境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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境界線上のある少年の朝の光景

 

 

 

 

 

 ――――――武蔵という国がある。

 

 

 

 

 

 末世と呼ばれる世界における、多分“敗者の国”として知られる国。

 

 

 

 そうなった経緯には紆余曲折があった訳だが、そもそもまずこの“地球”という☆、じゃなくて星を離れていた人類が久しく地球に戻ってみたところ、とても人が住めるような世界では無くなっていたところから端を発する。具体的にどんな感じかというと、手入れの行き届いていない中年以降の頭部に不安を抱えているお父さん達の頭ぐらいに手遅れだった。

 

 そこでまず人類が行ったのは、別次元に今の世界とは別に住める世界、かつて神州と呼ばれていた土地になぞらえて“重奏神州”を作る事だった。

 

 そこを大まかに区分けして国ごとに別れて住んでいた。が、その安定は長くは続かなかった。

 

 『南北朝戦争』により“重奏神州”を支えていた『三種の神器』が長らく失われ、支えが失われたその世界は元の神州があった場所に崩落。

 

 結果、落ちた重奏神州に上書きされてしまった部分を『重奏領域』と呼ぶようになり、その土地は様々な物が不安定なために人の住める場所では無くなった。

 

 神州は名を“極東”と改められ、重奏神州崩落の責任を問われる事になったのだ。

 

 

 そのため極東はその大半の土地を分割統治され、現在は主権すらも剥奪され治めている土地もたった二つのみ。

 

 

 最早一個の“国”としても機能せず、上から与えられる指示に従って国として最低限の運営をする。

 

 

 

 そこには『武蔵』としての意志は無く、聖譜連盟という強大な力に従う形でしかないこの国の現状があった。

 

 

 

 ―――――――とはいえ。

 

 

 

「―――――――んっ、と。本日の舞これにて終了ー。芸能系の神様じゃない筈なのに、どうして毎朝三時間も舞わなきゃいけないのさ……お陰で遅刻確定だよこんチクショー」

 

 

 

 確かにこの『武蔵』が暫定的な主権しか与えられず、敗者の国であろうとそんな事とは関係なく世界は進む。滅びに向かって。

 

 

 だというのに、同じ世界の住人である僕達が何もせずにいていい理由は無いし、何もしてはいけないと強制される筋合いも無い。

 

 

 

 つまり何が言いたいのかというと、敗者と言いたい奴は言わせていればいいのだということ。

 

 

 

 僕自身、割と負けず嫌いな部分があるのを自覚しているし、かつての負けを今の自分達が被るとしても関係無いと思っているから。

 

 

 文句があるならかかってこい。とまでは流石に言わないけど、僕達がただ黙ってこれまでそんな謂われに甘んじてきた訳じゃない事だけは言わせて欲しい。

 

 

 僕達だって「夢」を見る権利ぐらいはある筈だから。叶えたい、そう思っても許されると信じているから。

 

 

 

 …………全てはそれを約束してくれたあの人のために。なんて、自分でも羞恥で埋まりたくなるような事を朝っぱらから考えてしまうのは昨日していたノベルゲームのせいだろう。

 

 

 歴史の勉強じゃないけど、通神帯(ネット)仲間で遠くに住んでいる友人のおススメで購入した小説だったのだが、中々凝ったエフェクトに読み易くそれでいて世界観の深さに一気に引きこむ力強い文章力、ついついセーブを忘れて読んでいたら寝落ちした自分がいた。

 

 

 そのせいで普段なら早起きして済ませてる代演の奉納である“一日三時間の舞”を始めるのが遅れて結果、家を出るのが遅くなってしまう事になった。

 

 

 一先ず体を清潔にする禊祓いの術式札で簡単に準備を済ませて制服に袖を通す。

 

 

 本来ここでちゃんと性別にあった服装をチョイスしたいところなんだけど、誠不本意な事に僕が神奏している神様は僕の女装までも代演の内容に含んでくれやがってせいで、常の衣装まで女性用の物を強要される羽目になった。

 

 

 

「(毎度毎度のことながら、髪結いといい化粧水といい……僕の女装スキルが上がってる気が)」

 

 

 

