GOD EATER ~堕ちた救世主~   作:elsnoir

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6話 覚醒と意志の芽生え

★エントランス

side:心葉

 

「えっ?出張ですか…?」

 

 今日が新しい第一部隊初の任務ということで、張り切っていた心葉だったが…

 

「はい。今回カナダ支部にて堕ちた者が確認されました。この堕ちた者の被害件数は18件。軽傷、重症、死亡など多数出ています。そのため救援要請が入りました」

 

 自分は神機使いではあるが、ゴッドイーターではなく、救世主喰らい(メシアイーター)なのだ。堕ちた者を退治するのが自分の仕事だ。

 

「…わかりました」

 

 心葉はシュンとなった。出張となれば当分の間は皆に出会うことができない。それが痛かった。いろいろな支部に行ってきたが、カナダは初めてだ。つまりあっちに行けば一人ぼっちになる。

 

「では、行ってきます」

 

 ヒバリに背を向け、出撃ゲート近くにあるエアポートに向かおうとしたが、腰の部分がやけに重かった。後ろを向いてみると

 

「心葉君~~行~か~な~い~でぇ~~」

 

 涙目になりながら詩音が心葉の腰に抱き着いていた。

 

「詩音さん!?手を離してください!」

 

 心葉は詩音をずるずると引きずりながら、エアポートまで歩き出した。が

 

「行かないでよ~」

 

 今度はナナが心葉の右手をつかんだ。

 

「何で!?ぼ、僕は、出撃しますから~~」

 

 ナナに手をつかまれ、うまく動けなくなった。さらに

 

「行かないでください!」

 

 アリサに左手をつかまれた。これが両手に花という図なのだろう。

 

「何で皆さん邪魔するんですかぁぁぁ!!」

 

 その悲鳴はむなしくも届かなかった。逆に新たに障害を増やしただけに終わった。

 

「行かせはしません」

 

 シエルが後ろから抱き着いていた。こうなると動くこともできない。ただの案山子同然だ。

 

「……ヒバリさん…助けて………」

 

 心葉は涙目になりながらヒバリに助けを求めた。が

 

「ほんとは私も行ってほしくないんです」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 極東の女性陣の大半は敵だと確信した瞬間だった。今の自分の周りに見方はいない。そう思ったとき、救世主が現れた。

 

「お前ら…いい加減にしろぉ!!」

 

 突如現れたギルバートが拳を振り上げた。

 

 

「…心葉、大丈夫か?」

「…はい、ありがとうございます」

 

 ギルバートの前には、詩音、シエル、ナナ、アリサがそれぞれ正座している。皆頭部に瘤を作っていた。

 

「…お前ら、何か言うことは?」

「「すみませんでした」」

 

 皆頬を膨らませながら答えた。

 

「すまなかったな心葉。後でちゃんと叱っておくから」

「……お願いします」

 

 大丈夫です。と言おうとしたが、やめた。今回のケースは少しぐらい叱ってもいいと思う。

 

「わかった…………いくら心葉のことが気に入ってもな、仕事ぐらい邪魔するな」

「「………」」

「返事は?」

「「…はーい」」

 

 ギルバートが詩音たちを抑えてくれたおかげで、出撃ができるようになった。

 

「ギルバートさん、ありがとうございますっ!」

 

 ぺこりとお辞儀をし、エアポートへ走り出した。

 

 

★エアポート

 

「すみません、遅くなりました!!」

 

 エアポートに駆け込むなり、すぐに頭を下げ謝罪した心葉だった。

 

「いいのよ。それより久しぶりね」

 

 顔を上げるといつの日かお世話になった操縦士がいた。その隣には同じ日にお世話になった副操縦士もいた。

 

「あっ、お久しぶりです」

「なんかね、君の専属パイロットになったみたい。それより、行きましょうか」

「はいっ」

 

 目の前にあるヘリに乗り込んだ。

 

「離陸するわよ」

 

 操縦士が言った。次の瞬間、世界が動きふわりとした感覚が体を襲った。この感覚は好きだった。どうして好きだとかはわからない。ただ、好きなのだ。

 

