対オカルト組織、チームが秘密組織とされる理由の一つに、本拠地がある。というか、無い。アジトと呼べばわかりやすいと思うが、チームはアジトを持たないのだという。だから彼らの居場所は衛生写真のどこにも映らない。楽羅來に言わせるなら、彼らにとって地球そのものが拠点のようなものらしい。対宇宙人も想定しているのだから、地球にどれだけ大きな本拠地を構えようとスケールが足りないとか。
しかしそれでもチームは組織だ。加入しようと思ったら、彼らの前に出向く必要がある。正体不明で行方不明の組織を相手にどう出会えばいいのか、僕には見当もつかなかったが、その点は楽羅來が片手間に解決した。
携帯電話でメールを一通(その格好で携帯電話持ってるのかよ)。文字通りに片手間だった。
すぐに届いた返信のメールで、集合場所が指定された。
私立
なんの嫌がらせだ。どうにか別の場所に変えられないのかと、当然僕は楽羅來にもの申したが、むしろ集合場所として高天原ほど最適な場所もないと楽羅來は言う。なんでも、かの七七七ちゃん本人が、チームの一員らしい。言われてみれば確かに、かの人類最賢ほど便利な人材もいないだろう。全人類の思考がリアルタイムに、あの小さな身体に詰まっているんだ。居住地域全域に監視カメラを設置しているようなものだ。……それはそれとして、あの子が組織の幹部とか、中枢とか、リーダーとかに向いているとも思えないけれど。
思い立ったが吉日(僕でとっては既に凶日)、翌朝すぐに、僕達は高天原に向かうことになった。
といってもまぁ、僕の家から徒歩圏内なのだけれども。一キロあるかどうかの距離を歩くと、田舎じみた住宅街の風景は途端に一変する。都会、というより都市というべき一帯は、高天原学園の私有地だ。時の流れとともに増殖、肥大化する校舎だけでなく、車道も歩道も電柱も電線一本も、全てが高天原の備品であり、高天原七七七の管理下にある。
コンピュータの電子基盤を拡大したようなこの都市全体が、学びを司る頭脳なのだ。
「凄まじいですね。世界各国を転々としてきましたが、私のお世話になってきた研究機関の全てを足し合わせてもここには及ばないでしょう」
楽羅來の言葉のとおり、研究機関、研究所ということもできるだろう。実際に利用していた僕にしてみれば、ここは研究所というよりは理科室なのだけれど。
……それはそうとして、随分と様子がおかしい。僕がここを離れて近寄りもしなかった期間が長いから、当時と比べて様相が変わっていること自体はおかしくも何ともないのだが、様相ではなく、だから様子がおかしいのだ。
人がいない。
全校生徒が学徒、学者であるという特性上、どうしてもインドア派な人間が多いのは今も相変わらずだろうが、そういうレベルではない。高天原の敷地を都市と表現したように、ここには生徒や教師、その他従業員以外にも、高天原とは無関係の人も暮らしていた。無関係といえど普通からはかけ離れた人が多かったが、人口は少なくなかったはずだ。
人間一人、車の一台すら走っていない光景なんて深夜ですら見られなかったぞ。僕が離れている間に、全員引きこもりにでもなったのか?
「そんなわけないでしょう。事件ですよ。それもちょっとした集団失踪ではなく、区別ある殺人鬼による無差別殺人です」
は?
「急ぎますよ。犯人はまだ、この敷地内にいます──というか、私たち含め出られなくなっています」
楽羅來はいいながら、僕達が歩いてきた道の方向を指差した。
都市として機能するくらいにはかなりオープンな作りに見える高天原学園だが、その実セキュリティという名の生徒や教師、そしてなにより情報を守る壁は、下手なシェルターよりもずっと硬く厚い。一文字あたり幾らのレベルで資産になる情報を外に漏らさない為なら、核爆弾すら封じ込めると七七七ちゃんは豪語していた。それは外側から見れば巨大な壁であり、内側から見ればやはり巨大な檻である。
高天原の正門が閉じているところを、僕は初めて見た。
閉じ込められてしまったのだ。これでは逃げるに逃げられない。帰る為には、事件を解決させるか、七七七ちゃんに隙間を開けてもらうしかないだろう。
一応聞いておくが、あの門、開けられるか? 高天原という特性上、壁の破壊は考えないものとする。
「さて、どうでしょうね。人類最賢、
そうだったかもしれない。ならその頑固な七七七ちゃんはどこにいる?
「大学の校長室で一人寂しく泣いていますよ。被害に遭われた皆様には気の毒な話ですが、チームに向けてのアピールタイムとここは捉えましょう。腕の見せ所です」
分からないことはないと言った君なら、もう何もかも分かっているんじゃないのか?
「知らない方が良いこともあるんです。こと、人類最賢の前では私も賢者気取りではいられません」