境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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馬鹿と見《まみ》える女装少年

 

 

 

 

 

 トーリと一緒に品川に向かっていると、丁度目的地の方から激しい音が聞こえてきた。

 

 

 

 

「…また先生ハッスルしてるのかな、あれ」

 

「んもうっ先生ったら相変わらずのゴっリラー」

 

「それ本人の前で言ったらブッ殺されないかな?」

 

「んー? 大丈夫じゃね? でもさ俺、前々から気になってたんだけどあの先生の事だからオッパイもきっとガッチガチの大胸筋だと思うんだ。どう思う?」

 

「もういっぺん触って確認して、その後ぶっ飛ばされてよトーリ。お願いだから」

 

 

 

 本当にどうでもいいことを気にしているというか、それまかり間違わなくて死亡フラグだと思う。それをおススメする僕も僕だけど、この人は本当に反省したらいいと思う。

 

 

 ―――まぁここで反省するぐらいならそもそも武蔵総長になんてなれないんだろうけどさ。

 

 

 

「結構デカめだとは思うんだけど、やっぱ確かめるには一度揉んでみねぇと分かんねぇか……」

 

「それやって生き残れる自信、ある?」

 

 

 ちなみに僕は無い。あの人間の皮を被った超人類に本気でどつかれたら、人なら軽くけし飛ぶだろう………五発ぐらいで。

 

 

 しかし僕がそう言ってもこの人が止まるとは思えないので、神奏している神様に祈っておこう。いまいち素上のしれない神様らしいんだけど、その分今度舞うからこんなくだらない事で死亡フラグが成立しませんよーに。……おっしゃお祈り終了。

 

 

 丁度それが終わったのと同じくして先生が魔神族を先生がシバキ倒している姿が見え、その場所には梅組の級友たちが次々と集まっているようだった。一体何の授業やっていたのだろうか。

 

 

 

「どうする? このまま合流する?」

 

「いや、どうせだしタイミング読んで行こうぜ。皆を驚かせる感じでさ!」

 

「それはいいけど……どうせなら何かやる?」

 

「ノリノリだな湊! ならそうだな……全裸の俺にオメエが襲い掛かって『そこは逆だろ!』ってツッコミをもらうのは」

 

「それは僕が死んでも断るかんね?」

 

 

 

 冗談でも言って良い事と悪い事があるだろと、裾から数センチ程の刃しか持たない剣の柄を取り出して見せる。

 

 馬鹿はそれをくねくねした動きで「冗談じゃんかよ~」と言いながら距離を確実に取っていた。何気に僕の本気を察知したらしい。動物的直感はそれなりに優れているのかな? まぁいいけど。

 

 

 

「じゃあやっぱ王道でオメエが全―――」

 

「――――――『閻水』」

 

 

 

 僕は躊躇することなく柄に仕込まれた術式を発動させた。

 

 元は灌漑の土地への引き水を行うある神様の権能の再現術式を、簡易的かつ限定的に展開させる事でただ一つだけの能力に特化した術式が組み込まれた一応は“術式補助具”として認可を受けているものだ。武蔵の抱える事情により『武装』扱いしてはいけないのが痛いけど、それはこの際置いといて。

 

 

 この閻水の能力はズバリ“水操作”。位相空間ありったけに保管してある禊祓を済ませた水を柄の先端に集約させて、剣を形作る。

 

 本来はそのまま武器として扱うが、今回はあくまで武器ではなく“ツッコミ”を目的としているため形成するのは剣ではなく―――――――金棒だ。

 

 

 

「君はぁ………いっぺん頭、冷やしてぶっ飛べぇえええええええ!」

 

 

 

 大きく振りかぶって、全身の捻りと筋力、遠心力を利用した最大膂力でのスイングは違う事無くトーリ君が所有している玉……うんまぁ、自分でも痛そうだとは思うけどここでの妥協は彼の反省を促せない。つっても三十分が十分になるかどうかの差でしか無いけれど。

 

