side:心葉
「はい…えっ?…わかりました。今すぐ行きます…失礼します」
「…………堕ちた者ですか?」
「うん…場所は極東支部外部居住区のC地区。今極東の神機使いたちが住民を避難させてる。住民を避難させた後、空き地に移動させて…」
「僕が叩く…ということですか?」
「そういうことね……行ける?無理なら無理と言って」
「…行かせてください」
「無理はしないでね。もうすぐでポイントに到着するわよ」
「…どうか皆さん…無事でいてください」
★極東支部外部居住区C地区
side:アリサ
「こっちだ!!」
神機使いたちが市民たちを誘導し、安全地帯へと向かわせていた。誘導している神機使いたちの中にはアリサもいた。
「皆さん、落ち着いてください!ほら、押さないでください!!」
市民は皆不安な表情で安全地帯へと移動していた。それもそのはずだ。堕ちた者が来れば戦闘は免れない。その戦闘で自分の居場所が失われる可能性があるのだから。
「よし、避難終了!各員堕ちた者を探し、発見次第、空き地へ誘導させるんだ」
防衛班隊長、大森タツミが各神機使いに声をかけた。その後何人かのグループに分け、各場所に移動させた。
「アリサは俺と一緒だ。空き地から少し離れたところに行くぞ」
「はい!」
アリサは神機を握り、走り出した。
side:心葉
「避難は終わったようね。心葉、いい?」
「はい!行きます!」
心葉はロープを握り、ヘリから飛び降りた。着地地点は廃ビルの頂上。
「堕ちた者はそこから北に1kmほど離れたところよ」
操縦士が通信で教えてくれた。
「了解しました」
そう呟いて、階段を駆け下り始めた。
side:アリサ
「見つかったかっ!」
「誘導ポイントへ!!」
堕ちた者に見つかったアリサとタツミは誘導ポイントの空き地へと走り始めた。うまく誘導できると思っていた。だが、そううまくいかないのが現実だ。堕ちた者の足はかなり速く、50m程離れていたが、あっという間に追いつかれていた。
「アリサ!!」
タツミに呼ばれ、振り向いてみると自分の後ろで神機を振りかぶっている堕ちた者がいた。殺される。そう思った瞬間足がもつれて、転んでしまった。
「やめろぉ!!」
タツミが神機を振るい、堕ちた者の神機を弾いた。堕ちた者が声を上げ、神機を振り上げ、タツミに切りかかった。タツミは盾を展開したが、堕ちた者の力に押され、吹き飛ばされてしまった。
「ぐはぁっ!」
「タツミさん!!」
「だめだぁ!逃げろ!!」
他人のことを気にしている場合ではなかった。目の前の堕ちた者はすでにアリサに切りかかる体勢に入っていた。
「っ!!」
堕ちた者の神機が振り下ろされた。避けなければ、真っ二つは確実。とっさの判断で、目をつむり、神機を横に構えどうにか防ごうとした。だが、いつになっても鈍い音も、神機への衝撃も来なかった。恐る恐る目を開けてみると、堕ちた者の神機は自分の神機にあたる直前で止まっていた。
「…何が…起きたの?」
堕ちた者に何かがあったようだ。
「アリサ、今のうちに逃げるぞ!」
腹部を抑えながら、タツミが叫んだ。同時に通信が入った。
『皆さん、救世主喰らいが作戦エリアに到着しました!各員撤退もしくは隠れてください!』
やることはやった。あとは任せるだけだ。
side:心葉
「着弾を確認……速度特化型ですかね……」
神機のスコープを除き、心葉がつぶやいた。先ほど心葉は麻痺弾を堕ちた者に向けて数発撃ちこんでいた。その際、誰かが襲われていたが、ちょうど建物の陰で見えなかった。
堕ちた者にもいくつか種類がいる。攻撃特化型、速度特化型、バランス型などなど。それぞれ体の部位にいくつか特徴が出ている。今回の堕ちた者は体が細く、神機も小さめである。少しでも早く行動するために、進化した形だ。稀に異常な進化をする個体もいる。
「……周りは居住区…そのための空き地ですか…」
神機を握り、堕ちた者へと歩き出した。
「………行きます」
自分の手に力を込め、堕ちた者へと肉薄した。
「……ッ!!」
堕ちた者がこちらに気付いた。堕ちた者も同じようにこちらに向かってきた。
「…ふっ!」
心葉は息を軽く吐き出し、跳躍した。普通の人の跳躍と、神機使いの跳躍では、ものが違う。心葉が飛んだ高さは堕ちた者の身長を超え、約2m程飛んだ。
