GOD EATER ~堕ちた救世主~   作:elsnoir

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6話

★極東支部

side:サカキ

 

 最悪の状態だった。市街地にいるルフス・カリギュラはコウタが抑えているが、劣勢。同時にアラガミの群れを相手しているみんなも劣勢である。アラガミの群れが到着する前にルフス・カリギュラに殲滅させられる可能性だってある。

 

「……今度こそ…ダメなのか……」

 

 今榛名が意識を失っている状態から復帰した。だがそれでもボロボロだ。

 

「な、何…これは!?」

 

 フランが声を上げる。モニターを見ると外部居住区から作戦エリア全域にかけて地図が真っ赤に染まっていた。

 

「これは………!?」

「外部居住区を含む作戦エリア全域に、偏食場パルス発生……これは……感応現象、呼応!?」

「なんだと!?」

 

 死んだはずの心葉の感応現象が発動していた。

 

「皆さんにバーストレベル3付与、ステータス大幅上昇……それだけじゃない…」

「治癒能力の付与……全アラガミに弱体効果!?」

 

 フラン、ヒバリが驚愕していた。他のオペレーターも同じだった。

 

「呼応を超えた感応現象…!?」

「……まさか…榛名君の神機は…!?」

「榛名さんの神機……オラクルレイジシステム、起動しています!」

 

 オラクルレイジシステムで神機の秘められた力をすべて解放した結果が、この力かもしれない。

 

「……詩音君」

『はい』

「…いけるかい?」

『…この力があれば、負ける気はしないよ!!』

 

 自身ある返答だった。

 

 

side:榛名

 

 オラクルレイジシステムが起動した瞬間、周囲が光で見えなくなった。目の前のルフス・カリギュラですらあまりの眩しさにひるんでいた。

 

「……あっ」

 

 真っ黒だった神機はいつの間にか真っ白になっていた。何一つ汚れのない純白の神機に変わっていた。

 

「傷が…癒えていく…」

 

 倒れていたシエラがそうつぶやきながら立ち上がった。

 

「これなら…勝てる気がする…!!」

 

 エリナも同じくそういった。他の倒れていたみんなや、コウタも活気を取り戻していた。

 

「榛名…さん?」

 

 こちらを見たシエラが口を開いた。それもそうだ。オラクルレイジシステムを起動して自分の姿が少し変わっていた。背にはオラクル細胞で形成された天使のような純白の翼が生えていた。資料で見たぐらいだが、詩音だけがつかえる特殊な力、ブラッドレイジを使用した時の外見に少しだけ似ていた。あちらは黒と金色のトゲトゲとした翼のような感じだが、こちらは本当の翼が形成されていた。まるで天使、否、神が持つかのような純白で巨大な翼。

 

「………今の私…ううん。今の私達なら、どんな困難でも、乗り越えられると思います」

『できますよ……今の貴方なら。今だけでなく、これから先、未来ずっと…!!』

 

 頭の中に心葉の声が響く。今まで聞いた彼の声で、一番優しく聞こえた。

 

「…もっかい言うね。力を貸して…!!」

『はい……貴方の守りたいものの為に…この力…全て捧げます…!』

 

 神機を握り直す。今まで重量とは別で重さを感じていたが、今は無い。羽のように軽く、神機の方から支えてくれる感覚がする。

 

「シャアッ!!」

 

 突然の光により、激高したルフス・カリギュラが右腕を上げ、迫ってきた。

 

「榛名!!」

 

 コウタが声を上げる。

 

「はあっ!!」

 

 神機を薙刀形態に変形、ルフス・カリギュラの右腕をめがけて全力で切り上げた。純白の刃はルフス・カリギュラの腕を捕らえ、なんの抵抗もなく、切断した。

 

「なっ!?」

「嘘でしょ!?」

 

 エミール、エリナが声を上げた。今までまるで刃が立たなかったルフス・カリギュラが、榛名の前では無力同然だった。

 

「シャアアアアアアッ!?」

「これで……終わりッ!!」

 

 神機を薙ぎ、ルフス・カリギュラを右斜め上から斜め下に斬った。空間を割くかのような一撃はルフス・カリギュラを一瞬で沈黙させた。

 

「……これが…本当の…オラクルレイジシステムの力…?」

 

 シエラが驚き、呟いた。

 

「次、行きます!!」

 

