境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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ここで出てくる教皇総長の抱く“ある一族”への考察と、前回載せた湊が思っている“家族”の行動への考察にはすれ違いがありますが、そのどちらも真実ではありません。あくまで事実の断片から彼らがそうだと思っているだけで、それらの一部に真実があってもそれが全てではありません。

それを先に前置いた上で、本編をどうぞ。


怒れる女装少年と馬鹿

 

 

 

 

 

 

 ――――――“武蔵”上にて行われている相対戦を観戦しながら、K.P.A.Italiaの教皇総長(パパ・スコウラ)、インノケンティウスは静かに一つの思考を巡らせていた。

 

 

 それは武蔵が今見せている、『聖連へ掲げる正義の理由』を述べている武蔵副会長に向けられたものではない。その事自体は彼の積年の武蔵との戦いの決着をつけるのに相応しい相手かどうか、またこちらに向かってくるという意味では不謹慎だと自覚しながらもいつかの敗戦の記憶が、教皇をやや戦争を望ませる方向に傾けつつあった。

 

 とはいえ、彼は教皇だ。己の私情を挟み幾万にも及ぶ教徒達の代表として、その行動は常に聖連にとって最上。すなわち彼の行動の一つ一つが世界を動かせるだけの“力”を持っていると自覚があるからこそ、武蔵の動向にはあくまで教皇として対応するのみ。

 

 武蔵が降伏するにしろ仕掛けてくるにしろ、教皇として最善を取るのみ。

 

 なれば今、インノケンティウスが考えているのは武蔵の動向ではないのだとしたら、それは世界を左右する人物が気にかけるだけの存在という事にならないだろうか?

 

 

「元少年、何か考えごとかね?」

 

「教皇と呼んで下さいよ、先生」

 

 

 自分が学生だった頃の担任にはどうやら思考が洩れていたらしい。魔神族の老獪に指摘され、昔の呼び方で対応しながらインノケンティウスはその問いの答えを示すように、質問者ガリレオに映像を見るようにと視線を促した。

 

 映像には現在、武蔵副会長“本多・正純”が三河の姫、ホライゾン・アリアダストの自害の必要性と、彼女を救う正当性と大義名分を語っている姿が映し出されている。

 

 

「…ふむ、君としては武蔵にはこのまま聖連と対立する方向に進んで欲しいという事なのかね? 相変わらず血の気が多いな君は」

 

「そうではない。よく見ろ、副会長ではなく、その後ろをな」

 

「む? …………あぁ、そういう事か」

 

「そういう事だ。耄碌したか、ガリレオ?」

 

「くくっ、そうだな。そう言えば、あの少……年は武蔵にいたのであったな」

 

「今若干間があったな?」

 

「さて、どうだったものであるか。何分、私は耄碌しているらしいからな」

 

「調子の良い奴だな、お前は」

 

 

 彼らが注目しているのは副会長ではない。無論、その言動には注意を払っているがもう一つ、その映像には無視できないファクターが映し出されていた。しかも確信を抱かせるように、その人物は自ら存在をアピールしている程だ。

 

 

『何やら副会長アッパー入ってきましたねー、解説の湊先輩』

 

『そうだね。姫ホライゾンの自害を聖譜記述を利用した悪魔のシステムと解釈する……強引だけど、言い分としては成立するし、正純が言う通りそういったシステムであれば何も姫に自害を強要する必要は無くて、三河の君主に仕立て上げられた第三者でも問題は無いんだから』

 

『姫は元々は自動人形として武蔵の飲食店で働いていたとの情報があります。あの元信公のカミングアウトの衝撃が大きかったのは否めませんが、あの時点では姫はまだただの武蔵住人でしか無かった訳ですしね。………あの、そろそろネタ挟まないと息が苦しくないですか?』

 

『さっきから思ってて口には出さないようにしてたんだけど、敢えて言うよ。君絶対にこういうキャスターよりもMCとかやりたがるタイプだよね? 普通に実況しろよ!』

 

『私以外にアナウンサーいないんだからしょーがないでしょうよ! それ以外は今日の先輩の隣確保するために皆寝込んでもらってるんですから!』

 

『一体何してんの放送部!?』

 

『一同:聞かないで下さい』

 

 

