やめて!殺さないでっ!   作:ハラシキア

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一般人視点


貧乏くじを引かされた人

俺はサラリーマンだ。ごく普通の社会人。

大手スーパー勤務。出世欲はあまり無かったが、流されるまま精肉の主任になった。

日々の生活は肉を切るぐらいだ。主任になってバイヤーとの兼ね合いで仕入れと売上に頭を悩ませることが多い。

趣味はギャンブル。休日はパチンコ屋に朝から並ぶ事が多い。

 

ストレスで少々問題がある程度だ。その問題に頭を抱えたくはなるが、それでもどうしようもなく日常を謳歌していた。

 

休日だった。いつも通っているパチンコ屋に並ぼうと、朝早くに家を出た時のことだった。

 

「失礼、ちょっと良いですか?」

 

とんでもないイケメンがそこに居た。同性の俺からしても魅力的に見えた。そっちに興味は無いが、そこら辺の女よりよっぽど好印象を持った。

 

そのイケメンは微笑を浮かべながら唐突に懐に手を入れた。そこから出てきたのは恐らく百万円だろうか?それに釘付けになっていると、有り得ない言葉が耳に入る。

 

「差し上げますよ」

 

何の価値も無いかの様に放り投げられる。慌てて落とさないようにキャッチする。

イケメンは何事も無かったかのように横を通って行った。

 

「また会いましょう」

 

どのタイミングなのか自信は無い。何処かで言われた言葉だけが俺の耳に残っていた。

夢でも見ていたようだった。幻覚でないことは、カバンに隠したそれを見れば、現実であることを理解されされる。

 

本物だろうか?何か犯罪に巻き込まれたのではないか?偽札ではないだろうか?

不安に思い、一枚だけ抜き取って朝食と眠気覚ましのコーヒーをコンビニで購入した。問題なく使用が出来た。疑問が頭の中を埋め尽くす。

 

パチンコ屋に呆然と並ぶ。そして、まだ夢現の状態でパチンコを打った。お金をさほど使う事無く、大当たりを掴むことに成功した。

そのままの勢いで出玉を増やしていく。一撃で増やすのではなく、何度も理想的な展開で大当たりを次々へと獲得する。

一通り楽しみ、ツイてる自覚があったので、打ちたい台を手当たり次第に触ってみた。全てで勝利した。

 

半日以上過ごしたが、人生で一番ツイてた日と言っても過言では無かった。

まだ勝てる自信はあったが、怖くなったので一度帰ることにする。

換金額は過去最高の三十六万ちょっと。その殆どが自分の勝ち分なので、大勝利と言って良かった。

カバンの中にある金額と合わせて問題が解決出来そうで頬が緩む。そんな人生で一番幸せな日に、またあのイケメンの姿を見た。

 

先程と違って周囲の視線を感じる。周囲の目線を独り占めしている彼は遠目からでも、圧倒的な存在感を纏ってこちらへ来ていた。

自惚れではなく、目当ては俺なのだと確信していた。実際に明らかに俺に視線が固定されていた。

 

嫌な静けさを感じていた。誰もが彼に目を奪われていた。

 

「さて、行きましょうか」

 

俺にも視線が集中した。居心地の悪さと感情の整理が追い付かない。

喋る事も出来ず、頷いて彼の先導に従うしかなかった。

 

 

呼び止めてあったタクシーに乗り、流されるまま馴染みの無い地元の高級ホテルに連れられた。

初めて入る場所だった。金はあるところにあるんだな、そう思う事しか出来ない。

 

 

そこのVIPルーム。当然の様にそこに案内された。

普通の安物の服で、ドレスコードとかあるんだろうか。彼はスーツ姿を着こなしていたし、そんな良く分からない事を考えていた。

 

呆然としていた。怒涛の展開についていけない。なんなんだろう、これは。流されるままに俺は非日常に引きずり込まれていた。

 

 

 

「では、ここまで来てくれたお礼にこれを」

 

また束になっていた百万円を唐突に机に置かれた。

頭を下げ、礼をしながらまたカバンにそれを無造作に入れた。

大金を惜しみなく、まるで小銭の様に人に与える。神は平等に人を創らない。別に神を信じている訳では無いが、不条理さに嘆きたくなる。

 

正直、怖さよりも好奇心が勝っていた。会ったことの無い、そこらのアイドルが裸足で逃げ出す容姿だ。認めたくは無いが、そこら辺の女性アイドルよりも……。いや、俺はノンケだ。だが、そんな俺でも道を踏み出したくなる妖しげな魅力がこの男にはある。

 

それにしても、何故俺なのだろうか。疑問があるが、彼がその内容を待つ事しか出来ない。

ルームサービスのドリンクで喉を潤し、彼の発言を俺は静かに待っていた。

 

 

 

 

「勇者に興味は無いか?」

 

唐突に、前触れも無く告げられた。唖然としつつ、馬鹿にされた気がした。

怒りを表に出す直前、男が虚空に手を伸ばす。何もない筈の場所から剣が飛び出る。神聖さを感じる剣だった。剣に釘付けになってしまう。

 

翼をはためかせる様な音が聞こえる。頭が真っ白になりながら、そちらに顔を向けて絶句する。

男の背に三対の白く、神秘さを感じる翼を広げていた。

 

「俺の名前はルシファーと言う」

 

「えっ、魔王じゃあ……」

 

「ほう、流石に知ってるか。なるほど、こっちの姿が良いか」

 

男の空気が一変した。何処か悪という概念を感じた。

今度は蝙蝠の様な羽に変わった。超常の存在であり、まさか実在していたとは思わなかった。

混乱しながら認めることしか俺には出来なかった。

 

「さて、信じて貰えたと思うから続けるぞ。それで?興味ぐらいはあるだろ?」

 

「そ、そりゃあ無いとは言いませんけど……」

 

「こっちもお前がアニメや漫画で興味があると知っているから声を掛けてる。はした金だが、一応前払いで誠意は見せてるつもりだ。ああ、勿論だがお前が借金背負ってる事も知ってる。まだ足りないなんて、随分と借りたみてーだよなぁ!」

 

声にならない悲鳴が出そうになる。向こうからしたらプライバシーとか関係ないのだろう。誰にも知られていない、その情報を握っている時点で俺に選択肢は無いに等しい。

 

この悪魔!そう言いたくなるが、実際に悪魔本人に言っても事実を言っただけになるだろう。逃げ場が失われている。乗り気じゃないが、受けるしか俺に未来は無い。実際問題、返すアテなど無かった。

 

 

悪魔からの誘いといえ、この蜘蛛の糸に俺は縋るしかなかった。

 

 

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