side 五河琴理
私と〈ナイトメア〉こと時崎狂三はショッピングに出ていた。
出会ったのは偶然。
黒の軍服のようなものを纏った彼女は周囲の視線も気にせず服を選ぶに勤しんでいる。
「……んー、これも捨てがたいですわねぇ……」
本日三十枚目の衣服を私に合わせて悩む姿は年相応の少女にしか見えない。
「……アンタ、何やってるのよ」
「何って……買い物ですわよ? カリオストロさんからお小遣いも頂きましたし、たまには女の子だけで、もしくは一人で、と」
前言撤回。
少女にしか見えないじゃない。丸っきり少女だコレ。
まぁ、確かにあのスーパーサイヤ人並みの強さを誇るコズミック変質者系ストーカーと毎日過ごしていればストレスも溜まるだろう。
「あぁ、カリオストロさんと暮らすのがストレスな訳じゃないですわよ? 最近なんだか隠し事してるみたいで……それがなんだかイライラしていまして」
「……へぇ……」
そして悟る。
--最難関なんてもんじゃないわよこの女……!
まだ自覚こそないし、ただの独占欲の発露かもしれないが、それでも隠し事が無いことを前提とした発言は友人等の距離感では言えない。
士道には是が否でも覚醒してスーパーイケメンになってもらわないとこの精霊は落とせない。
……あの朴念仁にどう教育すれば良いのよ……!
いや正確には朴念仁という程ではないのだが。
「あら、これなんか如何?」
「可愛いわね。あなたにも似合うんじゃないかしら」
「ふふ、私は良いんですのよ。可愛らしい女の子を着せ替えしてるだけで私は愉悦を得られるので」
「愉悦って……」
「あら? カリオストロさんみたいなわかりづらい形容でしたわね」
攻略難易度ナイトメアに違いない。マニアクスでもいい。
しかし、早めに攻略しないともっと難易度は上がっていく。
あの得体の知れない影絵のような男には理不尽と知りつつも苛立ちを感じ得ない。
結局、この日は一日時崎狂三に付き合って終わった。
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--あぁ、なんと可愛らしいのか。
五河琴理との買い物で手に入れた戦利品を試着したり他の服と合わせたりして具合を確かめる女神をこっそり覗きながら激写する。
ふふ、これで7542698752469852456985個目のコレクションだ。
そろそろコレクション管理用世界を増設する必要があるね。
「……かーりーおーすーとーろーさぁん?」
やけに甘ったるい声が私の真正面……つまりは女神の部屋から聞こえた。
「何かね女神よ」
「何かねじゃないですわよ! へんたい! へんたい! へんたい!!」
「ふふ、今のは目覚ましの音声にしよう」
「〈
目覚ましが粉々にされた。
「ふ、しかし、残念だね女神よ。私は回帰が出来るのだ……!」
目覚ましだけ回帰とかそんな器用なことは出来ないが。
--私は驚愕の表情を浮かべた女神が見たいだけだ。異論は認めん。断じて認めん。私が法だ。黙して従え。
と、いうわけで75426987524698536428547264個目のコレクション入手だ。
「……仕方ないですわね」
「……仕方ないと言いつつ短銃を私の眉間に押し当てるのはどういうことかね」
女神の攻撃を避ける等あり得ない。弾くなど言語道断。
しかし、なんとかしないとこれは死ぬのでは。
……試したことないからわからないが。
「死んでくださいまし」
無慈悲な一撃は私の眉間に赤い痣をつけるにとどまった。
弾丸はコレクションした。
触覚とは言え座の神に傷を負わせたというのは凄まじい偉業だ。
このままではいずれ神にすら至るだろう。
--今ですら女神なのに真性の神となったら正しく超女神……!
これは先が楽しみである。