境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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土壇場?の女装少年

 

 

 

 

 

 

 

「―――――それにしても大激戦でしたね、えぇ」

 

「……いやいや、何にいきなりまた拉致った挙句にさも凄まじい戦いがあったみたいなノリしてんの? つかまたこのパターンか!」

 

 

 

 

 天丼は受けなければ寒いだけだというのに、この後輩は躊躇なく禁断の二度ネタをやりやがった。これ芸人的に大丈夫なのだろうか?

 

 ………まぁいいや。僕はどうせ芸人じゃないし。

 

 あとまた放送席に拉致られている事にもツッコみたいが、ちゃんと意識もあったし点蔵やウルキアガに運ばれた訳でも無い。だというのにどうしてまたこの場所に戻っているのだろうか?

 

 

「あっ、それならこの術式札を使ったからですよ」

 

「……“迷子捜索用転送術式札:武蔵だよー! 迷子しゅうGOー!”……?」

 

「武蔵って結構広いじゃないですか? 地理に慣れていない人が居住区じゃなくて機関区や重要な所に迷い込んでしまわないように位置を知らせる機能と、予め母体となる札の下に転送させる術式なんで。走狗が使う地脈間移動の武蔵Verみたいな感じですかね」

 

「それ人体に激しく危なそうに聞こえるんだけど」

 

「大丈夫! ちゃんと浅間神社の神主から『面白そうだし許可!』とコメントと加護を頂いていますし、先輩がめでたく初めての経験者なのでこれで術式が問題無く稼働する事が分かんにゃああああああ!?」

 

「……オイ、今なんつったオイ。僕を実験台にしたと言ったな? それで失敗したらどないしてくれんじゃグォラァァァァァァアアっっ!!」

 

 

 あくまで“武蔵”の上でしか使えない転送術式らしいが、無断で人に試しやがるとはどういう了見だ。いくら走狗の件が例え話で実際は風系の神様の加護を使っての高速移動だとしても人的実験をまさか前振り無しでやってくるとは思わなかった。流石の僕だって部屋から出て殴りに行くレベルだ。

 

 実況席の後輩の頭に梅干しを極めながら、橋上で先ほど行われた相対の結果を見やる。

 

 そこでは充足感に溢れた顔をしたネイトと、役割を果たしたと顔を上気させて口元に笑みを浮かべている鈴さんが並んでいる。結果的には暫定議会側のネイトが勝利した形で収まったが、この結果は教導院側にとっても非常にプラスになる。何故なら、

 

 

 ――――――騎士階級の目論見、一応これでオシャカに出来たんだからね……。

 

 

 この相対戦において、騎士階級が出した答えは勝つ事ではなく、教導院側、つまり一般人に“負ける”ことこそが目的だった。

 

 本来守るべき一般人に負けを認める事で歴史再現で言うところの“市民革命”を成立させ、騎士としての特権を事実上捨てる。そうすれば僕達一般人側は騎士の力に頼る事が出来なくなり、その結果武蔵としても聖連に逆らわないような選択肢しか選べなくなってしまう。それはイコールで、ホライゾンを救いに行けなくなるとの同義だ。

 

 だからこの相対戦において教導院側はネイトに負けさせるわけにはいかなかった。

 

 そこで諸々の話を聞いた時、僕よりも先に手を挙げたのが他ならぬ鈴さんだった。

 

 彼女は自分こそがこの相対に一番合っていると言い、見事ネイトの騎士としての矜持を引き出し、騎士側の思惑を自ら打ち破ってくれた。

 

 彼女の意志はともかく騎士側の方が懸念されるが、これで結果的にみれば相対戦の戦績は一勝一敗のドロー。つまり、次の正純との戦いで武蔵の方向性が決定される事になる。

 

 

「おぅ痛たたぁぁ………先輩、密着できてヒャッハーでしたけどもう少し手加減をですね……」

 

「うっさいよ。それと、この背中に張り付けられた札なんだけど戦犯誰? 今ならそこまで怒ってないから、素直に犯人は名乗り出てくれないかな?」

 

「えーとですね……それをやったのは総長連合第一特務ですね。あの人の隠密スキルなら湊先輩に察知される事無く仕込めたので」

 

 

 ――――点蔵後でシバク。

 

 

 後ほど点蔵には『閻水』の氷紋剣一式をまとめて食らわせるとして、相対戦もいよいよ大詰め。暫定議会側代表の本多・正純に対し、教導院側が繰り出したのは―――――――。

 

 

「……ちなみに湊先輩。武蔵から降りたら私と一緒の出雲の方に行きませんか? 私あそこに実家あるんで」

 

「もう負けた事前提で話し始めてるよね君! もう完璧にアイツが負けると思ってるよね!?」

 

「いやだってあの馬鹿……生徒会長が副会長に勝てる訳無いじゃないですかぁ。勝ってるの身長ぐらいですよ?」

 

「他にもあるよ!? 体重とか、料理の腕とか、芸人としての根性とか!」

 

「それ、フォローになってませんというか、そういう先輩だってあの馬鹿が出てきた瞬間に頭抑えてましたよね?」

 

「………頑張れー! トーリー!」

 

 

 横からのジト目が地味にきつい。でもしょうがないでしょ! だって普通に考えて、トーリが正純に口論して勝てる筈無いじゃないかぁ!

