「なんだか可哀そうね」
テレビを見ていたメイがぽつりとつぶやく。
何かと思って視線をたどると、「動物園のシロクマにお嫁さんがやってきた」というニュースが流れていた。
「どこが可哀そうなのだ?」
むしろめでたい話題だと言うのに。
「だってコドモを生むためだけに勝手に相手を決められて、添い遂げないといけないのよ。気に入らない相手かどうかなんておかまいなしに」
どうやらメイはシロクマに感情移入しているようだ。
「ふむ……たしかにそうかもしれない。だが、カコクな自然の中ではオス同士が命を賭けてパートナーを勝ち取る、もしくは相手さえ見つけられずに死んでいくこともあるだろう。オリの中と自然、どちらが幸せかはわからないがな」
「そうね……」
一応は同意したものの、納得してはいないようだ。
メイは考え込むようにテレビを見つめるが、話題はすでに次に移っていた。
何がそんなに気になるというのだろうか。
もしや……
「む、その、……キミは後悔しているのだろうか」
「なにが?」
「幼いころから私と一緒に育ち、私以外のオトコを知らずに来たコトを……」
メイは不意をつかれた表情をした後、すぐにぷっと吹き出す。
「な、何がおかしい!」
「バカね、私はオリの中のシロクマじゃないわ、他のオトコだって知ってるわよ」
「なにィ!?」
私以外のオトコを知っているだと!?
「ダレだ! どんなオトコだ!?」
「……なによ、そんなのたくさん居るでしょ」
「たくさんのオトコだと!? メイ、そんなフシダラな女だったのかキミは!!」
「フシダラ? なんでそうなるのよ」
「キミが他のオトコとそのようなカンケイを持っていたと言っただろう!」
「そのようなカンケイ……?」
眉を寄せていたメイの顔が、みるみる赤くなる。
「ぬおお!」
ふいにムチが私の身体に叩き込まれる。
「信じられない! 私がレイジ以外のオトコとそんなコトするわけがないでしょう!! 他のオトコを見た上でレイジを選んだって意味よ!!」
ムチを振り回しながら真っ赤な顔で叫ぶ。
「私以外としたことがないと言うのだな」
「当然でしょ!」
「数いる中から私を選んでくれたのか」
「そうよ!」
ぴたり、とムチが止まり、怒りで赤かった顔がさらに赤くなる。
あまり愛情表現を表さないメイにとって、これは告白のようなものだ。
「ニヤニヤするな!」
飛んできたムチをあえて身体で受け止め、それを掴む。
ムチの自由を奪われてひるむメイを抱き寄せる。
「オリの中に居ようとも、与えられたものは拒否することもできる。運命なんて陳腐な言葉で片付けたくはないが、私はこのかけがえのないものをけして手放しはしない」
メイの頬に手を当て、こちらに向ける。
「わ、私はモノじゃないわ」
「そうだな、私の手元から逃げ出してしまわないか不安でたまらない。オリにでも入れたいぐらいだ」
「……バカね」
そうだ、この幸せを離すものか。
唇を重ね、舌を滑り込ませる。
「んっ……」
舌をからめているうちに、メイも積極的に舌をからめる。
「ん……む………ぬおッ!」
痛みを感じ、あわてて顔を離した。
歯を立てられたらしい。 舌がジンジンと痛む。
口を押さえながらメイを見ると、何故か冷たい目でコチラを見据える。先程までの甘い空気は消え失せていた。
「レイジはどうなの?」
「……なにがだろうか」
「レイジはどんなオンナを知っているのかしら」
腕を組み、半眼で見上げる。
「そ、それはもちろん、私もたくさんの女性を見た上でメイを……」
「どんなオンナと、カンケイを持ったかと、訊いているのよ」
静かに、ゆっくりと、感情を出さずに言ってくるのが逆におそろしい。
「そ、そんなコトはどうでもいいではないか」
もう一度抱きしめ、 頬から首筋にキスを落としながら一枚ずつ服を剥ぎ取る。
眉を歪めてはいるが、一応されるままになっている。
メイが下着姿になったところでソファーに押し倒そうと身体を傾きかけた時、
「!?」
景色がぐるりと回り、天井が見えた。
ぎし、と音がしてメイが上から覗き込む。どうやら足をかけてソファに転がされたようだ。
ふふっ、とメイが笑って馬なりになると、得意げに見下ろしながら私のタイを緩めボタンを外していく。
「む……」
こういうのも悪くない。
むき出しになった首筋にメイの唇が落ちてくる。
「ぬ、ぬおっ、い、痛ッ! め、メイッ!!」
起き上がってメイを引き剥がす。
首に手を当てると、指に
「どうやらオリに入れなくてはならないのは、あなたのようね」
冷たく微笑むと、再びかぶりつく。
「ぬおおおおお!」
やはりオリに入れなくてはならないのはメイのようだ。