境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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戦う女装少年と御座る侍

 

 

 

 

 

 

 

「……いやぁ、正直調子のってましたすいません。あの髭面見てたらちゃっかり怒りが」

 

「それ確信持った上での行動じゃないですか! 聖連代表に散々あんなこと言ってっ、トーリ君と一緒になって何やってるんですか貴方は!」

 

「あんま湊責めんなよ浅間。湊はな、かつて限定発売された幻の凌辱ゲー“秘密の聖連~世界中から●される女”の隠しヒロインとして使われた時の恨みが」

 

「激しく待てこのスペクトルおバカ! 何その話、というかどうして聖連関連で僕が被写体というかモデルにされてんのオイ!?」

 

「あぁ? そんなの決まってるだろ! 各国で人気のある女子集めたゲーム作らねって話回ってきたんだから、その時間違って女子だと思って覗いたお前の背中を思い出したらそりゃもう出しちまってもしょうがなくね!? ちなみにラフ画とか設定俺が考えたんだけど、結構評価高かったんだぜ!?」

 

「ぶち殺してやろうかこのダラァァァアアアアアアアア嗚呼嗚呼!?」

 

 

 

 ―――あー、声帯大丈夫だろうか。あと堪忍袋にも数に限りがあると思うんだけど、そう頻繁に怒らせないでほしい。

 

 

 

 あの後、横から口を出してきた教皇総長に子供じみた言葉をぶつけ、さらには正純が示した聖連と戦うための大義名分の言葉に、教皇が打ってきた一手は不意打ちだった。

 

 “淫蕩”を司る大罪武装の一つ『淫蕩の御身』をK.P.A.Italia副長ガリレオに貸し与え、武蔵上にいた正純を強襲した。

 

 『淫蕩の御身』の通常駆動の能力により、迎撃に向かったノリキとウルキアガの攻撃が悉く“骨抜き”にされ、その大罪武装の能力を恐れた故に魔導具を使う事も出来ず万事休すかと思われた矢先、ガリレオの動きを止めたのは三河から武蔵に移ってきた警護隊隊長 本多・二代。

 

 そしてヨシナオ王の介入により聖連は一時この場を引き、その代わりに正純対トーリで行われた討論は無効とされ、武蔵の行方は次の相対。

 

 

 ――――すなわち、現極東の最強の武士である東国無双の一人娘に勝たなければ、僕達はホライゾンを救いにいけないのである。

 

 

 僕も実況席から離れ、今は誰が戦うかを揉めている最中だったのだが余計な事と無視できない言動をしたトーリを一先ずシバキ倒して、再び話題は誰が出るかに戻った。

 

 

「ここは私が遠距離からズドンと一発」

 

「巫女が射殺宣g……いえ何でも無いですただ巫女さんが出るのはどーかなーと思っただけっすうっす」

 

「なら騎士である私がドカンと」

 

「いいやここは私の地摺朱雀でバコーンってのはどうだい」

 

「……点蔵、どうしよう。擬音系ばかりでツッコミが追いつかない」

 

「そこでめげちゃ駄目ぇで御座るぞ湊殿! お主がツッコまずしてこの外道共の鉾を受け止められる人身御供が…」

 

「オイ忍者表出ろオイコラァァアア!?」

 

 

 皆やる気があって結構なんだけど、うちの女子達の血の気の多さは何とかならないのか。あっ、鈴さんは別っていうか別次元っていうか、前者三人とは違うよ? 天と地ほどっていうか、トーリと正純ぐらい違う。……あれ、でも個性の濃さで言えば強ち……?

 

 

「おい湊!? 今物凄く失礼なこと考えてなかったかお前!?」

 

「いやだなぁ。気のせいダヨ」

 

 

 しまった。さっきの相対戦が終わったから正純もこちら側だったんじゃないか。そしてあの教皇の話を聞いて初めて知ったんだけど、正純って男装している女子だったらしい。道理で偶に初等部の講師のアルバイトですれ違う際にいい匂いがしたりしてドキリとする事があると思ったら、トーリと一緒だったのが激しく傷ついたけど僕が変人という訳じゃなかったので冷静に思考出来るようになった今、正直ほっとしている。

 

 そして話は再び誰が戦うに戻る、ていうかまるで話が前に進んでいないのはここじゃ自然な事だけど今ぐらい真面目にやろうよ皆。いや僕もそうなんですけどね?