 映像とは別のラジオ放送では実況と解説を交えながら、七割以上を漫才に費やしているようではあるが一応解説の体はなしているようではあった。そしてその声の内一人は、彼らにとっても覚えのある者の声であった。

 

 

「あの時の少j……少年が、元気になったものであるな」

 

「今、明らかに“少女”と言いかけたなぁ、オイ」

 

「何の事やら。そして、君が気にかけているのはこの少女の事かな?」

 

「最早訂正する気すら失せたか……まぁいい」

 

 

 いやよくねぇよ――――と、本人が聞いていれば烈火の勢いでツッコんでいたであろうが、生憎件の少女……ではなく少年にその会話は聞こえていない。

 

 

 ―――既に滅んだ一族の末裔。正確にはその血すら継いでいないために見逃した少年。

 

 

 保険として彼が受け継いだ神格武装にも相当する“遺産”に封印を施し、少年が自ら受け入れそれを自身の体内に埋め込んだ。それは、彼が一族の遺志を受け継がない事を示していた。

 

 だからこそ当時の教皇は子供だった彼が再起を起こす事は無いと判断し、少年を“武蔵”へと送った。あの地こそ少年に相応しいというのと、彼の存在を聖連に置く事をインノケンティウス自体が避けたかったとの思惑が一つ。

 

 少年自体には何の脅威も無い。だが、彼が受け継いだ“遺産”。あれは別だ。

 

 その一族の全てを内包したそれは、少年が真に受け継ぐ事は聖譜記述にも記載されていない。つまり、それは歴史再現上不必要な物だ。そもそも、その一族は聖譜記述に(・・・・・)載ってなどい(・・・・・・)ない(・・)。にも関わらず彼ら一族は、否だからこそと言うべきか。自分達に出来る事で末世を解決する手段を模索していたのだろう。

 

 歴史の表舞台に記される事の無かった一族。だが、彼らが遺した物は後の歴史再現に大きく影響を及ぼす力を持っていた。それこそ、一族の命を糧に作り上げた狂気の末の“遺産”と呼ばれる物。

 

 滅ぶ寸前だったとはいえ、一族全員の命と引き換えに完成させた物など、正気で作れる筈が無い。とすれば、彼らは命を失っても尚、その“遺産”を彼の少年が受け継いでくれると信じたのだろう。

 

 

「……つくづく馬鹿な連中だったな。例えそれがどれほど強大な力を有した物だとしても、それを受け継がせる器はあまりに脆弱だった。一族の死に耐えられず、遺された物を自ら封印すると決める程にあの少年は弱かった。だからこそ、“遺産”の破壊も少年の殺害にも及ぶ必要が無かったんだがな」

 

「家族の為に殉じる、その行為自体は素晴らしいものではないのかね?」

 

「ふん。それでガキ一人に重荷を背負わせる家族愛の何が素晴らしいものか。生きて我々の下に下り、その力を存分に揮えば良かったのだ」

 

「………」

 

「…何だ貴様。その含み笑いを押し殺した気色悪い顔は」

 

「いや何、君のそういうところが好ましいと思っただけだ。あの時、死を選んだ少女を引っ叩いて無理矢理にでも生きさせようとした君の台詞。未だに私は覚えているよ、あの時君が」

 

「その話は良い!」

 

 

 ……本来であれば、“遺産”とその持ち主たる少年はその危険性故に殺されてもおかしくなかった。

 

 

 一重に少年が生かされたのは、彼ら一族が聖連に協力してきた実績と、聖譜記述には記されていないとはいえ“末世”解決のために散った者達の遺志を継がない選択を教皇として選ばなかった。ただそれだけの理由だとインノケンティウスは言う。

 

 

「曲がりなりにも聖連に技術提供をし貢献していた一族だったからな。むしろ連中は、俺がこうすると見越して協力していたのだろうよ」

 

「君を懐柔し、あの少女を殺させぬようにか? そうと分かっていて、何故見逃したのか興味があるな」

 

「何も不思議な事など無い」

 

 

 彼は教皇だ。世界を救う、そのために瑣末な事になど気をとられている暇は無いし、末世解決の一助となるなら必要な手段は全て講じる。それが世界の最善だと信じて疑わない、疑う事は自分に従う教徒全員への裏切りにも等しいのだから。

 

 

 