「……申し訳ないけど、あなたの力、いただきますっ!」
飛ぶと同時に神機を捕食形態に変形させていた。神機の先端が異形の怪物と化した。
「…喰らって!!」
堕ちた者を飛び越える直前で、攻撃を放った。
「!?」
心葉の神機から放たれた異形のオラクル細胞は堕ちた者の左腕に食いついた。その後着地した心葉が神機を振り、力ずくで腕を引きちぎった。堕ちた者の左腕からどす黒い血が大量に噴出した。引きちぎられた腕から、白い骨のようなものが見えたりした。
「ォォォォォォ!!」
堕ちた者が悲鳴を上げた。
「…ぅ…」
バキバキ、ボキボキと自分の手元から嫌な音が聞こえてくる。その音に顔をしかめるしかなかった。
「ガァァァァ!!」
怒った堕ちた者がこちらに高速で接近してきた。それに対し心葉は神機を構えた。高速で振り下ろさせる神機を槍の先で受け止め、それを流し、胴薙ぎを繰り出し斬り抜けた。斬り抜けた直後、神機を銃形態に変形させ銃口を後ろに向けた。自分の後ろには先ほど斬りつけた堕ちた者がいる。
「…撃つ」
斬り抜けた大勢で弾丸を2発打ち出した。スナイパーの軽い音が続けて響く。細い銃身から放たれた2つの弾丸は堕ちた者の両膝を打ち抜いた。堕ちた者の膝が砕け、両足がもげてしまった。当然体は倒れた。
「………っ」
ひどい絵だった。だがこれは自分でやったことなのだ。生きるため…自分の存在意義を見出すため。
「グ…ァァァ…」
堕ちた者が地を這いながらこっちに迫ってくる。終わりにしよう。心葉はそう思った。スナイパーの銃口を堕ちた者に向けた。
「………ごめんなさい」
そう謝り、引き金を2度引いた。1つは神機に向けて。1つは心臓に向けて。弾丸は神機を砕き、肩を貫き、心臓を貫いた。堕ちた者は2度と動かなくなった。動かなくなった堕ちた者を見て、目が熱くなってきた。
「……っ………ごめん…なさい…」
心葉はまた木材を集め、ロープで固定し、十字架を作った。その十字架を堕ちた者のそばに刺し、近くにあった花を少し摘み、添えた。
「………僕は…僕は……」
足が崩れ、涙があふれてきた。数多くの堕ちた者を殺してきた。そしてその数、墓を建ててきた。その分泣いてきた。何度殺し、何度墓を建て、何度涙を流したか、もう覚えていない。正確には数えたくない。数えてしまえば自分が壊れてしまいそうだったからだ。
side:アリサ
「救世主喰らい……いったい誰なんだろう」
先ほど通信で堕ちた者の死亡を確認したとの連絡があった。アリサは自然と空き地に向かって歩いていた。
「………私もリッカさんも知ってる人……」
そのことを考えるとすごく胸騒ぎがした。だが、今は考えなくても胸騒ぎがした。今すぐ引き返したほうがいい。自分がそう言っているような気がした。同時にリッカの言ったことを思い出した。
「この世界には知っていいことと悪いことがある………」
もうすぐ空き地だ。救世主喰らいを知る好奇心と、何かを恐れる不安の気持ちでいっぱいだった。
だが、それはこの後、後悔の一言に変わる瞬間だった。
「……あれが……」
不格好な十字架の前に堕ちた者の死体と一人の人がいた。黒いコートに身を包んだ人。その姿には見覚えがあった。背の低く、可愛くて、少し頼りない幼い神機使い……
「………この…は………くん?」
日暮心葉が墓の前で泣き崩れていた。
「っ!?」
自分の呼ばれた心葉が、振り向いた。心葉の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「…ぁ…ああ………あああ………」
驚愕した表情で、声にならない声を上げていた。そして、心葉は自分の神機を握り、どこかへと走って行った。アリサから逃げるように。
「うそ……です…よね……心葉君………ねぇ……」
リッカの言うとおりになってしまった。あまりの衝撃に神機が手からするりと落ちてしまった。
「……心葉…君が……救世主喰らいなんて………ウソですよね……」
涙があふれてきた。もう自分が知っている心葉はいなくなっていた。アリサが知っている心葉は消えた。今の心葉は、堕ちた者を…神器使いを殺す神機使いとなっていた。
■次回予告
君たちには知ってもらわなければならないことがある。救世主喰らい。それが私たちにとって重要であることを。
次回「情報ときっかけ」