「勇者って、結局何をさせるつもりなんですか?」
「んー、魔王を倒せって訳じゃないのよ。どちらかと言えば神だな。それを倒してほしい」
無茶だと思った。もしかして、自分が出来ない事を俺にさせるつもりだろうか。
「一応、良くあるチートものみたいに力は与えるつもりだぞ」
嬉しいけど胡散臭い。人外染みた、創られた様な完璧すぎる外見もあって素直に信用できない。
どうせ断り切れないのは間違いないが、だからといって素直に騙される訳にもいかない。少しでも有利にしたり、情報をある程度は集めておきたい。
目の前の男に少々良からぬ考えを浮かべた事実はあるものの、男としてイケメンに好感情を抱くはずもない。即ち敵である。
「例えば不老不死でも与えてくれるんですか」
「……可能ではあるぞ」
「マジ!?」
おいヌルゲーだろ。それにしては歯切れが悪いな。
なんか残念な生物を見る目をされた。神話の生き物だからって調子乗んなよ!
「一応言っとくけど、不老不死+αでも全然大丈夫だけど、死なないサンドバッグにでもなりたいの?」
「遠慮します……」
ヤバすぎだろ。むしろ不老不死すらもいける条件なのか。相手はとんでもないのか?
「アンタが倒しにいけないのか?」
「無理。相性が悪すぎる。一応大魔王やらせて貰ってるからな。神のフィールドで戦うと弱体化は避けれん。つーか、向こうの目的の一つに俺の無力化もあるから、わざわざ見えてる罠に釣られる訳にはいかんのよ。しかも、邪神……あー俺の元上司の不始末なんだよね。勝ち目が無いとは言わんが、モチベが絶望的に低いのよな。こうやって動いているだけでも感謝して欲しいぐらいに俺は思ってるぞ」
この大魔王も大変だな。やっぱり堕天はしてるんだ。
元の会社で起こった不祥事をこの人が対処してる感じかな?実質外注に近いか。少しだけ同情した。
「不老不死が大丈夫とは言ったが、能力の相性があるから全部が可能ではないことは理解しとけ。あと、お前みたいな転生者が過去に何度も失敗していることも踏まえとけよ。力貰って浮かれる気持ちは分かるが、逆立ちしても俺に敵うことは絶対に無い。どんな力を手に入れようと可能な範囲が広がるだけだ。慢心だけはするな」
メッチャ脅してくる……。調子乗って自滅した奴が既に数多くいる訳か。
「あー、それと敵側にも転生者はいるぞ。つか、裏切った奴も転生だしな。ちょっとイレギュラーではあるが……とりあえず一つは転生者の能力を弱体化させるアイテムにしとくか」
「あ、ありがとうございます……?」
なんか勝手に一つ決められた……。そんなに転生者が居るのか?というよりは、薄々そうだと思ってたけど異世界に行かされるのか。剣が出て来た時点で、多分そうだと感じてたけど、転生と言う言葉が出て来たということとチート云々のくだりでそう理解させられたな。
色々と不安はあるけど、しっかりと説明を聞くことにした。
まず、報酬として更に百万。その上で向こうでの活躍と日数に応じて金額が加算されるらしい。
異世界に行って帰る事は何時でも可能なことと、何時までも向こうで過ごしていい。更に時は今日のこの時点から経過しないらしい。
不老不死が可能な時点でそんな気はしてたが、何度もリトライは可能。僅かだが復活手当なるものまである。
他にも最初から仲間の選択が可能で、この大魔王さま?の息がかかっているらしいが、それなりの実力者を揃えているらしい。
だが、同時進行なので特に強い奴とかは既に他のパーティーに居る。それとヘルプの人でもランクがあり、一番強い人たちは各一人しか選べないとか。
……破格と言っていい待遇だ。文句は無いが怪しい。悪魔だし、他にも何か隠していることはありそうだ。
「参考までに聞きたいんですが、他の人はどのぐらい貰ってますか?」
「ん?ああ、金額とかの話か。そうだなー。今俺がここまで話しても断る奴も偶にいるから、最初に渡した金額含めた平均は……五、六百万ぐらいかな。今一番稼いでるのが、現在進行形で増え続けてて、三千万ちょっとぐらいか」
「稼ぐ人は稼いでるんですね」
「だが、コイツは堅実で慎重だからここまで稼いでる。死んでも生き返れるとは言ったが、何度か死ねば心が折れるぞ。死んだ経験が無い人間に、何なら戦闘経験が無い素人が大活躍出来る未来は有り得ない。個人的には直ぐに送り出すよりも、ある程度は鍛えたいもんだわ」
「あー、そうですよねー」
仮にどんな強力な能力を手にした所で、向こうに居る転生者の方が、その能力を使いこなしていると言えるか。
あれ、ちょっと待てよ?