「―――あの時死んでいた者より、生きてあの“遺産”をどうするつもりなのか改めて問えば済むと判断しただけの話だ。聖連側として“遺産”を揮うならそれもよし、そうでなければ……聖連代表として然るべき措置を取るだけだ」

 

 

 

 憮然に言い切って、インノケンティウスは武蔵副会長の弁論に介入すべく通神を開いた。件の少年の事は一先ずおいて、まずは眼前に立とうしている者達に話さなければ。

 

 世界がどうあるべきか、その話を―――――そう告げた教皇の顔は、正しく世界と言い換えられる聖連のトップに相応しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

       ●

 

 

 

 

 

 

 

「――――――教皇テメエ!」

 

 

 

 実況席を立って橋上に声を荒げた。久しくなかった本物の怒りの感情を吐き出すように、俺は映像越しの男に吠えた。

 

 

 

 トーリに後押しされ意見を述べ始めた正純の言葉に、割って入ってきたのは聖譜連盟のトップが一人、教皇総長インノケンティウスだった。

 

 予想は出来ていた事だ。この相対戦は三征西斑牙やK.P.A.Italiaにも放送されている。であれば介入がある事は想像に難くないし、ここで武蔵の反抗の意思を潰せば争いを起こす事無く武蔵の全てを手に入れる事が出来る。

 

 だがいくら予想出来ていたとはいえ、相手は教皇総長。積み重ねられた聖連の歴史の中には当然、今と似たような問答が行われその都度聖連は自分達の意見こそ正義だと通してきた。だからこそ今の聖連があり、様々な問答における模範解答とも呼ぶべき経験値が彼らにはあった。

 

 故に、最初こそ正純が一気呵成に弁を畳みかけていたが、教皇は眉ひとつ動かさずにそれらに対処し、徐々に正純の言葉を封殺していった。

 

 武蔵と聖連の意見が平行線であるものとし、正純が平行線ではあるが聖連はその姿勢上、例え意見が合わなかったとしても何時かは必ず理解しあえると教譜にある通り、あちらは武蔵の意見を否定する事が出来ない。が、その代わりに聖連が示してきたのは、あちらが争いを望んでいないという意見。それに対する武蔵の平行線とは、何だ?

 

 当然その言葉の平行線とは、武蔵が争いを望んでいるという事。だが当然、それを認める事は聖連との全面戦争を望んでいるという意思の表れとなってしまい、ここで正純は言葉を完全に止められた。

 

 そこからは教皇のターン。破格とさえ言える譲歩の条件を提示しながら、武蔵が発言を撤回するなら敵対の意思を認めないと告げてきた。

 

 居留地の金融凍結の解除や様々なこちらが降伏することへのメリットを提示することは、それだけ聖連がホライゾンの自害に拘っている事に他ならない。

 

 その訳はホライゾンが持つ“焦がれの全域”が持つ、“嫉妬”の大罪武装としての能力。それは全ての大罪武装を100%で稼働させる事が出来る、言うなれば大罪武装を統括するOSの機能をホライゾンの内に眠る大罪武装は有しているのだ。元々大罪武装を所持している“八大竜王”とはいえ、彼らでさえも完全な状態で大罪武装を稼働させる事が出来ない。

 

 それを可能とするホライゾンの大罪武装とは、元信公が言うように確かに末世解決の鍵になり得るのだ。

 

 だがその“焦がれの全域”でさえ単体では攻撃能力を持たず、聖連から救い出せたとしてもその後の全面戦争は避けられず、しかも相手に大義名分を与えてしまうだけの一方的な展開になってしまう。

 

 そこでさらに、教皇はカードを切ってきた。

 

 ………正純が襲名に失敗し、さらに襲名のために胸を削って男になろうとしたにも関わらず中途半端な失敗に終わってしまったせいで正純の体は元に戻らず、それゆえに正純が正しい流れであるホライゾン自害に対し反抗している。

 

 まるで正純がただの腹いせのために教皇に逆らい、戦争を起こそうとしている………そう思わせるような言葉に、正純の全てを決めつけるその物言いに、僕はマイクを最大音量にして叫んでいた。

 

 

「さっきから聞いてればごちゃごちゃうだうだうだうだ! アンタは一体、正純の何を知って偉そうに神様目線みたいに喋ってんだよ! マジいい加減にしろよ人相悪人の癖に! 初対面でぶん殴られたのまだ忘れてねぇんだかんなこの野郎ッ!」

