境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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後悔通りと女装少年の想い

 

 

 

 

 

 

 

「俺――――――大丈夫だった!」

 

「全然大丈夫じゃありませんわよこの馬鹿あ―――――――!」

 

 

 

 

 

 狼の咆哮が、張り手と共に馬鹿を吹き飛ばした。

 

 

 馬鹿はそのまま橋の欄干にぶつかるも、欄干はその衝撃に耐え切れず、破砕音を撒き散らしながら馬鹿は余力で校庭の方まで飛んでいった。ナイスショット。

 

 

 

「本当にっ、本当に昔っから馬鹿ですわね! 全く!」

 

 

 

 そんな被害者の怒り心頭な声に誰もが『そりゃそうだ』と頷きながら、とりあえず僕は壊れた欄干の破片を集める作業に戻った。

 

 

 事の次第を話すのは色々と精神的に来るので三行でまとめるとこうなる。

 

 

・一つ、どういう話題だったのか、馬鹿が“巨乳じゃなくても大丈夫なのか?”という疑問にぶつかった。

 

・二つ、馬鹿の姉の狂人が言うに、“確かめたいなら触ってみればいいじゃない! オンリーモミング!”などという戯けた事を言った。

 

・三つ、馬鹿はそれを見事に遂行し、対象と同程度らしいサイズの銀狼の胸をまさぐりぶっ飛ばされた。

 

 

 以上だ。どうでもいいけど、四行になったがまぁこれぐらい許容範囲だろう。

 

 

 事のあらましをログに記載しつつ、回収した破片を一か所に集めてゴミ袋に放り込み砕けた部分の欄干の修繕に必要な材料のサイズを図る。

 

 

「(まぁ継ぎ足しみたいになっちゃうけど、しょうがないか。後で材料貰いに行くとして、近づかないように立て書きでも置いとこうか)」

 

 

 『危険近寄るべからず。馬鹿が伝染るよ?』……っと、これで誰も近寄らないだろう。だいぶ酷い事を書いた気がしなくもないけど、壊れた衝撃で周辺の橋の木まで痛んでいたら洒落にならない。こういうところぐらい、トーリには役に立ってもらわないと。

 

 

 ……まぁ総長兼生徒会長に対する扱いじゃないわなー。武蔵(うち)じゃデフォルトなんだけど。

 

 

 他国なら打ち首獄門ぐらいは覚悟しなければならないような事を平然とのたまいつつ、表示枠を開いて材木の発注許可が下りた事を確認する。さてと、さっさと取りに行こうかね。

 

 

 

「あっ! みなちゃんその発注やら何やら全ての取引は勿論―――――」

 

「Jud.ちゃんと○べ屋経由の表示枠(サインフレーム)で開いてるから大丈夫だよハイディ。というか、こんな細かい事でも動くんだね、やっぱり」

 

「当然だ。武蔵の金が流れる全てに私が介入しないでどうする。武蔵(ここ)の金は全て私が支配しているからな!」

 

「堂々と言ってのける台詞じゃないよね、それなりに格好良いから余計に」

 

 

 

 途中、武蔵の会計を務めるシロジロとその相方ハイディに念を押されるが流石に付き合いも長いため、対応に隙は無い。こと守銭奴であるこの二人にも外国の技術書だったりを武蔵に流入させてもらった時にお世話になったし。無論、その分高くついたのは言うまでも無いだろう。

 

 

 

「あん? 湊、アンタも買い物さね?」

 

「Jud.正確には橋の欄干の材料を取りに行くんだけどね。今日の夜に肝試しみたいな事するんでしょ? ならこういうところはさっさと直しておかないとさ」

 

「アンタも真面目というか、つくづく同じ武蔵の住人とは思えない思考さね……」

 

「しみじみ言わないでくれないか? つか幼馴染に酷いないつもの事とはいえ!」

 

「まぁまぁ。じゃあ途中まで一緒ですし、私達と行きませんか? 明日の打ち上げに備えての買い出しをしなくちゃいけないので」

 

「それぐらいお安いご用。荷物持ちでいいんだよね?」

 

「…………素でそういう台詞が出る人って、本当にいるものなんですねー。点蔵君とはまた違った意味で」

 

「アサマチ、アンタが一番失礼さね」

 

「あぁっ!? 僕のツッコミがぁ!?」

 

 

 

 トーリの告白を祝してというか、それを言い訳にして今日はドンチャン騒ぐ予定らしい。先にネシンバラから夜の事を聞いていたので、今のうちにこういった破損個所は直しておくに限る。

 

 

