境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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立ち向かい始めた女装少年

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――少し、昔の話をしよう。

 

 

 それはある少年の話。少年が、世界に翻弄される事になる少し前の話。

 

 

 少年がまだずっと子供で空を往く国の事さえも知らなかった頃、少年はとある一族に拾われた孤児として育てられていた。

 

 その一族は人数にして二桁にも満たない、ごく少数でありながらも特殊な技術と術式を持っているが故に伊賀や甲賀といった高名な忍者集団の者達にその名を知られていた、ある忍達の末裔だった。

 

 血の繋がりこそ無かったが、少年は一族の者達に愛されその事を知らされても尚、自分が一族に受け入れられている事を知り少年も自分を愛してくれた家族を愛していた。

 

 一族の長たる長老に知識を教わり、兄や姉にからかわれつつも知識以外の技術や様々な事を教わりそのまま少年はそこで育っていくのだと当たり前のように信じていた。愛する家族達と一緒に、自分も彼らのようになりたいと当然のように思っていた。

 

 

 ―――――そう思っていたのが少年だけだと、少年が知ったのは彼が世界を本当の意味で知ったのと同じくして。

 

 

 “末世”解決のために、一族が既に自分達の滅びを受け入れていた事を少年だけが知らず、少年は一族においてただ一人だけ生き延びた。

 

 全ては一族全ての者達の意志。彼らは自分達の遺志を必ずや少年ならば継いでくれると、そう信じていた。

 

 

 ………だが、彼らは気付かなかった。

 

 

 少年は彼らが思う程強くなかった。一人だけで家族全員を一度に失った事が、少年に深く重たい傷を残してしまった。

 

 その上彼らが少年に託した物が何より、少年に重荷となって圧し掛かった。彼らが命を賭して少年に託した物は少年にとっては忌むべき物という認識であったが故に、少年は一族の遺した遺志と誇りを受け継ぐ事が出来なかった。

 

 故に、少年は受け取ったそれを封じる道を選んだ。己に託されるべきものではないと、己の内に全てを仕舞い込み封印措置を施し、少年は何もかもから目を閉じ耳を塞いで世界を絶った。

 

 少年にとっての全てだった家族を奪った世界と、向き合う事を少年は恐れた。

 

 だから少年は未だに孤児だった頃の名を名乗っている。一族の長から授かった真名を一族の誇りと共に内に封印し、二度と開く事が無いように。少年にとって、その時点で既に自身に存在価値を見いだせていなかったのかもしれない。

 

 家族達は自分を遺して死んだ。それが世界の為だと信じて、そして何より、自分達が亡き後少年がきっと一族の悲願を成就してくれる事を。

 

 でも少年にとって、それを託されたと思うにはあまりに幼かった。

 

 自分だけ遺された事を、彼は捨てられたと思いこんでしまった。一族の悲願というなら、何故自分は生きている? 自分だって家族の筈だ、そう言ってくれたのは他ならぬ一族の皆の筈なのに。何故?

 

 ……自分には血が繋がっていないから? 本当の、家族じゃないから自分は死なせてもらえなかった?

 

 嫌な考えばかりが泡沫のように浮いては消え、少年は“武蔵”という国に保護されるようになってからも自分だけ遺された事実に打ちのめされ自ら殻に閉じこもってばかりだった。

 

 

 

 

『―――――なぁなぁ! オメエの女装ってクオリティやべぇな! コツとかあったら俺にも教えてくれよ!』

 

 

 

 

 ――――――少年が殻を破る切欠となる第一歩。それは、ある馬鹿との出会いから始まる。

 

 

 時を経て少年は成長し、己の中で家族の死と向き合えるようにはまだ至っていないが、恙無く日常を送れるようになるまでには精神的にも立ち直る事が出来た。

 

 しかし未だ、少年は家族の死の本当の意味を。彼らが何を思って自分を遺したのかを理解していない。

 

 故に、少年は未だに与えられた封印術式を維持するために自らの内燃拝気と代演で奉納出来る全てを費やし、授けられた真名も封印したまま。

 

 一番最初に与えられた名前。少年はまだ、その名に縋りつかなければならないほど、彼に刻まれた傷は癒えていなかった。

 

 

 

 

 ……その少年の名を“湊”。彼もまた、喪失から立ち直れていない武蔵総長である少年と同じ場所に立っている。

 

 

 …………己のせいで失われてしまったと、喪失の後悔を胸に宿す者として。

 

 

 

 

 

 

 

      ●

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――あぁもう聖連っていうのはっ!

