境界線上のホライゾン~火影を継ぐ少年   作:イイ日旅立ち

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女装少年の後悔と現状《きき》

 

 

 

 

 

 

 

 

「………僕は、屑だぁぁぁ」

 

「湊殿今日は何時にも増してネガきっついで御座るな」

 

「気持ちは分からなくないが、見てるこっちまで滅入って敵わん。いい加減、立ち直ったらどうだ。さもなくばまた同人ネタにされるオチだぞ?」

 

「でもぉぉぉ、僕、僕はまた何にも……」

 

 

 

 朝から死ぬほど気が滅入る。というのも、まぁ色々とあったのだ。昨日(・・)

 

 

 そう『昨日』。僕はあの時、東の後にいた幽…半透明の女の子を見て気絶して、次に起きたのは今朝の数時間前。

 

 

 家に運んでくれた点蔵から昨日に起こった出来事の顛末を聞いて、僕は自分のどうしようもない間抜けさにこの上ないやるせなさを感じていた。

 

 

 昨日、三河が“消失”したと最初聞いた時、僕は点蔵がついにおかしくなったのかと心配したがそうじゃなかった。

 

 

 僕が気絶したあの後、三河は言葉通り綺麗さっぱり何もかもが消失した。

 

 

 城も、町も、何もかも。新名古屋城に備わっていた地脈炉の暴走により、三河という土地は地図の上から消えた。今し方武蔵から見えた三河は地形が変わり流体の影響により人の住めるような状況ではなかった。恐らく、人がまた住めるようになるまでに僕の残りの人生程度では足りないだろう。

 

 

 しかも、それが事故では無く故意だったのだ。他でも無い、三河の領主である“松平・元信”の命令によって。

 

 

 ………ホライゾンの、実の父親だ。

 

 

 そして彼、元信公は地脈炉が暴走する直前、共通通神帯を用いてある『授業』を行ったという。

 

 

 授業の題目は『末世の解決法』。元信公は末世という世界規模の危機をエンターテイメント、つまり楽しむものとして捉えていた。

 

 

 危機を目前にすれば人は否応にも選択を迫られる。解決も諦観も、全ては人間が決める事だ。その選択をしなければならない危機とはつまり、元信公が公言していた“考える”という事を誰もが実践できるということ。

 

 

 彼はその危機を世界規模の問題、末世という誰もが直面している問題として世界中に提示してみせたのだ。

 

 

 彼は言ったという。末世が世界の卒業だと言うならば、世界という名の教室にいる生徒は一体、卒業までの間に何をすればいいのか?

 

 

 終わりが決まっているのなら、残された貴重な時間を無為に過ごす事は無い。終わらせたくないのなら、生徒は末世という卒業を覆してさらなる上を目指さなければならない。

 

 

 別に立ち向かわなくたっていい。そこで諦める人間は、“自分は怯えられる人間”であると認識できる。それでさえ、決して無駄ではないと、消える三河の地で彼の人はのたまったという。

 

 

 だが彼は自分を仮にも「先生」と言う変わり者だ。だから、末世という問題に取り組む生徒には、ちゃんとした“ご褒美”を与える。

 

 

 

 ――――――『大罪武装(ロイズモイ・オプロ)』。

 

 

 

 これを全部集めた者は、末世を左右できる力を手に入れる。そう、大罪武装を作るように命じた三河の君主は言ってのけた。

 

 

 暴食(ガストリマルジア)淫蕩(ポルネイア)強欲(フィラルジア)悲嘆(リピ)憤怒(オルジイ)嫌気(アーケディア)虚栄(ケノドクシア)驕り(ハイペリフアニア)。人が持つとされる八つの想念。

 

 

 それら人が持つとされる原罪をモチーフとして造られた大罪武装。だが、その考えにも“原盤”が存在し――――――実は九大罪だとしたら?

 

 

 それは“嫉妬(フトーノス)”。一般的には新参の大罪のイメージを持たれているそれは、実は八つの想念を論じたエウアグリオス本人が書簡にて、九つ目の悪について述べていたのだ。それが、“嫉妬”。

 

 

 だが何故エウアグリオスは“嫉妬”を八つの想念の中に加えなかったのか。それでいて、何故大罪の一つとして数えたのか。

 

 

 大罪にはそれぞれ神世の時代の魔獣が割り当てられており、“嫉妬”に当てられた魔獣の名を――――“全竜(リヴァイアサン)”といった。

 

 

 “全竜”とは全ての化け物の様相を持つとされる最大の魔獣。それはすなわち、“嫉妬”こそが全ての大罪を纏めた最大の悪徳であるという事。

 

 

 八つの想念も全ては何かを嫉み、何かになりたいという行きすぎた願いの結果でしかない。だからこそ、その大きすぎる大罪を露わにする事を恐れたエウアグリオスは“嫉妬”を八つの想念の中に加えなかったのだ。八つ全ての源泉とも言える、最悪の大罪を。

 

 

 ここまでを点蔵から聞き及んで、歴史学などからも絡めて分かり易く説明を受けた僕はどうしても気になる事があった。

 

 

 元信公は言ったのだ。“大罪武装を全て”と。それはつまり、数えられなかった九つ目の大罪に対応した大罪武装が存在するという事ではないのか?