 

 

乙女男:『ちなみにそっちはどんな感じでトーリを送り出したん? 具体的に点蔵、三十字以内でお願い』

十ZO:『何気に先ほどの事を根に持っているで御座るな!?』

貧従士:『あっ、今ので二十三文字使っちゃいましたけど、これってペナルティあるんですか?』

乙女男:『勿論。後で氷漬けにしたり氷塊頭上に落としたり色々とフルコースを見舞う所存です』

賢姉様:『つまり氷プレイね!? アンタにしては中々のアブノーマルよ素敵ー!』

煙草女:『話は変わるけど、トーリは大丈夫さね? アイツがまともな討論を出来るとは思えないんだが…』

○べ屋:『ちなみに私がモニターしてる限り徐々に武蔵の住人が荷造り始めてるって! 引っ越しの手配とかの注文が来てるから誰かログ残してくれる?』

約全員:『お前教導院側の人間だったよな!?』

 

 

 実況通神(チャット)も良い感じに騒いでいるが、最後の方は不安しか感じられない。本気で心配になってきたけど、ちゃんとやるかなぁトーリ……不安だ。

 

 

 

 

 

 

 

      ●

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけホライゾン救いに行くの――――――止めね?」

 

 

 

 

 頭をかきながら、ふと橋上の元生徒会長がそんな事を言った。

 

 

 近くにいる梅組の皆も、通神越しで聞いている武蔵住人も、そして恐らくは実況中継でこの様子を見ているであろう三征西斑牙やK.P.A.Itariaの人達も唖然としているのではなかろうか。

 

 隣でやかましかった筈の後輩も口をパクパクと動かすだけで言葉を紡げずにいて、かろうじてあの馬鹿の行動に少々の耐性が出来ていた僕はいち早く正気に戻り、実況席から見渡し丁度良い位置にいた直政、点蔵、ウルキアガにチャットで合図をお願いし、そしてカウント3で右舷、中央、左舷の人々の声を合わせて、皆さんせーの。

 

 

 

『えぇぇぇぇぇえええええええ―――――――――――ッッッ!?』

 

 

 

 武蔵住人による大合唱。代演としたら結構な芸になるんじゃなかろうか、そんなふざけた思考が浮かんでしまったのはきっとあの馬鹿の言葉のせいに違いない。

 

 最初からおかしいと思ったのだ。討論は基本的に後攻の方が有利なのに、トーリは真っ先に『先攻』を選んだ。その際シロジロその他大勢から盛大にツッコミを受け敵である筈の正純からも替えてもいいと言われたのに先攻を譲らなかった。

 

 武蔵の総長は代々無能が務めるのが常であり、あの馬鹿がまともな討論を行える筈が無い事は誰もが理解していた。その筈だったのに、ホライゾンや武蔵の展望がかかったこの大事な場面において、誰があんな事を言うと予想出来ただろう。何より、トーリの口からホライゾンを救いに行く事を辞めようだなんて、誰にも予想出来なかった筈だ。

 

 

 ……だってアイツの姉でさえ、あの瞬間固まってたからなぁ。

 

 

 実況席からはしっかりと、あの狂人のポカンとした顔が見えていた。つまりは、トーリの事を誰より理解している喜美でさえあの言動は予想外だったのだ。こんな時に予想を裏切る必要なんてまるで無いのだが、あの馬鹿は何を考えているのだ。

 

 いてもたってもいられず、僕は未だ驚きが抜け切らない後輩のマイクを奪い取り机の上に足を乗り出しながら叫んだ。

 

 

『おいコラファンタジスタお馬鹿ー! お、おまっ、お前っ! 一体何考えてんだコラ―――――!?』

 

「うおっ、今のすげくね? 湊と正純のユニゾンツッコミ!」

 

「それは関係無いだろ! そうじゃなくて、それはこちらの意見の筈だ!」

 

『お前マジふざけんの大概にしろよコラ! 一応場面的には一番の魅せ場なのに、これ他国に放送してんだかんなっ! 滅多なことやれないんだぞ!?』

 