 放物線を描きながら大きく飛んでいく彼の溜飲を下げながら、僕は地面に置いた紙袋を再び抱えて級友たちが集まっている場所へと足を進めた。

 

 

 ちょっと聞こえた爆音やら悲鳴には、いつも通りスルーしながら。ここ武蔵で総長の奇行にいちいち驚いていたら生きていけない、そんな世界なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「――――死亡フラグゲットォォォ――――!!」

 

 

「(あぁ、また馬鹿が空を飛んでいる……)」

 

 

 

 ゆっくり歩いていたのでいまいち事態は飲み込めないけど、遠目から見たままを言うとトーリが先生の胸を揉んで思いっきりぶっ飛ばされていた。うん、やらかしやがったのかあの人は。

 

 

 シャッターに体を埋め込んでグッタリしているけど、僕に殴られた時といい今のといい、怪我らしい怪我は見当たらない。

 

 それは彼が日常的に発動している『ボケ術式』の恩恵であり、あらゆる出来事を“ボケ”と“ツッコミ”として認識させる事で、ツッコミのダメージをゼロにするのだ。

 

 要するに、強制コント術式。なので、術者には常にツッコミ待ちのボケ体勢を要求されるため使っているのはトーリぐらいなものだ。あの人、命懸けで芸やってるからなぁ、最早生き様である。

 

 

 

「(一応凄い事の筈なのに、全然そう思えないのは何でだろう……)」

 

 

 

 それはきっと、彼が『葵・トーリ』だからであろう。既に答えの出つくしている問いを今更浮かべる僕も僕だけど、そろそろ行かないと出席が貰えないかもしれないので声をかけないと。胸を揉まれてたから先生怒ってなきゃいいんだけど……。

 

 

 

「すいませーん、ちょっと代演の舞してたら遅れまし……って、なんじゃこれ?」

 

 

 

 近づいていくとふと『カツン』と、足下に何かがぶつかった音がしててっきり袋からお菓子が零れたかとも思ったけどそうじゃない。

 

 よく見ればそれは伝纂器(PC)ソフトのパッケージで、僕が昨日徹夜したノベルゲームの物と同じサイズだったためすぐにそうだと分かった。

 

 

 表にはR元服と大々的に表示されていて、少女の絵柄の下には『ぬるはちっ』とタイトルが。

 

 

 

「あっ、湊君おはようございま………おおおおっ!?」

 

「あ、うん、お早う浅間。でもその反応は何……ってこれかっ!?」

 

 

 思わず当たり前のように見てしまったけど、これ要するにエロゲじゃん!? うわ何のてらいも無く触って見たぞ僕!?

 

 

 だけどそれに驚いたのは僕以上に、今こちらに声をかけた浅間を始めとした僕を見つけたクラスメイトの方だった。

 

 

「み、み、湊殿? まさか、ついに湊殿までこちら側へ……?」

 

「Jud.なんて言わないからね!? 違うから、これは今偶々足下に落ちてたものを拾っただけであって!」

 

「言い訳はいい。ようやく、お前も大人の階段へと一歩を踏み出したのだ。級友として歓迎してやろう。具体的には拙僧が好む姉ジャンルについて語って……」

 

「だから違うつってんでしょ!? 話聞いてくんない!?」

 

 

 

 帽子と襟布で顔を隠した忍者装束の点蔵と、航空系半竜のウルキアガが妙に嬉しそうに同志を見るような目をこちらに向けてくるが、違うのだ。僕はエロゲを嗜んでなんかいない! 春画ぐらいは通神帯で見たりするけれど! 偶に体験版とかに心惹かれたりしてるけれどもっ!