 

 

 その質問の答えを聞いた時、僕は気絶していた事を心の底から後悔した。自分のあまりに不甲斐なさに、点蔵とウルキアガが近くにいなければ問答無用で自分の体を掻き毟る程に後悔した。

 

 

 ――――かねてよりあったある噂。人の感情を基に造られた大罪武装は、人が材料になっているのではないか?

 

 

 その噂は元信公自らが通神帯で認めた。

 

 

 大罪武装は人の感情を部品に動いており、その材料となった人間の名前は――――――ホライゾン・アリアダスト。

 

 

 ……どうしてこの話が行われていたその時に、僕はトーリの傍らに居られなかったのだろう。だって、それは、その言葉はあまりに彼の心を抉るのに十分過ぎる威力を持っていた筈なのに―――――。

 

 

 そして元信公は最後にちゃんと、最後の大罪武装“焦がれの全域(オロス・フトーノス)”の在り処を遺してくれていた。

 

 

 

『今、“焦がれの全域”は自動人形「P-01s」という名を与えられ、武蔵の上で生活している』

 

 

 

 彼女こそが“焦がれの全域”そのものであると、彼は言った。そしてその自動人形は、本来であれば今日トーリが告白する筈だった者の名前だ。何てことはない、トーリが言っていた通り、彼は最初からホライゾンに告白するつもりで決意していたのだ。

 

 

 だから、その話を聞いたトーリは真っ先に駆けだしたという。事故の後遺症で運動は得意じゃなくて、速度も並程度でしかないというのに、誰よりも先に彼は駆けだした。

 

 

 通れなかった筈の“後悔通り”すらも彼を止める事はあたわず、でも――――――。

 

 

 

「………うぁぁあああ………」

 

「何かどうしようもないで御座るなぁ。湊殿の気持ちを分かるとは言わぬで御座るが、湊殿が凹んでいてもどうしようもないで御座る。今は失意に暮れるよりも自分達にはしなければならない事があるで御座るよ湊殿」

 

「…………Jud.」

 

「やれやれ。後輩共のコイツのファンクラブには見せられん状態だな…」

 

「Jud.しかもその発言にすらツッコミが無い様子では……本気で重傷で御座る」

 

「あの馬鹿といいこの女装といい……手間のかかる奴多過ぎだろうちのクラス」

 

 

 

 結果は、今の僕のテンションが全てだ。トーリはホライゾンに会うどころか、通神帯で元信公からホライゾンであり“焦がれの全域”である最後の大罪武装の在処を聞いた教皇総長が武蔵の不法武装所持の名目の下、駆けつけたトーリ達を抑え込みホライゾンを連れ去った。

 

 

 要するに、僕はそんな一大事の中で暢気に幽霊にビビって気絶して、今朝までぐっすりしていたのだ。これをどうして悔やまずにいられよう。

 

 

 でも点蔵の言う通り、僕が自分勝手な後悔に悩んでいる事が許される状況ではない。

 

 

 P-01sが松平・元信公の嫡子であるとし、教皇は彼女に“三河消失の責任”を取らせる名目で、彼女を殺す。名目はあくまでも責任をとるための自害だが、そんなの僕にはどうでもいい。

 

 

 だがここで問題になるのは、極東を統べる立場にある筈の松平家の主とその嫡子が事実上消えてしまうという事だ。

 

 

 現在極東が所有を許されている土地はこの都市航行艦“武蔵”と今は消えた三河のみ。そこを治めるべき立場の人間が消えたらどうなるか。簡単だ、極東は領主を失った事で他国から容易に土地を侵略されて、この武蔵も空を飛ぶ事が出来なくなる。

 

 

 既に総長連合は権利を剥奪され、事実上武蔵は今機能していないも同じの状態だった。

 

 

 僕達が教室に向かっているのは、これからの武蔵の方向性の確認をするため。

 

 

 

 

 ――――――ホライゾンを救うか、見捨てるかの方針を確かめるためだ。

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