 跳躍弾の強を装填。銃身を地面に向け、トリガーを引いた。直後体が中に浮かび上がる。中に浮かんだところでバレットを変更。冷却が終わったノヴァだ。

 

「皆さん、ノヴァを撃ちます!!何が起こるかわからないので衝撃に備えてください!!」

「わかった!」

「全員盾を構えろ!!旧型の銃はタワーシールドの後ろに隠れろ!!バックラーの装備のやつもだ!!」

 

 詩音が了承し、ソーマが全員に指示を出す。全員が構えたところを目視で確認した。

 

「行きます!!」

 

 声を上げ、引き金を引いた。勢いよく放たれた弾丸はアラガミの群れのど真ん中に着弾。その瞬間、光りに包まれた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 かなりの距離が離れていたにもかかわらず、爆風が自分の体を飛ばした。

 

「他のみんなは…!」

『全員、後方まで吹き飛んでるみたいです。けど撤退できるいいチャンスです。全員偏食因子を投与しないとまずいレベルまで来ています』

『第三、第四派のアラガミすべて消失………ですが…皆さん、一度撤退してください!!偏食因子を投与してください!!活動時間限界、間もなく迎えます!』

 

 心葉の声と同時にフランの通信が響いた。

 

「……みんな、順番に行って!!」

「「詩音!?」」

 

 みんなが悔しそうな表情をする中、詩音が声を上げた。

 

「…………今ここで下がらなきゃ………ずっと堕ちた者と戦ってきた心葉君になんて………!!」

 

 偏食因子の投与をを遅れたり、過剰投与をすると堕ちた者になる可能性がかなり上昇してしまう。もし堕ちた者になった場合、救済は不可。殺さなくてはならない。たとえ味方だとしても。それを一人背負って彼は戦ってた。その苦しさは誰だってわかる。せめて、自分たちだけでも堕ちた者にならないようにする。それが、心葉が死んでから全員で決めた約束事だ。救われなかった、彼へのせめてのものとして。

 

「……皆さん、後は私がやります」

 

 自分だけは下がるつもりはなかった。

 

「だめだよ!!榛名さんだけでも!」

「行ってください!!」

 

 神機の刃を地面に勢いよく突き刺す。

 

「………やるだけやります。それに…皆さんとは少し出が遅れてます。私だけ活動時間はまだあります」

「けど……」

「……詩音さん」

「……何…?」

「…貴方が皆さんの頼りなんです………どうか…今だけは…」

 

 このまま彼女を返さなければブラッドレイジを使っただろう。そうなった暁にはどうなるか。オラクルレイジシステムと違って、時間が経過してしまえば効果が終了してしまう。当然反動も凄まじい。ただでさえ大量を消耗してる状態だ。

 

「………リンドウ…」

 

 ソーマが呟いた。

 

「……ああ。全員下がれ!!」

「リンドウさん!?」

「うるせぇ!!ここは榛名にまかせて、全員戻るぞ!!」

 

 リンドウが声を上げた。全員が驚愕した。

 

「まって、私も残る!!」

「ッ!!」

 

 全員が混乱してる中で、リンドウが詩音の胸ぐらを掴んだ。

 

「……俺だって…こんなことはしたくねぇんだよ……!!」

「………」

「けど……お前が言ったとおりだ…ここで下がらなけりゃ、堕ちた者になる……」

「……皆さん、心葉君の為だと思って…今は…!!」

 

 ゆっくりと足音が聞こえだした。少しずつ遠ざかるように聞こえる。

 

「………榛名ちゃん……」

「……大丈夫ですから。今は、心葉君も一緒にいます」

 

 後ろは向かず、左手を横に伸ばし、サムズアップした。

 

「……絶対に帰ってきて…」

「……約束します」

 

 その一言を最後に、足音が聞こえなくなり始めた。

 

 

★極東支部

side:ヒバリ

 

「榛名さん!!」

「榛名、下がれ!!さっきから通信を聞いていたが、そんなことが許されると思ってるのか!!」

 

 自分とツバキが声を荒げる。

 

『……そうですね…戻ったらお説教は沢山聞きます』

「ふざけたことを言うな榛名君!!今どういう状態かわかってるのか!!」

「今君の体はボロボロでオラクルレイジシステムでどんどん蝕まれているんだよ!!」

 

 サカキ、リッカも同じように声を上げている。

 

『……少しの間でしたけど、おせわになりました……またのときは…お説教からですかね』

 

