生存報告も兼ねて短め。次話もほぼ書けてます。
五月一日。
楽園のような学園生活の夢から蹴り起こされて現実という名の地獄に落とされた運命の日。
茶柱先生によるSシステムのネタばらしやクラス分けの真意に始まり、オレ達Dクラスが学校側から不良品だと判断された挙句に進路の保証もこのままでは無かった事にされる。
更には追い打ちとばかりに目前に迫った中間テストで赤点を取ってしまえば即退学というあまりにシビアな現実を知らされてから、月日は流れ。
「須藤のやつ、また遅刻かよ。イイご身分だよなー」
「放っておけよ。どうせアイツが真面目に授業受けようが受けまいがポイントが増えるわけじゃねーし。っつーか本堂はどうしたよ? アイツが遅刻とか珍しくね?」
「サボるってさ。さっきメッセージ来てた」
「マジかよ……俺も早退しようかな。ダルいし、授業訳わからんし」
「それな。遅刻しようが欠席しようがポイントはこれ以上減らないみたいだし、ボイコットも有りだよな」
Dクラスの雰囲気は五月が始まって以降ますます悪くなるばかりで、クラスメイトの顔色からは明るさというものが消えて無くなり、その態度も見るからに荒んでいる。
茶柱先生の人が変わったかの様な態度の急変に始まり、学校側から『不良品』という不名誉極まり無いレッテルを貼られた現実。
それに何より、10万ポイントという大金が労せずとも毎月振り込まれる筈。という大きな思い違いからの無収入の確定。つまり、惨めで貧相極まりない0ポイント生活をこれから強いられる事による先月までとの天と地ほどもある絶望的な落差。
あらゆる要素がDクラスの面々の活力をこれでもかと削ぎ落としていくのだから、この鬱屈とした教室内の雰囲気も仕方ないのかも知れない。
暗雲低迷。そんな言葉がお似合いの、腐敗した空気がどろどろと纏わりつくかのような絶望のオーラが漂うDクラスの中。
ぐつぐつと煮え滾る屈辱と怒りに燃料をぶち撒けるような、そんな存在が居る……。
否。『居なかった』のだ。
「俺らが幾ら真面目に授業受けても意味無ぇじゃん。クソッ! 佐城の野郎!! 一人だけ美味しい思いをしやがって!!」
「不登校のクズのせいで何で俺達がこんな目に遭わなきゃならねーんだよ」
そう。Sシステムの根幹が茶柱先生から説明されたと同時に、ただ一人だけ情報を秘匿して大金を得た事を暴露された大戦犯とされる存在。
Dクラスどころか学年の誰よりも早くこの学校のシステムに疑問を持ち、行動を起こしたらしき高度育成高等学校始まって以来の優秀さを示してみせたらしい少年。
『佐城 ハリソン』という存在が明らかになると同時に、彼がDクラス唯一の不登校児童となってから三日以上もの時間が経っていたのだ。
「ね、ねぇ篠原さん。授業中に端末弄るのは不味いんじゃない? ほら、ポイント減っちゃうかもだし」
「気にし過ぎよ。減るポイントなんてもう残って無いし、そもそも貞子の奴が学校に来ない限り私達のポイントが増えるわけ無いじゃない」
「本当に最悪よね……何であんなキモい奴と同じクラスになっちゃったんだか」
篠原や軽井沢を始めとしたスピーカー役の女子生徒の不満を咎める人間はもはや誰も居なくなった。
不登校の人間がいる。唯でさえ不安定なクラスの雰囲気はその存在のせいで加速度的に悪化しているのは間違いなかった。
