数千年もの時を経て復活した鬼神「両面宿儺」と、国家転覆を企む男「物部天獄」の、ほのぼのとした同棲生活を書き綴ったお話。
 ※あくまでメインは「隻眼の魔術師」なので、箸休め的な意味合いを持つこの作品は作者の気分次第で次話更新されます。

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第一話 蟲毒

 王権に楯突く逆賊でありながら、観音菩薩の化身とも言われる異形の鬼神「両面宿儺」。彼は豪族武振熊命(たけふるくまのみこと)に討たれ、封印された。しかし、数千年物もの時間を経て、とある人物により甦ることになった。

 

「そろそろ時間だが...蟲毒の様子はどうなっているだろうか」

 私は蟲毒を行った部屋を開けた。蟲毒はヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、共食いさせ、勝ち残ったものを神霊として祀るという、古来より伝わる呪術の一つだ。私はそれを奇形児で再現した。さて、どの奇形児が生き残ったのだろうか。私は扉の錠を外し、中に踏み入った。予想通り、私の眼には唯一生き残った子供がそこにいた。

「やはり君が生き残ったか」

 一目見た瞬間から分かっていた。彼は生き残ると。―――二つの頭部、左右二本ずつある腕、二本の足。彼はおそらく...いや、確実に鬼神「両面宿儺」の化身だ。

「......ハ...ハハ...ハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 いつぶりだろうか。腹の底から笑いが込み上げてきたのは。傍から見れば急に発狂したおかしな人物に見えることだろう。しかし、私はおそらく復活させることに成功したのだろう。かの邪神を。この奇形児が誠に両面宿儺であるならば、この大日本帝国をひっくり返すことが可能であるはずだ。

「...さて、ではコンタクトを取ってみるとしようか」

 私はゆっくりと室内の奇形児に歩み寄った。それに気付いた彼は私のほうに顔を向けた。その顔には表情という表情がなかった。私はその子と目を合わせ、歩み寄ると口を開いた。

「君は名を何と言うんだい?」

 すると目の前の奇形児は二つあるうち一つの顔の口を開いた。

「我は両面宿儺だ」

 次に、もう一つの顔が口を開き、言った。

「お前の名はなんだ」

私も口を開いて名を名乗った。

「私の名前は...物部 天獄と申します」

 すると先程名を名乗ったほうの顔から言葉が発せられた。

「なるほど。では物部天獄とやら。我に何を望む。わざわざ我を蘇らせたのだ。何か望みがあるのだろう?」

 ニヤ、と私の顔が歪む。望みだと?そんなものは一つしか存在し得ない。私は絞り出すように声を発した。

「私の望みは―――国家転覆です」

 一瞬。目の前のシャム双生児の眼が大きく見開かれた。が、すぐに元の無表情に戻った。

「そうか。...我を蘇らすための触媒をこの肉体(うつわ)に埋め込んだのだろうが、生憎この小さき器ではまだ国家転覆を行えるほどの力が取り戻せぬ。」

 私はわかりやすく肩を落とした。しかし、次に発せられた言葉で、私の気分はふたたび持ち直した。

「案ずるな。この器が二十歳(はたち)を迎えるとき、我は再びすべての力を取り戻す。」

 それまでこの鬼神を育てられるほどの財力が......あるわ。余裕でありましたね。

「じゃあ、取り合えず私の家行きましょうか」

「うむ。そうしよう」

 かくして、私と宿儺の奇妙な同棲生活が始まった。

 

 

 

「あ、食器はその棚に仕舞ってください」

「ここか?」

「違います。その隣の棚です...あ!持ち方!なるべく両手で持ってください!皿を落としたら割れてしまいます!」

「そうか...ここに仕舞えばいいんだな」

 蟲毒の儀式により甦らせた鬼神・両面宿儺と同棲を始めてから早10年。宿儺の身体年齢は15歳ほどになり、家事の手伝いなども出来るようになっていた。数年前から擬態能力が復活したようで、ここ数年は専ら年相応の少年の姿で活動していた。誰の擬態かと聞いてみれば、

「我が生きていた時代に出会った少年の姿だ」

と言っていた。やや色素が抜け、灰色が買った黒髪に、大きめの紅い瞳を持つ端正な顔立ちをした姿だった。年頃の娘ならばコロッと恋に落ちてしまうのではないだろうか。かつて王権に楯突き、強大な力を振りかざした逆賊とは思えないほど懐が広く、落ち着いた性格を持っていると知ったのは、暮らし始めて数日もした頃だった。

「そういえば天獄。」

「はい」

「お前男のくせになぜ女子(おなご)のように長髪を結っておるのだ。この時代の文化や言葉使いは大体理解したとはいえ、おぬしの髪型だけは分からぬな」

 たまにこんなどうでもいいような質問をしてくることもある。

「あぁ、これはただの趣味です」

 どうでもいい話だが、私はセミロングの髪を襟足のあたりで一つに結んでいる。昔の友人からは

『お前男にしては随分と華奢だよな』

とよく言われていたものだ。親からは女装が似合うとも言われていたな。髪を伸ばしているのと親の発言には何の結びつきもないが。...無い筈だ。

「趣味で髪の毛を伸ばすものなのだな」

 どうやら宿儺は先程の回答に納得しているようだ。

「おい天獄。もう亥の刻だ。早く寝るぞ」

 時計を見やると、時刻は丁度22時を回ろうかというところだった。

「はいはい、わかりましたよ」

 私は呆れ半分で返事をした。ここ十年くらい一緒に過ごしていて判明したことだが、彼は寝ることが好きだった。思えば、今まで六回ほど引っ越しをしていたが、いずれの場所で災害が発生した時でもぐっすり眠っていたくらいだから、よほど眠りが深いのだろう。などぼーっと考えながら、私と宿儺はそれぞれの寝室へと向かった。

「おやすみ、天獄。」

「あぁ、お休み宿儺」

 宿儺の寝室の扉が閉まる音に続いて、私も扉を閉めた。

「...鬼神としての力は嘘じゃないんだよなぁ」

 これまで暮らしてきた地では、様々な災害が発生した。ただの偶然だろうか、あるいは―――。鹿児島では火山の噴火、秋田では大地震、福岡では炭鉱の爆発など。恐ろしい話だな、と自分で考えていて怖くなってきた。私自身、陰陽術の心得はあるものの武振熊命ほどの力はなく、宿儺に反逆されたら全く太刀打ちできずに殺されてしまうだろう。そう考えると、私は今生かされているにすぎないのだ、という結論に至ってしまう。しかし、国家転覆の夢を叶えるまでは死ぬわけにはいかない。まだ死ねない。傍からすれば、迷惑極まりないだろうが、それでも私は中途半端に外国に迎合し、ぬるま湯に浸かり切った日本を転覆して見せる。―――そんな理想を思い起こしながら、私は静かに瞼を閉じた。




 最近良いことがあまりないことでお馴染み(?)フロウリバーです。お久しぶりでござんす。おニューのパソコンが届いたので投稿を再開。この作品宗教的に大丈夫だといいなぁ、と思いながら書き連ねております。
 さて、今回は呪術廻戦でもメインキャラクターとして活躍している両面宿儺を題材とした作品を作成してみましたがいかがでしょうか。私個人としては呪術廻戦のこれからの展開が楽しみで仕方ありません。ネタが通じない人はご容赦を。それでは。

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