 丁度いいタイミングで直政と浅間、そして武蔵の前髪枠もとい、梅組のストッパー兼アクセルの鈴さんとアデーレと一緒に買い出しに出かける事になった。

 

 

 

「湊君は、真面目、だ、もん、ね」

 

「んー、そういう訳じゃないんだけどね。たんにこういうのが向いてるってだけだし、機関部の人とかに任せるような事でも無いしね」

 

「湊さんって大概の事こなせますよね? 何か出来ない事とかないんですか?」

 

「それ聞いてどうすんのさ。でも、出来ない事の方が多いよ? 純粋な体力なら点蔵やアデーレにも及ばないし、芸も中途半端な舞しか出来ないし。ぶっちゃけ神奏してる神様ぐらいだよ、僕の舞認めてるの」

 

 

 

 少なくとも外部の人間に見せる事は勿論、知り合いにも見せては駄目なレベルだと浅間から強く言われている。だからこそ、毎朝の奉納の舞は自宅で行っているのだ。そのため、場を整える術式符を毎月購入しなくちゃならないものでもう出費が嵩む嵩む。もうちょい安くして欲しいが、あの浅間が譲ってくれるとは思えない。神道がっでむ。

 

 

 

「純粋な戦闘系スキル保持者や芸人と比べるのもおかしいと思いますけど……」

 

「まぁ、アデーレは従士としての訓練も受けてるし点蔵は特務だしねぇ。一般生徒が張り合うところじゃないってのは理解してるつもりだよ」

 

 

 目指すは多摩の表層部右舷側商店街。字面だけ見ると、なんともシュールな気がするのは未だに航空都市という世界に馴染めていないからだろうか。まぁ、いつも新鮮だと思えるのは創作者としては良い事だよね。多分。

 

 

 

 ……そして創作者故に金は常に大量消費。僕の生活費は、常にギリギリなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ふぃー、こんなところかな?」

 

 

 

 

 途中まで浅間達の買い物を手伝い、僕は僕で橋の修繕の為に途中で別れて現在一人、欄干の修理及び衝撃で傷んでそうな部分の補修を行っている。

 

 

 僕達が通っている“武蔵アリアダスト教導院”は基本的に木造建築、というか武蔵自体その航空都市艦という機械的な印象を持つ呼び名とは裏腹に、その上にある建物のほとんどが木造だったりする。

 

 

 金属が使われていない訳じゃないけど、あくまでもここは地面の上に立地している訳じゃないので木造の方が都合がいい事が多い。

 

 

 例えば、崩れても地面である都市艦の装甲に特別被害を及ぼさないとか、材料が安上がりだとか。

 

 

 まぁ火が燃えやすいというデメリットはあるけれど、ここは武蔵神道の国。そういった自然災害において禊祓の術式がちゃんと浅間神社で用意されているため、問題ナッシン。

 

 

 故に、僕一人の出費で橋の修繕なんて賄える訳なのだ

 

 

 

 ――――ただ一つ、今回の難点を挙げるとするなら、今日に限って材料である木材の価格が普段より若干高めであった事ぐらいだ。

 

 

 

「(シロジロが言うには今寄港している三河から物資の搬入は来ていてもあっちに送りつける分が一切無かったって話だし……うーん?)」

 

 

 

 こちらは金を払って物資を受け取ったは良いけど、三河の方は特に受け取る物も無く一方的にこちらが金を支払う形で終わったと常の無表情でぼやいていたクラスメイトの守銭奴の顔を思い出す。

 

 

 だからってクラスメイトの寒い懐から態々毟り取るあの根性はどうかと思うけど、まぁいつもの事だ。気にしていたら日が暮れる。そうそう、日が暮れると言えばもう一つあったんだっけ。

 

 

 

 修繕を終えて一息吐く中、僕は橋の頂点部分から下方にある通りに視線を投げた。

 

 

 見晴らしの良いここからだとよく見える。僕が買い物に行って帰ってきた時も、こうして修繕を終えた今でも、その通りの入り口にはあの馬鹿、トーリがいた。

 

 

 

「(……やっぱりまだ、近づけないのかな)」

 

 

 

 真剣に悩んでいたかと思えばいきなりその場でくねくねしだしたり、反復横跳びをしたかと思ったら横の茂みに飛び込んで棘でも刺さったのか凄い勢いで飛び出し、そのままの勢いで街灯に飛び付くと今度はポールダンスを始めた。何と言うか、

 

 

 

「……あの一人ファンタジスタは一人でもあんな調子なんだねぇ」

 

 

 

 いっそ尊敬………は、流石にしない。つか、通れないのは知ってるけど退くなり進むなりさっさとしろともどかしく思う。

 

 

 でも特に何かを言ったりは、しない。

 