 

 

 

 聖連。聖譜連盟と呼ばれるそれは正しく世界の全てであり、聖譜記述を管理するという立場にあるが故に、聖連の発言とはそれすなわち世界存続の最善手。自らの言葉・行動こそが世界を救う事になると謳い、真実その言葉を信じた者達がいるからこそある程度世界の平穏が保たれていると言っても過言ではない。

 

 

 ……が、僕は正直、彼らが苦手だ。

 

 確かに彼らの言葉には正当性があるし、長い歴史の中積み重ねられた物は偉大である事には違い無い。違い無いのだが……正しいから、それを全て受け入れるというのは僕は違うと思う。

 

 正しいだけ、それが世界の為だと言って、だからホライゾンを殺す。その意見に素直に頷けないのは、多分僕達のエゴなんだろう。

 

 トーリがホライゾンに告白する筈だった今日という日を取り戻すための相対戦の中、教導院側は聖連に対抗できる力をシロジロが示し、武蔵の主戦力である騎士階級であるネイトは騎士としての本分を果たしてくれると約束した。

 

 ならば、後は僕達武蔵住人が最終的に下すべき決定は、ホライゾンを救うか否か。そして、聖連に立ち向かってもそれを正当なものとするだけの理由が必要となってくる。

 

 先にも述べた通り、聖連とはすなわち世界の全部と言い換えられる。つまり彼らと事を構えるというのは、世界中を敵に回す事と同義。

 

 ホライゾンを救うとなればホライゾンを殺して大罪武装を抽出するという聖連側と対立する事は必然。なれば戦争は避ける事は出来ず、戦争ともなればそこには戦うための大義名分が必要だ。

 

 だが聖連には“極東三河を消失させた責任を負わせる”という名目があって、そのためにホライゾンが三河の嫡子である事を急ぎ確認させて昨日判明したばかりの事を確定させたのだ。事を円滑に進めるために、一方的にホライゾンが嫡子で聖連が保護するという形に持っていくために。

 

 そしてホライゾンを自害させれば、統治者を失った三河と武蔵はその全てを聖連に吸収され、大罪武装も聖連の手に渡る。彼らからしてみればこれほど旨みのある話は無いだろう。

 

 

 僕の私見入りまくりの意見のためかなりの私怨が混じっているのは否定しないが、とにかく僕達がホライゾンを救うためには聖連との対立は必至だ。

 

 暫定議会は聖連に武蔵を譲渡する事を定めてその意見の代弁者として武蔵アリアダスト教導院、生徒会副会長の本多・正純を立てた。父を暫定議会に持つ正純であれば確かにその立場は不思議じゃないし、唯一この武蔵で権限を残されている正純をこちらに引き込むための戦いこそがこの相対戦なのだ。

 

 そんな正純に相対しているのは何と我らが馬鹿ことトーリ。奴は討論を行う上で交わした契約を逆手にとって、本来自らの意見であるホライゾンを救いに行く立場の意見では無く正純の立場と入れ替わる形に持っていった。

 

 彼は言った。俺は馬鹿だから何も分からないと。

 

 多分だが、そもそもトーリの奴は正純と戦おうとなんて思っていない。アイツはただ正純に教えて欲しいだけなのだ。自分がホライゾンを救いに行く事でどうなるのか、その結果と本当に救いに行くことが出来るのかという事を。

 

 正純は淀む事無くトーリの問いかけに答えていった。

 

 まず、ホライゾンを救う事の武蔵への益する事。それは彼女がいる事で武蔵が主権を取り戻す事が出来る点にある。

 