 

 

「湊君の沸点がさっきからかなり低いのはともかく、本当に誰が出る? 僕の術式なら一応、戦えない事は無いんだけど」

 

「いやネシンバラ殿は本来書記であるからして、ここは分が悪いが自分が…」

 

「あぁん!? 何言ってんだよテンゾー。お前じゃ無理だって! ぜってー無理っ!」

 

「こ、この男ストレートに今自分ヘイトしたで御座るな!? そうで御座るな!?」

 

「だってあっちは“拙者・御座る”なのに、お前“自分・御座る”じゃん?」

 

「……えっと、トーリはつまり、キャラ的濃度で点蔵が負けてるって言いたいの?」

 

「おうともっ! てか今トドメさしたの湊じゃね?」

 

「うん、つい数分前の復讐をと思って」

 

「? 拙者の事が話題に出たようで御座るが、如何申した?」

 

『…………な/ね?』

 

「二人して優しげに被るの止めて貰えぬで御座るか!? しかし、悔しいことに自分あそこまで濃くないで御座るよ……!」

 

 

 お前も大概だよと周囲がざわめく中、僕は一つ思考を纏めて深く溜息を吐く。そして、告げた。

 

 

「――――じゃあ、僕が出ていい?」

 

 

 特に大きい声じゃなかったのに、一斉にこちらに視線が集まりちょっとビビる。さっきまで騒がしかったクセにこういう時だけチームワークが良いなと思いつつ、近くにいた正純が慌てたように声をかけてきた。

 

 

「いやちょっと待て! お前、特務でも役職持ちでも無いだろ!?」

 

「そうだけど、でも教導院間の相対じゃないから別に役職が無くてもこの相対には出れるし。さっきはそれで鈴さん大活躍したじゃん」

 

 

 うんうんと志を同じくするクラスメイト達が一同頷いてみせ、肝心の鈴さんは恥ずかしがるように浅間の胸に顔をうずめていた。あれ窒息しそうなぐらい窮屈だったと思うんだけど、相手が鈴さんだから手加減しているのだろうか。まぁ、相手が鈴さんなら特別扱いも当然である。むしろ何かあったら例えズドンされようがファンの一人としてズドン巫女に挑むことさえ辞さない覚悟がある。………いやそーじゃなくて。

 

 

「そういう問題じゃない! そもそもお前、戦えるのか?」

 

「大丈夫。って事にしてくれないかな?」

 

「――っ、あのなぁお前は……!」

 

「まぁまぁセージュン落ち着けって」

 

「葵!」

 

 

 正純は中等部の時からの転入だったので、僕の事を知らないのは当然と言えば当然だろう。それに相手の本多とも旧知のようでその実力の片鱗ぐらいは武に身を置いていない正純でも理解出来ている。だからこそ、出ようとする僕を止めたがっているのだろうし。

 

 言葉を重ねるよりも実際に戦って見せた方が良いと言えるだけの確固とした実力が僕にあれば良いのだが、生憎相手の動きは先の授業中に神肖筐体(モニター)で見た通り、あの速さに対応するのはぶっちゃけると無理だ。

 

 だがこちらが口を開く前に、正純を宥めたのはトーリだった。相変わらず緩い笑みを浮かべたまま、彼は何か言いたそうにしている正純に背を向け僕へと視線を落とした。そして、

 

 

「ここで勝てなきゃ俺はホライゾンを救いに行けねぇ訳なんだけど、お前的には勝てる見込みあるっぽい感じ?」

 

「んー、三割。後は根性で一割足して、残り六割は神様に負担してもらえば十割。神様なら頼りになるし、何とかなるんじゃないかな」

 

「そっか! なら、頼んだぜ?」

 

 

 相変わらず欲しい言葉をくれる人だ。こちらの不安しか煽らない言葉を聞いても、全幅の信頼を預けてくるその言葉にこちらは苦笑を返す事しか出来ない。だから、Jud. それだけを告げて前に出る。

 

 

