楽羅來ららという超能力者の話。(仮題)   作:那由多 ユラ

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高天原。

 

 賢者の楽園とまで言われた学び舎、高天原学園。

 初等部から始まり中等部、高等部、そして大学まで網羅した、子供を賢者に育て上げるためだけに運営される学校が、僕の母校である。

 あれ以外の学校というものを知らなかった当時には分からなかったことだけれど、高天原ほどイカれた環境もないと、今なら思える。

 まず、高天原に入学した生徒には一人の例外もなく、人生が保証される。一生遊んで暮らすどころか、一生学んで暮らせるだけの環境を全て用意されるのだ。このことを校長に言わせるなら、というか実際に言われた言葉は「童はうぬらの人生を買い取った。そのうえで、童は好きに学ぶことを許そう。この世の全てを望むがいい。この世の全てを教えよう」、だ。童という一人称からしてイカれてるな。

 もう一つイカれたポイントがある。それは、高天原には卒業というシステムが存在しない点である。

 入学したが最後、高天原所属という肩書は一生ついて回る。それを誇りに思うか恥に思うかは個々人の自由だろう。僕がどうだったのかと言えば、語るまでもないだろう?

 僕は史上初の退学処分を受けた。高天原の玉座に腰掛ける校長、高天原七七七をして、見る目がなかったと、先見の明が無かったと言わしめた人間が僕だ。今も尚、人生の保証という契約は継続しており、幸いにして僕は一生を学ぶなり遊ぶなりして暮らせる身分なわけだが、僕が高天原七七七に何かを教わる機会はもう二度と訪れないだろう。

 いわば僕は、彼女の触れてはいけない部分に触れてしまったのだ。聞いてはいけないことを聞いてしまったとも、学んではならないことを学ぼうとしてしまったとも、或いは単純に逆鱗に触れてしまったとでも言おうか。

 

 僕はたった一言。一問。聞いてみたかった。聞いてみたくなったのだ。人類最賢と呼ばれるほど知に長けた人間の回答を。模範解答を。ベストアンサーを。

 

「人間は何で出来ていると思いますか?」

 

 人類最賢は答えず、まるで叱られた幼子のようにわんわんと泣き出した。楽羅來とは別の意味で人間よりも神に近しいような存在だった七七七ちゃんが、まるで人間のように泣いたのだ。当時の僕にしてみれば、あれほどショックな回答も無かっただろう。十分ばかり泣きわめいた後に退学を言い渡されたが、高天原の退学よりも、彼女の涙の方が僕に与えた衝撃は大きかった。

 人類最賢でも分からないことがあるのか。とか、そんなガキみたいなことを思ったわけじゃない。人間の材料を集めて創ろうと思っていたわけでも、レシピを改良して人間よりも上位の存在を創ろうとしたわけでも、もちろんない。

 今でこそ、僕はやりたいことがないとか、未来に希望を持ちたくないとか言ってなんとなく生きているけれど、あの頃の若い僕は、それこそ高天原の生徒らしい学徒だったりしたんだ。後も先も考えず(ここは今も大して変わらねーな)、好奇心と知識欲に身を任せて流されるように生きていた。当時の研究テーマとでもいうべきものが、人間、人類の最適化とその後の世界の行く末という思考実験だったというだけで、実際に人類をどうしたいとも、現実で世界をどうしたいとも思ってはいなかったし、女の子を怖がらせて泣かせたかったわけでも勿論なかった。高天原を出たいとも、思ってはいなかった。

 今にしてみても、聞けるものなら、聞いてみたいものだ。人類最賢だけでなく、例えばあなたにも。僕よりもよっぽど人間らしい暮らしをしているであろうあなたの答えを。

 

 あなたは人が何で出来ていると思いますか?

 

 例によって例のごとく、僕にあなたの答えを聞く耳はないが、それでも改めて考えてみてほしい。

 あなたには、自分と平等、対等、同等だと思える人間はいるだろうか。その人は本当に、人間なのだろうか。

 

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