★外部居住区
side:詩音
お互いに暴走状態になりながら神機を振るった。一撃がぶつかつと同時に衝撃波が生まれ、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。それと同時に戦闘不能状態になっている仲間たちも吹き飛ばした。
『神機暴走率上昇中…!?1100……1200……このままじゃ……!!』
体が恐ろしい速度で蝕まれていくのがわかる。神機を持つ右腕の感覚はとうに無くなっていた。今自分の体を動かしているのは殆どが意志だ。彼を救うというたった一つの意志だ。
救うんだ……絶対に………!!
「…かはっ!」
血を吐きながら神機を振るう。お互いに一歩も引けを取らなかった。
『くっ……援護しようにも偏食場パルスのお陰で近づくことができない……!』
サカキが悔しそうに言った。今この場に立っている方が不思議な状態だ。視界が真っ赤に染まり、体に感覚が残らなくなってきた。長い時間続いているバーストレベル5、神機の極限暴走。この体が自分の神機に乗っ取られるか、アラガミになるか、そのまま息絶えるのか。それは考えたくなかった。でももう持たないのはわかっていた。
「……はぁ…はぁ…けほっ…ぐっ!」
また血を吐きながら神機を振るう。甲高い金属音が鳴り響き、空気が響く。体力も限界に近い。だが心葉はそうでもなかった。まだ殺意の炎を灯し、殺そうとしていた。
「……いい加減……死ねよ!!!」
横薙ぎに強く薙ぎ払われ、神機が弾かれた。体勢を崩してしまった。致命傷を避けるため、少し後方にとぼうとした。だが体力が低下しているため、動作が遅かった。飛ぶと同時に心葉の神機が上から振るわれ、自分の左肩から右斜に浅く切り裂かれた。
「がっ……あ……」
致命傷は避けられたが、今の一撃で体全身に力が入らなくなった。限界を迎えたんだ。もう動かない。
「……ははっ………心葉君……強いな……」
勝てなかった。後は死ぬだけだ。終わりを悟った自分には涙を流し、笑うことしかできなかった。
「……もう…終わりです」
心葉の神機が変形した。全てを切り裂く薙刀状態の刃が向けられた。
「………ねぇ、心葉君」
「…命乞いですか」
「ううん…………2つだけ言いたいことがある…せめてそれだけさせて……」
「……………」
「………極東の皆、ごめんね……守れなかった……」
ボロボロの体でなんとか声を出しながら通信をした。
「………あと1つ……心葉君……」
「…なんですか」
「……いつか……こんなズタボロな世界じゃなくて………天国でもいいから……平和な世界で君と話がしたいな………」
「……くっ………今更……何を……!!」
柄を短く持ち刺す体制に入った。
「……さようなら、皆」
目をつむり、一言呟いて死をまった。
ざくり
生々しい音共に神機が突き刺さる音がした。痛くない。体の感覚が無いからだろうか。恐る恐る目を開けてみる。そこには一人の女声が立っていた。咲良だった。そして彼女の胸元には漆黒の刃が深々と突き刺さっていた。
「咲…良……!?」
「げほっ………随分暴れたな……心葉…」
血を吐きながら少し笑う咲良。
「……自分から……」
「…はっ………強化神機使いでいるのも……けほっ…嫌になってな……」
「咲良……なんで……」
side:咲良
「………言ったところで…無駄だ……理由は……自分で考えろ……心葉…」
深々と刺さった神機の刃に触れようとはしない。そもそも心臓を的確に貫いている。もうすぐ死ぬ。それはわかる。だからあと少しか時間は無い。鈍い体を動かし、一歩前に出て
「…っ!?」
彼を抱きしめた。
「心…葉………ごめんね………君を……愛せなくて……救えなくて」
「……ぁ…」
最後の言葉を言いきると、体から力が抜けた。視界が真っ暗に染まり、音が聞こえなくなった。
つまらない人生だった。本当に。やり直しがしたいぐらいに。
side:心葉
今まで堕ちた者をたくさん殺してきた。普通の神機使いも殺してしまった。そして今、自分の仲間を……パートナーを殺した。今までとは違う感覚に襲われた。
「……僕は………っぁ……」
目の前には膝をついた詩音と死体になった咲良。その二人を見て、我に返った。
「……………っ!」
何をしていた。誰が皆をボロボロにした。誰が彼女を殺した。自分が皆ボロボロにした。自分が彼女を殺した。
『殺せ…!』
またあの声だ。頭を殴りつけるように響く忌々しい声。
「…心…葉」
かすれた声で自分の名を呼ぶ詩音。
『コロセ…!』
『心葉…』
誰かが呼ぶ自分の名前と忌々しい声が交互に言う。頭が痛い。
「…………ぐっ」
右手に握る神機に力を込めた。
side:詩音
再び心葉が自分を殺そうとしていた。やはり彼の意志は変わらなかった。自分が殺されたあとは他の皆が死ぬ。そして……
「……」
また目を閉じた。閉じる前に心葉が神機を振るう姿が見えた。今度こそ終わりだ。
ざくり
また生々しい音。自分の心臓は貫かれて、息絶えた。
「…………ぇ」
はずだった。ゆっくりと目を開け、状況を見る。自分の胸元どころか体に刃は刺さっていなかった。刃は
「……何だよ……やれば……できるじゃないか………」
心葉の腹に突き刺さっていた。自分の手で刺していた。
「心……葉……!?」
理解ができなかった。状況を理解する前に心葉が腹に刺さった神機を引き抜いていた。引き抜くと同時に大量の血が吹き出した。
「……げほっ……」
血を吐きながら神機をゆっくりと持ち上げる。刃は自分の首元に向かっていた。
「待っ………て………!!」
かすれた声で叫んだ。
「…さようなら」
手を伸ばしやめさせようとした。ただ遅かった。
ごとっ、どさっ
ばしゃばしゃと血が吹き出し、2つ重い音が鳴る。
『偏食場パルス……収まりました………』
ヒバリから通信が来た。ただ彼女の通信にはすぐには応えられなかった。
「………ひぐっ……っ……」
これで終わった。全部。でも救われなかった。守れなかった。虚無感だけが残った。ボロボロの居住区に強い雨が降る。その雨に打たれながら静かに泣き続けることしかできなかった。
次で最後になります。最後と言ってもあと二話ぐらいの予定