「葵! お前……!」

 

「心配すんなってセージュン。湊がやるって言ってんだから大丈夫だ。アイツ、俺との約束破ったことねぇからな!」

 

「フフフ、私が出てあげようと思っていたけど先手を取られちゃったわね。負けたら去勢して本物の女にしてやるわあのピンクツッコミ!」

 

「姉ちゃんが引くとか……世界終わったかな」

 

「そうよ愚弟、私の一挙手一挙動で世界の命運は思いのまま! 美人すなわち世界!」

 

「言ってる場合か!? 早くアイツを止めないと……!」

 

「安心なさい貧乳政治家。アレはアンタが思ってる程柔じゃないわよ、それに見たでしょ? 天下の教皇様相手に噛み付けたのは、アイツには噛みつく牙があるから。見てれば分かるわ」

 

 

 橋上に出て眼前の青い軽鎧の少女と向かい合う。こうして改めて向かい合うと確かに隙なんて見当たらないし、あの手にあるのは神格武装『蜻蛉切』。大罪武装の先駆けとして製作された、今後僕達が戦う事になるであろう仮想敵としては極東で彼女ほど適した人物はいない。

 

 ……そう、これは言うなればデモンストレーションだ。この相手に無様に負けるようではこの先、僕は誰にも勝てやしない。ここで食らいつけずして、ホライゾンを救う事などどうして出来ようか。ましてや、ここで僕がトーリの道を、皆があがき正純が拓いたその道を閉ざす訳にはいかないのだから。

 

 

「ふむ、話を聞いていた限りでは特務では無いようだが……」

 

「Jud.でも、まぁ、それはこの際気にしないでくれると助かるかな? それに今は関係ないでしょ、僕がこうして、君の前にいる時点で」

 

「それもそうで御座るな。拙者、考える事には向いておらぬが、拙者を超えて行かねば到底これから聖連と戦う事なぞ無謀以外の何物でも無いことは理解しているつもりで御座る」

 

「…Jud.」

 

 

 女子用の制服の大きく余った袖の裏に張り付けてある位相空間に繋がる術式札を通し、閻水とは違う魔導具を取り出す。

 

 この相対戦における切り札となるそれを腰のハードポイントに直結させ、手には固定出来る最大水量で固めた閻水を展開させる。策はある、後はトーリにも言った通り六割方を運に任せて人事を尽くすのみ。

 

 

 

「――――故に、この先を通りたくば拙者と『蜻蛉切』をまずは越えてゆけ。それを成せる力があるのなら!」

 

「――――Jud.!」

 

 

 

 

 

 

 

       ●

 

 

 

 

 

 

 

 踏み込みは同時。だが圧倒的に速度で上を行く本多・二代の槍の方が先にこちらに到達するのは当然の話であり、こちらの斬り込みよりも先に突きが貫く方が速い。

 

 

 ―――分かっていたけど速いなぁもうっ。

 

 

 防御……は、間に合いそうにない。既に突きはこちらの腕の可動域を潜り抜けて迫っていて、一応こちらを気遣って穂先ではなく柄尻の方で貫く気は無いようではあるがこれ、結構痛そうである。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 そして案の定。加速を伴った突きは僕の鳩尾に綺麗に入り、大きく吹き飛んではい試合しゅーりょー。

 

 

「――――縮むとは……まさか異族かっ!」

 

「残念。そして驚いてる暇なんてあるの?」

 

 

 息を飲んだのは僕ではなく、相手でもない。多分周囲にとってかなり意外だったのだろうが、それだけ僕が一発で終わると思われていたのか。少し傷つく。

 

 槍を頭上にやり(・・・・・)過ごした(・・・・)僕は振り切った姿勢の敵にダメージは度外視、速度だけを求めた切っ先ではなく珠を固定してある柄を斬り上げの要領で振り抜く。速度重視した筈のそれはしかし、意識外の反撃であったにも関わらず顔を逸らせる事でいなしてみせた。

 

 互いに必殺を予期していた一撃を外され、蜻蛉切が大きく揮われるタイミングで閻水を打ち合わせてその勢いをそのままに後ろに飛び下がった。とりあえずさっきよりも距離を取れたし、ここからならあの速さも何とか“視”える筈だ。

