不満ーー人類が欲求が満足に達成されない場合に抱く感情である。
つまり、何が言いたいかといえば。
「……女神と遊園地デートとかしたい」
「死んでもお断りですわ」
残念。
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原作のイベントは詰まっている。
プリンセスと士道がデートしているのを眼下に眺めて女神とのデートスポット探しを開始する。
まったく羨ましい。
あぁ、そうだ。以前までの回帰で折紙が士道を狙撃して精神崩壊した事があったね。助言しておこう。
あれで未来に女神と絡む人材だ。
「という訳で鳶一折紙。何かをスコープ越しに狙う時はしっかり、冷静に、ゆっくり狙うといい。焦りや余分な感情はおまえの予期せぬ未来を呼ぶ。狙うべきを狙い、そうして引き金を引くと良い」
まぁ、歴史の流れを永劫破壊もなく変えられるとも思わないが。
「〈メルクリウス〉!?」
わざわざ擬音にするなら『びっくぅ!!』といった具合で飛び跳ねて折紙が驚いた。
君の影から頭を出しているだけでは無いかね。
普段大人しめな君にしては面白い反応ありがとう。
「ではね」
なにか言われたりするまえに影に沈んで逃げた。
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「……助言はしたのだが……」
やっぱりダメでした!
「さて、どうするべきか。防戦一方というか、戦意喪失しているな、あれ」
プリンセスを重力で押さえつけても良いがね。
というか、いたいけな肉食女子が嬲られてるのを助けに行かないで見ているだけとか結構鬼畜だなAST。
まぁ、私が手を出すまでもあるまいね。
おや、こちら側に斬撃が。
被害を確認していたASTが私に気づいた。
「〈メルクリウス〉……!」
「おや。ASTの諸君。奇遇だね」
「答えなさい……あなたは何を企んでいるの……!」
隊長格の女性が私に銃を向けて詰問する。
私にそれを聞くとは、愚問だね。
「我が女神の安寧を」
「その為に折紙をっ!」
乱射。
しかし、無意味だ。
「学習しないのかね?無知蒙昧、あまりに無為。あまりに滑稽。滑稽過ぎて笑ってしまうよ」
「……折紙は、あなたに狙撃に気を付けろと言われたといっていたわ」
「運命の流れを変えるには少々力が足りなかったようだね」
「………………。総員。退避」
憎しみを込めた瞳は私を変わらず視界に収めている。
あの瞳は我が息子や黒円卓の面々を思い出すね。
かつてはあのような目で良く見られたものだ。
「逃げるのかね?」
「ーー覚えておきなさい。貴方が何を企んで折紙を狙ったかは知らないけど……私は貴方を許さない……!」
あれ。
これもしかして黒幕認定受けてる?
折紙が狙撃ミスって士道に風穴空けたのも私が仕組んだことになってる?
善意の助言だったのだが。
「……私は善意で助言したのだが」
「信じるわけが無いじゃない」
まぁ、敵だし。
私としてはそこらの瓦礫と同じ認識だが。
「……過剰に敵意を持たれているところ申し訳ないが、一応言っておこう。私にとって女神以外は心底どうでもいい。お前たちは路傍の石を運ぶ際、運ぶ為に策を巡らせるかね?つまり--私にとっておまえ達はわざわざ策を巡らせて排除する程価値のある存在では無いのだよ」
これなら分かってくれるだろう。
出かけ先で絡まれるのも面倒だ。
潰してしまうのは簡単だが、それでは歴史が変わってしまう。
再び最善策を練るのも面倒くさい。
「故に、路傍の石よ。さっさと折紙を回収して消えるがいい」
「……一つだけ聞かせて。折紙を狙った……助言をしたのはなぜ?」
「思い付いたから、だが」
苦々し気な顔をして折紙を回収して撤退を始めたASTを尻目に、全裸のプリンセスを抱きしめて顔を赤くしている士道を眺める。
どうやら初心を忘れて居ない、純情な士道らしい。
これなら女神を近づけても安心だ。
次のハーミットでそれをきっちりと確認する。
鬼畜士道はハーミットを落とした後から発現するからね。
プリンセスでもそれが出てないかと言われればキスの時にディープな方でやってたりやたらと女慣れしてる傾向はあったが。
その分今回は大丈夫だ。
そろそろ帰路につこう。
今日の夕餉担当は私だからね。