唐突だが、店を出た途端に武装した集団に囲まれた時の最適な対処法とはなんだろうか。最適解を聞けるものなら、是非とも聞かせていただきたいね。
「私達がお店の店員で、ここがお店の前ではなくカウンターで、彼らが武装集団は武装集団でも強盗団だったなら、大人しくレジのお金を渡すのがマニュアルというものですが」
僕だって財布くらいはもっているけど、流石にレジは持っていないぞ。いや、そもそも彼らの軍隊も真っ青な対異能力者を想定しているであろう重装備を見るに、どうみてもただの強盗団ではないようだけれども。
「ええ、そうですね。少々話が戻りますけれど、彼らはテセウスのパーツを求めてこのマクドナルドにやってきたんですよ。ご覧の通り」
どこをどうご覧しても、僕の中でその道理は通らねえよ。今のハッピーセットのおまけは小さい絵本かポケモンのぬいぐるみで、船のパーツじゃないぞ。
「テメェの頭はどんだけハッピーなんだよ。ただのパンピーならすっこんでろ?」
武装集団の一人が言った。僕とそう年の変わらないだろう、女性というべきか女子と言うべきか悩ましい女の子が僕に銃を向けて。怖い。何が飛んでくるか分からない銃口を向けられているという状況も怖いけど、それ以上に彼女の表情が怖い。まるで使命に駆られているように、正義感で人を脅してるぞ、この子。可愛い顔が台無しとはこのことか。
「喧嘩売ってんのかテメェ」
怖い。
口に出して言ってみると、これほど緊張感に欠ける言葉もないな。とはいえ、キャーと叫ぶような僕ではないけれど。
「撃たないでくださいよ。さきに喧嘩を売ったのは私です。本当に喧嘩がお望みなら、まずは私を撃つことですね」
僕のすぐ隣で、僕の何倍もの量の銃口を向けられている少女も怖いことを言っている。その言葉を怖いと思ったのは相手も同じなようで、引き金に掛かる指先に躊躇いのようなものが見て取れる。実弾が入っているのか、BB弾が入っているのか知らないが、銃を向けこそすれ、本当に撃つ気は無いのだろう。テセウスのパーツというのが何か知らないが、それは君が持っているんだな? 楽羅來。
「そうですね。そして渡すわけにはいかないものです。たとえ、この百倍の銃口が向けられようとも」
「銃口向けてんのはテメェの方だろ、超能力者。一体何人の命握ってんのか、自覚あんのか?」
「生憎と見当もつきませんね。なにせ、既に計測不能なレベルで減ってしまっていますから」
何やら難しい話のようだが、人間が減ったという部分については存外にそうでもない。
二十世紀が終わり、二十一世紀に切り替わってから早二十と数年がたったが、西暦二千年以降、人間社会には異能力という試練が立ちはだかった。ある日突然、異能に目覚めた異能力者が世界各地に現れ、世界は大いに混乱した。異能由来の事件事故が続出し、最終的には「異能力者」対「非異能力者」の戦争に発展。総人口は未だ推定すら出来ないほどに減り、異能力者含め人類は大いに衰退したのだ。
「しかし仮に、私が人類という生態系の命を握っているというのなら、人質に取っているというのなら、要求が必要ですね」
なにを言っているんだ、このクソガキは。って、唯一僕に銃を向けている女の子の顔に書いてあるし、僕も似たようなことを思った。何を言っているんだ?
「彼を撃たないでください。豆鉄砲一発でも当てようものなら、人類に明日はありませんよ」
「……一つ聞かせろ。テメェにとって、コイツはなにもんだ?」
「運命の人です。私にとっても、人類にとっても」
何を言っているんだ?
僕を何に仕立て上げようとしているんだよ。僕は異能の一つも持たない普通の人間でしかないというのに。
分からない。しかしそれは僕だけのようで、僕たちを包囲していた武装集団は撤退を始める。
「楽羅來ららは超能力者だ。パンピーの交友関係に口出しする気はねぇが、そいつに付き合う以上、テメェの人生は地獄だ。よく考えるんだな」
見る見る姿を消していく武装集団。最後には、僕に銃を向けていた女の子も銃を収めて、憐れむような目で僕を見た。
僕も聞きたいものだね。君たちは彼女に何を求めてるんだ?
「そういうのは本人に聞け。アタシはそーいう、説明だの語りだのが得意じゃねぇんだよ」
確かに、真面目な話は苦手そうだ。僕の独り言が聞こえたのか、それとも計画だか作戦だかが失敗に終わったからか、随分と不機嫌そうに、しかし律儀にも後ろ手に手を振りながら彼女も姿を消した。
「彼女の名は
聞いてねぇよ。
しかしあの子、綺羅ちゃんというのか。
「わたしのことも是非、ららちゃんと呼んでください」
断る。そんなことよりいい加減、場所を変えよう。駆けつけた警察官をこれ以上困らせたくはない。
……警察を困らせるって、僕、何に巻き込まれてるんだ。
「さぁ。世界の危機、とかじゃないですかね」
くっだらねぇな。今どき流行らないだろ、そんな陰謀論。
ああ、お巡りさん。お疲れ様です。いえいえ、何もありませんでしたよ。世界は今日も平和です。