 化粧までは流石に嫌だったので、女装といっても最低限。髪を伸ばしてお下げにして化粧水で顔を軽く拭いて準備完了。うん、今日も素敵に女顔でうんざりするぜぃ。

 

 

 一日の予定を表示枠(サインフレーム)を出して確認してみると、既に一時間目の授業として品川までのマラソンが組まれていた。

 

 

 

「(どうせこれも普通のマラソンじゃないんだろうけど)」

 

 

 

 あの担任の事だからそれだけで済む筈が無い。であれば、こっちも現地集合みたいな感じで合流すればいいか。

 

 

 比較的クラスでも仲の良い点蔵君に遅れる旨をメールで送り、あとは登校するのみ。

 

 

 とはいえ、わざわざ遅れるとメールしたのはこの代演のせいもあるけどもう一つ、理由がある。

 

 

 

「あ、繋がった。すいません、ちょっと寝坊したんですけど今からそっち行くんで………あ、Jud.じゃあすぐに、はい、はい、それじゃ」

 

 

 

 表示枠越しで会話を交わしていた相手は武蔵で働いている機関部の人間。

 

 

 つい先日、飲み屋で誰かが暴走して地面となっている装甲をぶちぬいてしまったらしく、その補修が今日アルバイトとして入っているのだ。

 

 

 ちなみにクラスメイトがその卸業者をしているため、この場合同級生が直属の上司扱いとなるがそれは別にどうでもいい。既にこの武蔵の会計を担っている人間であれば……いやあの人ならそうでなくてもここ武蔵でお金の絡む全ての出来ごとを把握してそうで怖い。

 

 

 

 ――――――ここは『武蔵』。八隻の都市艦からなる空飛ぶ国である、多くの人間が元々ここの住人という訳ではなく事情持ちで流れ着いた場所。

 

 

 

 その中には僕も含まれていて、両親もいないのでこうしてバイトで生計を立てているという訳だ。以前巫女とかマスコットとして働かないかと誘われた事もあったけど、丁重に断っておいた。だって全部が全部、僕を“男”扱いしてねーんだもん。

 

 

 確かに顔面もろに女顔である事は否定しないし、背だって男子の中じゃネンジ君というHP3ぐらいのスライムを除けば一番小さいし、どこぞの馬鹿の姉の方に言わせればトルネードビンタをかましたくなるぐらい理不尽な髪や肌をしているらしいし。トルネード理不尽である。

 

 

 だけど僕はそういう国で、そういった人達と暮らしているのだ。今更そこに文句をつける事はしないし、何だかんだ言って嫌いじゃない。むしろ好きな連中なので、それでも付き合おうと思える。

 

 

 

「……さてと。さっさと補修済ませて品川に行かないとっ」

 

 

 

 少し全力を出しながら武蔵の街並みを駆け抜ける。通り過ぎる人達が僕を見る度に余ったパンやお菓子をくれたのは素直に嬉しかったけど、餌付けされてる感覚がしたのは気のせいだと信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「およ? あそこに見えるジャラ男は……」

 

 

 

 

 改修の手伝いを終えて、手には道すがらもだった紙袋に満載され過ぎて山脈すら築いているお菓子の山を抱えながら何とか走っていると、前方にふらふらと歩いている人物を発見。

 

 

 ちなみにジャラ男というのは、彼の着ている制服が改造されて鎖が歩くたびに鳴る事から由来した我ながらナイスネーミングな渾名だと思っている。なのに流行らないのは何故だ。

 

 

 それはともかく、あちらも何やら紙袋を抱えている様子を見るに何か買い物を………あぁ、いつものアレかな?

