「機会は確かに与えた。届きうる、比肩する実力はあると保証はしよう」
「まだ勝てないと言いたいのか?」
「叛逆が成功する可能性の話だ。入念に準備はしてはいるが、繰り返したとは言っても本質的には何も変わっていない。出力や持久力、小手先の手段が増えただけだろう。お前も分かっているだろうが、最後のチャンスだ。どちらに転んだとしても良いものを見せて欲しい」
気楽だなーコイツ。良い身分だわ。管理者とは別の理で動いているからか、最終的には自分が楽しめるようにしてるだけだもんな。
「ところで制約は上手い具合に機能してたの?」
「今までで一番機能していた。リーゼロッテの嫉妬が信仰対象だけに限定されてた以上は、リリスの側面が具現化していない唯一のルートだろう」
「ほーん。なら、条件が全部揃ってる。勝ったわ」
「面白そうな話だ。では、見物させて貰おう」
最後の勝負だ。本当に出し惜しみせずに闘うとしよう。
「待ちわびましたよ」
「本気で決着を付けさせて貰うぞ」
微笑を浮かべつつ、余裕と若干の警戒が入ってるな。
邪神も警戒はしてんのね。侮って慢心してくれたら話が早かったが、まあ甘くは無いわな。
未来視同士の戦いはお互いが妨害することから始まる。そのため、確定情報で見れるのが少ない。手は知り尽くしてる相手だ。見られることも想定してダミーを仕込むのは当然。ここで俺にとっては不利な事にダミーの精度は邪神の方が遥かに上だ。
例えるなら麻雀に近いか。持っている手牌に差はあれど、その局でのアガリを目指すことに変わりはない。未来が視れるということは、最善を選ぶことが可能だ。不確定で形を整える一般的な麻雀と比べて、
そして、その時の一番良い
「……素直に驚きました。権能を対価として、時の権能だけを封じた訳ですか」
「そうだ。一時的とはいえ、お互いに時に関する権能は使えない」
「あらゆる可能性を賭した、全てを捨てる覚悟なんですね」
「認めるぜアルカディア。この土俵でなければ、お前に傷つけることすら叶わない。俺の全てを賭けて、お前に敗北を味合わせてやるぜ」
見惚れるような笑みを浮かべた。俺が恋をした、認めるしかない綺麗な、戦意すら無くしてしまいそうな二度と見る事が無いと思っていた笑みだった。
「先に宣言させて下さい、ルシフェル」
―――私は貴方を愛しています。
神にとっての死とは信仰を完全に失った時に起きる。
―――では逆に、一時的に身体を失えばどうなるのか?
神話の時代、物語として創られた死ならば問題は無い。例をあげれば、ギリシャ神話や北欧神話。あるいは日本神話で神は死を迎えている。
正確に言えば、神にとっての死は状態異常に近い。信仰心でその身を保つ神にとって、復活はさほど難しくない。完全に消滅させるのは、破壊を司る神すら不可能。その神を消滅させたければ、空いた大きすぎる穴を塞いで、辻褄合わせをしなければならない。歪であれば、ケチが付く。誤魔化し続けることは出来ない。それが理であった。
そのことを理解している二人が戦う理由。それは単純に二人がした契約が原因だ。
世界が終わる直前、理が崩壊のカウントダウンが始まる終末の時。神が地上への影響力を弱めるその時に、お互いの関係を清算するために、決闘という形で勝敗を決める。
悠久の時を経て、幾多の似た世界で力を貯め続け、この時の為に原初の堕天使は改めて神へその矛を向ける。
ルシファーは一振りの透き通る刀を構えた。
「なるほど、
「小細工はお見通しか、なら―――」
―――こういうのは想定してたか?
アルカディアが自らの意思で膝をついた。
驚愕しつつ、身体を動かそうと足掻く。それらを興味が無いように無視をするルシファー。
「あらゆる武術の
「何故、何故私はそれを奪えないのですか?」
誇らしげに、皮肉めいた表情に堕天使が告げた。
「全知全能の攻略法だ。未来視を封じたから、他の権能で何とかしようとしただろう。高すぎる感知能力を逆手に取り、行動を強制的に縛った」
ルシファーが軽く刀で浅くアルカディアの肌を撫でるように斬りつけた。一瞬だけ血が見えたが、即座に塞がった。
その意味の無いような行動の後にその刀は変貌を遂げる。
禍々しいオーラを放ちはじめ、死の呪詛がアルカディアを襲う。
「凄まじい……私を斬りつける条件と今まで貯めていた属性を全部乗せているのですね。素晴らしい。良いですよ、ルシフェル。貴方の勝ちです」
両手を広げるアルカディア。慈愛の表情でルシファーの攻撃を受け止めようとしていることが誰でも分かるほど諦めに近い覚悟がアルカディアから感じられた。
一瞬だけ躊躇うルシファーだったが、そのまま彼女の胸に刀を突き出す。
そのまま力が抜けたようにルシファーに凭れ掛かるアルカディア。
「勝った……?」
釈然としなかった。アルカディアには、まだ抵抗しようと思えば出来た。勝ちを諦める状況で無かったのは間違いなかった。
権能で勘違いという線も、自らの権能が戻って来ていることで否定される。凄まじすぎる力がルシファーに流れ込む。契約と違い、全ての力がアルカディアからルシファーに渡ろうとしていた。
困惑しつつ、未だに息のあるアルカディアを見た。負けた筈なのに、満足そうな表情だった。
アルカディアの身体の色が薄くなる。
「えっ……お前、消えん、のか?」
「ええ、私の望みは叶ってましたからね」
「は?」
意味が分からなかった。悪寒に襲われた。何か重大な見落としがある気がした。
それが何かは見当がつかない。だが、恐ろしいものだという嫌な確信があった。
呪いを遺して苦しめた世界最強の存在が消える。後味の悪さだけが残り、彼女の存在は消えた。
それでも、結局は世界最強の座は変わらない。
あと少しで終わります