コズミック変態と哀れな最悪の精霊さん。   作:冬月雪乃

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これが私の冴えたやり方

--まず感じたのは『憐憫』

求めしものは絶滅と幸い。

 

呪いのような言葉とともに、影が凝縮し、形を得る。

それは人。

完全な闇の中にあって尚暗い、人型の何か。

 

「ふむ、やはり完全な人間にはなれぬか」

 

それは男の声を発して呟いた。

 

「……ジョン……か?」

「やぁファントム。あの白痴の神に瞬殺されたそうじゃないか」

 

今度はハスキーな女な声。

しかし、別人ではなく、同一の場所--即ち人型--から放たれている。

人型--ジョン・スチュアートと名乗ったそれ曰く、収束し得ない可能性を操る術を施した結果、このような可能性が安定しない存在へと変わってしまったのだとか。

既知感に狂っていたある日、急に現れたソレは私に力を与えた。

白痴の神の模倣というその術式は、私を高みに導いてくれた。

それは感謝している。

 

「……ふむ、渇望を封じる、いや、これは渇望に蓋をしたような状態?」

「私に聞かれても困るのだが」

「あぁ、ごめんごめん」

 

どこが白痴の神だ。あれ以上に頭を使っている存在など見たこともない。

 

「んー、参ったなぁ。これじゃあファントムは用無しになっちゃうし……ん、まぁ、いいか」

「殺すのか?」

「まっさかぁ。私の軍勢変生で偽神化してるだけだから、軍勢変生から外すだけだよ。生憎と、妾の軍勢変生には余裕が無くってね。管理しきれなくなる前に切り捨てないとならないから」

 

私の前でジョンが柏手を打った。

同時、湧き上がっていた全能感は消滅し、ただ虚しさだけが残る。

 

「……幸福管理--お前の成す世界は優しいか?」

「誰しもが必ず幸せになれると約束しよう。故、座して待っていろ。吾輩が座を得るまではな」

「そうか」

 

今は眠ろう。

もう、これ以上無いくらいクタクタだ。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

--へんたい! へんたい! へんたい!!

 

女神の優しい罵倒で起床した。

あぁ、なんと麗しい声なのか。脳が蕩け落ちそうだ。

年不相応に艶やかさのある、しかしまだ幼い女神の声。それはまさに過渡期にある少女そのものを象徴するような一種のエロスを持ってして卑小なる私の鼓膜を震わせ、脳を揺さぶる。

ついでに飛来した扉が私の頭を揺らした。

 

「カリオストロさぁあぁん!?」

 

女神が聖槍十三騎士団第十三位・副首領・水銀の王謹製女神型目覚まし時計を蜂の巣にしようと朝から元気に銃を乱射する。

だが残念。私の手がその全てを保存してコレクションする。

 

「カリオストロさんどいて下さいまし! そいつ壊せないですわ!」

「あぁ、すまない。つい自動的に」

「変態行為は遂に自動化してますの!?」

 

ふふ、私の気付かぬ--抜け毛さえその場で気付くのだから滅多に無いが--内に女神コレクションが捨ておかれるのはあまりに苦痛。かの既知感の地獄にも通ずるものがある。

 

「……カリオストロさん。私型目覚ましは使用禁止ですわ」

 

カリオストロは めのまえが まっくらに なった !

 

「な、何故か、聞いても構わないだろうか……?」

「誰が朝早くから自分の罵声を聞いて気持ちよく起きれますの……?」

「し、しかしだね女神……!」

「なら、私が起こしますわ。それならば問題無いでしょう?」

「--------」

 

なんという……至高……!

毎朝が楽しみになりそうだ……!

今ならばあの下種にも勝てる気がする。

流出--女神冠する第八宇宙……!

女神がいる限り私は負けん……!

 

「カ、カリオストロさん……?」

「……はっ……いやいや、あまりに甘美なる言葉が聞こえ、我が耳は蕩け、脳は沸き立ち、世界は優しい抱擁に包まれるところだった……」

「……よ、よく分かりませんが、喜んでいただけて何よりですわね。--しかし、そのにやけ顔はどうにかして下さいまし」

 

キリッとしてみた。

布団から蹴り出された。

至高のトライアングルゾーンを我が目に刻み込み、永劫忘れぬ様に座の記録に刻み込む。

 

「ふふ、柔らかで中々……」

「……では次回からは撃ち落としますわね」

 

あまりに綺麗な笑顔だったので何も言えなかった。

 

「さて、今日は如何しましょうか」

「悪いが女神よ。本日は私一人で行くべき場所がある」

「どこに行きますの?」

「……それは言えない。許されよ」

「……良いですわ。今日は私一人で士道さんでもからかいに行きますので」

 

では、と女神はさっさと行ってしまった。

なんとも名残惜しいが、残り香を素早く回収して転移する。

暗闇だけの簡素な空間だ。

ファントム居城の隣界ではなく、私謹製の異世界もどきである。

そこには五つほどの淡い燐光を放つ炎が並んでいる。

 

「さて、運がいい諸君、こんにちわ。私は君たちが言うところの神に相当する存在である」

 

ヒャッハー! 特典よこせ! だとか私はあれがいいわねとか聞こえる。

 

「あぁ、特典についてはきちんと差し上げよう。だが、その前に君たちに依頼がある。良いかね? 我が世界に異分子が紛れ込んだ。ゆえ、それを排除して頂きたい」

 

なんでもいいから寄越せオラー! とヒャッハー中尉みたいなテンションの魂を宥めて静かにする。

 

「報酬は君たちが望む特典を。それだけ現状切羽詰まっているのでね。ただし、今回の依頼中は私が支給する特典で戦って頂こう」

 

女神から離れるなど世界の終わりに等しい。

全員が合意したところで隣界に放つ。

隣界に巨大な何かが現れたのは座が感知した。

 

「……さて、これで滅してくれれば良いのだが」

 

次なる策は考えてある。

その為には彼らが全滅しないとならないのだが、まあ、良いだろう。

 

 




彼らに出番はあるのだろうか。

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