「移動時間はなかなかよ。だから、そこにあるレーションなりお菓子なり食べて過ごしてね」

 

 自分の隣には、山積みになったお菓子とレーション、飲料があった。心葉はその中からレーションとジュースを取り出し、レーションを少量、口の中に放り込んだ。

 

 

★カナダ支部エアポート

 

「ここが……」

 

 数時間かけてやっと到着した。ヘリの中も暇だったので昔のカナダのパンフレットを読んでいた。カナダはアメリカと比べなかなか大きい。領土の約50%が森林で占められている。そして非常に寒冷な気候を持っている。あくまでそれは昔の話だ。

 

「………うう…寒い………それにしても……緑はどこに…?」

 

 寒いのは正しかった。だが、近くには緑なんて一切なかった。あるのは平地と廃墟と化した街、そして荒野にたたずむフェンリルカナダ支部。

 

「支部長が待っています。行きましょう」

 

 副操縦士が言った。操縦士が歩き出し、心葉もそのあとに続いた。

 

 

★カナダ支部エントランス

 

 カナダのエントランスは極東と大きく変わると思っていたが、そうでもなかった。エントランスはどこに行っても同じような形をしていた。

 心葉はまずオペレーターと挨拶することにした。

 

「このたび極東支部から出張してきました、日暮心葉です」

「よろしく。俺はレオス。レオス・アリアスだ。ここではオペレーターを務めている」

 

 青年、レオスがオペレーターを務めていた。極東で唯一の男性オペレーターであるテルオミと同じかそれ以上の年齢だった。

 

「心葉、支部長室へ。支部長が待っている」

 

 レオスは無関心そうに言い、パソコンと向き合ってしまった。心葉はエレベーターに乗り、支部長室へと歩き出した。

 

 

★カナダ支部支部長室

 

 重圧そうな扉を開けると、少し大柄な男性が座っていた。

 

「ようこそ、カナダ支部へ。心葉君。いや、救世主喰らいと言ったほうがいいかね?」

「……あまりその名前では呼んでほしくないです」

 

 その名前で呼ばれると、胸がチクチクする。

 救世主喰らいの名前は自分では否定している。読みはメシアイーターが正しいが、読み方を変えれば「ひとごろし」でもある。

 

「いや、すまなかった。まさか、君みたいな少年がこんなことをしているとは思わなかったよ」

 

 大体、救世主喰らいの名前を聞いて思いつく人物は狂気のある青年と思っている。だれも大人しく、謙虚な少年が救世主喰らいとは思わないだろう。

 

「君のことは極東から出張した新人神機使いということで話を進めてある。君は第1部隊配属になる。この話が終わったら、挨拶でもさせる予定だ。今回君を読んだ理由はわかっているね?」

「はい。今回数多くの被害を出した堕ちた者の退治…でいいんですよね?」

「ああ。話が早くて助かる」

「それで、僕は堕ちた者を倒したらすぐに帰っていいんですよね?」

「まあ、そうなるが、無理に帰らなくてもいいはずだ」

 

 支部長の言うとおりである。だがすぐにでも帰らなければいけない理由が極東にある。

 

「あっちですごく待っている人がいますから」

「君を待っている人?女かい?」

「そうなんですけど……ちょっと心配で……」

 

 今にも極東の女性陣が発狂してないか心配だった。それでギルバートやほかの人に影響が出たらどうしようかと思った。

 

「…何かと事情がありそうだが、君の役目が終わったら自由にするといい。短い間だが、よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げ、支部長室を後にした。

 

★休憩所

 

 操縦士と、副操縦士はいろいろと歩き回っているから気にしないで。と言ってどこかへ行ってしまった。自分の部屋も個人部屋で用意されていた。操縦士建ちは相部屋になっていた。

 心葉は外を眺めながら、自販機で買ったココアを飲んでいた。

 

「ギルバートさん、大丈夫かな………」

 

 極東よりギルバート本人が心配だった。彼女たちに振り回されて怒ったりしているのだろうか……そんなことを考えた。ちょっとだけ自分がいない極東支部はどんな感じか気になった。そう思った時にはコートのポケットから、携帯を取り出し、ギルバートに電話をかけていた。電話はすぐにつながった。