 

 

 何となく中身を予想できたので今は関わりたくないなーとも一瞬考えたけど、体は常の習慣を当然のように発揮し彼の後ろ姿にいつも通り声をかけてしまった。

 

 

 

「おーいっ! トーリー!」

 

 

「ん? おー、何だよ湊じゃんか。さてはお前もあの列に並んでたな!?」

 

 

「? 列って……これは何でか知らないけど貰ったお菓子とかパンとか食べ物しかないよ?」

 

 

「オメエは相変わらず住民に餌付けされてんな……」

 

 

「餌付け言うな!? 僕人間! ヒューマンだから! ノットペット!」

 

 

 

 とりあえず言わせてもらえば、僕は君が思っているような物を買うために並んだりしなければ、紙袋から溢れる程に買いこみもしない。

 

 

 そう言ってやるも目の前の少年は緩い笑顔のまま、こちらの肩を抱くように隣に回っていた。何時の間に。

 

 

 

「そういうトーリこそ何か買ったんだ? まぁ、中身は言わなくていいんだけど」

 

 

「オイオイ! そいつはアレだな! 俺知ってんだかんな! 『押すな押すな』ってやつだろ!?」

 

 

「僕はそっちの意味での芸人じゃないからね!? 舞はするけど、トーリ的な意味合いの芸人じゃないからぁ!」

 

 

「おい湊、そう褒めんなよ照れるぜ」

 

 

「その前向きさ加減に一撃を入れたくなるのは何でだろうね……っ」

 

 

 

 この人と話しているといつも会話のペースを乱されっ放しだ。

 

 

 でもそれが嫌だと思わない辺り、自分も大概毒されているのだろうか。少なくとも、この人が“そういう”人物であると認識しているため今更な考えだとは思うが。

 

 

 

 ――――――この人の名は『葵・トーリ』。ここ武蔵にある教導院の生徒会長兼総長連合のトップであり、

 

 

 

  ――――――この武蔵で一番の無能。聖連からの渾名(アーバンネーム)は『不可能男(インポッシブル)』という不名誉極まる名前をつけられた少年だ。

 

 

 

 でもそれは別に彼に限った話じゃなくて、武蔵では主権を奪われて以来聖連から寄越された王が管理を行い、生徒会長は代々武蔵の中で一番無能な人物から選出される事になっている。

 

 

 それは一番の無能をトップに置く事で、反抗の芽を摘む事を目的とした制度なのだが………

 

 

 

「(多分、トーリみたいな人がトップになるのは予想していなかったんだろうなぁ)」

 

 

 

 確かに彼は僕が知る中でも揺るぎないトップガンバカであり、今でこそちゃんと制服を着用しているけどネタのためなら躊躇すること無く全裸になる事を厭わない事も知っている。

 

 

 バカといえば間違いなくこの人の事を武蔵では指すけど、でもそれでも、この人を僕達は生徒会長に選んだ。それは決して、『無能だから』なんてネガティブな考えからでは決してない。

 

 

 

「…にっしてもオメエの女装はマジでクオリティバグってんよなぁ。俺でもカツラに化粧とか結構しなきゃなんねぇのに」

 

 

「まぁ元から童顔だし背も低いからね。それに子供の頃からずっと続けてやかましいわっ!? そこを褒められても嬉しくねーし!」

 

 

「えー、まったまたー。最初の方はそうでもないって嬉しそーにしてたく・せ・にー!」

 

 

「し、してねーっ! そんなの全然、してねーしっ!」

 

 

「まあまあまあ」

 

 

 

 ………とはいえ、女装(この)ネタでからかわれ続けるのはいただけない。

 

 

 何とかしようとは常々考えてはいるのだけど、今の今まで改善出来てない事実がこの思考の絶望さ加減を知らしめているようでもある訳で、最近はもうそれを受け入れようとも思ったりもしている。

 

 

 

 ――――けどなー、僕だって一応男な訳でして、女装を嗜んでいるけどそこを譲ってしまっていいものか。非常に悩んだりする訳なのです。

 

 

 

「そ、それよりっ! 今日は皆品川の方に向かってるみたいだから、一緒に行こ?」

 

 

「おっ、湊からのデートのお誘いか!? 俺モテ期到来?!」

 

 

「男にモテて嬉しいのかよ君は……あとデートちゃうわい」

 

 

「んだよーノリ悪ぃなー。まっ、それでこそ湊だもんなっ」

 

 

「『ノリが悪い=僕』の図式は軽く僕をディスってるよね? ねぇ?」

 

 

「そんじゃ行こうぜ~」

 

 

「あっ! こら、今の話題はちょっと流せないよ僕!」

 

 

 

 

 ―――――本当、この扱いなんとかならないかなぁ。………なんともならないんだろうなぁ。

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