 

 

「はぁ……第一関門クリア、ってか」

 

 

 この相対戦における最初の関門。

 

 相手が思っている通り、あちらと僕とじゃそもそもの地力が違い過ぎる。まっとうにぶつかれば砕けるのは十割僕であり、油断はあっても手加減は期待できない相手の初撃を躱わせるかどうかでそもそも作戦の是非どころか開始すらままならない。故に、僕は試作段階であった“ソレ”を躊躇なくこの場で使ったのだ。

 

 その結果、僕は一先ずの賭けに僕は勝てたという訳だ。こうして今立っていられる事と、直に肌で相手の速度と使われている術式を見れた事。危なかった分、この買い物の成果はデカい。

 

 

「……拙者、そう長く人生を歩んできてはおらぬがよもや完璧な人型を持つ異族がいるとは」

 

「君がそう思うんなら、そうなんだろうね。君 の 中 で は」

 

「―――むっ」

 

 

 誰が教えてやるものか。そのまま出来るだけ彼女には集中させずに、ワザと煽るような言葉を選んでまだまだ余裕だぞと伝えるように大仰な身振り手振りも加えて言い放てば、分かり易く相手の眉間に皺が寄った。あの神肖筐体の映像を見た時から思っていたけど、この人は侍としての自分を確立させている。要するに、まっすぐなのだ。

 

 

 ……そしてその真っ直ぐさにこそ、僕がツケ入る隙がある。悪い気がしなくもないけど、全力を尽くすのにどうして搦め手を使わない手があろうか。

 

 

俺:『オイオイ今の見たか!? 湊の奴、ついにデフォルメを覚えやがったぞ……!』

金マル:『ソーチョー結構細かく見えてたんだねー。そしてナイちゃん思うについにミナちんがマスコット戦線に乗り出してきちゃった感じかな』

粘着王:『なんと!? ついに我輩の枠を脅かす好敵手(ライバル)の登場という訳だな……!?』

十ZO:『いやいや、ネンジ殿と湊殿では方向性が違い過ぎるで御座るよ』

貧従士:『あー、さっきの姿なら確かに後輩のファンクラブが放っておきませんよねー。何やら放送部の方が慌しくしてますし』

ウキー:『今聞こえてきた事を載せると、“湊先輩え何あれ可愛いってかもう何なのどれだけ私を萌やせば気がすむの正直血が足りなくなりそうでもシリアルナンバー一桁台として意地でもさっき撮った写真だけは現像してやる”だそうだ。年下にモテているなど羨ましくも欠片も無いがな』

俺:『ウッキー姉属性派だもんな』

賢姉様:『ついに本性を出したわねあの桃色チート小僧娘! きっとさっきのミニマム湊つまり“ミニなと”がアレの本性よー!』

あさま:『いや湊君人間の筈ですから……それにさっき流体反応がありましたし、恐らく術式だと思いますけど……』

煙草女:『どの道またネタが増えたさね。可哀想に……』

 

 

 

 ――――――人が真面目になってるちゅーに、何故か嫌な予感が止まらない。どうしよ。

 

 

「……? 顔色が優れないようで御座るが、大丈夫で御座るか?」

 

「…………えっ、今僕心配された?」

 

「うむ。それがどうかしたので御座るか?」

 

「――――ちょっと、そういうのに慣れてなかったから反応の取り方忘れちゃって」

 

「そうで御座ったか。愛らしい容姿をしているようで御座るが、存外不憫な暮らしをしていたので御座るな……」

 

 

 そしてもひとつどうしよう。あの人からの同情が凄く痛い。今すぐ帰って枕を涙で濡らしたくなる感情に駆られるが、今はそれどころじゃない。全部終わったら泣きに泣いてやるとして、再び閻水を構え相手もそれに応じるように蜻蛉切を下段に構えた。同情は嬉しかったけど、搦め手を使う気満々な側としては非常にやりにくくなってしまった。

 

 

 しかしここは心を鬼……いや梅組クラスメイトが大半そうであるように外道に徹してやらねば。級友が外道であると認めた時点で、ほんの少し戦意が削がれた事実には目を逸らす事にした。

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