 現在、彼女は三河の嫡子にされている訳だが、極東で土地の所有が許されているのは武蔵と三河の二つのみ。そして三河の君主は本来武蔵に乗艦することが出来ないのだが、三河が消失した今三河を武蔵と同じく都市艦として連結させる事で武蔵への乗艦を可能となる。

 

 つまりホライゾンを救えば武蔵は主権を取り戻し、聖連からの支配下を逃れ独立することが出来る。これは聖連にとっては支配しにくくなるため許し難い行為であるのは明白だ。逆にホライゾンを救わないというのは、自ら主権を放棄し聖連からの完全支配を受け入れるという事である。

 

 当然そうなれば戦争の心配なんて無くなる訳だが、そうなってくると極東という国は完璧に喪失されこの武蔵の全ては聖連のものとなって現在の武蔵のような生活を送る事が出来なくなる。聖連ってば教譜が厳しいからぶっちゃけ改宗したく無いんだよなぁ個人的に。神奏術に慣れた分余計にそう思う。

 

 

 だが、仮にホライゾンを救出し主権を回復させたとしても聖連との戦争は避けられず、その場合の死人の事を考えない訳にはいかない。武蔵の方向性を決める以上、この話題は避けては通れない。

 

 確かに戦えば死人は出るだろう。だが正純はそれ以外にも、戦争をしないからこその死者の可能性を示唆した。

 

 戦わないのに出てしまう戦死者。現在武蔵の動きは全て聖連に制限をかけられている状態にあり、それは航行だけではなく市場や金融にも同じ事が言える。武蔵国内だけでならまだしも、各居留地の金融は凍結された状態にあるのだ。

 

 さらにそれらは何れ聖連に奪われてしまうため、居留地の貧困が加速的に進む。その結果は貧困であり、貧困が進めば進むほど死者は続出する。

 

 それらを回避するために考えられるのは、居留地を畳んで完全に聖連に帰化する事。が、これこそが聖連の狙い。

 

 帰化の人間の受け入れには改教や言語の違いなど越えなければならないが、聖連にはその支援を行ってでも得たい利益が存在する。あちらは住む場所を失った武蔵住人を受け入れる際、立場が上になるためこちらに安い支払でより多くの労働力を手に入れられるし、何よりこの武蔵には技術がある。

 

 

 航空艦技術―――――“武蔵”という他国から見ても優れた航空船を製造出来る技術は魅力的なものがあり、武蔵そのものを研究する事で他国には無い航空船の運用法、技術やそのノウハウをより短い期間で得る事が出来る。

 

 だから技術者達は喜んで受け入れられるかもしれないが、それ以外の住人が受け入れられるとは限らない。騎士階級が当初考えていた市民革命を行って帰化したとしても、その事実により貧困の居留地へ封じられる可能性の方がもっと高いだろう。

 

 そしてその状況が改善されるまでさらに貧困は進み、死者が増える。それは学生のみならず、一般市民の中から、しかも居留地全てから発生するのだ。

 

 戦争を回避したとしてもそのツケで死者は発生する。これが、戦争を回避した場合の戦死者となる。

 

 

 戦争をしてもしなくても、遅かれ早かれ武蔵にとっては不利な状況に追い込まれる。緩やかな支配を受け入れるか、逆らって世界全部を敵に回すか。武蔵が置かれている状況は正しく、最悪の二文字を冠するに相応しいだろう。思わず聖連に愚痴りたくなった冒頭の僕の気持ちが少しでも分かっていただけると思う。

 

 

 そこまで正純が語ったところで、また一つトーリがカンニングペーパーから一つを取り出し口調を真似ているのか普段朗らかな声をやや厳格なものに変えながら、告げる。

 

 

「姫ホライゾンを救う大義名分――――姫を救いに行く正義の理由と、彼女を自害させる聖連を悪と他国に示せる根拠は何だ?」

 

 

 ……それが今、僕達に最も必要な物である事は討論を聞く全ての者が理解していた。

 

 

「……ここで総長から一番の問題が提示されましたね、湊先輩」

 