 

 何故なら、僕のいる部分から見える橋を下る階段のところに、そんなトーリを見ている姉の姿を捉えていたから。

 

 

 あの馬鹿で、馬鹿のクセに変に周囲の様子の機微に聡い狂人はきっと、優しげな目をして馬鹿を見ているのだろう。あの通りを、“後悔通り”を前に苦悩しているであろう弟を。

 

 

 

「(……“後悔通り”。ホライゾンが、死んだ場所――――――か)」

 

 

 

 その場所の名前が付けられたのは、丁度その時だった。

 

 

 ホライゾンが道行く馬車に轢かれ、トーリはそれを助けようとして大怪我をした。

 

 

 二人はその後武蔵の外に連れていかれ、帰ってきたのはトーリだけ。しかもその当時のトーリはまるで人形のように何の反応もせず、そこにいる筈なのにいないかのような死んだ表情しか浮かべないようになってしまっていた。

 

 

 

 ……あの時の事は、嫌でも僕も覚えている。あの時、トーリから逃げていたホライゾンも、ホライゾンを追い掛けていたトーリも、僕は丁度あの通りで見かけたから。

 

 

 

 いつもの喧嘩だと思った。ホライゾンは周りによく気を使って遊びでも故意に手を抜いたり、盲目の鈴さんのために最初に彼女に声をかけて、話す時は手を持つならワンクッション置いてからコミュニケーションをとる方法を始めたのも彼女だった。

 

 

 でもそんな彼女は唯一、トーリにだけはセメントな発言を連発していて、それを見てきっとホライゾンにとってトーリとはつまり、そんな態度を出しても良いと思える相手なのだと思っていた。

 

 

 だから、その時逃げていたホライゾンを見ても、精々トーリがまた何か馬鹿をしてしまったのだろうぐらいにしか思わなくて、僕は何事も無かったように“頑張って”なんて、暢気に声をかける事しかしなかった。

 

 

 ―――――その直後に、あの事件が起きた。

 

 

 当時クラスメイトの中で、あの現場を見たのは僕だけだったという。

 

 

 この目に今も焼き付いて離れない。地面に水溜りのように広がる紅い液体が二人を濡らしていた光景。肉が潰れ骨がむき出しになって、子供ながらにそれは『死』を思うのに難しい光景じゃなかった。

 

 

 

「――――――――ッ」

 

 

 

 あの時を思い出すと、今でも自己嫌悪が止まないでいる。

 

 

 無論、僕が何か出来たとは思わないし、僕が憤る事が単なる自己満足だと分かっている。理解している。何度も何度もそう言い聞かせ、自分が怒りを感じる事が場違い極まりないと何度も考えた。

 

 

 ……けれど、消えないのだ。

 

 

 後悔が。きっと誰よりも後悔しているであろう、あの“後悔通り”の主にも及ばない立ち位置にいるクセに、あの現場を見てしまった者として僕の中には木屑にも満たないようなささくれのような小さな棘が刺さったまま。

 

 

 何か、何か出来たんじゃないのか。あそこでホライゾンを呼びとめる事も、トーリより足の速い僕が一緒に追いかけて馬車に轢かれる前に動く事も。

 

 

 過去の選択肢を選ばなかった時点でそれを考える意味は無い。それを分かっているつもりでも、僕はやっぱり何も出来なかった自分が許せなかった。

 

 

 

「――――――頑張れ、頑張れ」

 

 

 

 ……でも、それはどこまで行っても自己満足だ。

 

 

 

 あの死を、ホライゾンの死を一番に受け止め、それでも尚進まなければならないのはトーリで無ければならない。

 

 

 今回の告白はきっと、あの馬鹿にとってその過去にケジメをつけるためのものなのだろう。だから、僕は応援する事しかしないし、きっと周りだって何だかんだと言いながら幸せな結末を望んでいるのだろう。

 

 

 そこに僕のちっぽけな自己満足を介入させるつもりなんて無い。僕は僕で、既にこの問題と向き合い既に己の道を定めている。

 

 

 

「(トーリが一歩先を行くなら、僕だってそうしてやるだけだ。もう、決めたんだから―――――)」

 

 

 

 そのための魔導具で、そのための“今”がある。

 

 

 それを自分で無為な物にしないためにも、今日の肝試しは目いっぱい、楽しむとしよう。

 

 

 いつもと変わらない『明日』を迎えるために。ちょっと違っても、それで僕達が変わる訳じゃないのだ。ただほんの少し、いつもに色が加わるだけの事。

 

 

 

 でもそれは素晴らしい事の筈だ。きっと――――――――皆も、同じ事を望んでいると信じている。

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