授業態度や遅刻欠席でCP(クラスポイント)が減らされていくという情報を知らされた現状、オレ達Dクラスの面々が唯一出来る建設的な行動は授業態度の改善一択のみ。
これ以上ポイントを減らさない為にも遅刻欠席は控えよう。私語を慎み端末を弄るのを止めて授業は真面目に聞こう。
平田や櫛田が中心となって行われたらしいクラス会議ではそんな結論に落ち着いたらしいのだが、果たしてその会議には意味があったのだろうか。
『ざけんじゃねえ!! 真面目にやったところでポイントが増えるわけでも無ぇのにテメェらに従ってイイ子ちゃんぶってられるかよ!?』
リーダー達からの説得に真っ先に反論したのは問題児筆頭の須藤だった。
遅刻と居眠りの常習犯であり他クラスの生徒と暴力沙汰寸前の問題を頻繁に起こしているアイツの立場からしたら、クラス中から自分が責められたように感じたのかも知れない。
いわゆる逆ギレと呼ばれる不合理な彼の激昂は悪戯に周囲の反感を買うだけ……と思われた。
『そもそも俺らが幾ら真面目にやったところで不登校のやつが居たらポイントが減り続けるだけだろうが!』
続くこの言葉に須藤への反感はピタリと収まった。
責任転嫁としか言いようの無い言い訳ではあるが、クラスメイトの面々が一種の納得をしてしまった瞬間だった。
結局、須藤の意見に便乗するかの様にして「不登校の人間がいるんだったら幾ら自分達が真面目になったところでポイントが増えるわけも無い」と同調する人間が男女問わず続出。
そもそもが不良品と判断された不真面目な人間ばかりが選別されたDクラスだ。すっかり腐敗しモラルが崩壊した集団がそう簡単に日頃の態度を綺麗さっぱり改善出来るわけも無い。
不登校の人間がいるから。そんな言い訳をまるでスローガンにでもするようにしてクラスの腐敗はじんわりと進行していた。
現に一見してみれば四月と比べて授業態度は格段に改善されたかのように見える。だが表立った私語が皆無になった代償に遅刻欠席は増加し、昼食後に早退する生徒もチラホラと現れていた。
ダメ押しとばかりに目前に迫りつつある中間テストの存在もクラスのストレス要因の一つだ。
一科目でも赤点を取ったら一発退学。学力に著しく劣っている人間が多数在籍しているDクラスからすると絶望的な現実に、もはや死んだ目ですっかり諦めを見せている生徒もいる。
それでも何とかクラスメイトを救い出そうと中間テストに向けて平田や櫛田が中心となって勉強会を日々行っている様だが、参加率はお世辞にも良いとは言えないらしい。
たった一人の人間が学校を休み続けている。その現実が呪いの様にジワジワとクラスメイトを鬱屈した怠惰な道へ誘惑していくのだろう。
櫛が抜ける様にして一人。また一人と勉強会への参加者は減っているそうだ。
『終わっている』
ふとオレの脳裏にそんな言葉が浮かんで来る。
始まったばかりの筈の、夢にまで見た自由な学生生活は一体どうなってしまうのだろうか。
Sシステムのネタバラシをされた一日の放課後。何故か校内放送で茶柱先生から生徒指導室に呼び出された一件のせいもあり、オレは半強制的に堀北がAクラスを目指す為の協力者という立場になっている。
まともに会話をできる貴重な女子でもあり、不本意とは言え堀北には櫛田のお友達作戦で迷惑? をかけたのも事実ではあるのでオレが悪目立ちしない程度であれば堀北に協力するのは吝かでは無い。
だがあまりにも絶望的な現状、果たしてAクラスへの昇格など出来るのだろうか?
