--なんでこんなことになったのだろうか。
現界した直後に、時崎狂三はここ数年でもう数え切れないほど思った疑問を再び考える。
「あぁ、ようやく現れたね我が女神よ」
--あぁ、そう、この変態だ。この変態がわたくしの平和……とは言い難いかもしれないがそれでも平穏な時間を奪うのだ。
時崎狂三は苛立ちと共に口を開く。
「どうしているんですの?」
「女神が居る所には私が居るのだよ」
質問に対する答えになってない。
自分が現界する際には必ず隣で自分を出迎えている。
空間震で起きた破壊の渦の中心に居る筈なのに、彼の周りにだけはそれがない。
というか、長身の彼が纏うマントらしきぼろぼろの布すら傷一つつけられない。
永劫破壊だかなんだか知らないがチートここに極まれり、だ。
彼の周りを破壊する筈だったそれはどこに消えたのだろうか。
いや、それはすでに分かっている問いだ。
というのも、以前にそれとなく聞いたところ、
『我が女神よ。女神が現界する際の産声ともいえるそれを、ただただ私が逃がすとでも? もちろん空間ごと時空を切り取って保管しているとも』
などというもはや変態の域に収まらないハイスペックさをサラッと披露された。
というかどうやってだ。
蒼く、太ももまである長さの整った顔立ちからか、気持ち悪さのない髪をかきあげながらのドヤ顔でもあったが。
かといってこちらの攻撃は一切通らず、一度など時を止めて蜂の巣にしたのだが弾丸を喜んで回収される始末だ。
気持ち悪いを通り越して感嘆すら覚える。
怖いが。
それはまぁ、とにかく。
--わたくしにとっても悪い事だけではありませんし。
こうして開き直るまでに三年掛かったが。
それでも彼を巻き込んで時を喰らえばふざけてるくらい効率的に時間が集まる。
霊力すらもだ。
それゆえにまぁそばでウロウロするのは我慢していたのだが。
--そういえば一度だけ、誰も居なかった時がありましたわね。
あの時は平和で気楽だったが……こう、喉に引っかかるような違和感みたいなのがついてまわって嫌だったのを覚えている。
変態がいるのが当たり前になっている自分に戦慄が走る。
「さて女神よ。今宵はどこに向かうのかな?」
「どこにもなにも。いつも通り時間の収集ですわよ」
「ふむ。ご同席しても?」
拒否しても気配消してついてくるクセに。
「えぇ。構いませんわ」
今日も変態と時間採取し、ASTに殺害され、変態と別れた。
そういえば、いつだったか自分の死体をどうしたのか聞いたことがあった。
あの青いポニテ娘は気まずそうに、しかし同情と憐れみが入り混じった表情で顔を背けたが。
「あの、〈メルクリウス〉のヤローがですね……」
「それ以上は結構ですわ」
「賢明でいやがりますね」
--さすがにそれ以上は嫌な予感がしたので聞きたくなかっただけだ。
尚、この作品内の水銀っぽい何かの性格は
水銀+終わりのクロニクルの佐山・御言
を想定してます。