 

「心葉、どうした?」

「いえ、ただ僕のいない極東支部ってどんな感じかなーって思っただけで……」

「………心葉」

 

 ギルバートの声は重かった。

 

「はい?」

「…頼むから早く帰ってきてくれ。このままじゃ俺がストレスで倒れる」

 

 ギルバートがいったい何を言っているかわからなかった。向こうでいったい何が起きているんだろうか……

 

「わ、わかりました……ちなみにあとどれくらい持ちこたえそうですか?」

「わからない。今日かもしれない、明日かもしれない……悪いが切るぞ」

 

 ブツリと電話が切れる音が耳元でなった。本当に早く帰ったほうがよさそうだった。

 

「すまない、待たせたな」

 

 後ろから、声をかけられた。振り向くと自分より少し年上ぐらいの銀髪の青年と桜色の長い髪の女性がいた。

 

「こいつが迷子になってな」

 

 青年が隣の女性を指さしながら、言った。女性は頬を膨らませていた。

 

「いえいえ、こっちもついさっき来たばかりです」

「そうかい。俺はセシル・クラウン。君が入る第一部隊の隊長だ。こっちがシィ・エルダリアだ。もう一人いるが本日は別任務中だ」

「日暮心葉です。短い間になると思いますが、よろしくお願いします」

 

 心葉はぺこりと頭を下げた。

 

「こちらこそ、よろしく」

「ねね、いきなりで悪いけど、心葉君の神機見せてくれない?」

 

 シィが口を開いた。

 

「いいですけど…」

 

 自分の神機なんか見てどうするのか疑問に思った。

 

「こいつはもともと整備士だ。適合する神機が見つかったから今ここにいる」

「なるほど…僕の神機は保管庫に入っていると思いますけど…」

「わかったー!」

 

 シィは保管庫の方向へと駆けて行った。

 

「行くか」

 

 シィに続いてセシルも歩き出した。その後ろを心葉がついて行った。

 

 

★神機保管庫

 

 ここの神機保管庫も薄暗く少々蒸し暑かった。だが、極東と比べ広かった。壁側一面にずらりと神機が並んでいた。その中でひときわ目立つ白い神機があった。

 

「おおっ!?新しい神機!!」

 

 その白い神機向かってシィが走って行った。その白い神機が心葉の神機だ。

 

「あれが君のか」

「ええ。装備は前使用者のおさがりなんですけどね」

 

 自分の神機の正面に立った。その前でシィが神機を眺めている。

 

「チャージスピアでカリギュラ一式……しかも全部最終強化済み……おまけに白塗装ね…」

 

 シィは神機を眺めた後、神機の前のターミナルを操作しだした。このターミナルには神機の状態を示す数字やグラフがある。どの部分が調子が悪いとか、この部分が破損しているとか、そういったことも分かる。

 

「…数値、状態、破損状況……すっごい!!!」

 

 シィは一人興奮していた。

 

「こんなに調整されている神機初めて見た!!」

 

 心葉とセシルはシィのテンションに唖然としていた。

 

「君の神機の扱いも丁寧ですごいけど、極東の整備士の技術力もすごい!!」

 

 自分では結構雑に扱っているつもりだが、どうやら神機のメンテナンスや扱いには素人にわからないことがたくさんありそうだ。

 

「ねぇねぇ!早く出撃しよっ!!心葉君の実力見てみたい!!」

「…心葉、あいつはああなったら止まらない。シィ、本日の任務は全部片付いたそうだ。あとは夜当番のやつに任せておけ。やっても模擬訓練程度だな」

「ぐぬぬ……じゃあダミーで我慢します」

 

 どうやら自分が神機を振るうのは確定しているようだった。

 

 

★訓練所

 

 心葉は堕ちた者以外に神機を振るうのはだいぶ久しぶりだった。ダミーなんか最初に神機を振るった3日以来相手をしたことも、見たこともなかった。

 

「…まあ、ダミーごとき苦戦するようじゃすぐに帰ってもらうが、心配ないだろう」

 