「だね。今までの相対戦では教導院側が聖連と戦えるだけの力があると、戦っていけるのだと暫定議会側に示してきた。第一戦のシロジロは金融面で武蔵が飛び続けられる事を、第二戦はネイトが騎士として武蔵住人のために力を揮ってくれる事を。戦力的な問題は一応クリアされたとみてもいいけど、それでも戦争を行うにはまだ足りないんだ。聖連を敵に回しても、こちらが他国を敵に回さないような正当な理由。それが無いと…」

 

 

 僕達は戦う事はおろか、世界中から悪と断じられ全てを敵にこちらが滅ぶその時まで戦争をする羽目になる。

 

 今武蔵に必要なのは、戦うための大義名分。武蔵の手前勝手な言い分ではなく、世界に認めさせるだけの正義が必要となってくる。それを問われ、正純の顔がさっきまでとはうって変わって下がっていくのが見えた。そしてその正純の動きを追っていくうちに、ふと何かが引っ掛かった。ずっと前に爺ちゃんに言われて人をよく見る癖がついたからこそ、気付けたその一瞬と同じタイミングで左舷側から声が一つ。鈴さんが正純に何かを声を放っていたが、それに気付いた正純がバインダーの中を覗きこみハッとした顔を作ってすぐに取りだしたそれを破り捨てようとし、

 

 

「あぁ! 総長が副会長のカンペ破いたー! これは兵站潰しですかね!?」

 

「いや違うでしょ。そもそも正純にカンニングペーパーが必要だとも思えないし、それに……」

 

「確かに副会長頭めがっさ良かったですしねー。でも、何か気になっているようですが先輩?」

 

「いや、トーリの奴が何か少し……怒ってる? 何かそんな感じがするんだけど」

 

 

 アイツが冗談以外であんな風に怒っている様子は久しく見た事が無い。でもその様子は不安を感じさせる事は無く、ことらの思惑なんぞ知ったこっちゃないと言うように橋上ではトーリが正純に言葉を放っていた。

 

 

「オマエは! 俺達の代表なんだ。唯一俺達の中で権限を持ってる……そんなオマエが、お前の意見を言わなくてどうする? いいかセージュン、オマエはオマエの答えを言え!」

 

 

 アイツらしい、そう思える確かにトーリだからこそ出た言葉だと感じられた。トーリは最初から、他の誰でも無い正純の口から正純の意見で、ホライゾンを救えるか否かを聞いているのだ。そこで正純以外の言葉は仮にとっては不要なことで、だから正純が自分以外の言葉を言う前に止めたのだろう。しかも恐らくは本能的に。

 

 相も変わらず人を見る目は鋭い。正純の感情の機微を把握してたからこそ、トーリの言葉は心に直接届くのだ。……かつての僕がそれに救われたように。

 

 

 そして後押しするように途中から何処かに出ていたアデーレが桶を抱えて戻ってきて、桶を見た正純が驚いたようにそこから出てきた黒藻の獣達を受け取り、少しの間言葉を交わしているように見えた。

 

 

「凄いな……」

 

「え? 何がです? あっ、梅組胸囲のカースト具合がですか?」

 

「それは今アデーレを見て浅間と見比べての発言だね? 撃たれても知らないよ……で、驚いたのはそこじゃなくて今正純の手の上にある黒藻の獣だよ」

 

「確か、水の汚れを取る……」

 

「うん、あまり見かける事も無いし、本人達が自分達が汚れてるからって話しかける事も早々無いんだ。僕も少ししか話した事無いから知らなかったんだけど、あんな風に名前を呼ぶのは初めて見たよ」

 

 

 彼らの声援を受け、正純は意を決したような表情になった。きっと、正純の中で答えが出たのだろう。

 

 聖連と戦うための正義の理由。今まさに、正純の口から正純の言葉として、それが告げられようとしている。

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ盛り上がってまいりましたよー! しかし! ここで次回に続くッ! くぅ~! 引っ張りますねこの番組! 視聴率が四割いってますよヒャッホウ!」

 

「いや喜びすぎだし。場の雰囲気壊しそうだから今の声流さないようにしてたから」

 

「え゛っ!? 何故に私より部員を使いこなしてるんですか先輩っ!?」

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