「……もしかして、向こうも無限リスポーンだったりします?」
「よく気が付いたな。半分正解だわ」
「うわぁ……。半分ってどういうことですか?」
「確かに向こうも実質残機無限。しかし、今回はこちらに大義名分もあるから、全世界共通の敵として世界からバックアップを貰える状態の違いがある。具体的には向こうはデスペナがついて復活なのに対して、こちらはほぼデメリットは無しでの復活が可能だ」
「ほぼ?」
「いや、心は無理だ。無理と言うか、それをすると生きたゾンビみたいに……恐れを覚えないから無理凸を繰り返すから、戦力としての価値が無くなるし、そういう奴は可能性が無くなるからリソースを割きたくないのよ」
デメリットだろうか、それは。
つか、この人も実は転生者じゃね?やたら詳しいと思ってたけど、元日本人と言われた方がしっくりくる。……価値観が近いと分かっただけで収穫か。
そんな感じで能力を厳選。あまり付け過ぎると世界に悪影響を及ぼし、最悪は管理人にBANされる対象になるから、多少は力の制限をする必要があるとのこと。
能力は発想次第で化けるらしいので、俺は大魔王さまから訓練の誘いを了承した。
「……ガキと違って、年数重ねてる奴と社会人経験が有ると話が変わるな」
「ああ、やっぱり若い子にも声かけてたんですね」
「頭が柔らかいし、伸びしろが段違いだからな。……調子乗って訓練も最短時間で逃げ出して、リスポーン繰り返して大して稼げず終了。訓練というが、賭けが発生してる以上はそこでも稼げるんだがな。初期訓練中はこちらの育成費用として大分減額されてはいるが、金銭が発生してるし、こちらのバイトぐらいには稼げるから、もっと腰を据えて鍛えて欲しいものだわ」
「うわぁ……」
俺も大丈夫だろうか……。不安になるが、もう後戻りは出来ない。
「それで?どうする?今すぐに訓練ついでに向こうでの身体の構築作業に移行するか?ゲームのアバターの様に自由にキャラクリ、もとい好きな容姿が可能だから、そこで結構時間を使うのもありだぞ」
「それなんですが、先に借金返済と豪遊してからで良いですか?」
「……ああ、問題は無いが、豪遊は向こうでした方が良いと思うが。ぶっちゃけ、歓楽街としては堺一を自負させてる領土だからな。風俗行くとしても、レベル的に桁違いだし、俺が法律だからやりたいことは大体叶えられるぞ」
「でも、向こうのお金が無いと思うんですが」
「向こうの金の方が融通利かせられるのよ。かなり良いレートで交換するぜ」
嘘じゃないんだろうな。なんか良く分からないが、説得力が凄い。
「じゃあ、借金だけある程度返してきます」
「おう、さっさと済ますぞ」
こうして俺は悪魔の口車に乗ってしまった。
選択として間違いでは無かったが、足元を見られていたことに違いは無い。この選択しか無かったのは事実だ。借金があった時点で俺には稼げる手段を提示されれば、進む道は決められていたのは同然だった。
ルシファーは最初からそれも分かっていて俺を選んだんだろう。
ある程度の物分かりが良く、断れない状況の俺に若干の思考誘導と幸運上昇の魔法で夢心地にさせておき、まるで簡単に稼げると誤認させていた。
ある意味でそれは正しかった。稼げるという点では嘘はついていない。後から思い返しても、意外にも奴は嘘はついていない。濁したり、都合の良いようにとれる表現を使ってはいるが、他の奴らと比べても良心的だった。些か不満はあるが、俺は奴に救われて見出されたのは紛れもない事実。
俺は大きすぎる借りを奴に作ってしまったのだった。