▼サタケ隊長があの職業あの階級あの年あの顔で独身と聞いて、「ひょっとしてゲイなのでは……?」と言う疑惑を抱いた結果がこれです 多分独身主義なんだと思うけどさ
pixivより転載
自衛官を志した動機は非常に不純なものだった。ガタイの良い男性に囲まれる可能性が高い。それだけのことである。
サタケは自身が同性愛者であることを自覚したのは幼稚園の頃のことだ。初恋が保育士の男性だったので。それから恋愛対象は同性ばかりで、なるほど自分は所謂ゲイなのだなと小学校の頃には悟った。そしてそれが世間一般的には受け入れられがたいことも、幼いなりにわかっていた。なので「恋愛に興味がありません」と言う風体を装って生きて来た。
サタケの顔を見て寄って来る女子は多かった。それを「今は恋愛に興味ないから」と言う言葉で断り続けた。カモフラージュするために部活にも打ち込んでみた。更衣室で同性の身体をつい目で追ってしまう自分を必死に誤魔化しつつ。そして先述の動機の通り防衛大に入り、色々と打ち込んでいたら優秀な幹部候補生と言われた。サタケとしては「解せぬ」のひと言だった。
卒業し、課業に打ち込んでいたら、気が付いたら「優秀な幹部候補」と言われていた。出世もしていた。
この頃になるとマッチングアプリで同性と一夜限りの関係を結ぶことも覚えていた。
仕事に忙しい、と言うふりをして実家に帰ることもせず、気が付けば不惑も近い年。一夜限りの関係ばかり結んでいたので同性との恋愛と言うことも覚えず、そうして生きて来た。これからもそうだろうと、思っていた。
「碧勇です」
そう自己紹介してきた黒髪短髪の青年に、非常に心動かされるまでは。
「そうなんですよぉたいちょぉ」
飲みの席。強かに酔っ払ったイサミは舌足らずに何事かを訴えてくる。その内容は既に何度も繰り返されたもので、既にサタケは憶えてしまっていた。それはいい。酔っ払いの繰り言はいいのだ。
問題は、イサミがサタケにしな垂れかかっていることだった。
しな垂れかかっていると言うのはサタケの主観で実際はただ寄りかかっているだけなのだが、サタケとしてはどちらにしろずっと気になる恋愛対象が肉体的接触を持ってきていること自体が問題だった。平静を装って麦酒を飲み続けているが、そろそろ酒が腹に溜まって来た。
「おれとしてはぁ」
近い。近い。酒臭い息のはずだが馨しい吐息に思えてくるからサタケは自身も相当重症だなと思う。色々と。
「ちょっとイサミ~~隊長困ってんじゃん」
ヒビキが向かいの席からけらけらと笑いながら言う。ミユが何やら興奮していたが酒のせいだろうか。サタケはそう思いつつ
「いや、これぐらいならいつもの命令違反よりマシだ」
と答えておく。実際それは事実だし、あとイサミに接触を持たれていることが嬉しい。後者は巧みに押し隠した。
しかしそこを逆手に取られた。
「あっじゃあこのイサミ、今日は隊長がお持ち帰りしてくれます? どうせこいつ帰れませんよひとりじゃ」
「は?」
「たいちょぉ」
ビールジョッキ片手の愛しい愛しい部下は、余程酔っているのだろう、けらけらと笑っていた。
そして現在、サタケは頭を抱えている。
飲み会後、仕方なく自宅に引き連れて来たイサミは、まだ酔いが醒めない様子だった。呂律の回らない口ぶりでまだ何か話している。余程サタケに話したいことがあるらしい。サタケはその事実にときめきを覚えたが、30代後半と言う自分の年齢を思い出しながら自制した。
その自制を取っ払いたくなったのは、ベッドに腰かけさせたイサミの行動だった。
「ここ、たいちょぉんちですかぁ」
「そうだ。とりあえず水を――」
「……あっつい」
そう言いだすや否や、イサミはTシャツを脱ぎだした。ギョッとするサタケの前で、イサミはベッドの上に転がる。
「あっつい~!」
「暑いならとにかく水を飲め」
「や!」
「『や』じゃなくて」
どうしたのだろう。今日の酔っ払いぶりは尋常ではない。誰かに薬でも盛られていたか――そこまで考え、自分が課業中に命令違反の罰則を兼ねて筋トレメニューを課したことを思いだす。なんということだ、自分にそのまま帰って来た。いや、あれは必要な措置だったとサタケは訴えたい。しかし実際疲れの溜まったイサミはこうして酔っ払い切っている。
目に毒だった。半裸でサタケのベッドに横たわり、顔を紅潮させる酔っ払いのイサミ。肉体美が惜しみなく晒されている。
その上――枕を発見したかと思うと、それの匂いを嗅いだ。
「……たいちょぉのいいにおいしますね……」
――そのとき、サタケの理性の糸が音を立てて切れた。
「たいちょぉ?」
大の男2人分の体重がかかった、ベッドのスプリングが軋む音がする。
サタケは、半裸のイサミに覆い被さっていた。
「……そんなに良い匂いだと思ってくれるなら、直接嗅ぐか?」
「え? ――んっ」
イサミの腰のラインをなぞる。小さく漏れた喘ぎ声。それを聞いたあとのことを、サタケは憶えていない。
気が付いたら朝だった。
(やってしまった……)
酒が入っていたとはいえ、サタケの記憶はばっちり残っている。イサミの身体には情痕がいくつも残っており、一緒に眠ってしまったサタケはその後処理もしてやっていない。幸いローションとコンドームは常備してあるのでイサミの後孔を傷つけることはなかったはずだが、問題はそこではない。
「……あれ、ここ、どこ?」
イサミの声がして、サタケはキュウリを見た猫のごとく座ったまま飛び上がった。
恐る恐る振り返ると、目元を擦るイサミがのそのそと起き上がっていた。
「その、アオ三尉。体は大丈夫か」
「え、なんか声が嗄れてるぐらいで――あ」
体を改めたらしいイサミが、どうやら体についた痕に気付いたらしい。そしてサタケを見下ろす。
「……俺ら、ヤッちゃいましたか」
「……あぁ」
「マジかー、隊長が俺のこと好きなのはわかってたけど」
「は?」
聞き捨てならない台詞が聞こえて来た。思わずワンモアプリーズすると、イサミはおかしそうに笑う。
「他の連中はわかってなかったでしょうけど、隊長、結構俺に対する視線あからさまでしたよ。まぁ減俸するときなんかは普通に厳しかったですけど」
「……気を付ける」
「気をつけようにも俺らもうこんな関係になっちゃいましたけど」
そう言いながら、イサミはふと笑った。
「でも、隊長にならいいです。他の男は嫌だけど、隊長ならいくらでも身体開けます」
「それは」
サタケは自分でも声が震えていないことが奇跡だと思った。
「口説き文句ととっていいか」
「お好きなように受け取ってください」
――それが尊敬から派生した感情だとしても。
チャンスがあるならそれを存分に活かしたいと思った。
だから、とりあえずサタケは、「水、飲むか」と常識的なことを聞くのだった。
口説くのはとりあえずシャワーを浴びてからだ。
End.