 穏やかに呟いた一言の後、通信にノイズしか走らなくなった。

 

「くそっ!!」

 

 ツバキが机を殴りつけた。

 

「何がおせわになりましただ………お前が死んだら…孤児院の市民に……それに心葉に……!!」

 

 

★作戦エリア

side:榛名

 

 最後の一言を終わりに、インカムを潰した。

 

『……死ぬ気ですか?』

「ううん。ちゃんと帰ります。でも、保証は無いですかね……」

『……僕が約束しますよ。貴方をちゃんと帰すって』

「……今のはプロポーズかなにかですか?」

『……解釈はおまかせしますよ』

 

 アラガミが作戦エリアに入る前で、心葉との会話を並べた。

 

『……でも、貴方は帰らないと行けない』

「…もちろんです。孤児院の皆さんにちゃんと守れたって言わないと」

『そうですよ……さて、もう来ますね』

 

 目の前に群れが並ぶ。ノヴァは冷却中の為使用は不可。自分たちでなんとかするしか無い。

 

「………私、こうして貴方と一緒に戦うのを少しだけ願っていたのかもしれません」

『………僕は……傍にいたかった……のかな。そんなことを死ぬ前までもしかしたら思っていたのかもしれないですね』

 

 作戦エリアにアラガミが侵入し、最後の戦いが始まった。たった一人でも負ける気はしなかった。彼がいるだけでも十分だった。

 

 

★極東支部

side:詩音

 

 榛名以外全員極東支部に戻ることができ、偏食因子を投与しながら簡易的な治療を行っていた。

 

「……ひぐっ……っ……」

 

 詩音は泣いていた。また守れ無いのかと。頑張っていれば、まだ戦えたかもしれない。榛名を後退させることができたかもしれない。

 

「……偏食因子は間に合ったが…再度動けるやつは…いなそうだな…」

 

 同じく簡易的に治療を受けていたギルバートが口を開いた。皆腕や足に包帯を巻いている。出血だけでなく被弾時に打撲しているケースもあった。

 

「………隊長」

「……また………また…私は……」

「……アイツを信じよう」

 

 今は彼女を信じることしかできなかった。言ったところで足手まといになるのは自分もわかっていた。

 

 

★作戦エリア

side:榛名

 

 最後だけあって数がやたらと多い。いくら感応現象の効果で治癒しているといっても、疲労は別物だ。体がどんどん鈍くなっていくのがわかる。

 

「……もう少し!!」

『後少しです……!』

 

 最後に一体だけ特異な個体を見た。これも資料だけのものだ。白と黒の体にしなやかな体、大きないくつかの尻尾。

 

「マガツキュウビ……!!」

『アレさえ倒せば、全部終わります!!』

 

 倒せば終わる。だが簡単にはいかないようだ。マガツキュウビから偏食場パルスが発生しはじめた。

 

「……体が…重い……!?」

『マガツキュウビの偏食場パルスです。徐々に体力が蝕まれていきますよ!!』

 

 早急に終わらせなければならない。だが、マガツキュウビだけではない。他の大型もいる。

 

 ガチャン

 

 手元から音が鳴る。ノヴァの冷却が終わった合図だった。

 

「……やるしか…無いですよね…!」

 

 そうつぶやき、決意した。他のアラガミを無視して、マガツキュウビに向かて全力で走る。神機を途中で変形させ、アサルト形態に。銃口の下には鋭い刃がでている。突き刺してゼロ距離で弾丸を放つ前提の設計だ。マガツキュウビがこちらに向かって突き進んでくる。好都合だった。

 

『………いいんですか?』

「……活動時間を大幅に過ぎてるんです。それにこのシステムのこともあります……後先短いのは見えてます……」

『……せめて…貴方だけでも返します。今は…目の前のことだけを!!』

 

 もうすぐ近くまで迫っていた。銃口をマガツキュウビに向け、刃を顔面に突き刺す。

 

「……皆に嘘ついちゃいました……ごめんなさい。きっと…帰れない」

 

 その一言を最後に、引き金を引いた。目の前が光りに包まれ、体の感覚が無くなっていった。

 

 

side:詩音

 

 偏食因子の投与が終わった直後にアラガミ反応がすべて消失したと連絡が入った。つまり戦闘が終わった状態だ。急いで榛名を迎えに行っているところだ。今は装甲車で周りを注意して見ながら走っている。