いつDクラスが崩壊してもおかしくない現実、お世辞にも将来への希望など視えて来ない。
堀北も現状にストレスが溜まっているのか、隣の席からはいつも以上に近づき難い刺々しいオーラが漂っている。
これ以上はいけない。
そう考えていたのはオレだけじゃなかったのだろう。そして、そんな決意を誰よりも早く行動に移したのがDクラスのリーダー。
『平田 洋介』という男だったのだ。
「長谷部さん。ちょっとだけ時間、いいかな?」
初夏の涼風を思わせる爽やかなテノールが呼び止めたのは瑠璃色の髪をたなびかせる大人びた美少女だった。
「平田くん、私に何か用事?」
ある日の放課後。Dクラスのリーダーである平田がとあるクラスメイトに声をかける。
ホームルームが終わるや否や、真っ先に下校しようとしていたであろう少女は怪訝な顔で振り向くと気怠げにスクールバックを降ろして話を聴く体勢に映った。
「ごめんね、急に呼び止めてしまって。少し相談があるんだ」
「まあ別に用事があるわけでも無いから少し話をする位なら別にいいんだけど……相談?」
『長谷部 波瑠加』
以前、ちょっとした雑談の流れで櫛田との話で少し名前が出てきた事もある孤高気質の少女。
アイドルの如く圧倒的な人気を誇っている櫛田とはまたキャラが違うが、Dクラスの中で美人を挙げろと言われれば真っ先に名前が挙がるスタイル抜群の美少女だ。
山内や池などが鼻の下を伸ばしながらその豊満なバストをガン見している事がよくあるのだが、流石は平田。下心など一切感じられない誠実な瞳で長谷部を見据えると真剣な声色で語り始めた。
「相談っていうのは佐城くんの事なんだ。どうにか彼と連絡が取れないかなと思ってね。だから協力をお願いできないかな? 長谷部さんはクラスで唯一、佐城くんと仲が良いようだから」
「あぁ……そういう事ね」
平田の言葉に長谷部はどこか納得しつつも微妙に困惑したような表情で小さく相槌を打った。
長谷部はその抜群のスタイルから男子の視線を釘付けにしつつも、そう言った視線を嫌っているのか意図的にクラスの面々と距離を取っている様子がある。
数少ない例外と言えば隣の席に座っている男子生徒の『三宅』や同じく孤立気味である陰気な女子生徒の『佐倉』など。そしてその例外の括りの中には現状、Dクラス一の爆弾となった彼の存在もある。
そう。今オレの視線の先で平田の説得を受けている長谷部は孤立気味の存在でありながらも、不登校を決め込んでいる『佐城 ハリソン』の唯一の友人とも呼べる存在でもあるらしいのだ。
長谷部と佐城の関係については未だ不明瞭なところも多い。とは言え櫛田からの情報が正しければ水泳の授業で常に見学に回っている両者は隣あって仲良く談笑を楽しんでいるのだとか。
少なくとも陰鬱な厭世観を隠そうともしないおどろおどろしい外見の佐城の席に近付いて時たま話しかけている酔狂な存在は、櫛田を除けば長谷部しか居ないのは間違い無かった。
「お願い出来ないかな? 僕や櫛田さんが幾らメッセージを送っても反応が無いんだ。友人である長谷部さんから呼び掛けてくれれば、何らかの反応が期待出来るんじゃないか。って、藁にも縋る思いでね」
「いや、まあ確かにハリリンと私は友達なんだけどさあ」
平田の懇願に長谷部は困った様な表情のまま、佐城と友人である事を肯定した。
……肯定。したんだよな? ハリリンって誰の事だ?
「ハ、ハリリン?」
「あだ名だよ。名前がハリソンだからハリリン。可愛いでしょ?」
「う、うーん。そう、だね?」
……うん。明らかになった長谷部の独特なネーミングセンスはともかく。取り合えず佐城と長谷部が友人同士である事は間違い無いらしい。
それにしても個性的なネーミングセンスではあるが。
「一応私も友達として何度かメッセージは送ったんだよ? でも、いくらメッセージを送っても既読無視されてるんだよね。だから、私じゃ力になれそうにないかな」
「……そう、か。なら仕方ないね。いきなり不躾なことを頼んでしまってごめんね」
「気にしないで、気持ちは分かるし。私もハリリンが不登校になるなんて思ってもみなかったし」
長谷部と平田のやり取りを視界に入れつつもオレは内心で溜息を吐いた。
唯一の友人からのコンタクトも徹底的に無視しているとは、佐城はそこまでして学校に来たく無いらしい。
一度、平田や櫛田がホームルーム中に茶柱先生へ佐城をどうにか登校させる事が出来ないか相談した事もあった。
だが茶柱先生の反応は冷たいもので「高校は義務教育では無い。よって私にやつの行動を強制する権限は無い」とバッサリ。
もはや万策尽きたか。オレがそんな事を考えていたその時。ふと思い立ったのだ。
居るでは無いか。佐城と確実に連絡を取り合っているであろう非常に親密な仲の存在が。
「……ねえ、どうしてもハリリンに連絡が取りたいんならさ、一応だけど手はあるよ?」
そんなオレの思考にシンクロするかのようにして。長谷部がとある提案を平田にもたらしたのはそのタイミングだった。
「ハリリンの彼女さん。神室さんに聞けば良いんじゃない?二人って、かなりラブラブらしいし、毎日連絡取り合ってるのは確実だと思うわよ」
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