 

 

 やってしまったと思う気持ちはある。ただ、それ以上に何もかもを決めつけて、自分こそが正しく黙って従えとも言わんばかりのその態度にどうしようもなくイラついた。かつで殴られた恨みも無くは無いが、その決めつける物言いが何より腹立つ。虫酸が走るとも言う。

 

 

『……今、部外者が割っていい話をしていないんだがなぁ、オイ。小僧』

 

「うるせぇバーカ! 何ぁにが“この教皇総長(パパ・スコウラ)と渡り合った名誉”だ偉そーにしてさ! 年だけ重ねたおっさんが若い子苛めて何悦に浸ってんの? バッカだろお前!」

 

『…ッ、小僧、言葉に気をつけろよ? 貴様は今、誰に物を言っているのか…』

 

「誰が相手とか関係あるかッ! 間違ってるって思った事に間違いだって言ってやる事の何が悪いッ! 少なくとも、僕はそこで押し黙るような事を爺ちゃん達に教えてもらってないんだよ! だから、何度だって言ってやる。―――――おっさんは、若い子苛めて悦に浸る、加虐趣味持ちの変態だってさぁあ!」

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 十ZO:『い、何時になく湊殿がブチ切れてるで御座るよ!? もしや意外に正純LOVEで御座ったか!?』

 ●画:『ちょっと待ってなさい。今ネームが終わったところだから……!』

 ウキー:『仕上げるの早くないか? いやしかし、湊が正純を懸想しているというのは聞いた事が無いな。それに、奴は単純に教皇相手にキレてるだけだろ、アレ』

 銀狼:『それにしても言いますわね湊。教皇を前にあそこまで堂々と変態呼ばわり……』

 あさま:『どどどどどうしましょうあれ!? とりあえず湊君黙らせた方が良いですかねあれ!?』

 労働者:『いや待て。あの馬鹿の方も馬鹿で馬鹿やらかしてるぞ』

 貧従士:『それもう何が言いたいのかよく分からうおおおおう』

 約全員:『何があった…ってうおおおお!?』

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

 時を同じくして、橋上ではトーリが正純が女だった事を確かめるために胸を触りズボンを下ろして下着を露わにしているが、遠目からどうも同じブランドっぽい事が分かった。直接見た訳じゃなく、絶賛テンション上がって何言ってんのか自分でも分かってない僕に向かってサムズアップしているから察せたのだが、今はそれどころじゃないので黙殺した。

 

 

『……貴様たちは、そうやって戯言で場を流すつもりか?』

 

「ア゛ァ?」

 

『小僧に用は無い。今俺はそこの武蔵副会長と話しているんだ、なぁ、本多・正純』

 

「…っ」

 

『お前がこの件を撤回するのであれば、教皇総長の名において襲名を認めてやろう。俺と繋がりがある者として今後の聖連・極東間でお前の地位は盤石なものとなり、我々もそれを保証しよう。武蔵の民にとってもお前にとっても、悪く無い話の筈だ。違うかぁ?』

 

 

 甘い。とても甘い言葉だ。それはきっと、今の正純にとって痺れるように甘く響いている筈だ。

 

 

 

 ……だが。

 

 

 

『オマエちょっといい加減にしとけよ!?』

 

 

 僕は元より、トーリの方も頭にきたのか二人同時に教皇に噛みついた。

 

 どこまでもあの物言いが気に喰わない。何もかも自分が正しいとでも言うような態度も、見下した言葉も全て。それは教皇が言うどこまでも独善的な言葉に対する反感であり、僕が家族に教わり武蔵で培ってきた全てが教皇の言葉を拒絶しようと一か所に血が集まっていく感覚に任せて言葉を吐きだした。

 

 

「あのな!? 俺は、オマエみたいな……いいか、オマエみたいな奴が大っ―――――嫌いだ!!」

 

「ナメるのも大概にしろよ阿呆が! そうやって何でもかんでも思い通りに動くと思うな!」

 

 

 

 ……多分、僕自身は教皇というよりは、あの人を通して別の物に怒っているのだとどこか冷めた思考が告げていた。

 

 

 家族を死に至らしめた原因。世界の方向すら定めている“それ”に、僕は教皇を通してこの時初めて、牙を剥いた。胸中の何かが解けていくのを感じながら、敵意むき出しで睨みつけた。

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