私と女神は天宮市市街地戦闘の余波で破壊されたビルの内部に来ていた。
「さ、寒いですわね……」
「ふむ。外ではハーミットが暴走しているからね」
「……会ったら蜂の巣ですわ……」
「ふむ」
とりあえずマレウスの軍服を再現したものを上から羽織らせる。
暖かさで言えば獣殿なのだが、マレウスコスの女神を見たくなっただけだ。
「それはさしあげよう」
「……なんでこんなにピッタリなんでしょうか」
「あと十二種類あるが、欲しいかね?もちろん女神サイズだが」
「……軍服にバリエーションって必要なんですの?」
よくよく考えると下半身が寒いので私の軍服を渡す。
「……あっても問題あるまい」
素直に羽織る女神かわいい。
#
唐突に吹雪が始まった。
ドーム型に見える吹雪の中心にハーミットが居るのだろう。
というか近いな!
「あぁ、そんなに寒いのかね?まだ軍服は山ほどあるが」
「あなたのマントをわたくしは所望します」
「確かに軍服よりは風通しは悪いが。良いのかね?あちらこちら破れていて女神に合わないと思うが」
「つべこべ言わずに下さいまし!寒いよりマシですわ!」
あぁそんな強引な。
下に軍服着ていてよかった。
というか女神重ねすぎだろう。
下からマレウス・獣殿・私の軍服・マント。
「あったかいですわ……生き返る様ですわ……」
ともかく。
後でしっかりと匂いのついた服達は回収しておこう。
「女神はそこで見ていたまえ。私は外に出て来る」
「……あ。あ、えぇ、分かりましたわ。ここで待ってますから、必ず帰って来て下さいまし」
「もちろんだとも。私の帰る場所は女神の元以外にないのだから」
いつもより心配性な女神が愛らしくってもう士道なんて放置じゃダメかな。ダメか。
女神が幸せに至る道には必ず士道が必要なのだ。
ハーミットの方も原作通り終わったし。
この士道ならば安心だ。
#
夢を見た。
黄昏の世界と、極大の外道。
必死に迎撃する黄金の爪牙と息子のレギオン。
「カール。逃げたいのだろう?」
黄金が私に問うた。
「……何をおっしゃる獣殿。私が。水銀の王ともあろうものが黄昏を置いて逃げると?」
「カールよ。このままでは私達は全滅だ。卿が座につき直す隙も無いだろう」
それはまぁ、その通りなわけだが。
「少しなら注目を惹きつけられるだろう。その隙に一旦退却せよ」
「獣殿はどうなさるのか」
「決まっているだろうカール。私の愛は破壊の情--故に、
頼もしく笑う黄金にはすでに片腕が無い。
それでも黄金は私に道を示した。
『私がどうにかするから対抗する手段を整えて戻れ』
あぁ、なんと頼もしいのか。
なんて甘いのか。
そういえば、黄金は愛するものを喪いたくないのだったか。
--親友、か。
「ならば任された獣殿。申し訳ないが、少しの間持ちこたえて欲しい」
「無論だ。私は約束を違えないのでな」
「滅尽滅相ォォオォ!!」
私が次元を跳躍した瞬間。
次元の彼方にまで響き渡す下衆の声が聞こえた。
飛来するは黄金の槍。
魂を幾万も乗せたそれを迎撃し、瞬時に次元跳躍。
追跡は無かった。
寝覚めは、最悪だった。