 

 

 男勢は何やら浮足立って喜んでいて意味が分からない。そして意味が分からないと言えばもう一つ。

 

 

 

「嘘ですよね? これって確か昨日トーリ君が買おうって言ってた物ですし、パシらされたんですよね? 湊君の代演でそういうのありますし」

 

「確かにあるけど浅間どうした!? 僕何もしてないのに何で弓矢向けられてんの!? ズドンされるの僕!?」

 

「熱は……無いみたいさね。となれば、新種の病気か……」

 

「直政! そこまでおかしいか! 僕がR元服物に触れる事が病気かと思うほどにっ!」

 

 

 

 ……女子勢のこの混乱は何なんだ。僕がエロゲ一つ持っただけで皆おかしいだろ。そんなに意外か。僕のがむしろびっくりだ。

 

 

 この混乱をどうやって宥めようか考えていると、シャッターにめり込んでいたトーリがこちらにやってきた。この面倒な時に面倒な男がきよったで……!

 

 

 

「悪ぃ悪ぃ湊。それさっき俺が先生にぶっ飛ばされた時に落としたんだよ、拾ってくれてサンキューな。これでもし踏み潰されてダメになってたらプレイ前に泣きゲー状態になるとこだったぜ」

 

「それはいいからこの状況を何とかしてくんない!? 僕がこれ拾っただけで皆が!」

 

「そりゃオメエ、こうすれば手っ取り早いだろ?」

 

「は? ちょっ、何をし―――――」

 

 

 

 馬鹿はこちらの声も聞かず、「おーい皆ー、こっち注ぅー目ー!」などとぬかしながら騒ぐ級友たちの視線を集め、

 

 

 

「んじゃ視線も集まったところでぇ……はい御開帳―――――!」

 

 

 

 ………僕の制服の裾を一気にずり下げた。

 

 

 

「……………………ぇあ、あ、あぁぁあああああっ!?」

 

 

 

 武蔵の制服は大きな裾や袖が特徴的なもので、特に女子の制服は袖の余り具合が凄い。女装しているから着てみて初めて分かった事だけど、ブカブカ加減を常に感じるのって結構違和感があるもので慣れるまでに時間がかかった。

 

 しかし、僕のはあくまでも術式のための代演であるため通常の物とは違い多少造りが簡易的に、もっと言うと手抜きで作られている。

 

 それは造りそのものがこういった服装に着慣れていない僕のために簡略化されていて、着るのに苦労しないようになっている。

 

 

 

 でもそれは反対に言うなれば、脱ぐのも(・・・・)簡略化されて(・・・・・・)いる(・・)という事に他ならない。

 

 

 

 それは例えば、背中側の裾を引っ張られると上着部分が一気にずり落ちてしまい、アンダーウェアがまる見えになってしまう事などが挙げられる。

 

 

 そしてそれは今まさに、僕はクラス全員の視線に晒されながら、女物のアンダーウェア、つまり下着をガン見されていた。

 

 

 そりゃ吠えるってものである。あまりの恥ずかしさに顔に血液が集まっているのを確かに自覚しながら僕はその場に蹲ってしまった。本当に下着を見られた女子のように。

 

 

 そこまでして自分の仕出かした行動を漸く振り返り、あまりの女子っぷりに余計に恥ずかしさが増して顔が上げられない。おのれ、おのれトーリめぇ……!

 

 

 

「………何で御座ろう。自分、今『うはっラッキー!』と思ってしまった事が、泣きたくなる程悔しいで御座るよ……!」

 

「くそぉ……! 拙僧は姉萌えだった筈ッ! それが、それが何故今眼福などと思ってしまったのぁぁ……!」

 

 

 

 よしあの二人はガン見決定。後でシバキ倒す。

 

 

 

「あー、あの下着って確か最新デザインのでしたっけー? よ、よく似合ってましたから全然気にしなくても大丈夫ですからね!? ね!?」

 

「智! 智! それトドメになってますわよー!?」

 

「―――――え?」

 

『“え?” じゃねえよ!』

 

 

 

 しかも何気に下着のデザインまで具に見られてるし……単純に着心地で選んだだけなのに余計に女装癖が根付いたと思われたらどうしてくれる。今更な気がしなくもないけど、気にはするのだ。

 

 

 もう穴があったら入りたい。無くても武蔵の底を貫いてでも穴掘って今すぐ埋まって死にたい。

 

