コズミック変態と哀れな最悪の精霊さん。   作:冬月雪乃

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バレンタインデー短編。
お久しぶりです皆様。
中々更新できなくてすいません。


番外編--Valentinstag

今宵、私は最早死んでしまっても構わない。

日付とするならば二月十四日。バレンタインデーだ。

私の前には丁寧にラッピングされた麗しくも美しい赤い箱がある。

 

「あぁ、今、この時ばかりは私の語彙の少なさに絶望する。我が女神のこの手作りチョコレートに、ごくありきたりな感想しか思いつかないのだから」

「あ、あの、そこまで喜んでいただけるとわたくしが恥ずかしいのですけれど……」

 

あぁ、このような感情を抱いたのはいつぶりか。

そうだ、獣殿と全力を尽くして戦った時以来だ。

 

--ゆえに滅びろ勝つのは私だ! 新世界の開闢に散る華となれ!

--ゆえに滅びろ勝つのは私だ! 女神の地平を生む礎となれ!

 

目を閉じれば鮮明にあの瞬間を思い出せる。

あの、興奮、歓喜を主とした様々な感情をドロドロに混ぜて精製したような感覚。

 

「ふふ、女神よ。感謝しよう。私は今--生きている!」

「生の実感!? わたくしのチョコでそんな事まで感じなくっても!」

「それだけの価値が女神のチョコレートには存在するのだよ。ふむ。しかし、それはともかく。士道には渡さなくてもよろしいのか?」

「あら。わたくし、チョコは一つしか作らない主義ですのよ」

 

あえて言おう。私は覇道神だ。私に打ち勝つのはともかく、傷をつけようとするならば、ある程度神性などの格が必要不可欠となる。

そも、座を巡る争いとは即ち格の問い合いでもあるのだから当然だ。

そんな覇道神で座を掌握した私は、女神の言葉一つで鼻血を垂らすこととなった。

 

「鼻っ!? カリオストロさん! 鼻血! 鼻血でてますわよ! チョコレートですの!?」

「あぁ、なんという至福、なるたる愉悦。今だけは全てを忘れ、ただこの歓喜に身を委ねたい……」

「あぁ! ダメですわカリオストロさん倒れないで! あぁ鼻血が凄い勢いで!」

 

女神にティッシュを詰められた。

チョコ? 既に時空間ごと凍結して八十枚の神域結界を用いて死守したが。

 

「もうカリオストロさんにはチョコをお渡ししませんわ」

「……え」

 

私は目の前が真っ暗になった感覚を初めて味わった。

 

「だって食べて下さらないし。鼻血出て来ますし」

「女神よ、わかって欲しい。女神の賜る--特に今宵のチョコレートは特別なのだ。世界に一つしかないそれを、安易に食べるわけにはいかない」

「い、いつも通りの変態ぶりですわね……。でも、それでも食べて欲しいと感じるのは仕方ないですわよ! 女の子なんですもの!」

 

八十枚の結界を素手でぶち破り、時空を捻じ曲げてチョコレートを口にした。

私の拘りなど女神の思いの前には塵芥以下でしかないのだ。

口に広がる甘さと程よい苦さ。

 

「あぁ、なんたる美味なのだろう。口にゆったりと広がる甘さ、それを引き立てる苦味。丁寧に作り込まれたこれは神域に迫る……あぁ、三千世界全てに知らしめたい。獣殿、私の求めた至高の天は此処にある……」

「な、泣く程……」

 

むしろ女神のチョコレートを食べて滂沱の涙を流さぬ愚か者など可能性から摘み取る所存である。

あぁ、今気を緩めたら随神相すら出現する程である……。

ゲシュタポは空いているがどうするカール。などと幻聴が聞こえた気がした。

女神には礼として花束を渡した。

ドイツ式ヴァレンタインだ。

 

 

 

 

 

 

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そんな朝のやりとりを終え、心なしか弾んだ我が身を諌めながら女神と街を歩いている。

女神はいつもの……ではなく、下品でない程度にフリルの縫われた黒の暖かそうなドレス。

私はといえば、初めて獣殿と出会った際に着ていた黒服だ。

 

「うぅ、寒いですわね……」

「ふむ。私の上着でよろしければ」

「ありがとうございますわ」

 

か、可愛い……!

なんとも単純にして明快、つまらない程陳腐な表現だが!

私の上着に袖を通している女神が素晴らしくて悶絶ものである。

今宵はなんと素晴らしい日か。

あぁ、今、この刹那をずっと味わいたい。

 

「ふふ、暖かいですわ……」

 

女神コレクションが素晴らしく増えていく。

 

「こんな日にスカートは少し考えるべきだったかも知れませんわね」

「女神よ、我がスボンがあるが、どうだろうか」

「履きませんわよ! 脱がないでいいですわ!」

 

残念だ。

ともあれ、今日は商店街でのヴァレンタインイベント。

カップルでのイベントが数多くある。

 

「カリオストロさん! あちらのイベント行きませんか!」

「ふむ。相方の自慢大会……」

 

負ける気はしないね。

我が愛が負けるわけがない。

 

「では、女神よ。我が愛を衆生に示そうではないか」

「これは……早まったかもしれませんわね……」

「さて。では諸君。今この瞬間に我が女神に捧ぐ愛を語ろう。まず--」

 

八時間くらい息継ぎなしで女神について自慢した。

ブレスの二秒が惜しい。そんな暇があるならば自慢する。

これでも自重したのだが、主催の男が割り込むように優勝商品のペアカップを渡されて女神に押されるように退場した。

 

「どうかしたのかね。あと一時間程あったのだが」

「自重して下さいまし!」

「自重したのだが」

「……え、あれで、ですの……?」

「うむ。自重を解くならば一年程は硬いか」

「……もう、わたくし、この商店街歩けませんわ……」

 

女神はがっくりと項垂れる。

そんな女神も可憐だよ。

その夜の女神の寝顔は心なしか微笑んでいるように見えた。

 


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