 スピーカーからセシルの声が響く。心葉の目の前には小型アラガミ、オウガテイルに似せたダミーが10体。

 

「機器の準備はオッケーだよ。いつでもいいよ。やっちゃって!」

 

 シィが言った。

 

「行きます!」

 

 軽く息を吐き出し、目の前の一番近いダミーに肉薄した。神機を握る手に力を込め、ダミーの頭部めがけて振り下ろした。白い槍はダミーにめり込み、砕いた。そして神機を横に薙ぎダミーを吹き飛ばした。

 

「次!」

 

 すぐそばにいた2体目のダミーを神機で突き刺し、素早く引き抜いた。

 

「ガァッ!」

 

 ダミーが後ろから飛びかかってきた。いくらダミーとはいえ、中身は金属。直撃すれば痛いでは済まない。心葉は飛びかかってきたダミーに対し、ステップをし、ギリギリ当たらない程度まで動いた。そしてすぐに神機を薙ぎ、切り裂いた。

 

「まだまだっ」

 

 神機を銃形態に変形させ、こちらに迫ってくるダミーに向けてバレットを放った。今放ったバレットは対堕ちた者用のバレットではなく普通のバレットである。心葉の放ったバレットはダミーの脳天を貫き、あたった弾丸から、複数のオラクルの弾丸が形成され、そこからさらに弾丸が放たれた。その数合計3発。ダミーの頭部は砕け、消滅した。

 このバレットは過去にリッカから教わったバレットで自分が愛用しているバレットの一つでもある。

 

 

side:セシル

 

「驚いたな」

 

 新人とは思えないほどの動きであった。新人神機使いは基本周りがよく見えていない。だが心葉はよく見ている。単体の敵に集中せず、全体的に見て敵の攻撃を判断し、ほかの敵も確認した後、反撃か回避している。

 

「たぁっ!!」

 

 心葉は飛び上がったダミーに神機を空に薙ぎ反撃した。その後背後から迫るダミーをバックフリップで背後に回り込み神機で突き刺した。

 

「……本当に新人か?」

 

 今まで数多くの新人を見てきたが、これほど動ける新人はいなかった。センスがある、という次元を超えいていた。センスがある神機使いでもここまで動ける新人は見たことがない。

 

「…シィ、どう思う」

「………新人には思えない…ずっと前から闘ってるような……それもオウガテイルとかザイゴートとかそういった小型ばかりの相手じゃなく、大型の乱戦を体験している感じ……いや、それ以上…?」

 

 パソコンから目を離さず、シィは自分の意見を出した。

 

「…考えてみれば、普通素人がカリギュラ装備をあそこまで軽々扱えるわけないもんね」

「そうだな。あれは接触禁忌種の装備だ」

 

 話しているうちに心葉はダミーを殲滅していた。

 

 

side:心葉

 

 開始から5分、ダミーをすべて殲滅した。どのダミーも頭部が砕けたりと胴体から下がないとか、滅茶苦茶になっている。

 

「ふぅ…」

 

 小さく息を吐き出した。額の汗をぬぐい、コートを脱いだ。

 

「お疲れ様。いろいろと見せてもらったよ。シィはデータ整理したいって言うから、あそこにこもっている。もう寝たほうがいい」

「わかりました。お先に失礼します」

 

 神機を保管庫に返し、、自分の部屋に向かった。

 

 

★自室(仮)

 

 用意された部屋はホテルのプライベートルームのようにベッドとクローゼット、テレビに小さな棚と水道があるくらいだった。トイレとシャワールームは別の部屋にあった。ここ近辺にはどうやら誰もいないらしい。コートをハンガーにかけ、シャワールームに向かった。

 シャワーを浴びながら、自分は華奢な体をしていると思った。これが自分の数少ない悩みの一つ。

 

 

 部屋に戻ると携帯が鳴っていた。発信元はギルバート。不安がこみ上げてきた。電話を恐る恐る手に取り、電話に出た。

 

「は、はい」

「すまないな、夜遅くに」

「いえ、大丈夫です。それより、どうかしたんですか?」

「いや、ただ大丈夫かどうかってな」

「そ、そうですか…」

 