 

 人がめたぼろに打ちのめされたというのに、そこに追い打ちをかけるのが二人。

 

 

 

「まぁ気にすんなよ湊。今のでお前がエロゲを拾ったって事実はみーんな忘れてっからさ!」

 

「…トーリ」

 

「ウフフ、この女男乙女。相変わらずの肌ツヤといいキューてくるといいチートっぷりじゃないの素敵! いい加減にその肌や髪の維持の秘訣を教えなさい! さもなくば愚弟のエロゲを全部アンタの家に送りつけて死ぬわよ!?」

 

「……喜美、それだと僕か喜美かどっちが死ぬのか分かんないんだけど」

 

「フフフ乙女男。その格好でもツッコミを忘れないのね!」

 

「やかましいっ!?」

 

 

 

 元凶の馬鹿とその姉の狂人。この二人はまさに、僕にとっての鬼門であるのと同時に天敵でもある。

 

 

 

 ………それなのに幼馴染で付き合いもそれなりで、僕の人生をどこまでもネタにしてくれやがった人間だ。

 

 

 

 このどうしようもない気持ちを、僕は一体誰にぶつければいいのだろう。

 

 

 とりあえず、先生が教導院に戻るように指示してくれたお陰でその場は解散になったけど、僕の鬱憤は晴れぬまま。

 

 

 しばらくその場で蹲っていると、僕を覆い隠すように影が浮かび上がり何とはなしに顔を上げてみれば、先生がシバキ倒したであろう鬼人族のやくざが、

 

 

 

「畜生あのクソアマ……今度あったらゼッテェぶちのめしてやるところだが、こんなところにこんな上玉置いてくたぁちったぁ分かってんじゃねぇかよ、なぁオイ」

 

「――――――――――あ゛ァ?」

 

 

 

 今こんなにもフラストレーション溜まりまくりな僕に声をかけてきたという事は、お前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ―――――――命、いらないんだな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 ……一方その頃の級友たちは、

 

 

「そういえば愚弟。あの場に乙女男を残したままで良かったの? まだ告白の事言ってないんでしょ?」

 

「あ、いっけね忘れてた」

 

「でも大丈夫でしょうか湊君。まだあの場には組の人が倒れたままでしたし、そろそろ起きる頃合いじゃないですか?」

 

「Jud.それもそうで御座るが、あの湊殿を見る限り多分心配無いかと」

 

「そうそう! つか湊がどうにかされてる姿なんて想像つかねーしな! 点蔵よりつえーしアイツ」

 

「そ、そこで自分を比較対象にする必要は無いで御座るよ!? 自分ディスりに念が入っておらぬかトーリ殿は!」

 

「ですが、心配です……………あの組の人、湊君を女子と勘違いして慰み者にしようとしていたら」

 

「―――――――血の雨が降るで御座るな、確実に」

 

「そこでまず相手の心配が出る辺りに信頼が見えなくも無い気がしますけど、そんな相手をいいように翻弄出来る総長といい喜美といい、もう少し加減というものを」

 

「フフフミトツダイラ、あの乙女男はそこの駄目忍者以上に弄られて輝くキャラだからいいのよ。そう、つまりはドMよドM! アンタも今度その自慢の鎖でふんじばってやるといいわ!」

 

「ちょぉっ!? それは聞き捨てならぬで御座るよ喜美殿!? ………って、いや別にここ自分が怒る場面でも無いような……?」

 

「銀鎖はそんな事をするためにあるんじゃないですわよ!? って銀鎖も何やりたそうに震えているんですの! メッ、ですわよ!」

 

「………分かっていたで御座るが、自分へのフォローは無いので御座るな。あぁ、こんな時に湊殿がいれば……!」

 

 

 相も変わらない外道な会話を繰り広げていた。誰も、半裸で置いてかれた級友を心配などしていない辺り、これを信頼と取るのか放置と取るのか、外部の人間はきっと困惑するだろう。至極どうでもいい事であるが。

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