★極東支部 病室
side:詩音
ハルオミとカノンが病室に搬送されてまる一日たった時のことだった。ようやく二人が目を覚ました。
「…大丈夫ですか?」
詩音が言った。二人は顔をしかめて起き上がった。
「ぐ……なんとか…な…」
「どうしてこんな目に……心葉っていってたよね…」
倒れる前に「心葉がやった」というようなことを言っていた。あの心葉が仲間に攻撃をするとは思えなかった。
「実際に私たち攻撃を受けたんです……帰投するときに心葉君を見かけたら、突然攻撃を仕掛けてきて…」
「それで、俺たちは心葉に打ちのめされた……反撃すらできずに、ただ斬られ、殴られ、蹴られるだけだった」
二人には切り傷に加え多くのあざができていた。その傷はさっき言った殴られたり、けられたりした傷だろう。
「……二人の傷は全治一か月程度。けど、神機の修理も含めると戦場に戻るにはプラス二週間必要ね」
「神機の修理……」
「これを」
咲良がそう言って携帯に移った一枚の写真を見せた。
「ふたりを病室に運んだあと個人で行ってきたの。その場にあったものよ」
そこに移されていたのは神機としての役割を果たすことができない状態になっていた。ハルオミの神機は盾が横に真っ二つになっており、銃身も裂けている。刀身はまるでカッターナイフの折った刃のように切られていた。その断面は綺麗で凹凸すらなかった。カノンの神機は銃身がハルオミの神機と同じように裂けていて、神機本体と銃口が切り離されていた。パーツとしてでなく、部分としてだ。
「…神機が……」
アラガミの一撃を受けても問題ない神機がこんな風になっている。ありえない光景だった。
「……これ以上は心葉を放っておくことができない。すぐにでも止める必要がある。いつ誰が次の被害者になるかわからない」
「ねぇ、どうして心葉はこんなことをするの……咲良さん、あなたは知ってるんでしょ?」
後ろにいる咲良に問いかけてみる。
「…申し訳ないけど、今は言えない。今すべてを話せば皆混乱する」
「………さっき放っておくことができないって言ってたけど……どうやって止めるつもりなの……?」
「…………聞いてたところでわかっているんでしょう?」
咲良の言うことは正しかった。わかっていた。でも聞いてしまった。
「…できる限り行動を止める程度の攻撃をするしかない。足、または腕を切り落とす。神機を破壊する…」
咲良が言葉を連ねていく。その言葉に首を横に振った。
「やめて……やめて…」
「……神機を破壊、腕を切り落とすといったことをしたところで別の暴走をする。それは正直問題がある………だから一番手っ取り早いのは……………………彼を殺すこと」
「やめて!!」
詩音は咲良の肩をつかみ後ろの壁に叩きつけた。
「どうしてそんなこと言うの!!仲間でしょ!パートナーでしょ!!」
「私だって殺したくない!!」
咲良が叫んだ。
「………私だって…殺したくない……でも、わかってほしい……この世界人を救うことが全て、救済ではないことを……」
咲良は詩音から目をそらしてうつむいた。
仲間を殺したくないのはみんな一緒だ。咲良が言っていた救うこと全てが救済ではない。その言葉が胸に突き刺さった。
「ごめん、少し一人にさせて」
詩音はうつむいたまま病室を出て行った。
★廃墟
side:コウタ
本日は第一部隊とクレイドルのみでの捜索だ。二人が襲撃にあってから詩音から連絡が来た。二人を攻撃したのは心葉本人で自分の意志で攻撃をしてきたという。
「……心葉君、何があったんだろ…」
普段は優しくて仲間意識の強い子だった。そんな彼が突然失踪した挙句仲間を攻撃した。
「………エリナ、君はもし心葉君に出会ったらどうする?」
エミールが聞いてきた。その声はいつものテンションとは違い、低かった。
「…そんなのわかんないっ…」
「向こうが敵意を持ち、こちらに攻撃してきた場合、エリナは神機を振るえるか?」
「………無理だよ…だって、仲間だよ!!そんなことできるわけないじゃない!!」
いつもの二人の口げんかとは違う。本気で悩み、苦悩を伝え合っているだけの会話。
「…エミールは?」
「…僕も、心葉君に向けて神機を振るうことはできない…」
「…………っ」
きょろきょろと歩いているうちに人影を見つけた。遠くてわからないが、黒い影だった。
「…二人とも行くぞっ」
「「っ!」」
コウタが駆けだした。エリナとエミールは一度驚き、少し遅れた後コウタの後をついて行った。
少し走るとようやく人影の正体が判明した。背の小さくて黒一色の少年。ボロボロのコートを身にまとい、手にはそのさまざまなものを切り刻んできたと思われる巨大な槍が握られていた。
「…あれって」
「ああ……アイツは…」
捜索を始めて発見が困難だと思われていたが、そうでもなかった。ようやく見つけた。だが見つけた感動より、本当にちゃんとした意志を持った心葉なのかという不安があった。
「………………」
その当の本人は無言でこちらに近づいてきた。
「心葉!!」
意を消して彼の名を呼んだ。自分の中の不安を消し、いつも通りの対応をすることにした。
「やっと見つけた!さあ、早く極東に帰ろう!なんでどこかに行ったとかは帰ってからだ。さあ、」
行こうぜという前に彼が口を開いた。
「………あなたも同じことを言うんですね」
「えっ」
彼の紅い瞳がこちらを見る。普段は透き通った空色の瞳だが、まるで血のように真っ赤だった。
「…………こ、心葉?」
声をかけた次の瞬間。
「これ以上何を話すつもりですか」
呼びかけた声も届かず、漆黒の矛がこちらに向けられた。距離はまだ大きく離れている。それでもその矛がまるで喉に突き付けられているような感覚がした。
……なんだよ…なんだこのプレッシャー……ほんとに…心葉…なのか…?
「………心葉ぁ!」
震えてそうな声を上げ、彼の名前を呼んだ。
「俺たちは仲間だろ!なんでハルさんに、カノンちゃんにあんなことをした!!」
「僕はもうあなた達を仲間とは思っていません!!」
仲間思いの彼の口からそんな言葉が出るとは思っていなかった。あまりの衝撃に足が震えている。絶対にしたくなかった決断をすることになってしまった。もう彼は自分たちと敵対している。生きる選択肢は一つしか残されていなかった。
「……………エリナ!!エミール!!」
神機を握る手に力を込め、バレットを切り替えた。リッカに渡されたバレットだ。対神機使い、堕ちた者に作られたバレット。
「………撃ちたくなんかない……でも!!」
生きるためには、これ以上被害を出さないためには、彼を撃つしかなかった。
「二人とも神機を構えろ!!」
「た、隊長っ」
「心葉……許してくれ!!」