 今自分の中で何か嫌な予感がするのを感じた。ギルバートの声の後ろでドドドドドドドと何かが迫ってくるような音がしているのだから。

 

「ん?詩音!?やめろ!!ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 その予感は見事的中した。ギルバートが悲鳴を上げた。何が起きたか容易に想像できたが、想像したくなかった。携帯が落ちた軽い音と同時に、ドサリと思い音もした。

 

「もしもし!このh」

 

 詩音の声を聴いた瞬間に自分の指は自然と電話を切っていた。そしてそのまま電源を落とした。これ以上考えると寒気がしそうだった。早いうちにベットに潜り込み、眠りに落ちた。

 

 

★旧市街地

 

「本日はヴァジュラ目当てだが、俺がやる。二人は小型を頼む」

 

 セシル、シィ、心葉は旧市街に足を運んでいた。外は廃ビル、永遠に色がつくことも変わることもない信号機、もう過去の平和だった市街地はなくなっていた。

 

「心葉、昨日の動きを見て君ひとりでも行動できると見た。行けるか?」

「やります」

 

 自信満々に答えた。

 

「よし、頼む。何かあったら各自連絡を」

 

 シィと心葉が頷き、3人それぞれ別方向へと走り出した。

 

 

side:セシル

 

「いたか」

 

 行動を開始してから早くも討伐目標を確認した。トラの様な巨大なアラガミ。今まで何度も戦ってきている。特に苦戦するような相手ではない。

 

「こちらセシル、これよりヴァジュラと交戦する」

 

 通信を一言入れ、神機を握り、ヴァジュラに向けて走り出した。

 

「グォォォォォ!!」

 

 ヴァジュラが吠える。戦争の開幕だ。

 

 

side:シィ

 

「よっと」

 

 ロングブレードの神機を薙ぎ、小型アラガミを倒していく。神機のメンテナンスもしっかりしてある。破損個所もなし、オラクル細胞の数値も問題なし。絶好調であった。

 

「…さて、次行きますか」

 

 そう意気込み、走り出した瞬間、通信が入った。オペレーターからだった。

 

「緊急事態発生!!作戦エリアに堕ちた者が侵入した!!今すぐ逃げろ!!」

 

 オペレーターのレオスが叫んだ。

 

「このタイミングで!?」

 

 驚くしかなかった。セシルと自分はよしとしても、この場には新兵の心葉がいる。かなりまずい状況だ。

 

「2人ともいいか!?任務のことは気にせず今すぐ逃げろ!!」

 

 セシルの言うとおりだ。任務よりまず命が大切だ。シィは駆け出した。が

 

「そんな…」

 

 逃げようとした先に堕ちた者がいた。堕ちた者はじっとこちらを見つめている。

 

「くっ…」

 

 見つかった以上交戦は免れない。神機を握る手に力を込め、堕ちた者に肉薄した。

 

 

side:心葉

 

「…来ましたね」

 

 本来ここにいる理由はアラガミを倒すのではなく、堕ちた者を倒すために来ているのだ。これからが本当の仕事になる。

 通信が入った。

 

「ちっ…シィと堕ちた者が交戦中だ。誰か援護を!!」

 

 レオスが舌打ちをし、叫んだ。同時に通信機の画面に交戦ポイントが表示された。心葉はアラガミの屍を通り過ぎ、ポイントへ走り出した。

 

 

side:シィ

 

「きゃぁっ!」

 

 堕ちた者の素早い攻撃により、吹き飛ばされた。堕ちた者が追撃を仕掛けてくる。

 

「くっ」

 

 痛む体に鞭をうち、立ちあがった。そして神機を振るった。だが、堕ちた者の圧倒的な力を前に、また吹き飛ばされた。ゴロゴロと体が転がり、廃ビルの壁に激突する。

 

「っ!?」

 

