なにか間違いあったら教えて下さい。
--さて、緊急事態だ。
「……おや、ここは」
「私の覇道に抱き込んだ。メルクリウス。もはや貴様の座は終わったのだ」
まるで夜のように暗い霧の街。
霧は聞こえた声の向こう側から響くが、霧に阻まれてその姿は見えない。
「おかしいと思ったのだ。ありとあらゆるものを知っている。目的を達成してもまるで当然かのように受け止める--既知感とでもいうべきか」
「なるほど、貴様が誰かは知らんが、私の座はいずれ来たる女神にこそ与えられるものだ。どこの馬の骨とも知らぬ塵芥に渡せるものか」
「ふ、知っているさ。私がループさせる前に貴様がループさせる回があった。その際に貴様の本音を嫌という程聞かされたのだからな」
「ループさせる前にループ……あぁ、貴様〈ファントム〉とやらか」
「あぁ。そして、既知感を脱却するため、ある者からの助言により力を蓄えて高め、ここに至るというわけだ」
どうだ、と自慢気に嗤う〈ファントム〉だが、私はそんな事には興味がない。
特異点に来訪者があったから来ただけで、大した神威のない〈ファントム〉など物の数ではないからだ。
いくら流出、もしくは太極の位階にあったとしても、私は負けん。
獣殿に助けられ、その後女神に施しを受けた身としては、その恩、いつかどちらにも返さねばならないからだ。
--ゆけ、カール。
--いつか、『みんなで』楽しく一緒に笑い合いましょう。カリオストロさん。
別れ際の二人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「すまないが、早々に立ち去っていただこうか。女神の抜け毛を永久保存しなくてはならないのでね」
やめて下さいまし!
なんだか女神のツッコミが聞こえた気がした。
「全ては我が女神の治世の為。全ては我が友に自慢するため。貴様には演劇の舞台に戻って頂く」
「抜かせ宇宙人。貴様の座はもはや--なんだこれは……!?」
鎖が霧の向こうに走り、どうやら〈ファントム〉は捕らえられたらしい。
鎖がジャラジャラと音を立ててたわんだり引っ張られたりしているので多分間違いない。
「鎖……! しかも座から!?」
「私はかつて第四天と呼ばれていてね。私の前には三人の前任者が居た。彼らの世代の座は単一宇宙を支配していた。外宇宙から飛来した変質者こと第四天・
「ならば負けていろメルクリウス! --太・極-- 緋想天・永劫回帰!」
「貴様が永劫回帰を名乗るなおごがましい」
左手を一振り。
〈ファントム〉は鎖ごと特異点から追放され、そのなんだか分からん太極の大元たる渇望をその鎖で封じる。
なるほど。『今度こそ幸せに』
それが奴の渇望か。
……自分の望んだ祝福がため、その全てをもって達したいが答え。これは、本来求道であるべき渇望だろう。
しかし--仔細了解した。理解したとも。
その渇望が原点。その結果。
「……あぁ、その渇望。胸を打つ。私のかつてを見ているようだ。良いぞならば少しばかり手を貸してやろう。とはいえ、我が女神の幸せこそ第一。女神の治世の為、礎となるがいい」
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「カリオストロさん? なんだかうなされていましたわよ?」
「あぁ、少し嫌な夢をね」
しかし、太極域の魂ではないはずの〈ファントム〉がどうして特異点に降りてこられたのか。
おそらくは助言をした『ある者』が関わっているのだろう。
あの下種に触らずに獣殿の槍を掠めとれ、本来行っても形成域の魂を流出域にまで押し上げる人物--。
前者は接触拒否もしくは忌避、隠密の渇望を備えた流出か概念的なものなら可能だろう。
だが、形成域の魂を押し上げるには獣殿や愚息のような軍勢変生を持たねば不可能に近い。
ならば、どうなのだろうか。
……獣殿が居たならば何か言葉をくれたか。
最近無性に獣殿に会いたい。
まるで心の隙間を埋めるような。
………………乙女か私は。
「……カリオストロさん? 軍服借りていきますわよ」
「後で保存するのでたくさん汗をかいてくるといい」
「洗濯しますわよ!」
乱暴に扉を閉めた女神の後を視界だけ着けていく。
途中風にさらわれた切れ毛や女神が着用した服から生じたほつれの糸などを回収しつつ行くと、琴里と合流した。
……!?
「な、なんという事だ。未知か? 未知だな! かつて獣殿にマントの下を見られたり引っ張られたりした時は……既知だったか。ツァラトゥストラが攻めてきた時……うむ、これだ! この未知感! やはりあなたは素晴らしい。掛け値なしに素晴らしい」
どうやらショッピングをしているだけのようだ。
2/18日。指摘に伴い、前半部分数行を追加。