが出来て良かったです……。
「俺が出来るのは決まってんだろ。全力でするからお前は逃げろ。あと、お前が俺をこんな化け物にしたんだ。責任とれよ!!!」
「相変わらず愉快な人。ええ、いいわ。必ず迎えに行く」
そういってリズは奇跡を起こした。は?おまっ!その力も戻ってんのっ!?
リズは唖然とした表情を見せる俺を流し目で誘惑しつつ、簡潔に言葉を紡ぐ。
「貴方のお陰で過去も取り戻せたわ。私は戻って準備をする。ルシもわたしの全てをつかって愛するから。絶対に逃がさないから。貴方も私を愛してよね」
完全に戻ってしまったようだ。グッバイ俺の恋。多分、一番おかしな恋だった。
でも、良いわ。全てがあの邪神から離反した日よりも忙しいけど、手に入れたものは間違いなくある。遅かれ早かれ、こうなっていたのは間違いないのだ。なら、良い。前世でも辿りつけなかった領域なんだ。暫くは大人しくしよう。
リズが消えた。奇跡の行使は文字通りの奇跡を生む。恐らく自分の工房に戻って準備をしているのだろう。
そして、それは誰もが膝をついて祈ってしまう。奇跡とは神の御業を起こす行為。つまり、あの邪神の力を借りる行為に他ならない。なので、当然ではあるが俺にもダメージがある。俺は結局あの女に殺された。絶対に忘れてたな……。
直ぐに復活。唖然とする聖者。訳が分からないだろう。奇跡を使う聖女らしき存在だが、闇に染まっている気配を感じるのだ。俺も聖気も使うし、死臭もするし、生き返りもするのだ。誰でも面食らうのは間違いないだろう。
「お前たちは、一体……?」
うーん、嫌だけどネタばらししますかね。俺は自らにかけた封印を解く。
まず三対の翼を広げた。その羽は深淵そのものだ。一般人は狂乱する事だろう。案の定、ついてきた護衛は白目剥いて倒れている。大丈夫、一週間まともに寝れないだけだよ。
「堕天使……」
「そうとも人間。七災厄筆頭で、あの神に叛逆した元天使ルシフェルだ」
聖者は愕然とした表情を浮かべた。やっぱり、教会関係者にとってこの名の効果は絶大か。
翼を広げて言った事も良かったな。これは嘘をつかないという宣言に等しい。始まりの天使であるルシフェルの名はそれだけでも言う価値があったな。
「それとも、こう名乗った方が分かり易かったか?
顔を真っ赤にする聖者。だが、もう奴の攻撃はきかない。それを知っているからこそ、奴は手が打てないのだ。
堕天使は聖、光、闇の三属性を持っている。だから奴の攻撃は等倍だ。普通にきく。あの邪神は俺の事が一番嫌いなので、完全無効なんて特権をそのままにはしていない。他の堕天使はその認識であってんのに。なんで俺だけなんだよ!
そう考えたのが悪かったのか。邪神を甘く見ていたのが間違いだったのか。
現時点で間違った認識をさせて時間稼ぎに徹していたのが、駄目だったようだった。
俺は懐かしい、忌々しい声を聴いた。
【聖者ロドリゲス。神アルカディアが導きましょう】
それは神託だった。俺一人を痛みつける為だけに言葉を下界に一人に落とした。
唯一神の癖に、一堕天使に大して有り得ざる対応としか言えなかった。
【堕天使ルシフェル。始まり天使にて、最も愚かな選択をした者。】
ボロカス言われてるわ。三百年近く無休無賃金でこき使ってくれたのに、何ふざけた事を抜かしてんだこの邪神がっ!
逃げ出しただけで堕天とかマジで終わってるよ。勝手に転生させてこき使って、使えなくなったら自分の敵とか頭おかしすぎるだろ。そりゃあこんな馬鹿を信仰してたら、皆おかしくなるわ。
どうしよう。マジで逃げたい。俺の能力というか権能なんだが、その都合上復活先は死んだ先に限定される。この状態は個人的にアレだな。状態2みたいなもん。三属性使えるし、一応奇跡とか権能の制限が無くなるが、邪神に捕捉され続けるのであんま使えない。俺もノリで使ったから忘れてたよ……。
後、邪神の呪いで俺は人を殺す事が出来ない。犯罪者とか邪神を信仰していなければ良いんだが、忌々しい事に最大宗教なのでだるい。
【聖者ロドリゲス。あの者を打倒する武具を授けましょう】
えっ、神具?俺は全力で逃げ出した。
殺意高すぎて泣きそう。文字通り世界最高峰の神が俺を苦しめる為だけに、後先考えずにゴンさ●みたいな事してくる!お前はどう考えてもメル●ムやろ……。
☆
神託が下された時、ロドリゲスは感激していた。
聖者として神から祝福を受けた存在だとしても、神がその声を聞かせる事は無い。
神は知っていた。自分の言葉が世界へ与える影響の大きさを理解していた。
神託も神具も全てはあの堕天使を苦しめる為。
過去に自らが与えた権能で奴は絶対に滅びる事は無い。墜とした時に権能に制限は加えたが、それが何時まで機能するのかは神でも分からない事だった。
【あの者は私の愛し子を弄んだ、穢した】
【愛し子は還った。私にまた捧げた】
【なら私は認めなくてはいけない】
【愛し子が幸せになるのなら、私はあの者を赦さなければいけない】
【認めよう、祝福してやろう】
【試練を与えよう】
【あの者に苦難を】
ロドリゲスは黙ってそれを聴いていた。理解は出来ない。それらの事は、今が人生の絶頂期にいる彼には些末な事だった。
天からの遣いが光と共に白い布に包まれた細長い物を構えながら下界へと向かってきた。
二対の白い翼を堂々と誇示するように見せながら、地面の降り立つ男の天使。
微笑を浮かべながら、細長い物を手放すと白い布は長いコートとなり、ロドリゲスの身体を覆った。
細長い物は槍だった。その筈ではあったが、形が定まっていなかった。その形を色々な形状に変化させていた。
少しの時が経ち、槍は朱色の神々しい物へと、その姿を確定させた。
【聖者ロドリゲス。命じます。あの者へ苦痛を与え続けなさい】
ロドリゲスは跪いてその言葉を受け入れた。
神が自分の事を必要とする。それは教会の信徒として最も名誉あることであった。
天使は去り際に聖者に祝福を与えた。それだけを残し天使は天へと還ったようだった。
気が付けば、神の声は聞こえなくなった。天使が居た形跡も残らず、傍に居た護衛達が目を覚まして己の主の変わりように眼を瞬かせていた。
聖者ロドリゲス。教会に所属していない変わり者の聖者。
だが、その信仰心は神も認めていた。
彼は唐突にその槍を無造作に投げた。
遠くで堕天使の悲鳴が聞こえた気がした。