 さらに堕ちた者が追撃を仕掛けてくる。シィは神機の盾、重圧かつ巨大なタワーシールドを展開した。ガキィン!と堕ちた者の異形と化した神機の様な武器と盾がぶつかり、嫌な音が響く。これで少し落ち着いて反撃を狙おうとした。だが、堕ちた者は反動をものともせず、連続で盾に向かって武器を突き刺している。弾かれてもまだ突き刺す。自分がいつまで持つかわからなかった。それでも救援の時間稼ぎにはなるだろうと思った。

 

「…お願い…もう少しだけもって…」

 

 その願いは砕かれた。タワーシールドが悲鳴を上げ始め、堕ちた者の武器の先端が少しだけ貫通し始めた。

 

「あ、ああああああああああ」

 

 最初は少しだけ貫通していた部分も、時間が立つにつれ、穴も大きくなり、場所も増えてきた。

 

 

side:心葉

 

「見つけた!」

 

 心葉は駆け出した。堕ちた者は何かに向けてひたすら右腕を振るっている。よく見るとシィの神機のタワーシールドだった。

 

「ああああああああああああああああああ」

 

 

 シィの声が聞こえた。

 

「シィさん!」

 

 堕ちた者はいまだ武器を振るっている。タワーシールドもあまり持ちこたえそうではなかった。鈍い音が鳴り響いている。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 シィが悲鳴を上げた。まだ間に合うと思った。が

 

「ごふっ!」

 

 鈍い音が鳴りやみ、タワーシールドの陰から赤色が滲み出していた。それ以来、シィの声も聞こえなかった。

 

「ッッッッ!!!!」

 

 自分の中で何かがこみ上げるような感覚がした。怒りとは別の何かが。

 心葉は高速で堕ちた者に接近した。

 

「シャァッ!」

 

 堕ちた者がこちらに気付き、声を上げた。接近してくる心葉に向けて、武器を振り下ろした。心葉はそれを神機で薙ぎ、振り払った。そして神機で堕ちた者の左肩あたりを突き刺した。槍の先に蒼白いエネルギーが集中していた。次の瞬間、エネルギーが爆発し堕ちた者を吹き飛ばした。大きく吹き飛ばされた堕ちた者はそれ以降動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 急に疲労が体を襲った。きっと先ほどの爆発によるものだと思った。自分でも何が起きていたかよくわからなかった。

 

「…はぁ…はぁ…堕ちた者は…動かない…?」

 

 堕ちた者に近づきながら長さの違う角材を拾った。死体に近づくと、左側の胸部から肩、腕が消し飛んでいた。

 

「…ごめんなさい…」

 

 死体に謝り、角材を十字架に組み合わせ死体のそばに刺した。

 

「っ!シィさん!!」

 

 ふと思い出し、タワーシールドに駆け寄った。近くによるとガシャリと音を立て、神機が倒れた。そこには腹部を貫かれ内臓をさらけ出しているシィの死体があった。

 

「…ぁぁぁ」

 

 声が出なかった。

 

「シィ!!」

 

 背後からセシルが走ってきた。

 

「なんなんだよ…これはぁ!!」

 

 セシルが声を上げていた。無理もない。こんな無残な姿で死んでいるのだから。

 

「シィ!おいシィ、シィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 セシルの叫びは空しく空に響いただけであった。

 

 

★エアポート

 

「…すみません」

「君が気にすることではない。君はやるだけのことをやっただけだ」

「でも…もっと早く行けば、守れたかもしれない」

 

 心葉のは今にも泣きそうだった。

 

「この世界、犠牲無しでは生きていけない。それはわかるだろう」

「…はい」

「せめて、彼女のことを忘れないでくれ」

「…わかりました。短い間ですが、ありがとうございました」

 

 ぺこりと頭を下げ、ヘリに乗り込んだ。

 

 

★カナダ支部エントランス

side:---

 

 一人の青年が帰還した。エントランスにはいつもと違う騒がしさがあった。

 

「レオス、何があった」

「…バゼル、言いにくいが、シィが堕ちた者に殺された」

 

 レオスの言ったことにバゼルと呼ばれた青年の表情が真っ青になった。バゼルは第一部隊の一人でもある。

 

