その日、世界に激震が奔った。
最大宗教であるアルカディア教の主神が完全消滅。他神話や知ることの出来る一部の民衆にとっては青天の霹靂の衝撃であった。
至高の熾天使ミカエルは驚くべき早さで混乱の対処に成功する。事前に知っていたかのように、鮮やかな手腕で問題を終息させた。信徒や他神話等の事情を軽く説明し、最高位の存在が崩御しただけを伝え、現時点でアルカディア教を解体する旨を伝えた。
厳密には、アルカディアを打倒したルシフェルの意向を仰ぐ必要があった。だが、付き合いの長いミカエルは彼がアルカディアから主神の座を簒奪しようと行動を起こした訳では無い事を知っていた。ミカエルは仕えていた主から言葉を貰っていた。万が一に負けた場合の予定も聞いていた。現実になるとは思えなかったが、可能性の一つとして考慮しておく必要があった。
ミカエルは未だに分からない。
恐らく、リーゼロッテとの同化というサブプランに移行したのは分かる。それがどういう結末になるかは分からないが、少なくとも主神の中では本命では無いし、あくまで負けた時の保険であったはずだった。
特に思い当たる節は無い。しかし、長年の付き合いもあり何となくの推測が出来た。
疲れたのだろう。
酔狂で世界一の宗教を創り上げた訳では無い。条件を満たし、偶々管理者の目に留まり、自分の望むように聖書を参考に候補者を当て嵌めていく。その中で一人だけ本命と呼べる存在が居た。
魂が擦り切れてはいたが、自らの望みを詰め込んでも問題ない器。直ぐに行動を起こし、出来る限りの好条件を提示し、了承される前から自分の理想を現実に落とし込んでいく。最終的に首を縦に振って貰ったが、とんでもないリソースを無駄にする寸前ではあった。その話をミカエルは知っていた。だからこそ、当初の望みが果たされない事に諦めて、現時点で結果として結ばれたリーゼロッテと同化する選択に至ったのだろう。
現状の世界は混乱はあったが、結局は邪魔者の排除を優先する形になっている。様々な神話が乗り気になった。覇権を握っていた宗教の凋落。予想出来たものはいないが、他神話からすれば千載一遇の大好機。この機を逃す訳にはいかなかった。そうなれば、分かり易い障害という名の手柄は捨て置けない。消極的だった神々はルシファーによって送り込まれた転生者の取り込みにかかった。
そうして、世界は破滅へと向かって行く。
制御に苦労していた。完全に閉じた世界を創り、ひたすら力を使い熟すことに集中した。
数十年、中の世界では億単位の時を使って何とか落とし込めた。時々、世界の様子を見ていたりはしたが、俺は既に見切りをつけていた。
先に冥界や信仰が強い土地は世界から隔離してたので、俺の神話は問題ない。だが、元の世界は悲惨なもんだ。
現実問題、最大宗教が居なくなったとなれば、その座を狙おうとする宗教は多い。とはいえ、戦力的な事情で日和見に徹っしたり、漁夫の利を狙って温存しておく神話も多いだろう。
メタトロンは分かり易い世界の敵となったな。皮肉にも奴と同じように邪神が倒された弊害だな。倒した俺が言うのもアレだが、因果応報とも言えるな。俺らが過去にしたように、ただの堕天ならそこまで目を付けられることはなかったのにな。調子に乗った末路だわ。俺も軽率に堕天使になったとは思うが、世界に喧嘩は売っては無いからな。やはり少しは考えて行動すべきだわ。
さてさて、リズの身体に邪神が入りこんで凄く邪魔だわ。マジでどうすっかね。
くっそ面倒なんだが?分離は出来るようにはなったものの、それした瞬間に邪神が再誕してしまうんだよな。マジでだりぃ。夫婦の営みに混ざろうとすんなよ!お前、ほんとそういうとこだぞ!
「おいルシファー、ちょっと良いか?」
「アザゼルか。例の件?」
「ああ、観測者が見繕ってくれたぜ。世界の移動権限等の雑務だけだ」
「ほーん。じゃあ、権限渡しとくからやっといて」
「……お前……」
溜息を零すアザゼル。肩を落としながら踵を返す姿を見送る。
食い扶持を探さんといけんからな。信仰というよりは認知されてることも存在の維持には必要だ。まだ前の世界でも影響力を保持してる俺は急ぐ理由は無いが、アザゼルはその配下、外注に近いからなー。個人間で話が纏まる訳は無いからなー。どうしても、神話のトップとその傘下の組織という形に落ち着く。
待遇は邪神の時よりは良いぞ。激務で責任も増えてるけど、報酬は倍だからな。休みも存在してるぞ。最近はずっと体感時間だけの休憩だが、以前と比べれば相当手厚く扱ってるからな。
忙しいのは一過性のものだし、まあ頑張って欲しい。つか、本当に駄目になりそうなら、シェムハザ経由で情報が上がるからな。つまりはまだいける!がんばれ、お前がナンバーワンだ。
一番納得いかないのが、俺が結果としてトップに成った点だ。心無き連中は邪神って呼ぶし……。
その呼び方だけは本当にやめて欲しい。別にいらないし、捨てたい立場なんですが?なんで嫁が出来て一番楽しい時期なのに、世界で一番偉いポジションに押し付けられるのか。いや、本当に勘弁してほしい。
……しかし、現状を考えると最善の選択だったんだろうなぁ……。
邪神が復活出来ないように、リズの身体を乗っ取れない+別口での再誕を妨害してる以上は、最も力を持った者が神話を率いるしかない。
紆余曲折はあったが、ミカエルがトップに立つ気が無い以上は原因の俺にお鉢が回るのは仕方の無い話だ。
そりゃあ俺だって原因である訳だし、責任を取るという意味でも引き受けざる得ない。
信者たちは思う事はあるだろうが、分かり易い力があるので反抗する理由が無い。それでも離れる者はいたが、そこら辺に関しては悪いと思うが見捨てるという判断をするしかない。
全てを救える訳じゃないし、トップが変わっても信仰してくれる信者たちや部下たちのことを優先するのは当然の話だ。
面倒ではあるけれど、これからも頑張るしかない。
神話を崩壊させないようにどうにかしていくしかないな。
とりあえず一区切りですので、完結扱いとします
今後の更新は希望があれば考えます
では、また見つけて貰えるように頑張りますね
最後までお付き合いいただきありがとうございました!