 

「……お願い…無事でいて…!!」

『榛名さんの反応、すぐ近くです!』

 

 ヒバリから通信が入った。

 

「急ごう!!」

 

 搭乗していたのは自分とリンドウ、シエルの3人に看護師一人だ。

 

「あそこだ!!」

 

 降りてすぐにわかった。白い神機が見えた。そこに榛名は倒れていた。

 

「榛名ちゃん!!」

 

 駆け寄ってみると、全身ボロボロで気を失っていた。少しだけ手が冷たい気がする。けれど、手に握っている神機は力強かった。

 

「脈はまだあります……!」

「けど…冷たい…!?」

「とりあえず急ぐぞ!!」

 

 シエルと看護師で榛名を担ぎ、急いで装甲車に戻った。

 

 

★???

side:榛名

 

 目を開けると真っ白な場所にいた。足元には見たことのない真っ白な花園があたり一面に広がっていた。

 

「………ここ……ああ…そっか……」

 

 さっきまでのことを思い出した。ゼロ距離でマガツキュウビにノヴァを撃った。その爆風で叩きつけられて死亡したか、そのまま爆風にやられたかどちらかだと思った。

 

「………あーあ……やっぱり、私ってダメな人……」

「…貴方はだめな人なんかじゃありませんよ」

 

 振り向けば心葉がいた。けど、少し違った。体格や表情は以前見たときと変わらずだった。だが髪色が黒色から真っ白になっていた。

 

「僕が保証します」

「心葉君……あの、ここどこだかわかりますか……?心葉君がいるなら神機のコアの中ですか?」

「……ここばっかりはわからないです」

 

 彼の表情が曇った。

 

「…さっきとは違うんですか?」

「…わからないんです。僕が見てきたのはずっと真っ黒な世界だったから…あの神機が真っ白になった時のせいかもしれませんが……でも」

「でも?」

「……この状況なら僕含め、皆成仏したって考えられてもおかしくないんですよね……」

 

 神機にすら残っていない。完全に死の世界だ。周りを見渡しても花園しか見えない。見たことのない花なのも、きっとそういうことなのかもしれない。

 

「………ははっ……そっか……あれ………?」

 

 いつの間にか涙が頬をつたっていた。悲しいのだろうか。

 

「……悲しいんですかね………」

「………」

 

 心葉は何も言わなかった。けど、小さな体で自分を抱きしめていた。

 

「…………何で抱きしめられてるのかな……」

「……こうすれば…少しは和らぎますかね…?」

「……はい」

 

 少し心葉に甘えることにした。孤児院の子どもたちにしてあげたことを、今されていた。ふと思った。もしここがコアの中だとすれば、今自分の体はどうなっているのだろうか。

 

 

★極東支部

side:詩音

 

 こちらはこちらで状態は悪化していた。榛名の呼吸がどんどん荒くなっていき、心拍数も低下している。体温は低下していく一方だ。

 

「くそっ、どうなってる!!」

 

 医師たちも混乱していた。外傷は致命傷までには至っていない。内蔵も大きなダメージは無い。それでも体は徐々に衰弱していっている。

 病室の扉越しにも怒号が聞こえてきている。

 

「いや……嫌だよ……」

 

 詩音は扉の前で崩れていた。また目の前で仲間を失うかもしれないのだ。それも、また自分が関わっておきながら。

 

 

???

side:榛名

 

「………帰りたいですよね」

 

 心葉が呟いた。

 

「……帰れるなら」

「……オラクルレイジシステムのせいで、神機も僕の意識も大分ボロボロになってきてるんです」

「……どういう…ことですか…?」

 

 聞かなくてもわかってしまうことを聞いてしまった。

 

「……近い内にこの神機のコアが壊れるはずです……そうすれば……僕はもう二度と…」

 

 彼の意識はコアにある。そのコアが壊れてしまえば、何もかも無くなる。コア自体は修復すればまた使える。

 

「……辛いようですけど、最後の選択肢です。僕と一緒にここにいて、神機のコアの損壊と同時に消滅。または、貴方はもとに戻り、僕は神機のコアの損壊で消滅。どちらかしか道はありません」

 

 ずっと真面目な表情で榛名の顔を見つめる心葉だった。大事な選択肢だっていうのはわかっている。けど、その選択をするにはあまりにも時間がなかった。

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