「そいつぁ気合い入れないとな! よいしょっと……」

 

『誰かー! その辺にいる誰でもいいから馬鹿を止めてー!? 全国放送の場で武蔵の最終兵器を見せる訳にはー!?』

 

 

 服を脱ぎ出した馬鹿を映さぬようにワイプを挟み、近くにいたペルソナ君にトーリを抑えてもらっている間、急ぎ字幕を作り『しばらくお待ちください』とワイプに重ねて流しておく。これで武蔵の恥を晒さずに済んだ………既に手遅れ感は否めないけど。

 

 

「湊先輩! 馬鹿着衣完了しました!」

 

「よっしゃそれならカメラ回して! あと現場の撮影班はまた馬鹿が何かしそうになったら絶対にレンズを向けないで! 返事は!」

 

『Jud.!』

 

「……ハッ、私はどこでここは誰!? というか、先輩随分指示が手慣れてませんか?」

 

「慣れたんだよ! 二回も実況席に拉致られたらそりゃ少しぐらい仕事も覚えるもんさ! 不本意だけどね!」

 

 

 それにこういう場所も初めてじゃないし。以前にも文化祭や体育大会の都度解説席に招かれてきた、仕事の一つや二つ、覚えもする。

 

 そして再び開始された討論では、ホライゾンを救わないという本来暫定議会側の意見をトーリが持ち、代わりにホライゾンを救いに行く事を是とする意見を正純が述べるという変則的な展開が繰り広げられていた。

 

 正直あんなんアリかとこちらへメールが大量に投稿されてきたが、あくまで取り決め上のルールには抵触していないため問題は無いという事になっている。きちんと神様に契約書を書いているため、契約違反と判断された場合にはちゃんと罰則が用意されている。

 

 

「えー、今こちらに入った情報によりますと、使用されている契約書はオオクニヌシ系に含まれるミサトのもので、討論から逸脱した場合には罰則として立会人である梅組担任が武器で殴打するとの事です。………これ、喰らったら死にませんかね?」

 

「うちの担任の武器は長剣だから、ちゃんと鞘をつけて殴るとは思うけどあれ鉄製だしなぁ。下手したら斬殺より惨い撲殺死体が出来上がるからあの二人の冥福を今のうちに祈っておくべきかもしれませんね」

 

「湊先輩湊先輩! 既にだいぶ諦めかけてませんか!?」

 

「んー、ちょっと精神的に喰らった衝撃が抜け切らなくてねー。うん、大丈夫、仕事はちゃんとこなすから」

 

「―――あと今現場の方で副会長の方がルールの書き換えを要求していますが、その場合ですとキャンセル料が発生しますので…………ご、五回。とりあえず、五回、だそうです」

 

 

 何が五回なのかは言うまでも無いだろうが、あの先生に五回も殴られて死なない人間はおろか生物がいるとは思えない。遠目から見ても素振りの速度が目で追えないし、本番だと抵抗の事も考慮してあれより加速すると思うと人間ぐらいなら三発目ぐらいでこの世から跡形も無くなるだろう。

 

 それを聞いて現場の正純は青褪めつつも異議を取り下げ、ホライゾンを救う側の立場から討論をする事になった。

 

 

「かなり意外性のある一撃から始まったこの相対戦。解説の湊先輩、これをどうみますか?」

 

「どうって、あの馬鹿が何かを考えてっていうのはまずあり得ないから、というかアイツの動きを読んで解説入れるとか無理ゲーじゃない? 付き合い長いけど、正直アイツの行動の解説出来る自信無いよ? 僕もう帰っていい?」

 

「それだけはっ! 私だって、私だってこんな相対戦の実況なんてぶっちゃけ嫌ですよ! でも仕方ないじゃないですか! この放送は武蔵のみならず三征西斑牙や聖連にも流れているんです! 無様な姿を晒す訳にはいきません!」

 

「本音は?」

 

「この際討論の実況諦めて梅組在籍の先輩から、あの外道の魔窟で有名な教室の一般風景なんかを是非聞いてみたいんですが」

 

「そっちの方が無様な姿を晒す事になるだろうが! 仕事嫌だからって現実から目を逸らさない!」

 

 

 逸らしたいのはむしろこちらだ。あの馬鹿は本当に、何を考えていやがるのか……。

 

 

 きっと他国でこれを見ている人達と同じような気持ちを抱きながら、僕達は最低限の実況に徹する事にした。

 

 

 

 

 

 ――――――あ、でも聖連とは意見合いたくないなぁ。具体的には、僕教皇総長苦手なのであの人と意見が合うとか冗談じゃなく嫌だし。

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