「…………なんでだよ…」

「…シィが堕ちた者と遭遇、その後交戦。そして死んだ。その後堕ちた者は何者かによって殺されていた」

「…変な話だな。ありえないと思うが救世主喰らいか?」

 

 一般の神機使いは救世主喰らいについてまったくと言っていいほど情報は知らない。ただ神機使いを喰らうということしか知らない。

 

「…不明だ。その場にはセシル、シィ、そして極東から派遣された心葉という新兵がいた。そしてそれ以外の人間は立ち入っていない。最初から最後まで」

「その新兵が堕ちた者を殺せるわけがない。そうなればセシルか?」

 

 その問いにレオスは頭を横に振った。

 

「セシルはその時ヴァジュラと交戦中だった。信じがたいと思うが堕ちた者は心葉がやった可能性が高い」

「…どんな奴だった?」

「大人しく健気なやつだ。15、16の幼い少年だ」

 

 そんなやつが堕ちた者を殺せるわけがない。そう思うしかなかった。だが話を聞く限りでは、心葉というやつしか堕ちた者を殺すことはできないはずだ。さらに話を聞くとセシルが駆け付けたころにはすでに堕ちた者は死んでいたという。

 

「…偶然…か、それともそいつが救世主喰らいか?」

「…参考までにしてほしいが、最近救世主喰らいの噂で、神機使いだけでなく、堕ちた者も喰らうという噂が回っている」

「そうなれば……救世主喰らいがやったという可能性が高いのか」

「そう見たほうが早そうだ。こっちで少し心葉のことを調べたが、どう考えても救世主喰らいではない」

「なぜ言い切れる?」

 

 レオスがパソコンを向けた。

 

「この記録がそうだ」

 

 パソコンには心葉の活動内容が書いてある。どれも極東支部を中心に小型アラガミの討伐、ベテラン神機使いによる指導などなど。これは5か月前続いていた。そして心葉が神機使いになったのは5か月前。

 

「なら誰がやったっていうんだ?」

「………」

 

 レオスは答えられなかった。正確にはどう答えたらいいかわからなかった。今のバゼルの目には怒りと殺意しか見えなかったからだ。下手に口を出せば自分の命まで危険にさらされると判断した。

 そしてバゼルの怒りの矛先は…

 

「救世主喰らい……お前さえいなければ………!」

 

 救世主喰らいへと向けられた。

 

 

★極東支部エントランス

side:心葉

 

「……………」

 

 カナダから帰ってきた心葉はエントランスの椅子に一人黄昏ていた。誰かいると思ったが帰ってきた時間が1時を回っていた。当然夜番の人以外誰もいなかった。

 

「………」

 

 シィのことが頭から離れなかった。初めて自分の目の前で人を守れなかった。それが悔しかった。

 

「…なあ」

 

 上から声をかけられた。見上げるとソーマがいた。

 

「一人黄昏て、何を考えている?」

「…………守れませんでした」

「…何をだ?」

「……向こうの神機使いです」

 

 ソーマが隣に座った。

 

「俺も過去に仲間を一人失ったことがある……」

「…後悔…しましたか?」

「ああ、後悔した……常に死と隣り合わせとはいえ、仲間との別れはいつになっても慣れない……」

「……ソーマさん」

「…今日は寝ろ。明日は忙しくなるかもしれないぞ」

 

 そう言ってソーマ去って行った。

 

 

★廊下

 

 ソーマの言うとおり自分もすぐに寝ることにした。気のせいかもしれないが誰かにつけられている感覚があった。考えすぎなのだろう。そう思って、ドアに手をかけた次の瞬間、

 

「むぐぅっ!!」

 

 突然自分の口と鼻にに布が当てられた。その直後強烈な眠気に襲われた。

 

「ぅ…ぁ…」

 

 夜遅い時間というだけあって、最初から眠気はあった。体は後ろに倒れ、頭はふくよかな感触のある何かにあたっただけはわかった。それ以降のことはわからなかった。心葉は眠ってしまった。

 

 

■次回予告

 

 うまくいきました。明日心葉君の反応が楽しみですね

 

次回「僕は女の人じゃなくて、男(男娘)の人です!!」

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